本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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今日は久しぶりにアンケートやります


一章幕間その4 御札商売

 

『阿部カードトレーダーオフィス』

 

一見単なる結構小綺麗な雑居ビル……だが実際には新米札商:阿部高和の所有する拠点(オフィス)であり自宅(居城)

 

半引退……既にプロ資格を返上しているとはいえ未だ現役が務まる超一流冒険者でもあるので冒険者事務所としての側面もある。超一流冒険者の拠点らしく様々な装備とセキュリティ、そして対アンゴルモア備えも万全の正に『漢御殿』である

 

実際、彼の嘗てのパーティーメンバーにして『札商:阿部高和の専属冒険者達』の為の拠点……いや、プライベートルームである最上階は彼らのハーレム御殿とでも言うべき環境でもあるのか?まぁ完全にプライベートの話なので特に『そっち方面』に興味の無い同胞同門や客人には関係ない話か

 

大輝も何時かは必ずこういう『立派な拠点(居城)』を築きたいと思ってはいるがそれは何時の日になるかまだ分からない……少なくともアンゴルモア前迄にはちゃんとした拠点作りは大目標の一つには入っているが

 

……尤も、大輝の場合は『姫子との愛の巣』と言った方が正確かも知れないが

 

事務所内ではどうやら商談を終えたばかりらしい高和が煙草を灰皿に入れて揉み消しながら大輝を出迎える準備をしていた

 

 

「よぅ大輝、待たせちまったな?」

 

「なぁに、大口の商談だったんでしょ?構わないよ」

 

 

気安い応酬から二人は連れ立って事務所を直ぐに出て最寄りのDランク迷宮に向かう……今回は攻略なぞ考えてもいない。何せ『大輝のカードとの面談と適応するカード探し』が主目的なので入り口の安全地帯だけで全て事足りる。攻略だって高和なら一人でも数時間有れば容易く出来るだろう。今のスーツ姿でも簡単にだ

 

大輝も腰のカードホルダーに『準備』は何時だって万全に出来ている……未だ『装備系魔道具』は整備から帰って来てはいないがまぁ大丈夫だ

 

高和の免許……シルバーカラーの三つ星免許でDランク迷宮に入る。大輝だけでは決して入れない場所である。ついこの間の姫子の立場になった様な気分になる

 

最低限の免許さえ有れば理論上は一つ星だろうと合法的にAランク迷宮に入場出来る……入手資格のある冒険者と一時的にでもチームを組めれば、だが

 

これは『チーム制度』と呼ばれる制度の……所謂一つの『裏技』みたいなものであり、普通は上位冒険者が自分の部下や弟子などを鍛える為に使われる裏技だ。先の例に挙げた様な『一つ星をいきなりAランク迷宮に連れてゆく』様な倫理的にもとる使い方は殆どどう言い繕っても『自殺幇助』にしかならない事を明言しておく

 

今の高和が大輝みたいなタイプを連れて……本当に攻略してしまうのは大いにアリだ

 

出入り口付近は確かに安全地帯だが警戒の為に即座に大輝は即座に定とあの戦いで使わなかった他のカード達を一瞬で選んでホルダーから引き抜いて召喚する

 

今回の編成は定、祝、蔵、キキーモラ、オーク二号、ホブゴブリンという編成だ

 

定と祝は索敵兼前衛、蔵とキキーモラは後衛、オーク二号とホブゴブリンは前衛追加……今回の主旨的にこいつらも『貴重な戦力』だから選択した。剣は『既に予約済み』だから高和の思惑的には戦力外だ

 

定に渡す得物は今整備中だが一応は持っている凡庸の刀をカードのまま渡しておく、今の環境(Dランク迷宮)からしても今まで使っていたもの(ご機嫌な武具)に比べてもまるで頼りにならない貧弱なナマクラだがまぁ無いよりは絶対にマシだ。最悪大輝のサバイバルナイフ……自衛隊仕様らしく純聖銀造りだってある

 

一方の高和は……悠然と一枚のカードをやはり腰のカードホルダーから引き抜いて召喚していた

 

それは洋館だった……洋館型と言えば普通はウィンチェスター・ハウスかDランク最高値のヘドンホールハウスが挙げられる、しかしこの洋館はウィンチェスター・ハウスの様に無秩序に改築された様には見えないしヘドンホールハウスよりも圧倒的に強い存在感がある

 

そして、洋館とは言ってもむしろ和の混在した異人館と擬洋風建築の間の子の様な印象を感じるから恐らくは日本に纏わる異空間型だろう

 

大輝の見立てでは恐らく……ヘドンホールハウスかシルキー辺りからのクラスチェンジで洋館風になったマヨヒガか何かだろう、同じ日本製の猫又屋敷という可能性もまたある。しかし最近発見された足洗屋敷は無いだろう。あれはこんなに綺麗な屋敷ではない筈だ

 

……その洋館から出て来たのは大正浪漫を思わせる女給姿で、スレンダーながらもメリハリの効いたやや小柄なショートボブの黒髪が美しい妖精の様な女性だった。この美女は高和の迷宮での拠点であるマヨヒガの本体である元シルキー、高和の旧くからの仲魔で確か名付けもされていると言っていたのを今思い出した

 

マヨヒガ、それは東北、関東地方に伝わる奇談の一つでかの民俗学者柳田國男が遠野物語に記載した事で有名になった。その性質は『山神からの贈り物』であり、約束事または隠り世の掟さえ護れば福を齎すとされている

 

カードとしては『異空間型』の一種だが……大輝が持っている燈無蕎麦とは比べ物にならない程に隔絶した差を持つ

 

大輝の燈無蕎麦は辛うじて二人が鮨詰め状態でギリギリ避難所代わりに使える様な貧弱貧相極まりない代物である……尤も、その貧弱極まりないカードでも『現状、入手出来ただけ非常に運が良い』と断言出来るのだがそれはまぁ良いだろう。一応『蕎麦だけは絶品』という明確な取り柄だってある

 

本当に最低限ではあるが屋台型だけに調理施設もあるし丼や箸、飲み水だって出せる、ついでに火鉢もあるから暖も取れる(寒い迷宮では以外と休憩時間に重宝した)

 

大輝の燈無蕎麦だって『住めば都』だと言えなくもないが流石にこの豪邸とは比べ物にはならない(てか出来ない)

 

そしてそのマヨヒガの中もまるで石油洋燈やガス灯の様な……でも辺りをはっきり見渡せる不可思議な照明と女中の案内に誘われる様は正に洋風なのに何処かに和が入り混じった大正浪漫チズムを感じさせる。大輝はまるで江戸川乱歩の小説……少年探偵の小林君にでもなったかの様な気分に少しだけなっていた。迷宮内なのに少しだけ歳相応に戻った様な高揚感を感じてしまう

 

今回の『明智探偵』たる高和は、やはり悠然と自分専用の迷宮拠点であるマヨヒガに大輝を手招きで呼び寄せる。こういう隠り世(かくりよ)に人を招くならやっておいて損は無いだろう……迷宮そのものが黄泉とも地獄とも幽世(かくりよ)とも言えるからあまり意味は無いかも知れないが

 

少し浮ついた気分にもなりはしたが、これから先は商談だ。武器や魔法の代わりに金銭やカード、魔道具(資産)を使う戦いだ……相手は『胸を貸してくれる格上(兄弟子)』だが

 

 

「さて大輝……先ずはそっちの最高にいい男を俺に紹介してくれるか?」

 

 

大輝の側に控える定が応じ、まぁ普通に対話は始まった。こういう場合は仁義切りも必要はない、やるのは親分である大輝だろうが高和と大輝の関係なら今更が過ぎるしそんな冗長な遊びをやる趣味はお互いあまり無い

 

軽い雑談から大輝は……自分が思った『定に合いそうなクラスチェンジ先』を高和に告げる。そのカードが在庫にあるかどうかだ

 

高和も『そのカード』を告げられて少々驚いた。普通の手の目ならまずそのカードに適合する事は無いだろう、そのカードの性質と手の目の性質で似通う特徴なぞ『日本のカード』と『装備化カード』である事ぐらいだ

 

しかし……大輝のこの手の目はバリバリの武闘派であり何より『抜刀術の達人』という点に高和は注目した

 

 

「なぁ大輝……まさかとは思うが、お前が『これ』に眼を付けた理由って」

 

 

ことり、と腰のカードホルダーから出した『件のカード』を伏せ置きした高和は大輝にその発想に至った経緯を聞いてみる

 

 

「ん、高和兄さんの考えた通りだよ。定には普通の座頭系は逆に合わないと思う、だから先ずはこのカードから定に試して貰いたいと思ったんだ」

 

 

出された紅茶を啜りながらこう返答してくる大輝、高和から見てもこのクラスチェンジは一見突飛で普通なら上手くいかないと思う……そんな奇異な代物ではある

 

何せ……手の目の次が『呪われた刀』と来たものだ

 

高和は伏せたカードをひっくり返してそのカードを晒す

 

 

【種族】贋作妖刀/打刀

【戦闘力】150

【先天技能】

・贋作村正:一応は『村正』と銘打たれてはいるが倒幕の意を込めた徳川幕府に不満や復讐心を抱く者……特に維新志士の弦担ぎによって生まれた贋作妖刀の幾多ある一振り

初等クラスの装備化スキルと浮遊を内包する、支持肢が無いので物を持ったりなどは基本的に出来ない

・倒幕妄執:幕府に不平不満や復讐心を持つ者達の怨念怨嗟が概念的に染み込んでいる、しかし所詮は贋作なのでそこまで強い力は無い

その性質からか器物系統としては強い自我を持つ

無下に扱うと反逆系マイナス技能に目覚め易い

剣術、武術を内包する

・贋作模倣:所詮は村正の贋作に過ぎない無銘刀ではあるが、それが故に模倣もそれなりには出来る

『日本刀型魔道具』ならば取り込んでその能力を自身の能力として扱える様になる。この能力を使えば『物品憑依型』として扱えるが代わりに武器型魔道具の装備スロットを消費した状態になる

その取り込んだ日本刀型魔道具が壊れたら元の刀身に戻りその日本刀型魔道具は消滅する。擬似的ではあるがその日本刀型魔道具を身代わりにする能力とも言える

要はジェネリック付喪神みたいな能力であるが、取り込んだ魔道具の再生能力は無い。しかし通常の武器型魔道具と同じ様な修繕は可能

【後天技能】

・気合一閃:気力や魔力を消費する代わりに次の一撃の威力が跳ね上がる。剣、刀状の武具を装備していないと使用出来ず、発動させればその武具の耐久性が大幅に低下する

・礼儀作法

 

 

贋作妖刀、このカードは日本津々浦々に存在する『妖刀伝説』を元に生み出された……いや、むしろ粗製濫造された村正擬きの妖刀達の一振りだ

 

『妖刀』と言えば誰もが『村正』と答えるだろう。村正の存在した時代は戦国から徳川幕府の時代で時の絶対権力者たる徳川幕府への反逆の旗印代わりに適当な数打ち刀に『村正』と勝手に銘打つ者が後を絶たなかった

 

このカードはその『粗製濫造された村正擬き』としての性質か非常に個々の質のバラつきが激しい。大概は下手な数打ち刀ばかりだがごく稀に『名刀』と言える様なクオリティーを持ったカードも混じっている事があるらしい

 

カードとしての性能だが、間違いなく『装備化カード』としては優秀ではあるが『刀一本だけ』という絵面が非常に怖いと大概の冒険者達は忌避する傾向にある様だ。リビングアーマーみたいに全身をきちんと防護出来ないイメージが強くて扱うのが怖く感じるとかどうとか言われている

 

それにその性質上反逆的な気性の強いカードでもあるので取り扱いには注意が必要である

 

要は『使うのにひたすら勇気が必要』という性質から来る欠点でマイナーカードとして扱われるピーキーな一枚という訳だ

 

勿論、このカードを愛用してモンスターと肉弾戦をやれる真性のガチ勢達からはひたすら好評ではある。生身を晒している様でも一応ちゃんとバリアだって存在するし贋作妖刀がダメージを肩代わりしてくれるから実際にはリビングアーマーと同じではあるのだが

 

それに、このカードを使う様な気骨の持ち主ならば大概このカードは主を認めるものだ、余程のへそ曲がりでも無い限りは

 

そしてこの贋作妖刀には類似種のリビングウェポンと同じく色々な種類が存在する。今ある打刀型や短刀型、珍しい処だと槍型と『村正シリーズにあるもの』ならだいたい同じものが存在する。仮にも『村正の贋作』であるが故に

 

基本的に癖は強いがかなり強力なカードである事は確かなのでガチ勢からは信頼厚い代物として(ガチ勢や日本被れの外国人からは)非常に人気の高いカード、それがこの贋作妖刀である

 

ちなみに『真作の村正』は様々ある銘ごとに幾つかがCランクカードと化して存在している。村正の切れ味を遺憾なく示す『千子村正』、吉原百人斬りで有名な妖刀としての側面が一番深い『籠釣瓶』、村正の作たる名槍『蜻蛉切り』などといった真作達が存在していたりする

 

そして……その妖刀(擬き)は今、定の前に置かれた。定の反応は?

 

 

 

【Tips】冒険者の拠点

 

プロやプロ志望の所謂ガチ勢は人にもよるが大概三つ星資格を得た地点から間違いなくチームを組む。プロクラスであるCランク迷宮からは間違いなく難易度が爆増する為と恒久的チームを組んで登録すると税金控除などの特典があったり……何より組む相手次第ではあるが三つ星だけでもCランク迷宮に挑む権利を得られたりするからだ

そんな恒久的チームは大概集合場所や入手出来た成果の集積・保管施設、メンバーの憩いの場、装備の保管所や……対アンゴルモア備えなど様々な目的の為に地上様にも拠点を作成・設置する

その拠点も冒険者の性格やチーム規模……そしてその冒険者の懐事情によって様々であり。ある者は一軒家、またある者は雑居ビルを買ってまるまる拠点化、更にある者は豪邸や専用施設を最初から建築したりと様々な様式で拠点を作成する

学生冒険者が所謂『冒険者部』を作るのも言ってしまえばこの拠点設営の一種だと言える……勿論、期間限定でしか使えない代物ではあるが

冒険者の拠点は最低限必ず高いセキュリティでの警護が必須となっている。冒険者の装備……カード以外の装備だって結構なお値段だし何より収穫物や予備カードなどの非常に高価値な資産がある為だ

 

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