film STARS 作:葛篭
──ずぅっと、声が聞こえていた。
ずぅっと歌を歌っていた。
おれはカナリアだったから。
望まれるままに囀るカナリア。主人の耳を喜ばせるためだけの蓄音機。
おれを売った親の顔も、おれを売った店主の顔も、おれを買った主人の顔も、もう思い出せない。
いらないものと捨ててしまった。
覚えているのはおれの歌を聞いてくれた美しい彼女と小さなあの子の顔だけ。
いつかここから出してあげると言った彼女。
いつかここから出でいきたいと言ったあの子。
最後までおれに手を伸ばしてくれた彼女。
最後までおれの手を掴んでくれていたあの子。
おれの名前を呼んでくれた君。
おれが名前をあげたあの子。
声を枯らし歌えなくなり、価値を失くしたおれをそれでも守ろうとしてくれた。
足手まといのおれを連れて逃げようとしてくれた。
走って、走って、走って走って、息苦しい視界の中で不思議とハッキリ見えたんだ。
あの子に向く銃口が。
最後に聞いたのは銃声。最後に感じたのは鞭打よりも熱い痛み。
最後に思ったのは「良かった」という安堵。
──けれど、それは間違いだったんだね。
水の中を揺蕩うような心地の中で、ずっと二人の泣き声が降ってくる。
“起きてください”
“ごめんなさい”
”ゆるして”
“ゆるさないで”
“ごめんなさい”
“ごめんなさい”
“ごめんなさい”
“ごめんなさい”
──どうして、君たちが謝るのだろう。
謝るべきはおれの方だ。
置いていって、ごめん。
一緒にいられなくて、ごめん。
落ちてくる“声”に返したくても、声を失くしたおれはただその“声”を抱きしめるしか出来ない。
そうして、時々やってくる嫌悪と侮蔑の“声”を発する部外者とあの二人を心配する誰かたち以外には、二人の泣き声と謝罪の“声”だけに長い間浸かっていた。
“もうすぐよ”
“次こそ必ず”
“必ず、貴男をもう一度……”
“歌わせて、あげるから。”
遠く遠くから降ってくる彼女の“声”。
……出ろ、声。届け、言葉。
泣いている。ずぅっと彼女は泣いている。ずぅっとあの子は悲しんでいる。
おれのせいだ。だからおれがなんとかしないと。
それでも、この喉から声は出ない。瞼は上がらない。意識はずっと、海のような夢の中を揺蕩うだけ。
どうして、どうして、どうして、どうして。
おれはかんじんななときになにもできないの
“──!”
こえが、
“──ず!”
しらない“声”が意識の海に投げ込まれた。
“──必ず助けてやるからな!”
“だから、だからっ”
“あの二人はお前が止めるんだ!”
暖かな手が背中に触れる。
そうして の意識は、急激に浮上した。
《coming soon》