本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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この手の目を手塚治虫の琵琶丸にするかこの決定稿にするか少し悩みました

最悪座頭ケチでも良かったかも?(決定稿に昇華させるプロセスもまた物語になるし)

※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)
※:土ノ子様の作品キャラを小ネタに使用してます(承認済み)……わかるかな?


第十四話『化けの皮』

さて話は次の日の早朝

 

大輝はあの試験用Eランク迷宮の入り口から先の安全地帯に来ていた

 

前回はパンパンに膨らんでいた何時ものミリタリーリュックも今は『新兵器』のおかげで今日からは非常に軽い(最低限の荷物だけだし)

 

腰のカバー付き1ℓ水筒(自衛隊モデル、ダンジョンマート製)にやはり自衛隊モデルのポーチ(ダンジョンマート製)に使い捨ての魔道具や最低限の非常食と鞘に納めたサバイバルナイフ(ほとんど包丁代わり、勿論自衛隊モデルダンジョンマート製)に頭に巻いた小さなタオル一枚(ダンジョンマート創業十周年記念品)といった最低限の手荷物だけなのだから(ミリタリーリュックは直ぐにブラウニーに追加で用意した大容量ウォータージャグにお昼のお弁当と一緒に預けておく予定だ)

 

ちなみに魔道具以外はほぼ全てダンジョンマート冒険者グッズ部門製品コーディネートで全て揃えている(身内割が美味しかった)

 

その軽さに不安を感じはする……しかし、これで探索効率は飛躍的に上がるだろうと喜んでもいる

 

大輝達ガチ勢にとって『二つ星』というのは単なる通過点に過ぎない。フリでもガチ勢を目指すなら最低限『三つ星獲得』はしないと話にならない世界だ(但し『学生冒険者』だと話は異なるが)

 

大輝もそんな『通過点』でうだうだやる気は一切無い

 

そして……その一歩として先ずは『新人』との面通しから始める事にした

 

『最初はキキーモラからだな』

 

腰に取り付けたカードホルダーに『デッキ登録したキキーモラと手の目を出せ』と心で命じながらホルダーの出入り口に手を伸ばす

 

すると、傍目には空っぽのカードホルダーからニ枚のカードがふっと現れひとりでに、そして瞬時に大輝の手に収まった

 

これが幾多のプロ、セミプロ冒険者達や『札商』というカード専門の商人から『必携品』として重宝重用されている『カードホルダー』だ

 

このホルダーには無尽蔵に(モンスター、魔法、アイテム全てを問わず)カードを収納する機能だけでなく、そのカード情報を(所有者の網膜に)投影したり検索したり仕分けしたりする機能が備わっている

 

他にも……『デッキセット構築技能』もあり、瞬時に求めるカードを出してくれる機能もあって需要は常に高騰している

 

ちなみにこのホルダーは破損すると……中のカードが弾け飛んで辺り一面に撒き散らさるらしい(自衛隊最前線では偶にある光景だとか)

 

そして……もしもホルダーの所有者が何らかの理由で死亡した場合は『ホルダーのカードはホルダーを破壊しない限り二度と取り出せない』と判明している(やはり最前線の自衛隊からの情報で判明している)……が、これには一つの『対応策』があるがそれはまた次の機会に話すとしよう(『カードの所有者が死亡した場合』ともまた関連する事柄故に)

 

一応、カード化能力で箱に入れて運ぶという方法もあるにはあるか……いちいちカード解放から収納、カード化というしち面倒な手順が必要な上に整頓は自身で行わなくてはならないからプロやセミプロなどからは非常に不評だ

 

カードホルダーほど正確ではなく、スペースの限界もあるが一応『○級収納技能持ち』にも同じ事は出来る(それだと手渡しなどの別の手間も掛かるし迷宮以外では使用不能になるため)普通それをやる奴は居ない

 

このカードホルダーを模した『フェイクホルダー』なる商品も存在はする……基本的にどんなに分厚くして頑張っても十枚程度しか入らない様なイミテーションだけど(ちなみにお値段五千円から)

 

それなりに実用性もあるのでまだ運悪く入手出来ていないプロやプロ志願に見習い、後はファッションなどでエンジョイ勢辺りからは大人気だとか(大輝も最初はこれを脇ホルスター型で使っていたし姫子も何時も五枚入りレッグホルダー式をスカートの中に隠して持ち歩いている)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

大輝がカードホルダーから引き出したカードは昨日買ったばかりの『老婆型キキーモラ』と件の『手の目』だ

 

その中から老婆型キキーモラから召喚しての簡単な面通しから始める

 

何時もとは違う……スラヴ方面の女性用の(非常に色褪せて擦り切れた)民族衣装に身を包んだ灰色の長いざんばら髪を頭巾で押さえ込んだ小柄で痩せこけた皺くちゃの……何処か愛嬌のある老婆がエニシダの枝で作られた箒と木製のバケツ桶を持って現れた

 

大輝はキキーモラが召喚される最中でもう一度カードに記載されているキキーモラの情報を再確認する

 

 

【種族】キキーモラ(老婆型)

【戦闘力】125

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

 

(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

【後天技能】

・中等支援魔法

・妖精のお節介:親切でお節介焼きな家事妖精としての性質。簡単な失せ物探しや忘れ物回避が出来る他に主人のサポート等に非常に長ける。秘書、庇う、精密動作、従順スキルを内包する……主人の意図を汲むのが上手い

・機織職人:機織りの達人……但し迷宮ではあまり役に立つ機会は無いが

 

 

このキキーモラには回復や状態異常だけでなく(なるべくなら欲しかった)支援魔法まで内包した……『高品質キキーモラ』は伊達ではないらしい

『妖精のお節介』は『使用人妖精(メイド妖精に有らず)キキーモラ』などの使用人としての性質を持つ妖怪や妖精などに稀に付く技能(にして性質)だ。この技能を持ったキキーモラを扱う冒険者達からは高く評価されている(探索……以外の状況ほぼ全てで)

兎に角キキーモラは(とある目的の為に)『妖精のお節介』持ちを狙っていたのだ

 

「……おや、こんな皺くちゃのババァをお呼びとはまた珍しい主人様もいらっしゃる。さて、この婆に何か御用ですかな?」

 

……老婆型は確かに不人気ではある。だからこそ大輝みたいなガチ勢(見習い)は逆にこういう『優秀な不人気カード』を使ってなるべく早く安上がりに昇格を目指すものだ

 

このキキーモラ婆さんは大輝の傍で通常時は味方支援、敵の妨害に専念して貰う予定で起用した……まさか『庇う』まで持っているのは驚いた。一応は『護衛役』だとも言えるだろう(キキーモラ婆さんは脆いけど)

 

「あんたが優秀なお手伝いさんだからだよお婆ちゃん。無体はしないしなるべくちゃんとした扱いを頑張るから力を貸してはくれないか?」

 

大輝もキキーモラ婆さんの最初の言葉に真面目に返す

 

「おや……これは良さげなご主人様だ、あたしはお掃除婆さんのキキーモラ。あんまりこき使わないでおくれよ?」

 

冗談めかしてはいるが矍鑠とはっきりとしたしわがれ声で返してきた

 

 

そしてキキーモラを待たせて今度は例の手の目の召喚と面通しだ

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

【後天技能】

・座頭/検校位:座頭としての技能である『按摩、針灸』、『楽器演奏/琵琶、三味線』、『金融名人(経理、マネジメントの一種)』、『語り部、謡い手』『中級鑑定』、『虚偽感知』、『危険感知』、『礼儀作法』、『教導』等々を内包する。『検校』という座頭として最上位クラス(としての実力)を有する(言わば座頭版メイドマスター)

・心眼:詳細不明

・風が吹けば桶屋が儲かる:座頭などの盲人、職人、猫、鼠、風、砂の属性を持つカードにごく稀に現れるありとあらゆる因果事象から出鱈目な迄に幸運を招き寄せる運勢操作スキルの一種。基本的に現状では金運とトラブルに巻き込まれる確率が向上する程度。

 

 

手の目のカードを見ればやはりこの壊れ性能……この見窄らしい座頭は……普通に資料や極めて稀にネット上に挙がる痩せっぽちで髪をそりあげた襤褸の着流しと白木の杖持ちとは全く違う様相だ

 

蓄髪しているでっぷりとした(むしろ貫禄のある)髭面の中年男、まるで渡世人だか侠客だか何か見たいな也(旅装束)をしている……と言うかとある昔の『座頭』をモチーフにした映画シリーズの主人公にそっくりだこれ(こいつは1989年時代の最後に出たあれに)

 

そう言えば……前にメアリーさんが某『夢の国の蜂蜜熊』をでかい筋肉オバケに魔改造した様な謎のナマモノ(後に聞いた話ではあれは『バーサーカー』だったらしい)の売却を冒険者から頼まれて……売却拒否される様を他所のギルド出張中に見たとか何とか?

 

……如何に(ある意味)かの悪名高い『ジャパニーズ・エロゲモンスター』よりも厄い造詣だからってそれは流石にギルド職員としてアカンのでは?とはメアリーさんも大輝も一致した思いを抱いた(メアリーさんはそのギルド支部とは不仲だったのであまり強くは言えなかったし)

 

後日。そのギルド支部は(他にも色々あったやらかし含めて)かなり厳しい処分を受けたらしいがそれはどうでも良い話だろう

 

……そんな珍カードがあるならギルドは(研究素材として)必ず買い求めるだろうに

 

そして何気にその俳優のファンであるメアリーさんが一瞬とはいえ物欲しそうに眺めてはいたが……流石にこんな冗談みたいな値段のカードは容易くは買えないだろう(ギルド職員としての職業柄意識や倫理観もあるがこの付加価値だけでも大概なのに他の価値のえげつなさと来たらもう……)

 

それに……もしもこのカードをオークションか何かに流したらその映画(や俳優の)ファンまで殺到して更に大変な事態になるだろう(『更に声すら似ていた日には』と思っていたら……)

 

「お初に御目に罹りやす。手前生まれはこの迷宮の何処か、姓も名も無い盲の木端妖怪手の目というケチな野郎ににございやす旦那様」

 

非常にドスの効いた良い声で口上を切ってきた……やはりとは思っていたが声までかの俳優にそっくりだ

 

……この手の目は間違っても人目には出せない。どんなトンチキ騒ぎになるかもう考えるのも嫌だ(幸い見せたのはメアリーさんと両親、後は姫子だけだからまだ当座は大丈夫だろう)。出すなら最低限『名付け』か売却前提じゃないといけない

 

下手せずともファンな冒険者や好事家な富豪などが億……下手すれば何らかのBクラスカードとのトレードを希望してでもこの手の目を求めて大騒動だ

 

最悪売るとしてもダンジョンマート関連か友好的な存在。若しくは『その縁がダンジョンマートに有益な相手』じゃないといけないが(仮にも重役の息子かつ恋人の家族も考慮して)

 

……元より最初から売る気は全くわかないが

 

この手の目を見ていると大輝の『直感』が……昔見て頭にこびりつくとあるアニメの言葉を借りて言うなら『ゴーストが囁く』のだ

 

 

『こいつを絶対に手放すな』

 

 

八年前もその『ゴースト』に何度も何度も助けられて姫子も救えた……それ以外でも良く当たる(特に嫌な予感は)

 

だから大輝は自分の直感(ゴースト)を常に信頼し、その囁きを重視している

 

しかし……先ずは兎に角手の目の持つ『化けの皮』を検証してから考えるるべきだろう

 

『化けの皮』……手の目という妖怪は『追い剥ぎに貯めた銭を奪われ殺された座頭の怨霊(かつ妖怪)』だが、そのエピソードの一つに『長櫃に隠れた犠牲者を……長櫃も開けずに生皮だけを残して残りを吸い殺す』という能力とエピソードを持っている

 

それを理由として『化けの皮』は生まれたとされている(と、カード研究者達は推測している)

 

ちなみに……制約だらけだがこの能力は『逸話通りの使用方法も可能』らしい(数時間掛かる非常に面倒かつ使えない呪術扱いで……アングラな実験が何処かの違法研究所から押収された資料から発見された)

 

これは厳密には『手の目かじり』という非常に似通った近類亜種の特性だが『同じ手の目』だという事で習合した結果か何かだろう

 

そしてその特性が何をどうにかした結果でこいつの代名詞たる『装備化能力』となったのだろう(『皮』がキーワードになった。などと研究者達は言うが)

 

さて……『装備化能力』と口で言えば一言だが、この能力には色々な形がありその形次第で運用方法や価値ががらりと変わる

 

一番有名な『リビングアーマー』や『デュラハン』の様な正しい型での『装備化』……これは文字通りに『そのカードそのものを鎧として装備、いやむしろ憑依できる能力』だ

 

他にも『憑依』、『加護』、『呪い』などなど色々あるが……この手の目の場合は一番珍しい『呪い』が一番近いとされている

 

この『呪い』というものは装備なり憑依なり加護なり色々な型があるが……一貫して『発動すると激しい、若しくは厄介デメリットが存在する』ともれなく認定される唯でさえ希少な装備化能力の中でも特に珍しい代物だ

 

奇しくも手の目が持つ『化けの皮』がその『呪い/憑依型』だ。尤も『最も使えない装備化』だと悪名高い代物だが

 

果たして……この『化けの皮』なる能力が如何なるものかは今から記させて頂くとしよう

 

 

「手の目、先ずはお前の『化けの皮』を俺に試してくれ」

 

「へへ……合点でさぁ旦那」

 

言うが早いか手の目の姿が大輝の視界から消える……いや、消えたのは手の目ではない

 

 

『大輝の視界……いいや目が消えた』のだ

 

 

その異常と同じく今度は何らかの『ノイズ』の様なものが鼓膜……いいや脳髄に突き刺さる

 

テレビの砂嵐だかラジオのチューニングミスだか黒板を鋭い何かで引っ掻く様な……兎に角不快な雑音が大輝を苦しめる

 

いきなり視力を失い、更には謎の雑音……確かに身体に力が湧き上がる感覚はある。あるが……

 

大輝は雑音を堪えながら自らの両手に意識を集中する

 

 

掌に視界が戻っている

 

 

非常にぼんやりとピンボケした……遠近共に弱い弱視の様な視界だが掌に眼があるのだ

 

まるで『妖怪:手の目』そのもののようにである

 

盲目の人物はこの力で(迷宮内に限るが)一時的に視界を得られる事から需要は結構ある……けど普通に使うには余りにも扱い辛いのがこの『化けの皮』だ

 

大概の冒険者はこのカードを一度使えば大概手放す。基本的に使えないが需要はそれなりにある(ついでにこれを売るのはボランティア扱いもされるし)

 

しかし……大輝には『とある推測』があった

 

 

『呪い型』に分類されるカードが果たしてこの程度なのか?と

 

あの『謎のノイズ』は手の目の逸話に関係ない筈だ。と

 

 

この二つとメアリーさんの講習……その中でも『親の社会的信用』や『身内としてのコネ』と特に『大輝と姫子が勝ち取った人間としての信用』で特別に教わった『真の冒険者に必須の技術』はかなり密接に関係していると大輝は推測している

 

あの手の目を見つける前から大輝は『妖精のお節介』持ちでなるべく回復魔法持ちのカードを探していた

 

『妖精のお節介』に記載されているとある一文……『主人の意図を汲むのが上手い』という一文を思い出して頂きたい

 

この一文にこそ『その技術修得への鍵』がある

 

……最初は『従順』なカードなら何とかなるだろうと思ってあのオークを買ったが(その意図に関してだけは)とんだ期待外れだった

 

……いや、ちゃんと大切に育成してきたから今の修得率があるのだろう。『その技術にはカードも心を開く必要がある』のだから(毎日酷使状態ではあるがケアを欠かした事はほとんど無いし)

 

大輝も常に『その技術』を意識し、カード達を大切にしつつその技術修得への協力を頼みながらこれまでちゃんとやって来た

 

最近では『カード達の考えている事や望む事』がかなり的確に解る様になって来たが……それでは。その程度ではその技術の入門にすら至れてはいないレベルだ(そもそも戦闘に活用出来る様なレベルですらまだ無い)

 

……言ってはおくが『知識あり』で数ヶ月の修練によってこのレベルなら充分に『才能がある方』に分類される(普通なら数ヶ月程度の修行では『その程度』すら無理なのが普通だからだ)

 

しかし『真に才能がある者』ならば何一つ情報を与えずとも数ヶ月もあれば大輝と同じく『片鱗』に触れられたり『入門』に至れたり出来るだろうが(その辺りは『原作主人公』や『一条さん』が好例だろう)

 

……そして、世の中にはそんな『天才』は意外と居る処には居るのだ

 

 

大輝の知るその『天才』はまだ冒険者資格を持ってはいない……取れる年齢でも無いがそれはまたいずれ彼女が本格的に参戦してからの話だ

 

一応。冒険者資格の無い者でも幾つか合法的にカードの召喚が可能な場所などは存在するし大輝もその一つで簡易的な訓練を受けた事がある(某遊園地やダンジョンマート所有のプライベートダンジョンなどで許可を得れば可能だ……大輝はダンジョンマート重役の息子だから可能な裏技だが)

 

 

閑話休題(それはさておき)其ノ二

 

 

予めキキーモラにはこの技術……『リンク』について頼んでおいた。主人の意図を読むのが上手いというキキーモラの持つ『妖精のお節介』の特性をこの技術の為に利用させて貰う

 

 

そして……予想外の行幸である手の目の存在。こいつについても少し気になって調べていたらこんな特異極まりない個体の獲得に成功していた辺り自分は『持っている方』だと再確認できる

 

先ずは掌にある瞳を閉じて硬く拳を握り締める

 

そして……その場で座禅を組んで意識を自身の中にいる手の目に集中する

 

魂で感じる不協和音の中で大輝は……ちらちらと。だが少しずつ明確にあのドスの効いた渋い声をまるでピントと周波数が合い始めたラジオの様に知覚する

 

 

『……な、旦那、旦那、あっしの声が聞こえやすか旦那?』

 

 

どうやら大輝の意図をちゃんと汲んでこの座頭はずっと大輝に語りかけてくれていた様だ

 

『まさか……ちゃんとあっしらの力を理解してくれるお人に逢えるとは思っても見ませんでしたよ旦那ぁ……』

 

『装備化』しても普通の会話は可能ではある……が、今回の『これ』はお互い口を一切使ってはいない

 

 

『心と心で会話している』のである

 

 

『リンク』という技術は基本的にカードとマスターの間にある『繋がり』を利用して行う技術だ

 

最初にカードを自分のものにする際に血を一滴垂らして『マスター登録』が完成する

 

そうするとカードを使役するだけでなく『ダメージの肩代わり』もやってくれる(カードの基本的な能力の一つである)

 

まぁ、マスター自身がダメージを受ければ『カード全てが同じダメージを受ける』という事にもなる

 

これは『ダイレクトアタック』と呼ばれ、全ての冒険者が避けなくてはならない事柄の一つだ

 

この『繋がり』を利用して先ずは『カードと思念だけで会話する能力を得る事』からが『入門』であり……其処から更にこの『カードとの繋がり』を利用する技術技能の修得が『真のプロ冒険者』になる為に必須の条件である

 

……尤も、『プロ冒険者資格』はまだまだ無数の難題に挑まなくては得られない難関国家資格の一つだが

 

 

さて……この『手の目の能力』というものは言うなれば『リンク用のチューナー』みたいな代物だろう。盲人という存在は視界を失う代わりに他の感覚が非常に鋭敏になる、とは良く言われている

 

恐らくはその理屈で『リンク』という感覚を鋭敏にしてその技術修得や技術行使の補助が出来るのであろう

 

『化けの皮発動時のあのノイズ』は……冷静になって探れば大輝のカードホルダーが発信源だ

 

どうやらカード達の声がぐちゃぐちゃに混じりあって過剰に増幅された結果あのノイズだったのだろう

 

この『化けの皮』の本当の能力は『中途半端で弱い装備化能力』ではなく、『マスターの為のリンク用チューナー能力』だった

 

ほぼ視界を失うのは深刻なデメリットではある……が、それでもこの能力が有れば『リンク修得』が捗るだろう

 

……そして、今度は次のステップを経験しなくてはならない

 

手の目に頼んで次はキキーモラに意識を向ける

 

『……さま、ご主人様聴こえてますかい?ご主人様?』

 

ちゃんと聴こえてきた

 

 

どうやらこの実験は成功の様だ。もう少し頑張れば最低限の『入門』……『テレパス』がいける様になるかも知れない

 

暗雲はまだ行手には有れど……それを晴らす手段(の大事な一欠片)は見つけられた。後はその欠片を磨いて己のものに昇華するだけだ

 

 

 

【Tips】リンク

 カードとマスターの間には、見えないラインが存在している。マスターに対するダメージの肩代わりなどはこのラインを介して行われている。リンクはそのラインを利用して感覚や感情の共有を行う技術である。

 これにより、カードたちに迅速な指示が出せるようになる他、カード間の連携能力が飛躍的に向上する。

 しかしそれらはまだリンクの入り口に立ったに過ぎない。

 リンクにはさまざまな可能性が秘められており、リンクを使えない、使いこなせない冒険者はただカードを所有しているだけとも言える。

 

【追記】

Q:なんでリンクが一般に知られてないの?

A:天空闘技場で念の存在が知られていないのと同じ理論。

 

 主人公は、リンクの存在は知りませんでしたが、「プロはまるで手足のようにカードを操ることが出来る」「同じカードを使っても、プロの方が圧倒的に強い」ということぐらいは知っています。

 ではなぜリンクという単語を知らなかったのか。

 大きな理由は三つあって、一つは、リンクが基本的に秘匿されているから。カードの遠隔操作が可能となるリンクは、一見モンスターの襲撃に見せかけて他の冒険者を襲うことも可能となる為、一般には秘匿されています。このTVも、リンクについての情報はカットして放送されますし、SNSなどでリンクという単語を使うと不適切な単語として投稿できなくなります。ではなぜ重野さんがそんなことを普通に言っちゃったのかというと、彼が本職の実況ではないからです。重野さんも、このあとギルドで上司からしこたま怒られます。

 二つ目の理由。それは、リンクを使える冒険者の数は圧倒的に少ないから。一つ星や二つ星の、ただカードを持ってるだけで満足している冒険者たちは、リンクの存在を知っても「なにそれ、それどうやって使うのよ。俺使えねぇんだけど、デマじゃね?」となってしまいます。リンクの存在を知らないままグラディエーターになり、モンコロでフルボッコにされる者も結構多く、それを人は「洗礼」と(以下略)。

 三つ目の理由。これが最大の理由なのですが、……ぶっちゃけモンコロはリンクの存在を知らなくても楽しめるからです。現実のプロスポーツを見てても、選手たちの超高度な専門技術を知らなくても、雰囲気で楽しめます。これが、主人公や観客たちがリンクの存在を知らなかった最大の理由です。プロが手足のようにカードを使うのも、経験の差だろうと思っていた感じですね。

 ……そんな感じの裏設定で適当に書いていたのですが、微妙に矛盾が生じるし、本編内で説明不足過ぎるので、あとで適当に書き直します。

 なので、今は「天空闘技場で念が知られていないのと同じか」ぐらいの感覚で受け入れてくださると嬉しいです。

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて転載)

 

 

【Tips】リンク(補足&追加設定)

 

今作主人公やその恋人みたいに登録前から『ちゃんとした冒険者』による(雇用などの)手解きを受けて冒険者を目指すタイプの……言うなれば『ブルジョワ勢』みたいなタイプは以外と存在する(原作のアンナみたいにちゃんとした冒険者を雇用して修得した者とか)

 

小夜や師匠みたいに肉親や知人からの縁故で教わった『縁故勢』みたいな者もいたり……中には自力でリンクの基礎を修得出来たマロの様な者もいる(これは『独覚』と呼ばれる最も優秀な素養の表れだ)

 

普通の冒険者は……三つ星以降から情報を集めて修得が殆どらしいが

 

 

【Tips】手の目

 

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に記載されている妖怪(若しくは怨霊)

 

座頭(盲目の弾き語りや按摩鍼灸師、金貸しなど)の姿で眼球が目ではなく掌にある妖怪。悪党に金を奪われ殺された盲人の怨みから生まれたとされる

 

この世界ではEランク迷宮でごく稀に(日本限定で)出没するレアモンスターの一種

 

『装備化能力』という珍しく、そして非常に重宝する能力を持つが……デメリットとして『眼球が掌に移る』上に『謎の雑音に苦しめられる』というマイナス効果がある為『役に立たない装備化能力持ち』のレッテルを貼られて即座にギルドに売却される哀しいカードである

 

この『掌に出来た眼』は本来の眼が盲目でも(弱視レベルとはいえ)ちゃんと視えるために病院などが常にこのカードを求めているため需要はしっかり存在する

 

 

……しかし、じつはそれは『カバーストーリー』で本当の手の目は自衛隊やギルド直属の冒険者達の訓練には必須な重要カードである(病院も求めている辺りは事実だが)

 

作中にもある通りこの手の目は『リンク用チューナー能力』を持った非常に珍しく重宝するカードだ。そして何故この能力が隠蔽されて『役立たずカード扱い』なのかは……『リンクは秘匿技術だから』という事と同じ理由だ

 

もしもこの能力を把握してギルドに報告すれば『口止め料』がそれなりの値段で貰えるだろう(何らかのDクラスカードとか)。ネットなどに書き込み……はブロックワードなどに阻害されるし仮に成功しても直ちに削除された上でギルドからの『警告』が来るだろう(勿論『口止め料』は無しだ)

 

嘘か真かこの手の目を使って戦う冒険者も居るとか居ないとか……そういう噂もあるらしい

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

後天技能に『座頭としての技能』が先に来るが……稀に『○級鑑定』に武術や杖術、一部の剣技を修得する個体も居るらしい

 

 




やはりこの技術はちゃんと出さないとね

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