その出刃包丁は……
時にジャック・オー・ランタンという
それもこれもやはり殆ど全てのリソースを火炎魔法に極振りした存在だからだろうか?
だからこそその火力を警戒した
しかし……『それ』をあの狩人や狼の様に用心深く毒蛇や狐の様に執念深い佐藤大輝が見逃すだろうか?
否、断じて否である
前話で支度という言葉を一度使ってぼやかしたが、今の大輝の編成は前哨戦とは少しだけ違う
手数かつ現状最大の戦力である剣、リンク能力を支えると共に大輝の最後の鎧でもある定、そして今襲撃された燈の三体はそのままだ
ならば何を外したか?今更言う迄もなくやまらのおろちだ
そして誰を代わりに出したかと言えば……
まるで刃物を大岩か何かに力の限り叩きつけたかの様な轟音が響く
燈と大輝の足元間近にあった砂場が一瞬で隆起し、大きな壁となって燈を護りきったのである
その壁……いいや大輝を護る砦とでも言える塗り壁の巌が仲間である燈を護り庇いきったという事だ
「よし、よくやった巌ッ!!!」
大輝の言葉に無言でサムズアップを返す巌……『岩石の妖怪』を駆使して燈の足元で彼を護衛していたのである。ついでに言えば『庇う』も一緒に行使しながらだ
先程の
元からの防御力のお陰で巌はほぼ無傷で済んだ。
『流石は
そんな風に考えながらも今は砕け折れてまるで風化したかの様に崩れ去ったあの山刀だか鉈だかわからない様な出刃庖丁の飛んできた辺りを油断も隙もなく警戒する
まだ
大輝の見立てが確かならそろそろゆっくりとあの
無論。その『お着替え』というのは辺り一帯の女の生皮のどれかだろう。あの
……そろそろ燈の『溜め』も終わった
「定、シンクロ補助と同時に燈の狙撃を支援してくれ。燈はシンクロ接続が出来たから目標あの廃屋の生皮。撃て」
『合点承知でさぁ旦那』『
そんなこんなで燈最大の切り札
燈が上級火炎魔法を習得した際に覚えはしたが……その時は少しガッカリもしたけど今ちゃんと役に立っている(護衛役の巌も居るのもちゃんと使える理由だが)
まるで小さな太陽か何かでも落っこちて来たかの様な光の奔流と激しい爆発音が辺り一帯に響き皆の鼓膜を痛めつける
その中で大輝は『ある自身の変化』に気付いていた
先のシンクロで……今までの自身の限界である『10%返却』に挑んでもその
今日は最初から定を纏っての連戦だったがテレパス疲れは無かったし……何より
『やはり、定との名付けが良い方向に向いたか?』
そんな事を頭の片隅に思いながら油断なくあばら屋……が有った場所を探る
『万が一の際』には役立つかも知れないが今はそんな不確定要素には頼れないし
例の忌まわしき洗濯物は……ほぼ全て消し飛んでいる(尤も、所詮は幻同様の代物でしか無いが……現状だけならばこれで充分だ)。ついでにあばら屋も完全に消し炭と化していた
あの辺り一帯の女の生皮も切れ端燃え滓が少々あるだけだ
この一撃であの
実際に……
あの廃屋が有った場所から気配が残っている。それに何より奴らもモンスターだから死ねばドロップが……最低限魔石が残るしこの場所も元の石室に戻る
結果的に言えば……
その炭化して崩れて行く女の生皮から出て来たのは……一人の人間(に見せかけただけの
身体は非常に小柄で凡そ150㎝も無いだろう
女物だと思う襤褸の……恐らくは血と人脂で汚れた着物を雑に着ていて……その体格ははだけた部分から非常に豊かなプロポーションだという事が解る
そしてその髪は豊かな金髪……本来ならば非常に肌理細かく美しく艶やかなものだが先程の灰を浴びたせいかそれとも血と人脂のせいか非常に燻んで見える
その細い手にはまるで鉈か山刀と見紛う様な大きく刃こぼれだらけで血脂に染まった出刃庖丁
瞳を閉じてはいるが、その非常に美しい顔には大輝も見覚え……いや、常に見て感じて生きてきたその顔は……
薬丸姫子の顔だった
……しかし、今の大輝にその顔は見えない
今の大輝は『手の目』でもあるから『見る』という身体機能は最初から棄てている
確かに姿型は大輝にとって
その吐き気を催すドギツイ血脂と腐臭は誤魔化せない
大輝は一見すると凪いだ様に見える。冷静に、落ち着いている様に見える。その一見冷静を保っている様に見える状態で……
勿論、内心は怒り狂い腑は煮えくり返っていた
大輝の見立て上あの
例えば……沢山の子供を攫いその屍を弄び喰らう溝鼠の王たる【ハーメルンの笛吹き男】
例えば……街一つ分の人々を幻覚の中で破滅に追いやった【マッチ売りの少女】
例えば……現れたら最後周囲を強制的に老化させる【浦島太郎】
例えば……理不尽極まりない謎かけを押し付けてくる【狼と七匹の小ヤギ】
例えば……その姿を見ただけで胸の内部から鉄の帯を弾けさせて『解剖されたカエル』の様な無惨な死を齎す【カエルの王子様】
一例を挙げるだけでご覧の有り様だ
あの
そういう風にも言われてはいるが……まぁあの
要は人類をそう油断させて……というフィクションにままある筋書きだ
大輝が所属するメアリー塾では『アンゴルモア対策』にそういう思考実験もされていてそういうディスカッションもまた盛んに行われている(これもまた『最悪の事態の考慮』である)
メアリー塾の塾生達やメアリーさん当人中には
そのディスカッション内でも今回の
さて、今回大輝が遭遇したこの
1:日本らしき山中が舞台
2:瓜や蔦の化け物を配下に襲撃して来た
3:女の生皮をコレクションしている様だ
4:被害者の恋人想い人などに化ける能力がある
5:そして少なくとも被害者のそういう思念などを察知知覚する能力があると見て取れる
……日本の御伽噺に確かこんなものが無かっただろうか?
瓜から生まれた美しい機織り娘は幸せに暮らしていた
しかし……嫁入りを控えた直前に邪悪な鬼に騙されて殺された
その邪悪な鬼がその機織り娘の生皮をはいで娘になりすます
しかし愚かで粗忽者の鬼に手弱女のふりは土台無理であった
直ぐに鬼の悪事はばれて鬼は人々から成敗されて終わる
要約すればそんな御伽噺だ
その逸話からあの
しかし……普通に見れば確かにあの
しかし……大輝からすれば一目で粗悪・粗雑・劣悪な模倣だと直ぐに解る
先ずは臭いだ
多分、今纏う定の力が無くともその腐臭は大輝相手では誤魔化せない
更に言えば肌艶も髪質も大輝なら一目で『全くの別物』だと分かる。佐藤大輝の知る薬丸姫子の髪も肌も全てが究極と言って良い代物だ
(大輝曰く)その程度の雑な模倣で佐藤大輝の眼は、聴覚は、嗅覚は、触覚は、感性は、そして魂は決して誤魔化されない
……尤も、本来この非常に性質の悪い怪異の模倣を見破るのは普通の冒険者ではほぼ不可能に近いのだが、これもまた大輝の姫子への想いの深さなのだろうか?それとも『定の名付けの影響』かはたまた……
計らずしも大輝は(ある意味では)この
しかし……幾らメタを張れたとは言え相手はこの世最悪の厄災が一つ、容易くいく様な相手では決して無い
……それに、この
大輝は……その
「よう
その啖呵に返す
『へぇ……イッてグれる邪なイ、可愛イボウや。こノホウ丁でいっバいあそンでアゲるからその啖呵の分は派手に唄いなザいよ?』
非常に汚らしく掠れてはいるが、普通に聴けばやはり『薬丸姫子の声』そのものだ
そして大輝は……
「はっ、唄うのはお前だ
なぁ?
瓜子姫?」
第二十六話『瓜子姫』
【Tips】瓜子姫
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