本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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一章幕間その2 冒険者とカードの相性問題

 

 

皆様は佐藤大輝の抱える特異体質を覚えているだろうか?

 

 

『女の子カードを殆どまともに召喚出来ない』

 

 

この冒険者業界では非常に珍しく、そして深刻な欠陥だ。今のDランク程度なら大した問題ではないだろう……しかしCランクからは決してそうは言っていられなくなる。Dランクなら『可愛い』というだけであの値段だがCランクともなると話は盛大に変わってくる

 

そもそもDランクカードというものは『アマチュア、エンジョイ勢、見習い用』という扱いの代物だ。だから『可愛さ』という曖昧模糊な概念や理屈で女の子カードらはあの馬鹿高さに繋がっている……まぁ『夢魔系』ならば娼婦としての役割を強く期待されているから、というのもあるだろうが

 

そしてCランクになると状況は一変する。Cランクからは『プロ用』となり見てくれなど(やまらのおろちみたいな酷すぎる例外を除けは)そこまで深刻に商品価値には左右されない……エルフやサキュバスみたいなCランクでも特筆に値する美貌持ちでも無い限りは、だが

 

そして大輝が両親からの贈り物として貰ったデュラハンというカードだが……これはアイルランドの『悪しき妖精』とされる存在で、外観は戦車と戦馬に乗った首なし騎士という存在であり。Cランクカードの中でも代表的な人気……いや『プロ用人権カード』とすら評価される人気カードの代名詞だ

 

先ず代表的な『中等クラスの装備化能力』……過酷なCランク迷宮攻略の為には絶対的に必要になる能力だ。これとあと二つ(異空間型、眷属召喚型)を合わせて『プロ三種の神器』と俗称されてさえいる

 

他にも『戦車に仲間を乗せて高速移動』といった非常に有益なスキルと高い……やまらのおろちに匹敵する程の戦闘力とついでに敵に呪いをかける能力が特徴だろうか?

 

そのプロ御用達の貴重品が大輝に送られて来た。大輝の相性次第だが冒険者をやる子供に親が贈る物としては女の子カードや只強いカードよりも非常に気の利いた代物だろう

 

 

つい最近判明し、数日前に更に悪化した『大輝の特異体質』さえ無ければ、だが

 

 

このデュラハン……基本的に男女に分かれその比率は半々、普通こんな特異体質持ちはそう滅多に存在しない故……いや、大輝の隣に居る唯一人の前例だけが引き起こせる間違いなく前代未聞の大珍事である

 

このデュラハン……ごく僅かな胸なので判りづらいが歴とした女の子カードである。どちらかと言えば兜の中の貌も中性的な美貌なので更に判りづらいから源輝も稲穂も男だと勘違いしていたのだ

 

大輝の場合……このカードに触れた瞬間にこのカードが女であると本能的に察知出来た。恐らく大輝の抱えるあの厄介な特異体質の副反応だろう。姫子も似たような特異体質で同じ事が出来るから前例がある

 

大輝がこのデュラハンと契約したら……いや、下手すれば契約すらまともに出来ない、とは(手の目)が言っていた筈だ

 

ならばこのカードどうしよう?と四人で頭向き合わせて悩む……が、大輝の今日の夕方からの予定を思い出した

 

 

「「「「高和(兄さん、おにーさん)に相談だ」」」」

 

 

今日大輝は『札商』である阿部高和と会談する予定だ。札商ならばこのカードを何か大輝に適合するカードと交換する事が可能だろう

 

大輝は残った二枚のDランクカードを選んでエジリ・フレーダを貰った。そしてそれを姫子のリビングアーマーとトレードしたりして何気に姫子を強化した後に稲穂と姫子の未来義母娘の作ってくれた手料理に舌鼓を打つ

 

今日は大輝の嗜好に合わせたカレーライスだった。勿論、稲穂が大輝の食嗜好とその手法を姫子に伝授する為だ。昼食後は皿を片付けて姫子と少し、彼女に与えられた部屋で話をする……今の大輝の部屋は少しマズいし

 

 

「なぁ姫子、そのエジリ・フレーダを触った具合はどうだ?」

 

 

エジリ・フレーダとはヴードゥー教の女神でDランクカードにあるまじきレベルの回復魔法特化型カードだ。ネイティブカードだと話は違うが日本製だとそういう認識でいい

 

その逸話上、女神でもあるがむしろ夢魔に近い性質や『Dランクの純然たる女神』という非常に希少な性質……女神系統にリンク適性(相性)が合う者や好事家、夢魔系統と相性の悪い男性冒険者などから非常に人気が高い

 

 

「悪くはない、悪くはないですかね?それとにーさまはそのリビングアーマーとはどうですの?」

 

 

リビングアーマー……新人冒険者からプロ志願まで様々な冒険者が大概一度は入手を求める超人気かつ有名カードの一種だ

 

先に挙げたデュラハンの劣化版みたいな代物であり、まぁそのデュラハンを獲得する迄の繋ぎみたいに扱われもするが間違いなく優秀なカードである

 

大輝のカードにもある手の目に一反木綿、姫子の小袖の手と同じく『装備化カード』という代物であり幾多の若手冒険者の命やカードをダイレクトアタックから守ってきた若手冒険者の守護神みたいな代物である

 

基本的にほぼ無性で稀に人格が備わっているタイプも存在するがこの件のリビングアーマーには『男性人格』が備わっていたので姫子には取り扱えなかったのである、代わりに相性抜群の……本来なら予備だった小袖の手をメインに姫子は戦う事になったがまぁその話は良いだろう

 

 

「こっちも悪くはない、悪くはないんだが定のクラスチェンジには使えないから微妙なんだよな……今は予備に回して風向き次第でトレードかな?」

 

 

基本的に冒険者……特にリンク能力を得た冒険者にとって『カードとの相性』というものは非常に重要だ。リンク能力なぞ無い新米やそういう工夫なぞまず考えないエンジョイ勢だと『強いカードを揃える事こそ冒険者の強さだ』と考える傾向が強い

 

しかしリンク能力を得た冒険者の場合は完全に違う、リンク能力者にとって強いカードとは『己と相性の良いカード』の事だ。強いだけで相性の悪いカードではちゃんとした戦い方は出来ない、自分の手足や器官の一部の様に巧みに使えるカードこそが『本当の冒険者の強いカード』なのである

 

リンク能力持ち(優秀)な冒険者なら入手した強いカード、良いカードを買ったりトレードしたり運良くドロップしたりプレゼントされたりしても相性が宜しくなくて手放したりコレクションやトレード保存したりするケースは常にある

 

大輝と姫子はそれが非常に極端になる。何せ大輝は推定女の子カード全般に相性極めて悪く、姫子は人間的な姿をした男カード全ての召喚不可故に……大輝の場合はまだ暫定的な話でありその悪化具合をテスターとしてデータ調査される予定なので正確な事は言えないが

 

だからと言って大輝は男カード、姫子は女カード全てに高い相性がある訳でも無い。先のエジリ・フレーダやリビングアーマーみたいに『あり、なし』それぞれに傾いてはいるが微妙な代物やデュラハンの様に相性の悪いカードだって結構ある。ついこの間のメアリーさんが行ってくれた『札見ノ式』にも男性人格持ちリビングアーマーとか色々強い男カードは有ったがどれもこれも引っ掛かりを感じて交換対象にはしなかった

 

嘗て言及した『刀の鞘と反り』では無いが、この業界で一人前……リンク能力者にもそれとだいたい同じ事が言えるだろう。カードとの相性と乗りや反りとそれに携わる直感は決して無視してはいけないものだ

 

あの時大輝が選んだのは全て『相性の良いカード』ばかりである……流石に復活用のジャック・オ・ランタンだけは相性なぞ無関係で得たカードだが

 

ちなみに姫子にこのデュラハンを試しに渡して見た……が

 

 

「……うーん、多分悪い娘ではないだろうけど感覚が合わないみたいで余り使いたい感じはしませんね。私の桜や菫、撫子ともクラスチェンジ適合しないみたいですし」

 

 

どうやら姫子との相性もはっきり悪い様だ

 

もしもこのデュラハンと姫子の相性が良ければ大輝は何時か姫子に(多少のサービスはするが)売る為に温存していただろう。姫子と相性が悪い……ついでに姫子の手札とクラスチェンジ先にもならない。『装備化カード』や『妖精』という特徴上多少はいけるか?とは思ったがこっちも駄目だった様だ

 

二人ともそれぞれ普段から持ち歩いている分厚く付箋だらけのゴツい手帳……まるでインディー・ジョーンズか何かが愛用していそうなそれを取り出して真面目にこのデータを記したりお互いの情報を再確認する

 

迷宮内で情報面で今一番頼れるのはカードの能力を抜かせば紙媒体だろう。電子媒体はグレムリン一発でパァになるからそう頼れるものではない

 

大輝も姫子もメアリー塾の門下生になった時から常にメモ癖を付ける様に指導されてきた。それとある程度ちゃんとしたマッピング技術だってそれに併設して指導されてきた……先の試験用迷宮のデータだけは記憶はしているがデータの書き写しは契約上決してしない事にしている

 

大輝のメモ帳の一つには今まで潜った迷宮のモンスターや地図などのデータ写本や私見、小遣い稼ぎや依頼の為の採取、採掘ポイントやら他にも気付いた些細な事が事細かに記載されている

 

今現在でも冒険者用スマホなら高性能なマッピングアプリなどもあるが、Eランク以降からはグレムリンが怖く、Cランク以降にもなればもう頼るのは止めた方が良いだろうしBやAランク迷宮ともなれば最初からまず持ち込む事すら無い

 

今回のメモ帳には触ったり関わったりとしてきたカードとの相性推測やら何やらのデータ用メモ帳……大輝のはまだ比較的薄いが姫子のそれは大輝の何倍もある。彼女が五歳の頃からの被験データだからだろう

 

最初の頃は正に幼稚園児のお絵描きだった……実際に幼稚園児だったが。それから少しずつ絵日記から小学生の作文、そして少しずつ夏休みの自由研究にまで昇華して今ではきちんとした報告書やレポートの体裁が出来ている。最近ではお絵描きや絵日記状態だった初期のデータレポートを現在の仕様に改稿作業中らしい

 

研究者達からもこのファイルは『薬丸ファイル』と呼ばれて何気に重宝されているとかいないとか……姫子のその姿勢からか将来的に、冒険者引退後の未来で良いから姫子がこの業界に来る事をその実験に携わる研究者総意で願っている事は確かである

 

五歳の頃から非常に素直で可愛らしい上に研究の趣旨をきちんと理解してくれる最高の被験者兼見習い研究者だ……一部の研究者達の間では『実子より可愛い』とか『是非とも養子に迎えたい』だの『息子の嫁になってくれんかな?』だの果ては『むしろ嫁に』とか呟いた輩も居るとか居ないとか?

 

近ごろではこの研究者達一同が手慰みの時間を見つけては姫子がちょこちょこ初めている『迷宮士資格試験対策』を伝授したり講義したりしてくれている……メアリー塾の聴講を含めれば多分日本でも最高峰の受験環境だろう。ついでに学校の勉強だって教えてくれる

 

そしてそろそろその夏季講座の時間(学校勉強編)の時間が近づいてきた……しかし、大輝の隣に座る姫子の柔らかな感触や甘い香り。そしてその長い金髪をシニヨンにして纏めているからこそ少々珍しく見えるうなじ……

 

一応『自家発電』は爆睡手前までしっかりしてスッキリしておいたからまだまだ理性は大丈夫だがまぁそれでも来る本能の絶叫はおくびにも出さずに何時もの涼しい顔(ポーカーフェイス)で姫子を慈しむ

 

まぁ、そんな何時もの光景だが薬丸家のお手伝いさんの車が来た。名残惜しいが姫子を送らなくてはならない

 

荷物を手早く片付けながら姫子は……

 

 

「……ねぇ、にーさま?」

 

「どうした姫子?」

 

 

何か微妙な表情で姫子は大輝を呼ぶ

 

 

「うん、にーさまの剣さんについてなんだけど……」

 

 

大輝はその一言で姫子が何を言おうとしているのかはっきり分かった

 

 

「高和兄さんの店には必ず行くけど……あいつは『サービス』には乗り気じゃ無かったからな。出すにしても多分クラスチェンジ先のチェックぐらいだろうさ」

 

「……うん、ありがとうにーさま。菫も『覚悟を決めた』って私に言っていたんだ」

 

 

稀な話ではあるが……『カード同士の色恋沙汰』というものはちゃんと存在する。大概は同じマスターに仕えるカード同士だが恋人、夫婦、家族、親友などの近しい間柄同士のカード達による『カード遠距離恋愛』も更に稀ではあるが存在する

 

基本的にその感情の行き先はマスターの性格と匙加減、そのカード達のそれまで決まる。貢献度にもよるが性格の良いマスターなら普通に認めるだろう、そのカード自身がどうしようもない輩だったり性格の悪いマスターならそれを決して赦さないパターンや特に酷いと片割れを何処かに売るなりその片割れの見てる前で……といった悪逆三昧という鬼畜過ぎるケースもある

 

ちなみに大概のガチ勢達はまず間違いなくそれを認めて祝福さえする。こういう自由を認めての御恩奉公はカード達との仲を円滑にしてくれるし彼らも気持ち良い頑張ってくれる様にもなる

 

大輝も女の子カードはそういう『配下に嫁を宛てがう為』という目的で欲しかったのだが……『こういう特異体質』だからそのプランは消えてしまった

 

大輝にとっても剣は相棒であり幾多の闘いを……特にイレギュラーとの壮絶な死闘を共に乗り越えた大切な相棒だ

 

また。姫子にとっても菫は彼女が五歳の頃からの非常に長い付き合いであり、彼女が関わってきた実験でも常に彼女の侍女兼乳母として長く長く尽くしてくれて来た相棒である

 

そんな二人の幸せの為なら一肌二肌でも脱ごうというものだ

 

まぁ……そんな感じでそれぞれのカード(配下)の恋路を応援する為に本格的に動く事を決めた二人だった

 

 

……もう少しだけいちゃいちゃしていたかったが既に近くに足音、いや忍び足が聴こえてくる。恐らく薬丸家のお手伝いさんがスマホ片手に二人のラブシーン盗撮か何かを企んでいるのだろう、ついでに大輝の両親も間違いなくグルだ

 

今日のストロベリー・タイムは剣と菫の新たなカップルの為に譲る事にした

 

 

 

【Tips】カード同士の色恋沙汰

 

基本的にカードはそのマスターと色恋沙汰になる場合が殆どだが、稀にカード同士が色恋沙汰になる場合もある

そういう事が起こった時はマスターの胸先三寸次第であり……そのカードの性格や貢献度、マスター自身の人間性によって結果は大きく変わる

ガチ勢の場合は大概それを受け入れるパターンが多い……『その権利を与える事で恩義を得る』という実利や、歴史に残る『テーバイ神聖隊(ヒエロス・ロコス)』と同じ理屈(愛する者の前では無様を晒さず、互いに生き残る為に奮戦出来る)だ

更に稀な話だが、別のマスター同士のカード達が恋愛関係になったりするケースもあるし……更に。そして世界に数件しか例の無い話だが『マスター以外の人間を愛したカードの話』もあり、その実話を元にしたドラマも存在する

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