【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者8:怪人

「なんだこいつ等は」

 

18階層、リヴィラの街。

今この瞬間、この場はモンスターの集団の渦中に居た。

それもそのモンスターというのが、蔓のような形をした、緑色の見たこともない奇妙な者達。それを知っているのはモンスターフィリアの際に討伐したアイズとティオナ、ティオネとレフィーヤのみ。

 

「……数が多いな」

 

1体1体がLv.3相当。その上、外皮が非常に硬く、武器か魔法がなければ碌に倒すことも難しい。そんなモンスターが、見た限りで数十体。ラフォリアが見下ろす崖下の水中からは、更に100体以上のそれが這い上がって来ている。これほどの数の一斉襲撃とは、早々起きることではない。それも本来モンスターが出現するはずのないこの18階層で。……単なるモンスターの群れの襲撃にしては、状況が出来過ぎている。それは少し考えれば誰にでも分かること。

 

「ラフォリア!」

 

「フィン、下を見ろ」

 

「……っ、これは」

 

「なにか分かるか?」

 

「………………………もしこの騒動が、宿屋で殺人を行なった者の仕業で、かつその殺人鬼がLv.5以上の調教師であると言ったら。君は笑うかい?」

 

「お前がそう思うのであれば、そうなんだろう。考え難い話ではあるが、現状が前にある以上は受け入れて動くしかあるまい」

 

「とにかく今は数を減らそう。相手がそれほどの調教師であるのなら、より凶悪なモンスターを引き連れている可能性も否定は出来ない」

 

「そうか、ならばそちらは任せる」

 

「なっ」

 

そうしてラフォリアは自身の身を崖下へと投げ出した。100、いや今や数百と数え切れないほどの数のモンスターが身を現しているその場所へ、何の躊躇も迷いもなく。

 

「こちらは私が片付ける、お前は好きにやれ」

 

「……分かった、そっちは頼むよ」

 

それは単純に、「背中は守ってやる、後は好きにやれ」ということ。それを言わずとも理解して行動するのだから、やはりフィンとの会話は楽だとラフォリアは思う。

 

……さて、問題はこの数のモンスターだ。

周囲は水、正直それほど状況は良くない。剣も目的を考えれば今あまり磨耗するのも好ましくなく、そうなるとやはり魔法で片付けるのが一番か。

 

「爆砕(イクスプロジア)」

 

着地地点に居たモンスターの集団を、超短文詠唱の魔法によって粉々に爆散する。

魔法名【ルナティック・テラ】、指定空間を爆破する魔法。範囲を指定し、起爆するという手順が必要な事から、使用までに僅かなタイムラグが生じるものの、攻撃の予兆を通常の五感では全く感知出来ず、威力も当然、射程も長い。

彼女はこの魔法によって数多の冒険者やモンスター達を爆散させ、"静寂"に次ぐ才児として、そして災児として、名を馳せた。

 

「爆砕(イクスプロジア)」

 

どれほどの数が相手であったとしても、苦戦する事は一度たりとも無かった。彼女がダンジョンに一人で探索に向かうことが多かった理由も、全てはこの魔法故だ。

範囲が広すぎる故に巻き込みが多く、下手な人間では単に怪我を負いに行くだけ。一緒にダンジョンに潜ることが出来る者など、魔法を無効化出来る"静寂"のみ。故にラフォリアはベート達とダンジョンに潜った際には、ベートと階層間の爆破に対して使用した以外ではこの魔法は使っておらず、そもそも普段から使用頻度はそれほど多くはない。

……便利過ぎるのだ、そして便利過ぎるのが悪いとも考える。

 

「まだ居るのか……爆砕(イクスプロジア)」

 

この魔法では、"静寂"には勝てない。

だからこそ、この魔法だけには頼らない。

空間を指定して爆破するものの、そこに人間やモンスターなどの物体があれば起爆点に設定することが出来ないという特性がある。故にどうしてもダメージを与えるには肉体の外部に起爆点を設定して爆破しなければならないが、"静寂"の魔法無効化魔法は障壁ではなく鎧の様な付与魔法だった。

この魔法では彼女に勝つことは出来ず、それよりも近接戦闘の術を磨いた方がまだ可能性があるというもの。

加えてこの魔法は先にも言ったがタイムラグがあり、対して"静寂"の音魔法にはそのタイムラグが存在しない。結果的に起きる現象は似ているし、攻撃力はこちらの方が高いものの、しかしその発動に必要な僅かな時間があまりにも大き過ぎて、撃ち合いでは一方的に負けることになる。しかも"静寂"の音魔法は魔力の残滓をスペルキーによって起爆することが出来るという、こちらの株を奪うような再利用まで可能と来た。あれこそが頂点を飾るに相応しい攻撃魔法というものだろう。

 

【爆砕(イクスプロジア)】

 

優秀な魔法ではある。

他の者達からすれば喉から手が出る様な、非常に希少で、非常に効率の良い最強の一角と言ってもいい攻撃魔法だ。

しかしそれでも、"静寂"の【サタナス・ヴェーリオン】には明確に劣る。

その一点において、ラフォリアは満足出来ない。そこだけが全ての彼女にとっては、決して満足出来る代物ではない。これ以上に伸び代の無い、柔軟性の低いこの魔法に、あまり大きな期待もしていなければ、無くても構わない自分こそを求めている。

 

「……これで全部か」

 

ものの数分で蔓型のモンスター達は全滅した。

付近には大量の奇妙な色をした魔石が落ちているが、それを水に濡れてでも回収しようとは思わない。水底に沈んでいくそれ等を、強化種の餌になることのない様に最後に特大の爆破で諸共破壊し尽くした後、彼女は再び崖を登っていく。

どうやら予想していたボスとやらが出て来たらしく、ロキ・ファミリアはそれの対処に追われている様だった。……とは言え、流石に大半の幹部がここに居る現状、負ける事はまず有り得ない。

今もリヴェリアとレフィーヤの2人が凄まじい魔力を放出し、囮作戦を実行している。魔法に反応する性質があるのは戦っていて分かった、ならばあの戦法は有効だろう。どちらかの魔法が直撃すれば、致命的な被害は避けられまい。

 

(直撃すれば、だが…………それよりかは)

 

あちらの、アイズの方が少し不味い。

恐らくは主犯と思われる妙に露出度の高い赤髪の女に難儀しているようであり、むしろ単純なステータス差に押されている。周囲には援護出来る人間も居らず、フィンやリヴェリアが駆け付けるまでにもう少し時間もかかる。

特に問題なのは……アイズ自身が、妙に精神的な動揺が見られる。あれでは恐らく勝ちの目はない、見事に駆け引きの中でも手玉に取られているのが外から見てもよく分かった。

 

「仕方ないな」

 

ここで殺されても困る。

敵の目的はよく分からないが、ラフォリアはその2人の間に割り込む様にして足を進めた。まあ互いに凄まじい速度と身体能力、普通であればこんな最中に魔導士が入り込む余地など無いだろう。

……しかしこの女にとっては、正しくそういった場所こそが好物であった。むしろ魔法の撃ち合いの方が、この女は嫌いだった。

 

「かっ!?」

 

攻撃を空振ったアイズが、拳による反撃を喰らう。魔法の発動が間に合わず、ガードの上からモロに攻撃を受けてしまい、受け身の格好すら取ることが出来ずにラフォリアの方へと吹き飛ばされる。

そんな彼女を雑に空中で掴み取り、何事もなかったかの様に脇に抱えるラフォリア。ダメージの大きいアイズは一時的に身体が麻痺しているのか、剣だけは握って、力なく項垂れている。

 

「ラフォ、リアさん……?」

 

「寝ていろ」

 

「うっ」

 

そんな彼女を近くの適当な場所に適当に放り、仕舞っていた剣を抜く。そして……

 

 

【死鏡の光(エインガー)】

 

 

2つ目の魔法を、使用した。

 

 

「……なんだ、お前は」

 

「喋りかけるな、耳が腐る」

 

「なに……?」

 

「悪いが人間以外に興味はないのでな。明らかに人間ではない動きをする貴様に、私は一切の興味がない。なんだ?モンスターとの間にでも生まれたか?」

 

「っ……魔導士風情が調子に乗るな!!」

 

 

「ラフォリア、さん……!!」

 

先程アイズを吹き飛ばした拳の一撃を、今度はラフォリアの顔面目掛けて赤髪の女は撃ち放つ。いくらLv.6とは言え、そんなものを受けてしまえば致命傷は避けられない。それほどに赤髪の女の身体能力は常軌を逸している。

……しかしそれでも、ラフォリアは動かない。むしろ避ける素振りすら見せることはない。欠伸をしそうな顔でただ目の前の女の顔を見つめ、次の瞬間。

 

 

「っ!?」

 

 

破壊されたのは、女の腕の方だった。

 

 

「私に触れるな、気色が悪い」

 

「ぐっ!?」

 

「!?」

 

直後、振るわれた片手剣。

しかしそれは速く、そして重く、女の身体を一瞬で大きく切り刻む。空気を引き裂く様な斬撃、空間を喰らい尽くす様な暴撃。

 

「あれ、は……」

 

アイズはそれを知っている。

それを見たことがある。

他でもない自分の剣で振るわれたその剣技を、他の誰よりも記憶に焼き付けている。

 

「あの人の……」

 

「……?ああ、お前はあの女と戦ったことがあるんだったか」

 

「どうして……」

 

「あの女に勝つのであれば、同様の技術を身に付けておくのは最低条件だろう。……まあ私の場合は、一目見ての模倣など叶わず、わざわざ本家本元に下げたくもない頭を下げてまでして身に付けたものだがな」

 

僅かこの一瞬の間に、右腕を破壊され、身体を大きく切り刻まれ、通常の人間であれば致命的なダメージを受けた赤髪の女。それでも女は息の一つも乱すことなく、痛みすら感じていないようにこちらを見つめている。

 

「……Lv.6、いやLv.7か?流石に無理だな」

 

「なんだ、デカい口は最初だけか。魔導士風情に尻尾を巻いて退却とは、お仲間同士の間で良い話のネタになるだろうな」

 

「……貴様、どこまで知っている?」

 

「貴様がこの程度の引っ掛けに反応するような能無しという所までだ、間抜け」

 

「………」

 

別に敵に仲間が居るかどうかについては大した情報ではないが、様子からしてもこの女が黒幕ということは先ずありえず、これと同格の存在が多少は居ると考えても良い。

推定Lv.6弱。今のオラリオにとっては、先程のモンスターまでも含めれば、まあまあの相手と言えるだろう。ランクアップの機会と考えるのであれば少々物足りなくはあるが、下が育つ良い機会にはなる。変に追い詰める必要もない。

 

「……アリア、また来る」

 

「待っ……ラフォリア、さん……!!」

 

「追うつもりはない、動けない自分を恨め」

 

「っ……!!」

 

赤髪の女が崖の下へと飛び降りる、ラフォリアは腕を組みながらそんな彼女を見送った。結果的にはその場から一歩も動くことなく、彼女はアイズがあれほど苦戦した相手を追い返した。

その事実に、そして自分の足りなさに、アイズは下唇を噛み、ラフォリアによって乱雑に顔面にポーションをぶっ掛けられる。

 

「ぶふっ……げほっ、けほっ……」

 

「馬鹿が、冷静さを失った状態で勝てる相手と思ったか」

 

「…………」

 

「真に勝利を得たいのであれば他者に振り回されるな、貴様が振り回せ。余裕を失った人間に、勝利の芽など現れるものか」

 

「………はい」

 

それだけの理由があったのだろうということも、まあ分かる。しかしモンスター相手ならばまだしも、意思と頭のある人間相手となれば、そんなことをしていられる余裕など存在しない。言葉を交わし、動揺を誘い、駆け引きの先に勝利を掴み取る。それが本当の殺し合いというもの、最後まで黙ってただ剣を交わせるだけで終わることなど早々ない。敵との戦力が近いのであれば尚更。強い意思を持ち続けた者だけが勝利を勝ち得ることが出来る。既に最初から優勢を取られていたアイズに勝ち目など存在しなかった。

 

「フィン、リヴェリア、貴様等も見ていないでそろそろ出てこい」

 

「……バレていたか」

 

「私の実力が知りたいのであれば堂々と見ろ、単純に不愉快だ」

 

「それはすまない、次からはそうするよ。……ただ、やっぱり君には僕では勝てなさそうだ。リヴェリアとペアを組んで漸く芽があるというところかな」

 

「魔導士があの女に勝てん理由と同じだ、そして私はあの女に勝てん」

 

「相性、にしても限度があると思うけどね」

 

「魔法に恵まれているのは自覚している。もしかすれば病との引き換えかもしれんがな」

 

「縁起もないことを言うのはやめろ、それでは私とレフィーヤも可能性があるだろうが」

 

「えぇ!?私病気になるんですか!?」

 

「そこまで喧しいのなら問題なかろう、それに所詮は私ほどではない」

 

「なんかすごい自慢されました……」

 

相当ショックが大きかったのか、呆然とした表情でレフィーヤの治療を受けるアイズを見る。まあこの様子では何か切っ掛けがなければ立ち直れまい。だがそれでも良い、それを乗り越えてこその成長だ。負けた悔しさに、無力の悔しさに、それを乗り越えてこその高みというものが間違いなくある。

 

「フィン、貴様は一度地上に戻るな?」

 

「……そうだね、流石にここまでの事が起きたとなるとロキに報告は必要だろう。それに怪我人を運ばなければならないからね、君は付いてきてくれるのかい?」

 

「却下だ」

 

「だろうね」

 

ラフォリアとて、そこまで優しくはない。

フィンもそれが分かっていたから、結論は出ていた。それにもう、彼女に対して余計な心配をする必要もないと理解もしていた。

 

「先に行くと良い、君に対して余計な心配は必要ないと証明されてしまったからね」

 

「最初から言っていたのだがな」

 

「物理攻撃を反射する付与魔法なんて、噂に聞いていただけでは簡単に信用出来ないよ。……"静寂"でさえ【魔力無効】、君の場合は【物理無効】どころか【物理反射】。彼女が"魔導士殺し"なら、君は"戦士殺し"になる」

 

「だからこそのオッタルには32戦全勝、アルフィアには73戦全敗だ。そしてこれからバロールをブッ殺しに行く」

 

「「「…………」」」

 

どんだけアルフィアに喧嘩を売って来たんだこの女は……と、フィンですらその言葉にはちょっと引いた。

そして49階層のバロール。そもそも49階層にはロキ・ファミリアでさえ総員で当たらなければならないほどの大量のフォモールが出現し、最悪の場合はそれと同時にバロールの相手もしなければならないというのに。ちなみに、つい先日の遠征ではフォモールのみの相手でリヴェリアの最大火力を切って冷や冷やという感じであった。レフィーヤは目の前の相手が最早人間には見えなくなっていた。

 

「それじゃあここでお別れだ。すれ違えるかどうかは分からないけど、また会おう」

 

「……フィン」

 

「ん?」

 

「あの小娘、どうせウダイオスを一人で倒させろと言って来るぞ」

 

「!」

 

「絶対に止めるな、手を貸せ。分かったな」

 

「……分かったよ」

 

フィンは釘を刺されてしまった。

本当はそんなことには、出来るのならばなって欲しくはないけれど……アイズの様子を見る限りでは、まず間違いなくそういったことを言ってくるだろうなと予想出来てしまって、深い深い溜息を吐きながら背中を向けた彼女を見送った。

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