……今更書き忘れを思い出した間抜けは私です
第一次Eランク迷宮弾丸攻略から直ぐに姫子とのデートや二日で済んだ残り三つの迷宮攻略に幾つかの買い物……用事や友人達の宿題の面倒を見たりしつつ、戦力なら兎も角マッピングと謎解き、それと強化メンバーの戦闘力向上にこそ一番時間を費やした弾丸ツアーDランク迷宮攻略試験の結果遂に八月二十三日、約束の日二日前にその迷宮極夜に覆い隠された古城型迷宮の主と御対面に成功した
それは……青白い貌の中世貴族めいた冷徹そうな貴公子だった
ヴァンパイア
なるほど、古城に相応しくCランクでもかなり強い人気モンスターの一種であり、敵対するならその能力の高さと不死の怪物らしいしぶとさが厄介な怪物だ
しかし……今回大輝はしっかりと聖銀武具を幾つか調達して
今回の編成は剣、燈、定、巌、祝、キキーモラの殆ど最初期メンバー編成でいく。こちらの最大戦力である剣には聖銀の斧を持たせてヴァンパイアの不死対策はバッチリ。燈は下に無限水筒製水溜りを敷いてからヴァンパイアをこんがり焼いて貰う為。定には神通力があるから何時もの二刀流無銘の銘刀を装備させる……が、今回は戦力としてではなく従来の司令塔兼リンク補強に専念して貰う。巌は燈の、祝は大輝/定の護衛でキキーモラは回復役、ついでに最低限ではあるがヴァンパイアへの攻撃手段があるからの起用となる
やまらのおろち&いやみは隠し札として戦況次第で投入予定だ
ヴァンパイアは迷宮ボスとしての強化で眷属グールを五十体程従えて古城の玉座の間にて待ち構えていた
なるほど……確かに生半可な戦力ではこのグールの群れにカードが擦り潰されておしまいだろう。ちゃんと鍛えたDランクカードを六枚……なるべくなら予備戦力の準備や魔道具の準備、それと切り札となるCランクカードの一枚でも用意すべき強敵であり要は『ハズレ枠』だ
普通の挑戦者ならギブアップしてもう少し弱い相手になるのを待つ方が賢い選択かも知れない……普通の挑戦者なら
しかし佐藤大輝という男は決して『普通の冒険者』とは言えない存在だ……最早そう、なってしまったのだ
それに大輝からすれば二つ星昇格試験の時の『
何より、嘗て挑んだ死神の時よりも今のデッキ編成は圧倒的に豊富で潤沢なデッキ編成を成立させているのだ。決して『気組み』だの何だのといった精神論だけの話ではない
『単騎で死神に打ち克つ』という経験は決して伊達でも酔狂でもない……そもそも『死神に挑む事』そのものが狂気の沙汰扱いの危険行為だが
初手は燈の眷属召喚からだった。迷宮極夜という環境かつ一応は下に水溜りがある状態……不完全ではあるが一応『条件』を満たせたので一秒に一体の鬼火を召喚してグールの群れに投げつけるのと同時にカリカリに強化された火炎魔法の乱舞で開幕の花火とした
まるで木っ端の様に吹っ飛ぶグールの群れ、群れ、群れ!その中に片手持ちの戦斧を構えてまるで颶風の様に突っ込む黒い影。勿論それは大輝のエースであるエルフの剣だ
嘗て使っていた大戦斧の様にはいかぬ、それでもオーク時代の
ヴァンパイアは……まるでこの古城の主の様に玉座に座りながら
確か……ヴァンパイアという怪物はエルフに匹敵する戦闘力に、敵の血を吸って回復する能力があり、闇夜ならばほぼ不死身で状態異常に強く攻撃魔法を操るんだったか?
ヴァンパイアの情報……かなり有名なモンスターだから大輝も即座に正確な情報を思い出して『テレパス』で仲間達と情報を共有する。今日までの弾丸探索で鍛えあげているからこの程度のリンクは定抜きでも容易く出来る
今の大輝/定なら『シンクロ』で単体だけなら50%其処らのバリアにかかる力を無理なく返還可能だ、無理すれば80%はいけるだろう。複数ならば最大三体に20%返還が出来る
大輝単独ではテレパスは普通に、今のDランク迷宮の規模なら出来る。感覚共有だって万全だ……シンクロはまぁがんはれば一体に30%がせいぜいだが
今回は剣に無理ではない限界値50%のシンクロだ……大輝は意識を剣に合わせる
大輝/剣/定……未だ上手く一体化出来ては大輝と剣の意識を定が調整してどうにかこうにか二つの意識を重ね合わせる。大輝/剣とその箍にして外付け制御機構と化した定の歪で不格好な三位一体の動き
しかし、それでも大輝と剣は『主従一体の境地』に至る……まだ手習い程度ではあれど、それでも至る事には成功している
プロからすれば『未だ拙く未熟』と言われる範囲ではあるが、それでも『今の年齢かつ半年未満の冒険者経歴でこれが出来る』ならば間違いなく非常に高い評価を得られるだろう
目に見えて素力、早さ、技のキレが増した剣の猛攻でズタズタに切り刻まれてゆくヴァンパイア。迷宮極夜ならば殆ど不死身……である筈が剣が持つ武具は聖銀製、その傷は決して直ぐには治らない
グールの群れも既に全滅して援軍のアテなぞ勿論無い。ボスとして強化された力だけでこの
更には後詰めに新たな
しかし……それでもヴァンパイアは諦めない。そもそも迷宮のモンスターは『不利だから』と諦める様な存在では無い。そもそもこの十数年の迷宮史で普通に逃げるモンスターなぞカーバンクル以外にはまず存在しない
ヴァンパイアの最後の策は非常に簡単だ、
そう考えて実行する為に動こうとした地点で聖銀の戦斧で手足を切り捨てられていたし喉も切り潰されて挙句の果てには剣にのし掛かられていた。最早……最早このヴァンパイアには何も出来ない、もう転がってぶつかる事すら出来ない
しかし、佐藤大輝という男は迷宮のモンスターをこういう風に生かしておく様な男だったか?事務的にモンスターを駆逐はするがこういう風にモンスターを嬲る趣味はまず無い筈だ、何より彼はそんな暇人では無い
今ヴァンパイアを潰しながら生かしていた理由……勿論、それはちゃんとある。それは大輝のカードホルダーから出したあるカード、アイテムカードらしいそれを実体化した際に分かるだろう
『それ』は禍々しい瘴気を放っている
『それ』は一見、非常に大きいが刃毀れに塗れ細かい罅が処彼処に入った襤褸の出刃庖丁に見える
『それ』は血脂と血錆に覆われ、微かだが良く嗅げば分かる悍ましい臭気を漂わせている
『それ』には最悪の悪意がこびり付いている
そう、それは大輝が撃破したあの瓜子姫の武器にして贈り物である
『瓜子姫の出刃庖丁』
強烈かつ凶悪な、呪われた悍ましい呪具である
大輝はその悍ましい呪具……出刃庖丁でヴァンパイアの急所である心臓と脳を一思いに深く突き刺す。その二撃で完全にヴァンパイアの息の根を止める。この出刃庖丁には『非実体モンスターでも普通に切れるし殺せる』という能力が副次的に備わっているが、この悍ましい呪具の本当の使い方は全く別の処にある
普通、倒したモンスターは魔石なり運次第ではカードになったりとして消滅するのが普通だがこの出刃庖丁で殺した場合は少しばかり事情が変わる
そんな特性を持っている……が、これは『本当の特性』を行使する為の準備段階に過ぎない
時に……話は変わるが、貴方は『瓜子姫』という御伽噺の内容をご存知だろうか?
『瓜子姫』という御伽噺は日本中に存在するが時代や地方の差異でどんどんマイルドなものになったりもするが……『イレギュラー』が関わるならその物語は古今東西全てで必ず『一番酷い過程や結果』をより悪意的に再現してくるだろう
例として浦島太郎を挙げるが……最後に玉手箱を開けて老人になるが、それから更に太郎は鶴となってのエピソードは省略されて只『理不尽に老化する』という結末だけが残る。グリム童話の系統ならば簡単だ……より『原典』に近づくだけで充分だろう
そして瓜子姫だが……瓜子姫は天邪鬼に騙されてすり替えられる。しかし何をどうやって?マイルド版なら瓜子姫の服を剥いで瓜子姫を木に縛り付けるだけだが、主に西日本で伝わる謂わば『ハード版』なら非常に陰惨かつ惨虐なものに変わる
天邪鬼は瓜子姫を殺して生皮を剥いで化けた
という非常に血腥く救いの無い内容になる。恐らくこれが『瓜子姫の原典』なのだろう
そしてこの悍ましい出刃庖丁は瓜子姫のこのエピソードを再現する能力を備えている
ぐじゅ、ぐじゅ、ざしゅ、ざしゅ
大輝は暫く残るヴァンパイアの屍骸から『あるもの』を剥ぎ取る。非常に不愉快で慣れない……いや、決して慣れてはいけないその冒涜的かつ猟奇的な作業を黙って淡々と、しかし急いで行う
この出刃庖丁には『その作業』を的確に、適切に行う事を補助するおまけ機能も存在する……肉や魚に限ればかなり楽に解体できる。が、こんな悍ましく不衛生な庖丁で解体した肉なぞまず食えたものではないだろう。倫理的にも衛生的にも
大輝がヴァンパイアから剥いでいるもの……先に挙げた瓜子姫のエピソードが答えだ
大輝はヴァンパイアの生皮を剥いでいた
いくらバケモノ相手とはいえ、仮にもヒトに限りなく近い造形の『それ』から躊躇なく生皮を剥ぐ光景は正気の人間には余りに不快な、猟奇的で冒涜的かつ悍ましい作業だろう
唯一救いがあるとすれば……物音の気持ち悪さに反してその作業そのものは非常に簡単に出来てしまう事だけだろうか?
その酷く悍ましい作業は容易く、だいたい五分も掛からず簡単に終わりを迎えた。その作業終了から直ぐに消滅するヴァンパイアだった肉塊と衣服の切れ端……この出刃庖丁の能力と生皮の代償としてこの手順でモンスターを退治するとカードどころか魔石を得る事さえ不可能になる
しかし、この手順を経て手に入れた生皮にはもの凄い力が備わっている。今はまだ使う訳にはいかない……何せこの生皮の使い道は使い捨てでもあるから
そしてこの生皮を今度は庖丁に突き刺して念ずる……すると不思議な事にその生皮は庖丁の中に吸い込まれて消えた
なに、これはこの生皮を使う為にストックする為の手順だ。言うなれば『登録』でありその『登録』はこれから先の『本番』の為に絶対に必要な作業だが
もう一度この出刃庖丁に念じて『確認』を行う
※:ヴァンパイアの皮
※:オークの皮
※:グールの皮
今現在『登録』されている生皮のリストが頭の中に思い浮かぶ……他にも幾つか生皮はあったが『使った』からもう無い
さて此処からが本題だが……この不気味で悍ましい物体を如何なる目的で如何なる用途に使うのかと言うと、だ
被り纏う為、である
ひたすら悪趣味かつ不気味な行いだろう。しかしそれにはちゃんとした意味と効果がある
この生皮は『登録』したものを『発動させる』と念じれば一度だけ、一時間ほど具現化出来る。そしてその生皮を被り纏えばそのモンスターの姿そのものになり能力を得られる。要は『変身能力』だろうか?
その性質は、とある学者らの見識や被験者らの言葉に依れば『変則的な装備化能力みたい』らしい。所有者は他者にもこの生皮を被り纏わせる事でその他者にもこの変身能力を与える
そしてそのモンスターが存在する階層限定、という前提条件はあるがその迷宮階層では襲われる事はない……勿論、その生皮の持続時間までではあるし、一度でも攻撃行為を取ったり一言でも喋ったりすればその『モンスターに同種であると思い込ませる擬態効果』は失われてしまうが
勿論、この出刃庖丁の能力にも色々な制限や制約がある。先ずは最初に先の『解体作業』が必須であり、次に『登録』などにも色々ある
死体固定化は一日一回だけ、最大登録数は十体分まで、一度発動させれば必ず一時間ほどで生皮は消滅する、被り纏い心地は最低最悪等で終われば必ず腐った血脂でべったり汚れる々挙げればキリがない
しかし、その能力の凄まじさと『他にもある隠し球』など色々と使い熟せれば非常に強い力となるだろう
大輝は『やりきった』とばかりに頭から無限水筒の清水を浴びて不快な血臭を洗い清める。ついでにキキーモラ婆さんに浄化もして貰う
そして最後にガッカリ箱を開ける……目的の白魔石の他には、今日は刀が入っていた。定に鑑定して貰った結果は『最上大業物•長曽禰虎徹』だった
こいつは新撰組局長たる近藤勇の愛刀であり、かの有名なフレーズ「今宵の虎徹は血に飢えておる」で有名な名刀の中の名刀だ。そしてこの虎徹は特殊な能力は無いが、『戦闘力+300』という強力な切れ味と刀系魔道具の中では最高クラスの頑丈さで有名である
一流クラスの刀使いな冒険者からはこの頑丈さから愛好家が沢山存在する銘品として知られている。これを求める冒険者の数は非常に多く市価はだいたい三千万万円其処らだろう
勿論、大輝的にはこれから必ず使用する事にはなる……が、それは多分少し違う使い道になるだろう
前回三つのEランク迷宮と今回の金銭的リザルトはこんなものだった
後は帰るだけだが……いや、やはり足洗屋敷で一風呂浴びてからにしよう。三つ星資格は逃げないし、身嗜みは実際大切だ
そんな事を考えながらカード達を労いつつ足洗屋敷の準備をする大輝だった
カード
エンプーサ
グール×2
黄泉醜女
レッサーデーモン
Eランク女の子カード十枚
E&Fランクカードたくさん
魔石
Eランク白魔石三つ(納品)
Dランク白魔石(納品予定)
通常魔石だいたい二百万円分
魔道具
無銘の戦鎚(金色のガッカリ箱より)
銘酒・酒屋殺し(金色のガッカリ箱より)
白紙のカード十枚セット(金色のガッカリ箱より、帰還後即冒険者ギルドに引き渡す予定)
『最上大業物・長曽禰虎徹』(攻略報酬)
換金アイテム
カーバンクルガーネット三粒
不用魔道具だいたい百万円分
特殊
ヴァンパイアの皮
オークの皮
グールの皮
【Tips】皮剥庖丁
イレギュラーエンカウント『瓜子姫』が稀にドロップする魔道具の公式名称
天邪鬼が瓜子姫に化けるエピソードを再現するかの様に『特定の手順』を行使すればモンスターに化ける能力を得られる。しかし非常に多くの制限や欠点を抱えている為用法にはくれぐれも注意が必要
その酷い見てくれに反して切れ味は非常に鋭いが、その傷口は酷くぐちゃぐちゃに悪化する作用がある。大剣からダガーサイズまで伸縮自在で負傷悪化と非実体攻撃可能の作用を持つ攻撃力+100の武具型魔道具として使えるが耐久性は無銘の武具程度なので武器としての使用はあまりオススメ出来ない
肝心要の能力は『一日一回だけ、モンスターの死体を僅かな時間だけ消滅を抑える事』、『そのモンスターの死体から生皮を非常に効率的に剥ぐ事』、『その剥いだモンスターの生皮を皮剥庖丁に登録、収納する』、そして最大の特徴にして能力は『登録、収納しているその剥いだモンスターの生皮を被ってそのモンスターに化ける能力』だ
この庖丁の所有者曰く『装備化能力持ちのモンスターを装備している感覚?』らしい。実際この生皮を被り纏うとその皮の元を装備している状態になるらしい
そしてこの生皮を被り纏っている状態だと、その皮の元のモンスターに成りすまして他のモンスターに認識されず攻撃されないという効果もある。しかし一度でも攻撃行為や発音したりするとその擬態効果は直ちに消失するから要注意……恐らくこれは『瓜子姫に化けた天邪鬼の擬態がお粗末なもので必ずバレている事』が由来の効果だと思われる
また、この生皮の内側は血脂なぞ一切取ってはいない……掃除する暇さえ無い、ので被り纏う時は非常に不快な体験をする事になるので所有者は覚悟が必要になる。効果時間が切れたら皮はぼろぼろに崩れ去るけど腐敗した血脂が身体中にべったり張り付くので清掃手段はあった方が良いだろう
この庖丁は自分自身や自身のカードにしか使用出来ないが、皮を纏わせる事ならそれ以外の他者にも可能だが……但し皮のストック次第ではある
皮のストックは最大十枚まで。『固定化』は一日一回だけ。モンスターの皮は迷宮外でも出せるが、直ぐに崩れ去る。皮を被り纏うと非常に不快な体験をする。一度出した皮はもうストックには戻せない。皮の使用期限はストックから出して一時間以内等々の沢山の制限制約はあるが非常に強力な魔道具である事には変わりない
一応、違法な研究者の遺したファイルに『人間の皮』でやればどうなるか?の実験結果もあるが……単なる『剥がされた人間の皮膚』のままだった為この魔道具は『人間に化ける機能は無い』と判断されている。その為所持禁止類魔道具には登録されなかった。瓜子姫も何らかの人ならざる存在だったからでは?という推論がされている
『カードに対して使う』という実験も行われていて、この庖丁には『カード破壊能力』もあり、それで壊したカードのデータを奪う力もある……それをやると元のストックは全て消失、そのデータを解放するまで殆ど只のオンボロ庖丁に戻ってしまう事、そのデータも最大五日ぐらいしか持続しない事、そのデータを直ぐに使おうとも一月ほどこの庖丁は能力を喪失したままになる事などの制限制約がある。恐らくは『カード化したモンスターのデータ数』をこの庖丁では許容出来なかった為だろうと推論されている
ちなみに『名付けしたカード』だと死亡扱いで『ソウルカード』になるらしい、そしてその『ソウルカード』はこの庖丁でも破壊不可能である
『データ解放』には幾つかの使い道があり。一つは普通にそのデータの生皮を召喚して何時も通りに使う事、もう一つはそのカードの記憶を視て聴く事が出来る、ついでに『視念珠』と『聴念珠』が有ればその記憶のダビングも可能
非常に癖が強く、使い手の精神力を削る仕様ばかりではあるが『使う覚悟と精神力』があるなら非常に強力な魔道具だといえる代物