film STARS   作:葛篭

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五話

 ──時間は少し戻り、ハートの海賊団がグラン・ステッラに上陸してすぐのこと。

 単独行動を開始したトラファルガー・ローはカジノには寄り付かず周囲の観察と情報収集をしていた。

 この『国』は巨大カジノを母体とし、高級志向の娯楽施設を混ぜ合わせて成立している。いたる所に女王の力と財力を誇示するように黄金が使われ、希少なカメを用いたカメ車なるものが走り、水族館や遊園地などの金のかかる娯楽施設を複数抱えている。そこらで貰ったパンフレットには星5つからの高級レストランが並び様々なショーも時間をずらして各地で開催されていた。

 そんな煌びやかな場所だからこそ、落ちる闇も濃い。敗者は労働力として、あるいはそれすらいらないと最下層へ“人質”として落とされるという。下層でこの国を支える者たちの多くがここのカジノで一攫千金の夢を見て、そして敗れたものたちあるいはその家族たちだ。彼らは借金の返済を名目に奴隷のようにコキ使われている──そのくせ、この国は奴隷だけは許されていない。人を攫うことも人魚や魚人を蔑むことも、この国の女王は禁止している。まるで天に立つ己以外には許さないとでも言うように。

 

「天竜人の真似事か…胸糞悪いこった」

 

 ここでは彼女はまさしく神だった。

 黄金を操る能力者。《黄金の支配者》。《好配の魔女》。裏社会の大物の一人。あのドフラミンゴとも対等に取引をしていたという厄介極まりない女。そんな女の手の内にいるというのがあまりに危険だというのはローも分かっている。

 しかし、気になってしまったのだ。手紙に同封されていたカルテ。銃撃されその後ずっと眠り続けるという患者。全て摘出されたはずの銃弾。完治したはずの傷。どこか違和感のあるカルテの記載。その身体を蝕む『不可解』に手紙の主はローに助けを求めてきた。

 

《名医トラファルガー・ロー氏にとある患者の診察をお願いしたく存じます》

《これまで何名もの名医と呼ばれる者たちに診察を依頼しましたが、未だ彼は目覚めません》

《どうか、あなただけが私たちの最後の希望なのです》

 

 手紙の字は少しだが震えていた。

 例え罠の可能性があろうとも、医者が向かう理由などそれで充分だろう。

 

「しかし、やはり長居すべきじゃねぇな…アイツらに釘は刺してきたがいつぼったくられるか分かったもんじゃねぇ」

「慎重なのですね、流石は5億の賞金首と言ったところですか」

「誰だ!?」

 

 裏路地を歩いていたローへ真後ろから声がかけられる。反射的に迎撃しようと鬼哭を振るうがそれは鈍い音を起ててステッキに防がれた。

 表の光が届かない薄暗い闇の中で、姿形はよく分からないが声音から言ってローとそう変わらない年齢の男だろうということは判別できた。くるりと地面を打ったステッキの金色が嫌にギラギラと目を焼いた。

 

「──…よくぞお越しくださいました、《死の外科医》トラファルガー・ロー様。ご依頼人がお待ちです」

「……約束の日時は二日後だろう」

「ええ。けれどあなた様が到着したと守衛から連絡を受けましたので、急ぎ迎えに参った次第です。ご依頼人はなるべく早くあなた様をお連れするようにと」

 

 ジッと薄闇の中でローと男は対峙する。十二時を知らせる金の噴水から噴出された金粉が二人の身体に舞い落ちていく。

 

「もっとも、お前に拒否権などないがな」

 

 ザラリと雰囲気と口調を変えた男にローは直さま“ROOM”を展開しようと右手に力を込め──ギシリと固まる感覚に目を見張った。指先が、金で覆われて、否、これは金に侵食さてれいる!?

 

「超人系の能力の発動は大抵“手”をトリガーにしている。分かってしまえば対処など簡単なこと」

 

 近づいて来た男がローをステッキで打ち据え、その底面を押し付けた途端に体の力が抜ける。海楼石が仕込まれているのだろう。

 打ち倒され押さえつけられてなお、気丈に男を睨みあげていたローは近寄ってきて初めて見えた男の顔に、その目に宿る色を不可解に思い一瞬睨むこともやめてしまった。

(お前、一体何に怯えている?)

 それを問いかける前に激しい殴打音とともにローの意識は沈んでいった。

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 ──時間を半日ほど進め、ベポたちはVIPルームでステラの力を目の当たりにし《海賊狩り》の救出作戦を練ると言う麦わらの一味と別れていた。

 自分たちの船に向かいながら三人は話し合いを進める。

 

「どうするの? 麦わらたちに協力する?」

「うーん…いらねぇんじゃねぇか? 同盟中とは言えあいつらに協力を頼まれた訳でもねぇんだし」

「だな。とりあえずキャプテンに報告だけはしとこうぜ。あとみんなにも集合をかけるぞ。うちのキャプテンだって5億の賞金首なんだ。あいつらみたいに嵌められる可能性はある」

 

 どうキャプテンに連絡を取ろうか…子電伝虫にかけて出てくれっかな…と考えていたペンギンの横でシャチがあれ?と首を捻る。

 

「そもそも、何で麦わらたちって嵌められたんだ?」

「なんでって…なんでだろ?」

 

 うーんとペボも揃って首を傾げ出したのでペンギンも思考を中断することなく一応そちらへも返事を返す。

 

「カジノで勝ちまくってたからじゃねーの?」

「こんだけのカジノでたった三億B程度で?」

「あー…じゃあなんか違反犯したとか?」

「そんな感じじゃなかったし、それにしては回りくどくない?」

「うーん…」

 

 確かに。思い返してみればおかしなことだらけだ。

 最初気持ちよく勝たせて最後の博打で大損をさせるという手法はよくあるものだが、それにしたって違和感が拭えない。

 招待された訳でもなく偶然ここに着いたという麦わらたちに最初からコンシェルジュ付きのVIP待遇。同じ5億の船長持ちのハートの海賊団はただ迎え入れられただけ。

 おそらく最初の最初、入港した時から目をつけられていたことは確かだろう。ここまでの財を成している人物が()()()()()()程度の金を得るために海賊を捕まえるとは思えない。この『国』は治外法権の場。国主自らその特権を投げ捨てることはないだろう。

 では、何故?

 

「……麦わらたちに個人的な恨みがある?」

「あー…インペルダウン開放して七武海ぶん殴って回ってる奴はそりゃ恨み買うよなぁ」

「ええ!? それじゃあドフラミンゴ一緒に倒したキャプテンも狙われるんじゃないの!?」

 

 ベポの叫んだ言葉に行き交う人々がこちらを振り返り、そしてすぐに興味を失ったように各自の世界へ戻っていく。今はその無関心が空恐ろしく感じた。

 

「──キャプテン、連絡付いたか」

 

 子電伝虫を片手に持ったシャチが首を振る。

 多分、マズい事態になった。予想はしていたがこれは誘い込まれたと見てほぼ間違いないだろう。ここの女王にしてみたらこっちは大口の取引相手を潰した海賊だ。捕まえて従わせて何をさせるつもりかは知らないが、一人でも手の内で生殺与奪の権を握ることが出来れば総合懸賞金(トータルバウンティ)13億以上の狂犬のような海賊団を自由に出来ると思えばその価値は計り知れな──「おかしい」。

 立ち止まったペンギンに「みんなには連絡つく!?」「何人か連絡つかねぇけどなんかあったのかギャンブルの最中で取れねぇのか判別がつかねぇよ!」なんて騒いでいた二人も振り返る。

 

「何が? ペンギン」

「おかしい……なんで人質を処刑するつもりなんだ? 何で手元に置いたままにしねぇ? 処刑した瞬間人質の居なくなってブチギレた海賊団が目の前にいることになるんだぞ?」

「…全員既にマーキングされてるから人質は居ても居なくてもいいんじゃねぇか?」

「それにしたって麦わらたちを手に入れたいなら戦力の低い航海士やペットじゃなくて何で態々海賊狩りを選んだ? 全滅させたいなら、やっぱりやり口が遠回りだ。……あの女の、狙いは何だ?」

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 ──時間は戻り、約束の日の夕暮れ。

 

 外壁から黄金の塔へと侵入を試みるルフィとフランキー。途中落下しかけるというハプニングがあるもフランキーのクー・ド・ブーで一気に上階層まで上昇する。そして手筈通り時計盤から内部に侵入。ダクトを通って目的のホスト電伝虫がいる部屋の真上にまでたどり着いた。

 

「よぉーし、うまいこと真上じゃねぇか。いいかルフィ、コイツをあのパイプに設置してこい」

「分かった!」

 

 元気よく腕を伸ばしその勢いのまま階下に降りていくルフィ。白電伝虫をパイプの上に設置しサムズアップをしてくるルフィ。フランキーは頭を抱えた。手を!放しちゃあダメだろうが!

 当然警備の兵に見つかり、ルフィに向けられたマシンガンを上から降りてきたフランキーがその鋼鉄の体で受け止める。

 

「やべぇな、一旦撤退…!」

 

 腕の仕込み砲弾で反撃した土煙を煙幕に振り返ったフランキーの肩を金の触手が貫く。薙ぎ払われた煙の向こうにはシリウスとタナカを従えたステラの姿があった。

 

「恭順ではなく反抗を選ぶのね。……大人しく従っておけばいいものを。愚かね、海賊」

「知らねぇよ!! ここでお前を倒せば終わりだろ!!」

 

 フランキーの静止を振り切りルフィはギア2を発動しステラに向かっていく。彼女を護るように立ち塞がったシリウスがその拳を金のステッキで防ぎ、弾き、反撃を仕掛ける。

 

「武装色!」

「そう珍しいものでもないでしょう。あなた達に比べればね!」

 

 コンシェルジュ、カジノの総支配人を名乗るくせに随分と手練だった。ギア2を発動したルフィとほぼ同等にやりあっている。その上シリウスと連携して黄金の触手も次々と襲いかかってくる。

 

「意外だな。海賊のくせに。手下くらい、捨てて逃げればいいものを!」

「うるせぇな! 途中で捨てられるようなもんを背負うわけねぇだろうが!!」

 

 は、とシリウスの呼吸が一瞬止まる。ありえないことを聞いたとでも言うような、今が戦闘中だということも忘れてしまったように目を見開いたその顔にルフィのパンチが決まった。派手に吹っ飛んだシリウスにはもう見向きもせず、ルフィはステラに向かっていく。黄金の触手を避けながらステラへ迫った拳がスルリと受け流される。

 

「──政府施設の壊滅。大将からの逃亡。頂上戦争で生き残ったこと…その全てはあなたが“幸運”だったから。けれど、ここでそれは通用しないわ」

 

 金の指輪が投げられる。予感からルフィは大きく身を引いた。だが両手を着いて着地しようとしたその場所には“不運”にも千切れ飛んだ黄金の塊があった。

 

「拘束完了。もういいわ、タナカさん」

「はぁい、ステラ様。『ボトムレス・ヘル』!!」

 

 両手を床に叩きつけた能力者の力により、床に大穴が開きルフィとフランキーはなす術もなく落ちていく。

 

「クソ! 覚えてろよ! 次は絶対ぶっ飛ばしてやるからなーー!!」

 

 段々と小さくなっていく負け犬の遠吠えを鼻で笑い、ステラは顔色を変え殴り飛ばされたシリウスに駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「はい…申し訳ありません。気を逸してしまって…」

「いいのよ。無事に捕まえられたし、あなたが無事なら、それでいいわ」

 

 親子か姉弟のように寄り添う二人に多少の気まずさを感じながらタナカは訊ねる。

 

「《麦わら》たちの監視はいたしますか? それと他の船員たちはいかがしますか?」

「そうね…必要ないわ。他の者たちも最初の計画通りで構わない」

「了解しました」

 

 このくらい大丈夫だと渋るシリウスを医務室に引っ張っていくステラを見送りながら、タナカは部下に指示を飛ばす。

 あの二人の目的を──夢をタナカは知っている。何年も何年も、辛酸を舐め涙を飲み血を流しながら願ってきた夢を知っている。

 世界の何もかもを憎んで見限った彼女たちに自分は信頼されている。だから自分も答えるのだ。出来る限りの手を尽くして彼女たちの夢を叶える。

 それがタナカの今の夢だった。

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 渋るシリウスを医務室まで送ったあと、ステラは捕まえたゾロがいる野外ステージまで来ていた。

 

「──見ていたでしょう? ロロノア」

 

 黄金で造られた巨木の幹のような柱に取り込まれるように捕らえたゾロを見上げながら、ステラは美しく笑う。作り物めいたとても美しい笑顔。

 

「随分と単純な男だったわね、あなたの船長は。あんな男を頭と仰いで従って、着いてきた挙げ句にこんな風に捕まって。その上あっさりとわたしに消されて…ふふ! 馬鹿みたいねぇ! あなたたち!」

 

 あからさまな挑発。それを片眉を上げるだけで受け止めたゾロにステラは大仰な身振りで続ける。

 

「ねえ! どんな気分!? 他の船員たちもすぐに捕まえるわ! あなたたちは何も出来ず、己の無力さを噛み締めながらここで死ぬのよ!!」

「なんも」

 

 あっさりと返された言葉に流石のステラも面食らう。そのアホ面を見下ろして愉快そうにゾロは喉の奥で嘲笑った。

 

「あいつらはこんなもんでやられるタマじゃねーよ。まあ精々その高慢ちきな態度が崩れないように見栄でも張っとくんだな」

 獰猛な野獣の眼が必死になっている女を射抜く。なんてことはない。取り繕った仮面(えがお)の下にあるのはただただ苦痛を耐えることしか出来ない女の顔だ。

 

「お前ェが何に焦ってんのかおれにゃあ知ったこっちゃねぇが、ルフィを敵に回したのは間違いだったな。終わるのはお前ェの方だよ」

「…………さい。ぅるさい、うるさい! うるさい! うるさいうるさい!!」

 

 金の触手がゾロの口を塞ぎにかかる。それでもゾロの隻眼は冷静に子供のように喚く女を見つめ続けた。

 

「ステラ様。お止めください。その男を今殺してはいけません」

 

 熱い手のひらがステラの視界を塞ぐ。押し殺した声が耳に届く。──息を一つ吐く。そうだ。冷静でいなければいけない。もうすぐなのだから。わたし達の悲願が為せるまで、もう少し。こんな所で台無しにするわけにはいかない。

 

「…もう大丈夫よ、シリウス。……その大口がいつまで叩けるかしらね、ロロノア。精々あなたの希望が叩き潰される様を、そこで絶望しながら見ているがいいわ!」

 高くヒールを鳴らして踵を返すステラを追うかと思われたシリウスは、しかし立ち止まってゾロを見上げる。

 

「……《麦わら》はお前たちの生命を背負っている。背負われて、負担になって、そのせいで《麦わら》は死ぬ。それをお前はどう思う?」

「誰がルフィの負担だコラ。それに背負われてんじゃねぇ、預けてんだ。このおれがあいつに生命も夢もやると決めたんだ」

 

 ニヤリと男は笑う。その色彩が、その名の響きが少しだけ“あの人”に似ているこの男は、全くもって似ても似つかぬ凶悪な顔で笑った。

 

「死にゃしねぇよ。あいつは海賊王になる男だ」

 

 まっすぐな、微塵も疑わないその姿勢が眩しかった。

 

 

《coming soon》




なんか思ってたところまで進まなかった
実はペンシャチベポのキャラよく分かってなくてペンギンに夢見てますね
あとタナカさんちょっと目立ちましたね。これはダイスもなんかすべき??
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