まだ二つ星試験の後始末が続きます
あと大輝の人間関係や周囲の評価を一部情報解禁
時間はだいたいお昼前……夏の鮮烈な日差しとアスファルトを灼くあの臭い、そして少し遠くに陽炎が立ち上る正に真夏日だった
先ずは出口のダンジョンマートから最寄りかつギルド行き経由のFランク迷宮に行ってそのダンジョンマートで沢山の惣菜、お菓子、ジュースを買い占める勢いで買ってから蔵に渡してカード達に仮の打ち上げをして貰う。酒は残念ながら未成年者の大輝には買えない
大輝自身はダンジョンマートの人気商品である『人魂アイスクリームバニラ味』を暑気払いを兼ねて買い食いしながら次の目的地に向かう。勿論先方へのアポイントメントは忘れない
適当な喫茶店で幾らか時間を潰し、大概の役所の昼休憩時間の終了に合わせてから目的地である試験を受けた冒険者ギルドに赴いて列に並んで登録申請から整理券を貰ってソファーで順番待ちしながら保護のブーツを(あらかじめ蔵に預けていた)前の靴に履き替えておく
『……前の靴もかなり上質な代物の筈なのに、今履いてみたら違和感が酷い。あの酷い足場でさえまるで舗装された道みたいだったし本当にこの『保護のブーツ』は凄いものだ』
そんな事を考えながら大輝は大人しく近隣のカードショップのカタログを見ながら待つ
通常のクエスト受注や二つ星試験申請みたいに昇格試験やイレギュラー討伐報告はスマホ一つで出来る訳が無い。どちらも『証拠品提出』が必要なのだから
ついでに使っていた武具の整備依頼や『カード化』が必要な魔道具の処置やカードショップで燈の為の新しい案山子ボディの購入もあるから絶対に来なくてはならない。もしかしたら懸衣翁がそろそろ入荷しているかも知れないし
『Eランクイレギュラー討伐』は流石にそこそこ大事だったか?少々慌ただしくなったカウンターの中を眺めていたら……そこそこ早い三十分後に担当の
「……ゔぁ゛。まさか本っ当に『アレ』が出るとはね、たしかに大輝ちゃんの勘は昔から凄かったけど」
流石に古参サマナーであるメアリーさんも大輝の勘の鋭さにはびっくりだがそれは当然だ
『イレギュラーの出没を勘で予測する』なぞ普通は先ず出来ない。その程度で予想出来るなら世のイレギュラー被害はまだ多少はマシなものになるだろうし
大概のイレギュラー対策というものは『長時間迷宮から出ない冒険者』の居る迷宮を調査して確認、もしも『居るならば対処する』という事しか出来ない
数多くの予兆予測実験を繰り返し繰り返し……それでも殆ど有効性のある手段は見つからない有り様だ
そういう背景から『イレギュラー対策』に特化したプロも世の中には存在していて、中には『死神殺し』とも呼ばれる有名人も居たりする
大概のプロでも『死神駆除』は非常に危険なのでやりたがる者は非常に少ない。死神の種類によってはFランククラスだろうとプロを殺せる奴も居るし、勿論あの悪名高い『浦島太郎』は言うまでも無いだろう
世の中には『的中率一割以下』ではあるものの『イレギュラーの存在を感知出来る魔道具』という物も存在する。勿論、非常に貴重な代物なので先ず滅多にお目にかかれる様な代物ではない。世界中のプロ冒険者や富豪が鎬を削る最高クラスのオークション会場なら稀に?という程度だ
ちなみにその魔道具の名前は『炭鉱の
それが何故今の様になったのかと言うと……日本のサマナー達を前身としたオタク冒険者組合、正しくは『オタク文化を守る会』の一人がたまたまこの魔道具を愛用しその予兆を信じて活動していた事がきっかけだった
この魔道具を馬鹿にする者達を無視し、ボス部屋手前でもこの『金糸雀のお告げ』を信じて時に大儲けを棒に振っても彼は愚直に冒険者生活を続けていた
しかし……その彼が忌避したボス部屋に割り込みで入った冒険者がイレギュラーに遭遇する、という事案が何度か発生した
その複数あるケースや実際にイレギュラーが出現した迷宮などで精査した結果、件の『炭鉱の
『ある程度以上にイレギュラーが出る確率があるなら鳴いて警告してくれる能力』
有り体に言えばそれだけだが、少なくともこれの指示に従えば『まず迷宮でイレギュラーには遭遇しなくなる』という訳だ
勿論デメリットもあり、これが鳴く時は『大儲けの確率』も高くなる事も判明した。先に挙げた『大儲けを棒に振った』というのもこの辺りから来る
しかし……それでも非常に貴重かつ珍しい『新しい対イレギュラー用魔道具』の発見だ。そしてこの『炭鉱の
まぁ『原作』にもある『天岩戸の注連縄』みたいな遍歴を辿った魔道具の一種だと思えば良いだろう。魔道具の商取引にはこういうギャンブル要素みたいな一面もあるから侮れない
先ずはカード化処置の為の手続きからだ。対象は『無銘の名剣』、『保護のブーツ』、『アリアドネーの糸』と……まぁあと一つあるがそれはまだ後の話だ
『無銘の名剣』は活用するなら銃刀法関連と何より物理的に嵩張るから必要。『アリアドネーの糸』は防犯上の理由だ、捨て値で売ってもちょっとしたBランク並みの値段がする代物だから絶対にやらなくてはならない。『保護のブーツ』は日常使いしたければ必要不可欠だ……市価五百万円のこれを学校の下駄箱に無造作に突っ込めるか?と考えれば宜しい
そしてそれと一緒に『俊敏の銅剣』と『ミノタウロスの戦斧』のカードをマスター権を破棄しながら提出する。手入れには必要不可欠な手順だ……魔道具整備が出来るカードがあればその面倒な手間暇は必要無い。それが可能なカードは大概Cランクか珍しいDランクだからまぁ仕方ない
ちなみに自分の所有するカードならば何時でも幾らでも『貸与』という型で持たせて使用させる事が可能だ。同じ所有物というカテゴリ同士だから可能な事だ
それと……カードに何か私物を与えたければ『お道具箱』か何かをカード化してそのカードに与えれば良い。カード内か迷宮での休憩時間にそのお道具箱の中に収納した娯楽を楽しんでいるだろう
三つの物品と二枚のカード、そして『禍々しいあの物体X』を提出した後は『二つ星昇格試験』の合否判定だが……勿論満点合格だ
むしろちゃんと期日以内に課題を達成した上に『イレギュラー討伐』という難題を追加で攻略した者を逆にどう不合格にすれば良いのか?むしろその戦力なら既に三つ星資格持ちレベルの逸材だ
大輝のデッキ編成ならある程度は知っているメアリーさんでもこの『一つ星詐欺』でしか無い新米にあるまじき凶悪極まりないデッキ編成には軽くヒいたものだ(そのデッキ編成の構築に協力した身ではあるが)
ついでに言えば『あのボーナス迷宮』でちゃんと一度の攻略後に迷宮攻略権を返納した辺りもギルド的に高評価だ。三十日以内ならばあの迷宮は大輝が不文律として独占可能だったが仮にも『シークレットダンジョン』だという事を理解して即返納してくれたのは……ちゃんとギルドの顔を立ててくれたからだろう
いや、『イレギュラーが発生した』という情報をちゃんと伝える義務の為にその不文律の権利を放棄してくれたからだろうと推測する。ギルド的に大輝みたいなガチ勢かつ優良で誠実な冒険者の存在は非常にありがたい。多少の贔屓枠に入れる事に周囲も更に深く納得してくれるだろう
もしも……出来るならメアリーさん的には後々には大輝にギルドでの後継ぎになって欲しいという欲もある。この歳で『プロ冒険者筆記試験』を合格した上にほぼ自力で構築した戦力でイレギュラー撃破したり二つ星試験合格したりと非常に優秀な逸材だ。唯一の欠点であるコミュ力は『まだ成長の余地がある』と言える年齢だから大丈夫、大丈夫
大輝の身柄はダンジョンマートも要チェック中なので非常に難しい案件でもあるのもまた欠点だが『優秀かつ信頼できる人材』は値千金だから当然の話だ
……年齢が間違いなく合わない上に大輝自身が彼女持ちなので娘の婿には出来ないしそもそも娘は既婚者だし既に孫だって居るけど。もし出来るなら大輝を直で養子にしたいぐらいである(言ったら大輝の両親や姫子の両親と即サドンデス・バトル開幕案件だが……まぁ家庭板案件よりかは大人しいだろう)
メアリーさんが純粋に『佐藤大輝』という男をそれだけ気に入ったというだけの話だが
下手を打てば
自衛隊はギルド以上に慢性的かつ深刻な人材不足に喘いでいる。訓練は厳しく給料は安く『冒険者の収入』に比べれば間違いなく雀の涙であり義務で雁字搦めなので実は就職先としては不人気だ
一応、優秀な冒険者になる為の育成レジェメは確りしているし一部の『所持禁止魔道具類』の公務限定での使用許可もある。強いカードや魔道具も潤沢に支給貸与されはするしちゃんと勤務すれば引退時には最低でもCランクカードが一枚は無償で払い下げられる。勤務年数や功績次第ではBランクカードだってあり得る
極まったガチ勢の中には『自衛隊に入隊後に冒険者デビュー』という方針を取る者も多く、プロ資格を得た者達の大半が自衛隊上がりを占めているという情報もある
大輝も最初は自衛隊修行も考慮には入れたが……資金面的に宜しくなく自由が無くなる事や退官しても義務が多い事からその方針は切り捨てた
ちなみに自衛隊のスカウトマンが大輝を狙っているのはだいたい『姫子の勧誘の為』が最初の動機だったりする。要は『抱き合わせ』だが大輝自身も『メアリー塾のちゃんとした門下生だから』という理由もある……『メアリー塾の門下生』というのは冒険者界隈では何気に強い立場故に
そんなこんなで大輝が作ったあの試験迷宮のデータを精査してから破棄し、そして『この迷宮の情報を秘匿する』という契約書に改めてサインをすれば晴れて大輝は『二つ星冒険者』だ
簡素な白い旧カードを返納し少し高級感のある
そのライセンスの表面には大きく星二つと所有者の顔写真、氏名、住所、登録した場所が記載されている。裏面には所有者の実績が載っており各ランクの迷宮の踏破実績と賞金首の討伐実績が書かれている。大輝の場合なら特筆事項として【☆瓜子姫(E)】と【プロ資格筆記試験合格】が書かれている。Eランクの迷宮で瓜子姫討伐済み、そしてプロ資格筆記試験は合格という意味だ
ライセンスにはイレギュラー討伐実績や迷宮関係資格が特筆事項として記載される。ちなみにイレギュラー討伐のあの白い星(☆)は『ソロ討伐』の証で複数人での討伐なら黒い星(★)となる
プロになるには先ず
三つ星試験にはDランクカード最低一枚(合格したければ実質最低限六枚)の所有とEランク迷宮十ヶ所攻略から可能となる
さて、だいたい二十分其処らの時間で書類提出や迷宮データ提出は終わった……が、本題は此処からだ
「……さて大輝ちゃん。やはりあの出刃庖丁は『
……分かりきっていた事だが、やはり改めて聞くと血の気が引いてしまう。その強烈かつ非常に特殊な魔道具の話は目の前の師匠や兄弟子達から良く聞いている
『奴ら』が目を付けた討伐者に贈る勲章にしてマーキング。そして『殺害予告状』だ
一般的には『勲章』としての側面だけが取り沙汰されているが……それは恐らくなるべく強い冒険者が育ってくれる事を望む政府などの意向で偏向的に残りの負の側面をそれとなく隠されている
そして大輝は……この非常に強力ではあるが忌まわしい呪具の使い道を教わる事になる
【Tips】武具整備
魔道具の武具は基本的に壊れたら直せない……が、ちょっとした刃毀れや罅、切れ味の摩耗など普通の武器と同じ様にある程度ならきちんとこまめに整備修繕すれば長持ちする
基本的にCランクのドワーフやイッポンダタラみたいなその魔道具の素材に適応する職人技能を持ったカードには対応する魔道具の整備修繕が可能になる
ギルドではそういうカードを持たない冒険者の為に比較的安価で整備修繕代行をやってくれるサービスが存在する。ちなみにだいたい三日から一週間の時間がかかりだいたい五千円から五万円ぐらいの費用を要求される
それなり以上の冒険者で魔道具を多用する冒険者なら必ず対応する職人系カードを保有する事は嗜みの一つとされている
ついでに整備修繕を担当する職員は刃物供養も担当してくれる