大輝は……『白紙のカード束』を引き取って貰う算段中にメアリーさんに『相談』を持ち掛ける事にした
例の『手の目』に関わる事と……其処から来る不安に付いてである
(投げ売りしても)全て合わせればCランクのお高いカードも容易く買える程度の莫大な利益だ
しかもそれが開始一年未満の新米坊主が出した……偶然なのは間違いないが流石にここまで幸運が続けは普通は逆に不安になる
前回に挙げた『死神の招待状』という言葉を思い出して欲しい
『死神の招待状』とは……全ての冒険者が畏れ忌み嫌う厄災『一人歩きする死神(イレギュラー・エンカウント)』からの死地への招待状という意味だ
『一人歩きする死神(イレギュラー・エンカウント)』
それは……『全ての冒険者の死因筆頭案件』にして全ての迷宮の中に絶対に一体づつしか居ない非常に特殊なモンスター
食玩やカードゲームなどを嗜む人(というかコレクター)がそれだけ聞けば興味を示すかも知れないが……これらはそんな真っ当な代物ではない
迷宮の最奥に居る本来の哀れなボスの肉体を乗っ取り。そして其処にやって来たまた哀れな冒険者を襲う
基本的に『現れた迷宮のボスとしての戦闘力』しか無い(Fランク迷宮ならばEランクの戦闘力となる)……が。そんな易しい話はまずこのイレギュラーどもには通用しない
確かに戦闘力だけならばまだ『かなりその迷宮ボスとして強い範囲』ではあるが……連中には下手なAランクモンスターも顔負けの凶悪な技能が山ほど備わっている
そして何より厄介なのが……この『イレギュラー・エンカウント』という化け物どもは普通のモンスターと違って非常に厭らしく粘着的に人類に敵対してくるのだ
とあるイレギュラーなぞ殺した人間(しかも攫った幼い子供)をバラバラに切り刻んで出鱈目に接合してから自身のテリトリーに飾っているのである
しかもどうやらその子供の魂をその『残骸』に縛り付けて。である(『霊感が強い』と自称する一部のカードや更にごく一部の冒険者曰く)
……此処まで悪趣味なのは流石に少しは珍しい範囲だが、基本的に『イレギュラー・エンカウント』は普通の機械的に人類を襲うモンスターとは違って極めて人間的に襲いかかって来る
……特に。嘗て起きた『アンゴルモア』の際にはこいつらすらも迷宮から飛び出して様々な大惨事を齎していた
街一つを幻覚で滅ぼし尽くした奴
辺り一帯の子供以外を老衰で殺し。残った子供達を余命幾許も無い老人に変えた奴
姿を見ただけで身体中から鉄の帯を発生させて人体を破壊する奴
先に挙げた輩もこの時に幼な子を攫い……
本当に色々と危険かつ不快な能力を以って大暴れである
大概の冒険者は『分不相応の幸運』が起きるとまず最初にこれが『死神の招待状』……要は『幸運の揺り戻し』ではないかと不安になる
非常に厄場くて悪趣味な揺り戻しであるが
冒険者界隈では『糞と汚物の下水煮』と吐き捨てられるそいつらだが……少なくとも『決して対処出来ない相手ではない』という事だけは救いだろう
とある迷宮系カルトはこいつらの存在を『迷宮からの試練』と呼んで(裏では)崇拝対象(の一つ)にしているとかいないとか……
半ば都市伝説扱いされている実話だが……こいつらを冒険者が一人で撃破すると何らかのものすごい魔道具が与えられる。とも言われている(大概の冒険者がこいつらに遭遇して生還出来た者は『複数人パーティーだったから』というのが大半なので)
……Fランク迷宮に発生したこいつらを三つや四つ星冒険者が討伐しても必ず出す魔石以外は何も出さなかったが(力量差が激しいと駄目らしい)
閑話休題(それはさておき)
大輝は……『白紙のカード束』についての話し合いが終わったら直ぐにメアリーさんに『もう一つの相談』を持ち掛ける事にした
カードケースから例の『手の目』を取り出してメアリーさんに見せる
……メアリーさんもこれを見て流石にヒいた
「……な、なるほど。そりゃ大輝ちゃんも不安になるわねこんな壊れカード引いたら」
間違ってもこれはEランクカードではない。価値で言えば間違いなくCランク上位世界の代物だ
「……はい、最初に見た時は何の冗談かと心底ビビりましたよ」
出されたお茶を飲んで無理矢理喉を潤わせる。そうでないと喉の渇きで話が出来なくなってゆく
普通のEランクカードならば一度の戦闘ならば5%の割合で出るのが普通だ……しかしこの『手の目/検校位』はまず滅多に出るものではない
元々座頭系統のカードは非常に限られている上にあまり出ない一種のレアモンスターだ
大概の座頭スキルだと音楽系ばかりで按摩や鍼灸持ちは以外と少ないらしく、少なくとも座頭より高位の『勾当』でもないと片方だけでも持っている事は希少だ(技能は無いが一応技術はあるらしい……成長で技能が生えるらしい)
しかも座頭スキルは階級が上がるごとに持っている技能の精度や質が向上する……普通の座頭の琵琶は普通に上手い素人並みに、勾当ならば最低限プロを名乗れる範囲に、別当ならば一流のプロ……そしてこの検校位ともなれば。である
勿論、按摩も鍼灸、歌舞音曲も最高峰の達人クラスなのでその辺りを理由に『座頭系/検校位』は裏で大人気なのだ(長期間迷宮籠りが日常である一部のプロ冒険者達が懸賞金すら掛けて検校座頭カードやそれに類似するカードを求めていたりもする。音楽性が合うなら娯楽としても最高峰であるし)
カードモンスター界隈の座頭は金やコネで昇格は出来ない。全ては『座頭としての実力のみ』がものを言うだけなのだ
何でも……この検校座頭カードは世界中でもまだたったの十数枚其処らしか無い非常に良い貴重なカードだとか
先に挙げた『中級鑑定』が無くても二千万円其処らで取り引きが成立するだろう(所詮はEランクカードだし、『無くても決して困らないが有れば非常に有難い』だけの能力なのでこんなものだ)
『虚偽感知』や『危険感知』も便利ではあるが『下級鑑定』よりかはありふれた能力なので其処まで価格には関わらない
この『手の目』をギルドが査定して出した価格は五千万円。そりゃ大輝も深刻に事態を受け止める(総利益六千二百数十万円なのだから……)
こんな(一つ星……どころか三つ星でもそうそう無い利益)もんを引けたなら普通は絶対に『死神の招待状』を恐れる。誰だって恐れる。筆者自身も恐怖する
この『手の目』一つで出す処に出せば一億はいけるかも知れない
かの天下人が六つ目に好きだと公言しただけはある(一富士二鷹三茄子、四扇五煙草六座頭とね)
……これが『初夢の吉兆』ではなく『死神の招待状』になってしまう辺り非常に業の深い話であるが
ともあれ……冒険者として立身する気ならば先ずは『死神対策』だろう
今の状態なら良いボアオークを買ってマイナーチェンジが最優先だ。残った現金で今なら回復役だって買える……強いユニコーンとかだって何とかなる。なるべくならばヘルハウンドやストーンゴーレムのクラスチェンジだってしたい
予算に限りはある……しかし、これが本当に『死神の招待状』だとしてもしなくても何時かは必ず『奴ら』との遭遇は必然だ
何となく……何となくだが大輝には『予感』がある。連中は必ず『大輝が一人の時』を狙って必ずやって来る、という予感がするのだ
今の大輝が受けた試験……二つ星昇格試験は『一人でEランク迷宮攻略』が条件である
普通ならば今の陣営では厳しめではある……が、この『死神の招待状(仮)』で大幅な強化が出来る
もし仮に……仮に『二つ星昇格試験を達成せずに逃げる』という方法で逃げる事は可能だろう
しかし、もしもそれを実行したら今度は更に厄場い代物が唐突に現れてくる気がする。迷宮そのものから逃げても何時かは必ずおこる『アレ』で絶対に逃げ場はない
……今なら、今こそが唯一のチャンスだ。連中もこちらをまだ舐め腐っていると思……いたいがまずそれは無い
少なくとも連中は人間を態度では舐め腐ってはいるが実際に舐めてかかる事は決して無い。むしろその態度で油断を誘うのが常套手段だと言っても過言ではないくらいだ
『今こそが一番マシな状態』だと腹をくくるだけだ。覚悟なら冒険者を志した時から決まっているのだから……
その辺りは冒険者になる前からメアリーさん(とその嫁さん)から何度も何度も座学で叩き込まれた内容だ
大輝(ともう一人の幼馴染)が『冒険者になる』と決意した際のてんやわんやのすったもんだの騒ぎ末にメアリーさんが開設していた『冒険者の基礎講習』に参加する、という条件(のうち一つ)を出されたから来た(その存在を知れた)のだ
その講習会は非常にわかりやすく。大輝とその幼馴染の血となり肉となり……もし、この講習を知らなかったりちゃんと受講したりしなかったら此処までのペースはまず不可能だし、まかり間違えばオークをロストした上で借金まみれの廃業処分だってあり得ただろう
E、Fランクカードの有効な使い方、冒険者として必要な身体トレーニング、冒険者トラブルあるある、迷宮サバイバル基礎編、確定申告のやり方(合法的な節税テクニック含む)、冒険者法基礎概論、『奨学カード』について等々色々重要な事を教えてもらったものだ
時にはキャンプの基礎講習(実質林間学校や臨海学校)もあったり季節の色々なイベントを楽しんだりで本当に色々エンジョイしたものだ
『来年の四月』には冒険者稼業を始められるその幼馴染にちゃんとした兄貴風を吹かせる……いいや、『今度もこれからも護る為』にが本音か
『可愛い可愛い妹分だ……兄貴としてあいつを護らにゃなぁ』
兄妹も同然に育った幼馴染……妹分だ。ならばEランク迷宮製イレギュラー如きで尻込みしている場合じゃない。間違いなく『狩猟』ではなく『死闘』になるだろう……手持ちも何枚かはロスト前提の鉄火場になるだろう
心から俺を慕ってくれる可愛い可愛い妹分を護る為、そして明日の朝日(未来)を拝む為……大輝はこの『手の目』に関して起こりそうなトラブル対策をメアリーさんと話し合う
流石に現世のお偉いさん相手は分が悪すぎる……最悪、この手の目を手放してもなるべく銭を毟り取る算段と心構えだけは必要だ(交渉事は苦手だが今はしのごの言ってる場合じゃないし)
……とりあえずは『秘密にしておけば暫くは大丈夫、何なら名付けもアリかもね?』というメアリーさんの一言で話し合いは終わった
いざとなれば『名付け』も算段のうち……ちゃんとこの手の目との相性次第ではあるが
まぁそれ以前に『現在のデッキスタメン達』からだが……ちゃんとした名前を考えないといけない
……流石にキラキラネームは嫌だろうし、常識的に考えて
今日一番の大仕事を終えたら流石に自分が空腹である事を実感した
とりあえず今日は下のラーメン屋にでも寄ってから帰るとしよう……身嗜みは最低限整えてはいるが迷宮籠りの垢は早く落とすべきだし
明日は妹分の顔でも見に行こう。流石に高額な買い物には少しだけ時間を置いて冷静になって考えた方が良い……メアリーさんの受け売り言葉だが
今夜は家族で夕飯をしっかり食べて明日は妹分と遊びに行きたい……控えているだろう鉄火場はその時だけは忘れよう。明後日は(沢山は居ない)友人達と遊び倒すのもまた悪くない、早期に夏休みの宿題を片付ける為に集まるもまた良しだ
数日はオフ決定だ……けど一度あのEランク迷宮に戻ってカード達にも伝えてからこの数日の苦労を労ってやらないと
そんな事を考えながら特盛チャーシューメンを貪り喰らう大輝だった
……そして労いの際にブラウニーの召喚時にカードを見たら『低級収納』が生えているのを見て盛大に茶を吹いた
【Tips】高価値技能
冒険者界隈だけでなく世の中には『需要と供給』という概念がある
冒険者界隈にも『非常に希少かつ有益なスキル』というものがある
今の今まで散々『欲しい』と言っても得られない『回復系技能』から他にも『魔法系技能』や『感知系技能』などや特殊な『便利系技能』などが良く『高価値技能』として良く挙げられる
特に貴重な技能として有名なのが『収納系』や『鑑定系』である
この二種類の技能持ちカードは例えどんなに弱いカードでも最低百万円からの取り引きとなる(低級収納持ちゴブリンとかみたいな)
ちなみにDランクの女の子カードが『低級収納』持ちなら二百万円の増額になる(更に需要が増えるからだ)
中には『メイドマスター』や『座頭/○○位』、『女郎/○○位』みたいな職業系かつ階級型なスキルも存在し、物によってはとんでもない値段になる物も存在する
一部の『これらの技能を覚えやすい』と言われているカードでも修得率は基本的にかなり低い(『名付けしたカード』だと修得率はかなり上がるらしい……という都市伝説が有るとか無いとか)
ちなみに今回出た『大輝のヒロイン』は彼女一人だけです
ハーレム?何それ?美味しいの?
は伊達でも酔狂でもありません(真顔)