film STARS   作:葛篭

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三話

 ステラの部下、歌姫カリーナは実は《女狐》という呼び名を持つ怪盗だと、昔の知人であるというナミから紹介された麦わらの一味は彼女に伴われ下層の食堂へ場所を移していた。ベポたちはローや他のクルーと合流すると言って早々に分かれた。

 そこでカリーナに手を組まないかと持ちかけられ、話を聞いていたナミが驚愕の声を上げた。

「あんたまさか、『ステラの至宝』を狙ってるの!?」

「『ステラの至宝』? なんだぁそりゃ」

「この国の女王ステラは世界の金の二十%を握ってると言われてる《黄金の支配者》。その一部を天竜人に上納金として納めこの国を認めさせ、こんなカジノを経営して更に資産を増やしている。でもね、そもそもステラは自らが持つ『宝』を護るために金を集め国を作り地位を盤石にしていったらしいの」

「この黄金だらけの国が手段だってぇのか!? なんつー代物だよそりゃ」

「誰も正体を知らないんだけど、それが噂に噂を呼んで世界を傾ける代物なんじゃないかとまで言われてるの」

 怪盗の血が疼くじゃない? などとカリーナは笑う。

「あなた達も《海賊狩り》を助けるためにお金が必要でしょ? 鍵は手に入れてある。宝物庫までのルートも分かる。警備員の配置もトラップのことも調べてあるわ。あとあたしに足りないのは人手と武力。ね? 手を組まない? トータルバウンティ13億越えの大物海賊さんたち?」

 カリーナが不敵にルフィに問いかけた時、カウンターの方から食器の割れる音と男の怒鳴り声がしそちらへ気が逸れる。どうやら給仕の少年が配膳中の皿を落として割ってしまったようだった。怒鳴っている男はカジノ運営側の人間らしく、小さな子供に向かって居丈高に権力を振りかざし「借金が増えてもいいのか」などと脅しつけている。

「なによあいつ! 子供に向かって!」

「ちょ、ナミ!? 落ち着きなさいよ、こんなことで怒るなんてあんたらしくないわね!?」

 男たちへ文句を言いに立ち上がったナミをカリーナが慌てて止める。カリーナの知る《泥棒猫》ナミは見ず知らずとはいえ子供が怒鳴られているという状況に──少なくとも命の危険はないのだし──不快感を示しこそすれこんな風に策もなく飛び出していくような人間ではなかった。この一味は一体どうやってナミをこんな直情的に変えてしまったのか?

 疑問を抱きながらもナミを止めるカリーナだが、そこへ更に燃料が投下された。男が床に落ちた料理を踏みつけたのだ。

「あいつメシを!」

「待て待てサンジ! 今問題を起こすのはマズい!」

「放せウソップ!」

 ギャンギャンと一味が騒いでいる内に店主が子供たちを庇い、下っ端たちに殴られているのを肉を食いながら静かに見ていたルフィは奴らが去ったあと店主へ「なんで抵抗しねぇんだ!」と詰問した。その言葉に少年が激昂する。

「俺たちは奴隷と一緒だ! 働いて金を返さなきゃ自由になれねぇんだよ! これ以上借金を増やさないためにも奴らに従うしかねぇんだよ! なんにも分かってないよそ者のくせに! お前だってステラに負けたくせに! 勝手なこと言うな!!」

「まだ負けてねぇ!!」

 ルフィは怒鳴り返す。

「まだおれたちは負けてねぇ!! おいナミ! そいつの作戦乗るぞ! おれはあいつをぶっ飛ばしてゾロを助ける!!」

「あーあ…はいはい、了解よキャプテン」

 落ち着きを取り戻したナミが呆れたように承認するがそんなものはポーズだ。こんな不自由な国、ルフィが嫌がって当たり前。そして船長が『こう』と決めたことなら付いて行く覚悟はみんな出来ている。今回は仲間の命もかかっているからいつもよりは慎重にいかなきゃいけないんだろうけど……そういうことを考えるのはナミたちの役目だ。

 ルフィはただ前だけを見て、強敵を打ち倒して進んでいけばいい。

「そういう訳よ、カリーナ。あんたの作戦ってのを聞かせてちょうだい?」

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 ──『グラン・ステッラ』のどこかの建物の一室。大きな窓からは綺羅びやかな黄金の街が発する光が薄暗い室内とその場にいる人間たちを照らしていた。

「わたしね、あなたには従順になってほしいの」

 カロン…とステラの持つグラスの氷が音をたてる。背後には黄金の杖をついたシリウスを控えさせた女王は豪奢なソファに腰掛けながら、眼下に転がる海賊を優しく笑って見下ろした。

 黒いコートに斑点のある白い帽子。目つきの悪さが隈のせいで三割増しで凶悪になっている──トラファルガー・ロー。ドフラミンゴとも関係深かったこの国を訝しみ一人行動していた彼は、少し前に黄金によって捕まり今は海楼石で拘束されステラの元へと連行されていた。

「医者と言っても海賊ですもの。いつ寝首を掻かれるか恐れながら治療を受けるのは嫌じゃない?」

「おれは医者だ。相手が患者なら区別なく治療する」

 拘束されながらも強気に反論するローだがステラは笑ったまま取り合わない。

「この国の医療設備は他国より数段優れていると自負してる。名医も数多くいるし数々の医学書、資料、統計データなんかも揃ってるいるわ。その全てをあなたの好きなように使っていいから──わたしに忠誠を誓ってくれないかしら?」

「生憎、おれは命令されるのが嫌いだ」

「…あなたのクルーの身体も生命もわたしの手の中よ。もちろんあなたのものもね?この国に入り、金粉を浴びたあなたたちにはもう逃げ場はないの」

 だから折れなさい。トラファルガー・ロー。

 凍てついた氷のような眼がローを見下ろし宣言する。それをローの金の瞳はギラギラと輝きながら見返す。

「は、流石ドフラミンゴと取引をしていた女だ。クズなのは同じだな」

「──っ、あんな男と一緒にしないで頂戴!!」

 叩きつけられたグラスが鋭い音をたてて割れる。まるで本心の見えない彼女の悲鳴の代わりのようだった。  

「ステラさま…」

「……は……はぁ…大丈夫よ。落ち着いたわ」

 肩で息をしていた彼女は改めてローを見下ろしまた笑顔を貼り付ける。けれどそれは不格好で無理をしているのがありありと分かる下手くそな有様だった。

「わたしはあなたに本心からわたしたちに協力してほしい……しばらく大人しくしていなさい。すぐにあなたのクルーを連れてくるわね。…次に合う時は色良い返事がもらえることを願ってるわ」

「っおい!おれは医者だ!お前の下に付きはしねぇが患者がいるなら診せろ!治してやる!!」

 シリウスを伴い部屋を出ていこうとするステラの背へとローが叫ぶ。その言葉にステラは一度足を止めたが振り返ることなくシリウスが開けた扉を潜る。シリウスはローを一瞥睨みつけたあと、ステラを追って部屋を出ていった。

 くそ…というローの呻きだけが暗い部屋に響く。

 

 

 

 明るい廊下を二人は無言で進む。ステラは小さく、小さく口を開いた。誰にも聞かせるつもりのなかった慟哭だった。

 

 ……だいじょうぶ、15年も待ったんだもの…あと少しくらい、待てるわ…

 

 彼女の呟きは、シリウスの耳にしか拾われずクウへととけてほどけていった。

 

 

《coming soon》




…なんかステラさん出てくるたびにお酒飲んでませんか…?大丈夫?大丈夫じゃないわ…(メンタルが)

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