film STARS 作:葛篭
──これは夜空に輝く星が堕ちる物語。
コツリ、コツリ…
神殿のように石柱が並ぶ長い廊下を美しい女が進んでゆく。
たおやかな金の髪。真っ赤なルージュに彩られた唇。アクアマリンを思わせる薄い青の瞳はそれこそ宝石のように無慈悲で冷たいが、それが一層その女の美しさを際立たさせた。
繊細なレースで作られたドレスの裾をゆったりと揺らし、女は最奥の扉の前で立ち止まる。
指紋認証。網膜認証。音声認証。パスワードを入力して、最後に小さな金の鍵を差し込んで回す。
厳重に守られた扉の先。繊細な刺繍が施されたカーペットの上を過ぎ、煌びやかながらも嫌らしくないデザインの調度品には目もくれず、天井に描かれた満天の星空に見下ろされながら彼女はその空間の奥に据えられたベット──そこに眠る人物とその人物へ小さく小さく子守唄を歌う青年へと歩み寄る。
「ステラ様…」
「シリウス、彼らを補足できたわ。運良くこの近くの海域に居るようよ」
項垂れていた青年がぱっと顔を上げる。彼女の嵌めた指輪のエメラルドとよく似た色の瞳が彼女を見上げ瞬きを繰り返した。
「では…!」
「ええ、招待状は出しておいたわ。彼らが食いつくような情報を添えて、ね」
喜色を浮かべる青年へと穏やかに微笑み返し、彼女はベットへと腰掛けた。
やつれた彼の顔へ手を伸ばしかけ、ギュウと握って引っ込める。その代わり、ブランケットの上からひどく優しくその痩せた身体を撫でた。
「もうすぐ…もうすぐよ。必ず、貴方をもう一度……」
歌わせて、あげるから。
ずっとずっと、この日を待っていた。
貴方の目が覚める日を。貴方を救える日を。貴方に償える日を。
憎しみの篭った目でもいいわ──貴方の瞳が見れるなら。
恨み言や私たちを嫌う言葉でもいいわ──貴方の声が聞けるなら。
どうかどうかと、居もしないカミサマに祈る日々はもう終わり!
両手を広げ、彼女は笑う。まるで大仰な舞台女優のような仕草。キラリと左の薬指に嵌った指輪のエメラルドが人工光を反射し煌いた。
「さあ、忙しくなるわよ。シリウス」
「はい。ステラ様、必ず…必ず、成し遂げましょう…!」
「もちろんよ。今さら私たちに失敗なんて許されないもの」
願うように両手を握り頭を下げる青年を起こし、彼女は扉へと歩き出す。
そう、許されないの。失敗も。敗北も。もう二度と私たちには許されない。
一度目、私は手に入れることさえ出来ず失った。
二度目、私たちは手を伸ばせば届く距離だったのに失った。
三度目なんて許されない。
貴方を私たちはもう二度と失わない。
彼女たちが出ていき、重厚な扉が閉められればその部屋に満ちるのは点滴が落ちる水音と彼の小さな小さな吐息だけ。
昨日も、今日も、ずっとずっとそこにはそれだけが満ちていた。
《fin》