film STARS   作:葛篭

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長らくお待たせしました…申し訳ない…
ルフィの解像度ーー!!!!分からん…分からん…
ていうかそれ以外にも流れとか色々不満なんですけど、これ以上時間かけても堂々巡りしそうなのでもう投稿しちゃいます


八話

 

 チョッパー達は走っていた。湧いてくる敵をベポ達が蹴散らしながら、ひたすらに予想された患者がいる部屋を目指して。

 いつの間にか内装が変わっている。ギラギラとした悪趣味な金と赤の装飾から、清廉さを感じさせる白い壁に石柱が並んだ長い廊下。

 

「あ、ほら! あの部屋!」

 

 ベポが指し示したのはその最奥。これまた白い大きな扉。

 

「ぶった斬る。お前らしゃがめ! “ルーム”!」

 

 薄青いドームが広がり、ローがその白刃を振るえば分厚い扉は轟音をたてて切り崩される。

 

──水音と呼吸音だけが満ちていた部屋にカラフルな風が飛び込んだ。

 

 病室のような白い部屋。最奥に据えられたベッド。そこに眠る人物。

 それこそがあのカルテの主。ステラが守りたいと願い、助けたいと祈り、大切に大切に隠して隠して手の内に握り込んでいた。それでも眠り続けている『ステラの至宝』そのものだ。

 

「まずは診察だ…!」

「ベポ、ペンギン、シャチ! 誰も入れるな。治療の邪魔だ」

「アイアイ!」

 

 繊細な刺繍が施されたお高いカーペットを土足で踏み荒らし、患者に駆け寄る医者二人に背を向けて残る四人は扉から更に離れて廊下に陣取る。

 蟻の子一匹通すものか。『医者の治療を邪魔するやつに容赦はいらねぇ』がハートの掟だ。

 

「“スキャン”」

「点滴は…栄養剤とクロルペ印剤。体内の毒素や不要物の排出を促す薬…中毒になってるのは分かってたのか…」

「……ヤブ医者が…!」

 

 能力によるスキャンを終えたローが唸る。丁寧に寝かされていた患者の身体をひっくり返し、服を脱がせる。

 日に晒されることのなかった真っ白なその背中には──“天翔ける竜の蹄”、天竜人の焼印が刻まれていた。

 

「これが…こんなことが、理由でっ」

 

 フランキーから聞いていた。ここに呼ばれた医者たちは“コレ”があるからこの患者の治療を拒否したのだと。

 

「おかしいと思っていた。いくら強力な鉛でも摘出されて長いなら慢性的な中毒に陥ることはない。この下だ」

「えっ…」

「この焼印の下にまだ銃弾が埋まっている」

 

 今度こそ、チョッパーは言葉を失った。

 

「背骨の傍、血管も近い。長く体内にあったことで弾自体が癒着してる。おれの能力で取り出すことは出来るがその後の処置が肝要だ。薬関係は任せるぞ、トニー屋」

「お、おうっ! やるぞ! トラ男っ…!」

 

 背負っていた医療バックから必要なものを取り出していく。ローはベポとペンギンにこの船の医務室から治療に使えるだろうものを持ってくるように指示している。

 視界が滲む。チョッパーは奥歯を噛み締めた。悔しくて、悔しくて……けれど泣いている暇などない。

 ──この国は、病気だ。王が病んで国に病気を振りまいている。そしてその原因がこの患者。なら、チョッパーは出来ることをするべきだ。チョッパーは医者で、ここには患者がいて、助けを求める手があるのだから、だからそれは、当たり前のことだ。

 泣くのも怒るのも、全部の治療が終わってからだ。

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 ルフィはステラと対峙する。

 こんな国を作り、多くの人間に“不自由”を強いていた《魔女》は今、忌々しげにルフィを睨みつけている。

 こうして正面から向き合った《魔女》は思っていたよりずっとずっと、普通の女だった。泣き叫ぶ《声》をその身体の内に閉じ込めて、気丈に立ってる姿はどこかあのハンコックに似ている気がした。

 もったいねぇなぁ。とルフィはもう一度口に出す。

 理由は全然知らねぇけれど、こんな窮屈なトコで他人を押しつぶして、心配してくれてる仲間のことも信じられずにいるのは、なんとももったいない話だ。だってそんなに強いのに、他人を虐げなきゃ自由に生きられないなんて!

 

「あなたに、なにが、分かるのよ…!」

 

 女は呻く。ひどく重苦しいまるで海に落ちたみたいな声だった。

 

「自由に笑えるあなたには分からない! 喪失を乗り越えたあなたには分からない! 奪われ続けたわたし達のっ、今にも、何より大切な人がこの手から溢れ落ちるかもれないという恐怖をっ、何一つ分からないくせにッッ!!」

 

 手にした銃が悲鳴を上げる。大振りなそれに込められた弾丸は槍のように鋭い形状をしており、通常なら弾丸など通用しないゴム人間の身体にも十分に突き刺さるものだった。

 しかし悲しいかな、そんなものでは通用しないのだ。ステラは戦う術は持っていようと戦う力は持たない者だった。暴威を振るい権力を振るい、恐怖に仰がれ国に君臨し、世界政府と取引出来る大物になろうとも。

 やはり彼女には、決定的に力が欠けていた。

 

 

「信じられる人間なんか居ない! 助けてくれる人間なんて居ない! 金も権力もない人間はただ踏みにじられるだけ! だからわたしは“力”を手に入れた!」

「じゃあ、この国でお前の望みは叶ったのか?」

「っ、いいえっ! でも! もうすぐ、もうすぐよ! そのためのこの国! そのためのわたし達! そのために、あなた達を殺すわ…っ!!」

 

 胸元を掻きむしっていた左手が掲げられ、鳴らされた指に空気が震える。

 床が波打つ。彼女の纏っていた金の装飾が形を変える。黄金の巨人が、彼女を守るように錬成される。

 

「あなた達の命も未来も、その全てがわたしの手のひらの上──“廻れ、運命の糸(インクルパー・リィ・フォルトゥーナム)”…っ!!」

 

 くるりと回されたステラの指先から光の糸が伸びる。それは次々と枝分かれし、方々へ散っては周囲の人間達へと突き刺さっていった。

 変化は目に見えて現れる。光の糸に触れられた人間は何もない所で足を縺れさせたり、武器が手からすっぽ抜けたりといった“不幸”に見舞われはじめたのだ。

 

「“覚醒”ってやつか?」

「そうよ。やはりただの馬鹿ではないのね。…わたしはラキラキの実を食べた『幸運に愛される者』。触れた者の幸運を吸い取り自らの幸運に上乗せが出来る。…あなたがどれほど強かろうと、わたしにあなたの攻撃は当たらない…!」

 

 この国全ての人間から運命を徴収した女王は再びルフィに銃口を向ける。今度こそ当たる。ステラが引き金を弾き、その銃弾が“麦わら”の身体を貫く。それが決定された『運命』だ。

 そうなるはずだ。だって彼女の能力は“そういうもの”なはずで……

 

「だからよ」

 

 身体中から蒸気を吹き出しながら男は言う。

 

「自分のこともちゃんと分かってねぇ奴が、おれに勝てる訳ねぇだろうが!」

 

 目にも留まらぬ速さで男が動く。轟音とともに黄金の巨人が殴り倒される。

 我武者羅に撃った銃弾がルフィの腹を貫いたが、その程度。その程度では決定打にはならないし、ルフィを止めるには至らないのだ。

 鈍い音と共にステラの体が空に浮かぶ。随分と手加減されてはいたけれど、それでもステラは踏ん張ることも出来ずゴロゴロと床を転がり瓦礫にぶつかって停止した。愛しい子の絶叫が揺らいだ脳に反響するが、返事も出来ず激しく咳き込むステラの隣にしゃがみ込み、ルフィは告げる。

 

「これで終わりな」

 

 ステラには理解できなかった。目の前の男が何を考えているのか分からない。

 

「……なんっ、なの…!? 終われる、わけがないじゃ……うっ!」

「だーかーら、おれ達はゾロを取り返したんだからもう戦う理由はねーんだってば」

 

 軽いデコピンでステラの言葉を遮ってルフィは告げる。まるで利かん坊の子供に言うみたいに。

 

「お前の戦う理由は知らねぇけどよ、トラ男を捕まえてたってことは怪我か病気か? なら心配すんなよ、チョッパーも一緒に行ったしよ」

「ふざけた、ことを…! お前の仲間が、彼を傷つけない保証はないでしょう!? 何を信用しろというのよ、海賊の!」

「そりゃおれ達は海賊だけどよ、トラ男とチョッパーは医者だぞ? い〜い奴らなんだ」

 

 だから仲間にしたんだけどよ、とニカッと笑う男は、どう見ても5億の極悪海賊なんかに見えない。

 

「じゃあこうすっか! お前おれに負けたんだから、言うこときけ!」

 

 ……いややっぱり、その滅茶苦茶な要求の仕方は海賊らしい。

 そんな風な不思議な男をようやくちゃんと認識して、ステラは今の今まで張り詰めていた気が緩んでいくのを感じ取って、そんな自分自身に動揺した。

 信じていいのか? 信用していいのか? 信じたいのか? こんな奴らを? 今更? この15年を、預けてしまって本当にいいの?

 分からなかった。もうステラには成否も是非も判断出来るだけの余裕も猶予も残されていなかった。

 それでもと巡らせていた思考は、轟音と揺れる地面に遮られた。

 

「シリウス…!!」

 

 音の中心では、愛しいあの子が黄金に飲み込まれようとしていた。

 

 

  ★☆★☆★

 

 

 ──時間は少しだけ戻る。

 

 《黒足》のサンジと対峙しているシリウスは霞みつつある頭で急いていた。持たない、持たない。このままでは力尽きてしまう。能力を一度に使いすぎている。

 ──こんな筈ではなかった。

 例え5億を越える賞金首であろうとも、この国に足を踏み入れた時点でシリウスたちの手のひらの上で踊る人形でしか無いはずだった。いつも通り残酷なショーを開催し、それをもってトラファルガー・ローに脅しをかける。そして“彼”の治療をさせる。

 正規の医者では駄目だった。裏社会の医者では駄目だった。その両方とも“彼”の背の焼印を見て“彼”の治療を拒絶した。

 腹を押さえる。かつてそこにあった、今は焼き潰した“彼”の背にあるモノと同じモノがあった場所を。

 怒鳴り声、笑い声、悲鳴、鞭の音、傷の熱と静かな死……冷たい床に這いつくばって許しを乞うだけの生き物だった記憶が蘇る。それに無理やり蓋をして、シリウスは前を向く。

 シリウスたちにはもう時間がない。だから賭けた、あの男ならと。

 ハートの海賊団にはかつて奴隷だった男がいる。ならば、奴隷を奴隷ではなく船員として扱っているあの男なら、“彼”の治療を拒否しないのではないかと、そう一縷の望みを賭けたのだ。

 駆けていった男たちはもうとっくに“彼”の部屋にたどり着いているだろう。

 無事であってくれとただ“彼”の無事を願う。船長を捕らえられ部下を使って脅された海賊が報復のために“彼”を傷つけることは大いにあり得る。……けれど、

 

『脅しも人質もいらない! おれたちは、海賊の前に医者なんだ!!』

 

 小さな医者の叫びが耳の奥から蘇る。

 

『おれは医者だ! お前の下に付きはしねぇが患者がいるなら診せろ! 治してやる!!』

 

 床に転がされた《死の外科医》の眼差しを思い出す。

 ──信じてしまいたくなる自分を自覚して、シリウスは泣き出したいような気持ちになった。

 今更…今更! 一体なにを信じようというのか!

 

「考え事か?」

 

 揺らぐ視界を気合で奮い立たせ声に向ければ、そこに居たのは金の髪をした悪魔。彼女の髪より色濃く、黄金よりは淡い色彩が炎光を受けて(まばゆ)く、眩しく、煌めいている。

 ──美しかった。ああ、瑕疵のない生き物というものは、こうも目を覆いたくなるようなものなのか。

 腹に爪を立てる。そんな思考は振り払え。そんなこと、とっくの昔から知っていただろう。

 この命はあの人達のもの。過去は消えない。ゴミのようなおれが出来ることなどたかが知れてる。それでもやると決めたのだから。全て、全て、大人も子供も善人も悪人も罪なき者も美しいものも、何であろうと排除すると決めただろう!

 

「てめぇがあちらのレディのために戦ってんのは分かったがよ」

 

 炎を纏った赤い脚によって触手は歪み、猟犬は砕け、人形は討ち倒される。

 シリウスが持つ力の全てが、次々に破られる。下される。踏みにじられる。届かない。その、ただの一つも…!

 視界の端でステラが麦わらに殴り飛ばされるのが見えた。咄嗟に叫んだ絶叫に意味はなく、踏み出そうとした足はたたらを踏んでその場で止まる。その腹に《黒足》の強烈な蹴りが炸裂する。

 

「あんにゃろレディに! …ルフィの勝ちだ。てめぇの負けだ。大人しくチョッパー達が患者を助けて戻ってくんのをそこで待ってろ。クソエセ紳士」

「……ステラ、さま………てぞー、ろ、さま……」

 

 瞬く視界が歪んで流れる。《黒足》がなにか言っている気がするがそれももう言葉として認識出来ない。

 ただ分かるのはこれで全てがおしまいだということ。

 

 救われた。助けられた。全てを貰ったくせに何も返せなかった。

 

 きっと彼らは“彼”を助けてくれる。きっと“彼”は15年にも渡る眠りから目覚めてくれる。

 自分は負けて。ステラも負けて。その先にしか“彼”の救いはなかったのだと。

 認めたくなくとも認めないといけない。受け入れがたくとも受け入れなければいけない。

 その全てが、怖いのだと。

 それでいい。それでいいと、ずっと思っていたはずなのに……“彼”が目覚めてさえくれれば、“彼”が自由を得られればそれでいいのだと、その場に自分たちは居なくてもいいのだと、そうずっと思っていたはずなのに!

 見限られるのが怖い! 軽蔑されることが怖い!

 目覚めたあの人の目に映る自分がこんなにも汚れていることが、そんな自分しか見せられないことが。

 こんな時にそんな心配をしている自分が! 一番! 大嫌いだ!!

 

「ああ……いや、だ…っ!」

 

 周囲の瓦礫を黄金に変質させ、まとめて取り込む。忌まわしい竜の巨躯が形作られる。

 最後の悪あがきだった。もはや癇癪と変わらない駄々のようなもの。

 否定したかったのは彼らだろうか。自分だろうか。現実だろうか。

 

「おれ、は、だけど、おれは──!」

 

 “あの人たち”を思う大好き(この気持ち)だけは、嘘では無かったのだと──

 

 

 

 

『「────ねえ!(Ah!) 聴いておくれ愛しい人!(Vous dirai-je, Maman!)」』

 

 

 細く、それでも力強く鋭い歌声が、騒乱を割いて響き渡った。

 

 

《coming soon》

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