本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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呪いのアイテムでも贈り物は贈り物?


第二十九話 イレギュラー・リザルト

 

 

あの緑の死地が本来の広い石室に戻った事と……手負の獣か何かの様にギラギラと血走った眼差しでさっきまでの死闘の結末たる瓜子姫の消滅と戦利品、そして何時もの様に無駄に豪華なガッカリ箱の出現を最後の気力できっちり確認した大輝は

 

 

けぽけぽけぽけぽ

 

 

盛大に崩れ落ちて四つん這いに蹲り……地面に向かって盛大に吐瀉物を吐いていた

 

……無理もない、安全を確認した瞬間に全ての緊張の糸が切れ、おまけにさっき浴びた悍ましい体液(瓜子姫の腐血)を直接被る羽目に陥り、更にはその瓜子姫を滅多刺しにしていたため、腐血だけでなく腐肉も全身に被っている有り様だ

 

ついでに腐ったあの空間内の瘴気に鼻や喉、肺をやられた。というのもある

 

さっきまでは唯気合いだけで耐えていただけだ。その気合いが必要な理由も無くなって緊張の糸も切れたからリバースしているのだ

 

……その最中、腰のカードホルダーが何やらピカピカ輝いている事にさえ気付けぬ程に

 

ひとしきり吐きに吐いた後で何とかまた適当に掴んだポーション……ミドルポーションを一息に飲み干してから一時的に蔵とキキーモラを召喚する

 

先ずはダメージの激しいやまらのおろちと剣からキキーモラに治して貰いそれから巌、燈、定の順番で診て貰う

 

燈の身体は早く直してやりたければ日曜大工か何かで直ぐに造るかギルドで良質な出来合を買うかする必要があるがカード達は皆無事だ

 

 

『キキホッ、キホッ、キホォー』(あまり見ないでくれよおやびんー)

 

 

ジャック・オ・ランタンとしての習性を圧し込めてでもあの地獄を支えていてくれた燈にちゃんと感謝の言葉を述べて直ちにカードに戻す

 

良質な案山子ボディはジャック・オ・ランタンにとっては『普段着より良いお洋服』だから良いケーキと一緒に早く買ってあげれば喜んでくれるだろう

 

今居るのは剣、定、蔵、キキーモラといった編成だ

 

迷宮内なら例え攻略後でも絶対に必須の護衛役たる剣以外はこれから後の後始末やリザルトに欠かせないメンバーばかりだ

 

しかし……武器は結構ボロボロなので直ぐにギルドかカードショップに依頼して要手入れだ

 

ギルド職員達に預ければ職員達のドワーフや一本ダタラみたいな職人系カード達に簡易的な修繕整備してくれるサービスがある

 

少なくとも『やらないよりはやった方が武具は持ち堪えるだろう』という程度だが、まぁ割と安い値段でやってくれるので武具持ちからの評判は良いが

 

剣から受け取った無銘の名剣はキキーモラがさっき切り落とした背負いベルトと鞘を拾ってあっさり修繕してくれたので今はきちんとそれを納刀した後で蔵に収納して貰っていた布に巻いておいておく

 

冒険者免許があるからと言っても好き勝手にこんなおっかない長物をこれ見よがしに持ち歩く権利は無い。特に大輝は『プロ検定筆記試験』を合格している身だ

 

もしもそんなチョンボをやらかしたら……少し間違えばプロ昇格資格剥奪か下手すれば冒険者免許剥奪ものだ。大輝のライセンスの特筆事項にもきちんと『プロ限定筆記試験合格証』が付いているから万が一やらかしたら言い訳一つ許されないだろう

 

この合格証もとい資格はプロ冒険者だけでなく迷宮法に纏わる法律家や冒険者ギルド上級職員の必須資格でもある。大輝も『この世界がちゃんと滅ばずに存在し続けるなら』という条件下ならば今現在で勝ち組になれるチケットは習得済みだと言える

 

まぁ……あまりそのルートには期待出来ない、と大輝の勘は告げているのだがそれはどうでも良い話だ

 

 

「……また、短い付き合いだったけどこいつは本当に頑張ってくれたよな」

 

 

ぼろぼろの、口から下は吐瀉物(ゲロ)まみれで瓜子姫を貫いて地面に留めてくれたある意味MVPと言えなくもない仕込み杖……の辛うじて残ってくれた残骸を掴む

 

刀身は三分の一しか残らず、残された刀身も目に見える激しい罅や刃毀れ疵だらけ。柄の目釘も完全に砕け折れている上に柄本体も罅が入っている、そんな無残な有り様だ

 

幸い、投げ捨てた鞘……先に挙げた名剣の方の鞘やついでに水筒の回収も含めて出来てはいる

 

その残骸を鞘に納める……罅や刃毀れ、刀身そのものの歪みのせいで残念ながらあの手に馴染む様な見事な納刀は最早出来なかった

 

 

『定に合う刀、どうしよう?……いや、それ以前に身体中が臭いなオイ』

 

 

気を取り直して考えた通りにキキーモラに頼んで『初等補助魔法:浄化(ピュリファイケーション)』を使って貰って吐瀉物の処理をして貰う

 

ついでに蔵に預けておいた無限水筒と蔵の家事魔法から出して貰った石鹸で身を清めてもおく。あの穢れに穢れた空気や吐瀉物……瓜子姫の消滅と同時にあの悍ましい体液や肉片も消失はしているがその穢れも早く落としておきたかったからだ

 

その間にキキーモラが汚れた戦闘服を洗濯乾燥までしっかりやってくれていた。こういう時に家事魔法は便利なものである

 

 

『旦那、そろそろ戦利品を回収しねぇと……』

 

 

やはり家事魔法で出して貰ったタオルの様な布で身体を拭いて外に出る為の着替えを済ませたら瓜子姫撃破からもう三十分、まぁそろそろ『現実逃避』は出来ない

 

 

「……そうだな。そろそろちゃんと『目の前の現実』に向き合わないとな」

 

 

大輝は先ず『瓜子姫のドロップ』からは眼を逸らしてガッカリ箱から取り掛かる

 

今回の目的である『白い魔石』はちゃんとある。これをギルドに提出すれば晴れてその場で『二つ星昇格』だ

 

ちなみにこの白い魔石はこの迷宮の階層から考察して……だいたい三十五万円前後といった処だろう。普通の魔石より魔力の含有量が多く人工魔道具の重要な材料にもなる事と局地的アンゴルモア対策の報奨金分も有って結構な値段で売れるのだ

 

そして箱の中のもう一つのアイテムは……糸玉?の様な何かだった

 

定に鑑定して貰いながら手持ちの端末でその糸玉(らしき何か)についてこちらでも調べてみる。予想が的中しているなら恐らくこれは……

 

定みたいな高い鑑定能力持ちが手札に有れば拾ったばかりの謎のアイテムだって直ぐに戦力に出来る。一応端末に入れたアプリとかでも簡易鑑定は出来るが間違って呪われた魔道具や所持禁止類魔道具をうっかり使ってしまったら後が怖い。勿論アプリ鑑定何ぞでオーブ鑑定何ぞまず不可能だ……それから待つ事一分すらかからず

 

 

『旦那、こいつの正体が判りやしたぜ』

 

 

定曰く、これは『転移系統の力を持った魔道具』らしい。安全地帯でのみ使用可能で行き先は迷宮の出入り口のみという転移系魔道具としてはありふれた機能の代物だった

 

しかし……この魔道具は『何度でも使用可能』という素晴らしい特性もあるらしい

 

大輝の予想はドンピシャだ。これは『アリアドネーの糸』と呼ばれる非常に珍しく貴重な代物である

 

 

『アリアドネーの糸』……それはギリシア神話に登場するクレタ王ミノスと妃パシパエのあいだの娘アリアドネの名を冠した魔法の糸である。テセウスがクレタ島の迷宮より脱出する手助けをする為に必要な道具として非常に有名だろう。ちなみにアリアドネという名は「とりわけて潔らかに聖い娘」を意味する(あのゼウスの数多居る孫故に半神の類いでもあるのだろう)

 

この魔道具を所有している一部のゲーマー達は何故か大の栗鼠嫌いになるとかならないとか?そんな与太話が冗談混じりに有ったりもする(『栗鼠はこの魔道具を盗みに来る』とか何とか?)

 

今から先の大輝にとってもこの魔道具は非常に有益だろう。『回数制限の無い転移系魔道具』……その中でも一番安くありふれた代物だとしてもその価格はこちらの売却価格でも最低一億超えだ、買値だと最低三億で済めばむしろ詐欺を疑うべきレベルだし普通ならまず間違いなくオークション行きだ

 

ちなみに類似品に『アリアドネーの冠』という代物もあるらしい(機能は糸と完全に同じだけど珍しさと美術品としての価値で最低五億はするとか)

 

これさえあれば迷宮探索でも帰りの時間を沢山節約出来る。次は最短ルートをちゃんと把握出来ていれば良い

 

これからは更にマッピングが重要になるだろう。マッピングの精度次第ではEランク迷宮攻略が捗るだろう。最短ルート開拓がちゃんと出来るならば

 

次の『三つ星昇格』……アマチュアなら最高峰の資格にも案外早く、もしかすれば高校入学迄に達成出来るかも知れない。その時は冬休みが勝負の分かれ目だろう

 

今の戦力……相性次第とはいえEランク級イレギュラーを撃退出来るならまず不可能ではないだろうが冬休み迄は更なる増強をしないといけない

 

戦力増強だって今回手に入れた金貨袋や五粒のカーバンクルガーネット、それと『イレギュラーの懸賞金』だってあるからもしかすればそこそこ程度なら他のCランクカードだって入手出来るかも知れない

 

手持ちの資金は現金だいたい五百万円とカーバンクルガーネット二粒。推定収入を合わせて推測するならだいたい三千万円其処らの予算が入手出来るだろう

 

……いや、先ずは取り寄せ中な懸衣翁の購入でそれなりに予算を使うからだいたい二千万円程度と考えておくべきか?

 

まだ半月以上はこの迷宮の専有権があるからカーバンクル狩りとガッカリ箱強化はなるべくやりたいが……まぁあまり欲をかかずにちゃんとギルドにこの迷宮を返却しよう。ギルドからの信頼でこの迷宮に宛てがって貰ったのだからなるべく誠実に接しておこう。『この一回はイレギュラー討伐の余録』とかあまり良くない。下手すれば推薦してくれた師匠(メアリーさん)の顔に泥を塗る結果になるかも知れない

 

取った取らぬな狸の皮算用を繰り返し……たいが『現実』は冷たい。そろそろ『アレ』を直視しないといけない

 

先ずは……『瓜子姫の魔石』だが、これはサイズだけなら普通のDランクモンスター基準で言えばまぁ大きめの範囲ではあるが普通だ。しかし……普通の魔石と違って『凝固してドス黒く固まった血の様な赤色』という意味では違う代物だろう

 

普通の(黒、白)の魔石は使い切れば砕け散るが……この赤い魔石は一度使い切っても一日も有れば完全に回復する凄い代物である。だからギルド(国家)は常にこの赤い魔石を求めている。勿論危険極まりないイレギュラー討伐賞金も兼ねているが

 

ちなみにこのEランクイレギュラーの魔石なら一律一千万円。Fランクなら百万円、Dランクなら一億円とランク向上ごとに賞金兼魔石代が十倍に増してゆく

 

『その困難さ』は兎も角として……普通なら一千万円という大金と『アリアドネーの糸』というガチ勢垂涎のお宝を獲得したのに大輝は何故かうかない顔をしている

 

その理由が『もう一つの瓜子姫のドロップ品』である

 

 

『それ』は……『瓜子姫』が持っていた代物である

『それ』は……持ち歩けば間違いなく警察にしょっ引かれる代物である

『それ』は……非常に血腥く、見てくれは酷いものだ

 

 

大輝は『それ』について師匠や兄弟子達からその有効性と其れを遥かに上回る危険性を様々な意味で叩き込まれてきた

 

 

『それ』は……『瓜子姫の出刃庖丁』

『それ』は……死神からの贈り物(イレギュラーのマーキング)

 

 

ある意味では非常にもの凄いブッ壊れ魔道具であり……それを贈った死神からの『必ずまた殺しに来る』という意思表示であり、また他の死神を引き寄せる可能性を持った危険極まりない誘導装置(ビーコン)である

 

大輝は……何時か必ずあの『瓜子姫』と再戦する因果をこの出刃庖丁で押し付けられたのである

 

 

 

【Tips】死神からの贈り物

 イレギュラーエンカウントたちが残す特殊な魔道具は、ただの便利な道具ではなく彼らが獲物と認めた者たちへの勲章であり、マーキングとしての側面を持つ

 そのため死神からの贈り物を持つ者はイレギュラーエンカウント全般とのエンカウント率が上がり、特に贈り物の主とはいずれ必ず再会する定めとなっている

 それは仮に贈り物を手放し、冒険者を辞めて迷宮に潜らないようにしても避け得ぬ運命である

 再会の際、それが死神たちを失望させるものだった場合、運よく生き延びられたとしても贈り物に込められた力は没収される。

 もしそれが嫌ならば、自らが獲物に相応しいことを証明し続けるか、死神たちに真の意味で認められなければならないだろう

今回の佐藤大輝の様に師匠や兄弟子達の経験則と教導でその危険性を知る者は実はあまり多くは無い

一部の好事家などが使えもしないのにコレクションしたりもするらしい

 

※:公式より百均様の許可を頂いて転載




出刃庖丁の詳細は……次回を待て(をい)
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