つぐのひ -Another travel-   作:嘆きのラジオ

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きさらぎ駅①

夜12時

 

深夜のサービス残業を終えて私は帰りの電車のなか

明日の仕事のことを考え物思いに耽っていた

 

「はぁ、今日も疲れたな」

正直、わたしの職場はブラックだ例の感染症の最中でも

マスクつけりゃ大丈夫だろ、と平気で出勤させてくる

普通に怖い、リモートにしてくれ

と上司の顔を見るたびに思う

 

電車内で愚痴を溢す

思わず周囲をみるが、自身と同じような境遇なのか

居眠りをするサラリーマンやボーとスマホを眺めている大学生しかいなかった

 

疲労のあまり頭がボーとしている

外の景色が全くみえないのも疲労故のものだと思った

 

「、、、ふぁ」

唐突な眠気、瞼が急激に重くなる

幸いにも1時間ほど到着に時間がある

明日のために少しでも疲労を回復したい

 

「えーと、タイマー、タイマー」

スマホを操作し、目覚ましアプリに時間を設定し

懐にしまっていたイヤホンを耳に差し込み

眠りについた

 

~ピピピ!ピピピ!!~

スマホがバイブレーションで震動するとともに

イヤホンからベターな目覚まし音が鼓膜を叩く

 

「ん、、、」

口からもれた声

咄嗟に右腕の時計から時間を確認する

 

時計のはりは深夜1時をまわっていた

だが電車が停まる気配はない

 

それどころか外の景色が何もみえない

それとまころか本来聞こえるはずの音

伝わる感触すら感じない

 

あまりにも静かだった

周囲を見渡すが人の気配はない

皆、途中の駅で降りたのだろうか

 

「おかしいな」

時計をしきりにみていると

車内放送が車内にこだまする

それはいまの状況ではあまりにも不気味だった

 

「次は~次は~きさらぎ駅~」

「出口は右ザザ、、ザザ」

ノイズが放送を遮る

珍しいことではないかもしれないが、今の状況ではより不気味さを増していった

 

「とりあえず降りないと、、」

降りなければいない、そう感じた

スマホの地図機能で現在地が別れば、タクシーなど、両親に連絡すれば帰ることができるかもしれない

 

「きさらぎ駅?そんな駅、東京にあったかな?」

電車が減速するにつれ、窓に駅が映る

記憶のない駅名、長く通勤、退勤を繰り返し時には寝過ごしたこともあったがきさらぎ駅という名前は聞いたことがなかった

 

「電車間違えたかな?」

あり得ない話しではない、

実際その駅はあまり人がこないのか、看板は錆び、ぎ、の文字が薄れていた

 

「マップは、、、」

「え?東京なの?」

マップアプリを開き現在地を確認する

針は東京をさしていた

何度も更新するが画面がかわることはない

 

「バグかな?勘弁してよ、」

「はぁー困った、これじゃ帰れないじゃん」

「両親を予防にも県在地がわからなければ迎えにくるのは難しい

だからといってこんな真夜中に放置なんて冗談じゃない

 

「もしもし、あ、お父さん、ちょっと寝過ごしちゃってきさらぎ駅っていうんだけど迎えにこれない!」

「え?知らない?うん、、お願い」

そんな駅は知らない、GPSで迎えにくる

父からの提案に安堵した

だが待っているにしても残念ながら私はじっとしているのが苦手なタイプだ

万が一の可能性もあるので誰かいないか確認の必要もあるだろう

 

「こんな時間に高校生?」

駅から数メートルほどセーラー服姿の人影がみえる

正直こんな時間に高校生がいるのも可笑しな話ではあるが、深夜に独りというこころ細さが勝っていた

「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

そんな自分を騙すように、フランクに話かける

 

「ム?俺か?」

近づくほどにその輪郭があらわになる

声が聞こえた、野太く低い声、とても女性のものではない

 

セーラー服に身を包み、グラビアポーズをとる筋骨隆々の猛々しい漢が

そこには変態がいた

 

「ひぃ、、」

 

思わず漏れてしまった

消え入るような声、ひめい

「ム?」

それが聞こえたのか、変態はゆっくりと振り返る

 

「おぉ!よかった、すみませんが?ここがどこなのか教えて貰えませんか!?」

「え?え~?」

本来だったらこんな変態がいたら間違なく逃げ、、

いや警察に通報するだろう

 

だが先ほどの出来事からあの奇妙な男(どちらも奇妙だがまだ変質者のほうがまし)よりまともな人間

境遇は自分と同じような感じがした、一人でか細いが他にあっただろう思うが行動を共にすることにした

 

「はい?」

「へ、、変態、、」

わかりやすく、汗をダラダラにしながら弁解しようとバタバタと手を動かす

誰かに見られるとは思っていなかったのだろうか、明らかに驚いていた

 

「ち、ち、違う!これは妹の制服なんだ、」

そういう問題ではない

 

状況が状況だ

人間に、会えたということに喜ぶべきだろう

 

「変態さん、ここはどこですか?」

「変態で定着しないでくれないか?!」

「いや、正直俺もわからんのだ」

「気づいたらここにいた、きさらぎ駅というのもわからん」

流石の私も状況が状況のためこの土地について尋ねる

そもそも逃げるにしてもどこに逃げるというのか?

知らない土地、さらに深夜、遭難する可能性がある

 

「はい?地本民じゃないの?」

「あぁ」

「じゃあここで何してたの?」

「いやちょっとポージング、、を」

「はい?」

「いやなに、こちらも人を探してたんだ」

「残念ながら誰もいなかったが」

「まじかぁ~、明日仕事なんだけど、」

「そうか、俺も警備員という名誉ある、、ん?」

 

話を遮るようにエンジン音が聞こえてくる

車の音だ、

「む?こんな時間に車?」

「大丈夫よ、私がよんだの」

変質者のほうは訝しげな表情をうかべる

何か変なことをされたらかなわないので一応説明しておいた

 

 


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