本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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うちの主人公のモブ(?)度が何か盛大に向上しているので書いてみました


間話その一 この世界ならどんなモブだってチャンスは必ずある話

 

 

大輝がジャック・オー・ランタンを買ったあの日を皆様は憶えているだろうか?

 

あの日、大輝と同じ場所同じ時間でオーク(値段百万円の通常品)を買った少年……彼もやはりまたその日のうちに冒険者となった

 

……そして『初心冒険者の洗礼』を受けていた

 

 

「あれ?ボスが居ない?」

 

最寄りの二層までしか無い草原型最弱クラスのFランク迷宮に来たは良いが……既にボスは狩られていた後だった

 

ボスモンスターは撃破からこの迷宮が現れた時間丁度に再度ポップする(ちなみに一度撃破した者は二十四時間以内にまたボスを撃破しても魔石もガッカリ箱も経験値も与えられないらしい)

 

こういう攻略も容易く人通りの良い場所には沢山のエンジョイ勢が『縄張り』にしているものだ

 

出てくるボスモンスターもちょっとだけ強化された程度のコボルト程度の非常に弱い迷宮なのでこれまた小遣い稼ぎに向いた(エンジョイ勢に)人気の迷宮である

 

そんな迷宮で今回少年が初仕事で得たものは……

 

・総額二千円程度の魔石

・ワイルドウルフのカード一枚

 

その程度だった

 

少年はその魔石には手をつけずに出入り口のダンジョンマートでオークにダンチキ(要はファ○チキやローソ○チキンのダンジョンマート版)を、家族に何かのお菓子を買ってから帰った

 

数日は最寄りのダンジョン情報を集めて比較的競合相手のいない低階層迷宮を探した

 

一応……墓地型の三階層があったのでそっちに向かう事にした

 

屍臭がたち込め陰気臭く……そして出るモンスターもスケルトンや大鼠みたいな不快な造形の代物ばかりな不人気迷宮だった

 

ボスモンスターも……腐乱臭がどぎついゾンビがデフォルトだったからオークにもきつかった

 

確かに不人気ダンジョンなだけはある。世の中『不人気には不人気なりの相応の理由がある』ものだ

 

一応はまだ普通に未熟なオークやこの迷宮で得た気持ち悪い大鼠(馬鹿デカいドブネズミ)やスケルトンを使い潰す事で安全マージンを稼ぐ

 

二、三日に一回は必ずこの迷宮で戦いオークを育て……そしてその過程でも何気に育ったスケルトンを見出してそれなり以上に大事に育ててみる

 

スケルトンというものは要は『動く骸骨』だ。カタカタカラカラ身体を鳴らして錆びた武器やら棒切れやらを振り回すだけのあの雑魚だ

 

一応、頭さえ潰されなければ不死身かつそのスカスカな身体は刺突武器を(多少は)避けやすい……けれど基本的にあまり力は無い、所詮は骨なので耐久性も低い(特に打撃武器には)。おまけに殆ど自我や思考能力が無いのでいちいち命令しないと自衛すら出来ない(おまけに命令をよく忘れる始末だ)

 

はっきり言えば戦闘力すらあのバトルウルフ以下……驚愕の戦闘力10である(これなら装備をちゃんと整えれば一般人でも低階層なら楽勝である……『凡庸シリーズ』の短剣や杖程度でも良いぐらいだ)

 

だが、迷宮が出来て当初はこのスケルトンによって沢山の軍人や自衛官が殉職する羽目に陥ったものだ

 

何せ『特定の方法でないと殺せない不死身の化け物』が相手なのだから(しかも軍人や自衛官のメイン武器は銃……わりと刺突武器である)

 

……これが世界各国全ての軍人とアンデッドの長い長い悪因の始まりだった(後々には『物理攻撃そのものが無効』なアンデッドが迷宮攻略を激しく阻害する未来が待っているのだから……カードの使い道が判明するまで)

 

良い所はあれど基本的には最低最弱の雑魚モンスターとしてスケルトンは(色々な意味で)有名だ

 

……まぁ、そんな雑魚でも使い方次第で化けるのがこの冒険者界隈。弱いカードだって使い方磨き方次第で色々変わるものなのだから

 

少年も運良くガッカリ箱から入手出来た『凡庸の短槍(非カード、攻撃力+10)』をスケルトンに持たせてオークの助手代わりに起用した

 

(少年自身が)重い槍をえっちらおっちら運び続け……何度も何度も繰り返し槍の扱い方を反復させて一月後には『槍術』が芽生えた時には泣いて喜んだものだ

 

 

それから……冒険者になって半年はその墓場型迷宮をメインに武者修行と資金稼ぎの日々が続いた

 

イレギュラーにも遭遇せず、多少の幸運もあってカードの補強もそれなり以上に出来た

 

あのスケルトンはゾンビよりも上等なDランクモンスター『グール』にクラスチェンジした……運良くグールの特売セール(むしろ投げ売り)があったのでそれを買った結果である(瑕疵無しでセール価格五十万円也)

 

今では『静かな心』にも目覚めて元気な屍食鬼として前線で槍働きに勤しんでいる

 

そしてオークは……『鬼』としての性質を利用して『瘟鬼(おんき)』という不人気Dランクカード(それでもやはりオークより高価で強い)にマイナーチェンジしている

 

この『薀鬼』という魔物は中国の『鬼』……中国では鬼は『幽霊』みたいな意味合いで用いられる言葉であるがこの薀鬼なるものは一応は天に仕える存在であり悪を誅する為に天より差し向けられる制裁役の様なものらしい。要は下級の鬼神である

 

五体一組で行動し、その頭は牛、馬、鳥、羊、兎などの型になっている(この薀鬼は牛型である)。そんな痩せこけた鬼だ

 

薀鬼は一体だけでも疫病を撒き散らす能力がある……のだが、その能力が厄介な事に撒き散らすだけで制御不可能という代物なのだ

 

その為に割と強いけれど非常に扱い辛い厄介者であり、ほとんど誰も触ろうともしない非常にマイナーな不人気カードである……実際大輝もこいつの余りのピーキーさにマイナーチェンジ先として一切考慮に入れてはいなかったし

 

尤も、病もへったくれもないアンデッドや無機物使いならばそのデメリットもデメリットたり得ないが(召喚者自身はカードそのものに守られているから大丈夫。薀鬼自身の力なので薀鬼そのものには無効であるからして)

 

ちなみにそのお値段(瑕疵無しで)二百万円という安さだ(割と珍しいカードであり供給も少ないが需要は更に無いから結果的にこのお値段である)

 

このカードを扱う者は基本的に『仲間と組む事が出来ない』、薀鬼の特性上扱うカードにも誓約が出るし……何より他者と組めば自動的にフレンドリーファイヤを誘発する様なものだ(他のマスターだと『カードがダメージの肩代わりをしているだけ』だし)

 

少なくとも『薀鬼使い』は『ぼっち冒険者』のレッテルそのものだとも一部では言われている……同じ『薀鬼使い』かその効果を無効化出来る特性持ちかでもない限りはだが

 

この少年は何を思い何をかんがえて『薀鬼使い』などという茨の道を歩むのか……

 

 

……実際にあの薀鬼はたまたまギルドで売っていた出物なだけで彼はそれと相性が良い(と彼は確信した)アンデッドとのシナジーだけで考えて、というだけの結果である

 

一応、この薀鬼の特性は『もう一体の薀鬼』が味方に居れば制御可能にはなる

 

しかし薀鬼には『二体一対スキル』なんぞという高級技能は無いからやはり召喚枠などの理由からも非常に不人気事情に拍車がかかっている(この二体の為に四百万円使うなら普通はその四百万円でちゃんとしたカードを買うのが普通だ。召喚枠だって勿体無いし)

 

この薀鬼もちゃんと五種類揃えればかなり強力な技能が使えるが……決して割に合う様な代物でもないのでやはり不人気カードである事には変わりない(似たような代物に『とりあえず七枚揃えればよい』という条件の『七人ミサキ』というCランク悪霊系カードも存在する……やはり不人気カードだが)

 

そんな駄目なカードをついうっかり選んでしまったこの少年……名は『鈴木翔』という

 

何処にでもいる冒険者に漠然とした憧れを持つだけのごく普通の少年であり、家もやはりごく普通のサラリーマンの父とパートタイマーな母に兄が一人の平々凡々な一般人だ(親がそれなり以上に偉かったり美少女な幼馴染がいたりといった特殊な背景なぞ一切無い中学三年生の小僧である)

 

とある幸運な偶然によって冒険者となる為のチケット……要は懸賞に当たってカード引換券を得て冒険者への道を歩んだラッキーマンである

 

この冒険者時代では『(それなり以上に大きな)懸賞』と言えば『Dランクカード』というのが既に常識となっている

 

今回、翔が当選した懸賞はギルド発行月刊誌のいわば『奨学懸賞キャンペーン』とでも言うべき代物だった

 

百万円丁度の奨学カード一枚引換券、ライセンス登録料無料チケット、それと最低限の装備(予算制限あり)引換券の俗に『冒険者奨学キャンペーンセット』と呼ばれるあまり裕福ではない学生向けの救済措置(の一つ)である(本当に一般家庭的にもまたありがたい話ではあるが)

 

こういう型やきっかけで冒険者界隈に入る(事が出来た)冒険者は実は以外と数多く。こういう話が多々ある地点で国や世論は真面目に『常に冒険者や軍人(自衛官)の頭数を求めている』という事がわかる

 

そして……逆に『冒険者向けの懸賞』というものも(カードパック以外に)存在する

 

例えば……ギルドで何らかの有料サービス使用につき一回の福引きやらハガキ懸賞冒険者用コースなどの方法で安いCランクカードや人気Dランクカード。魔石袋みたいな(比較的安価な方の)便利アイテム。そこそこの武具(カード化済み)やらキャンプ用アイテム詰め合わせカードなどが貰えたりする

 

こっちはエンジョイ勢をなるべくガチ勢に転向させたり、武具系魔道具の使い心地を知って貰ったり、普通にガチ勢(の卵)の応援といった意図がある

 

コストもそれなり以上にギルドに余っている比較的癖のない不人気Cランクカード(という名の不良在庫)を目玉に、大概はそれなり以上に在庫があるDランクカード、あまり使われないから在庫はそれなり以上ですらある武具や型落ちや中古品のキャンプアイテム詰め合わせカード、そして本当の目玉商品である魔石袋みたいな便利アイテムだってそこそこ在庫があるからかなり低コストだ

 

……流石に『カードホルダー』みたいな数千万円の超高級品は不人気デザインかつ不人気カラーを年に一度有るか無いかな大イベントの目玉としてがせいぜいだが(むしろ在庫そのものがほとんどないのだから)

 

そんなこんなでこういう幸運を掴み取れたそれなりの数の冒険者『懸賞上がり』は……少なくともそこいらのエンジョイ勢よりかは勤勉に冒険者稼業に勤しむものだ

 

少なくとも冒険者稼業はちゃんとやればかなり歩合も効率も良いアルバイトになる(初期投資がどぎつい事が最大のネックだが)。懸賞上がりはエンジョイ勢程度で終わるとしても通常のエンジョイ勢よりかは勤勉なものである(通常の『親の金で冒険者になれた勢』と違ってハングリーなだけに)

 

さて……その翔当人は更にもう一枚あるジャック・オー・ランタン(南瓜頭)とEランク勢の主力であるしっくり来たゾンビと餓鬼を並べて自宅で二つ星試験攻略の算段を立てていた

 

ゾンビをグーラーにするか?それともこの餓鬼を薀鬼二号にするか?である

 

……流石に前の様なセールはそうそう無いから確実に百万円は必要だろう(一応は女の子モンスターとも言えるけど……それでもグーラーが百万円以上という話は聞かない)

 

新しい薀鬼の為に育成していた餓鬼をなるべくならば早く薀鬼にしてやりたいというのもある

 

餓鬼というものは六道の一つである『餓鬼道』に堕ちた亡者の事であり、こいつはいわゆる『小財餓鬼』とも呼ばれるごく一般的な餓鬼だ

 

このゴブリンを更に小柄かつ凶悪な様相にした土気色の醜悪な小鬼は『餓鬼』というだけあって常に空腹に苛まれている

 

それが『餓鬼』という哀れな化け物の宿業だが……流石に自分のカードともなれぱ少しは哀れに思うしなるべくならその飢餓から救ってやりたいものだ

 

だから『薀鬼にクラスチェンジ』である

 

願わくば馬型薀鬼だと嬉しい……もしかしたら何時かは牛頭鬼、馬頭鬼にクラスチェンジの目だってあるかもしれないし

 

……尤も、今のまま一つ星でうだうだやっている様ならそれは夢のまた夢だが

 

だからこそ鈴木翔は今を一歩一歩踏み出してゆくだけである

 

 

「しかし……何だろう?迷宮内だとこいつらが考えている事が何となくだけど分かりやすいんだよな?」

 

餓鬼のカードを手にする

 

「こいつの場合は『オナカスイタ』ばかりだけどさ」

 

そう呟いてカードを机に戻そうとしたら……

 

『マスター、アリガト』

 

そんな声が聞こえてきた……様な気がした

 

……やはり明日は薀鬼の情報探しとついでにこの空耳についてメアリーさんに相談してみるかな?

 

そんな事を考えながらベッドに潜り込んで鈴木翔は眠りについた

 

 

 

……これから先、この鈴木翔は佐藤大輝と巡り合うかも知れないし巡り会わないかも知れない。その結末は筆者の筆の滑り具合次第ですが

 

 

 

【Tips】鬼

基本的に我々が認識している『鬼』というものは『桃太郎の敵役』や『地獄の獄卒』、『強い情念や怨念で人や獣が転じたもの』、あとは西洋の御伽噺の人喰い鬼の類だろう

 

しかし……この『鬼』という言葉は元々は『幽霊』や『何だかわからないもの』というのが原初の意味だったらする

 

要はこの『鬼』はカード属性として捉えるとかなり多種多様な性質を内に含ませる事が可能になる

 

邪悪なヒューマノイドや巨人、地獄の沙汰も金次第番人、幽霊や怪異そのものと多岐多様な性質を持っているからクラスチェンジやマイナーチェンジの対象には事欠かないという特徴がある

 

逆に『リンク属性』として考えるなら……実は非常に面倒な代物でもある

 

数多くの『鬼』という概念から自分に本当に適した概念を探さないと成長が中途半端になりやすいからだ(人に拠っては巨人属性だったり幽霊属性だったり……たまに鬼特化型なら全ての『鬼』を使いこなせるだろうけれど)

 

この鬼属性は。大概の冒険者達がオークを最初のカードに選ぶ傾向が多い為か後天属性に鬼が発生する可能性が高い事もあってかなりありふれた属性になっている

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