ささやかなパーティーを経て次の一日をゆっくり骨休め……朝から仕事に行く四人の為に二日酔いに良い朝食と弁当を朝一で姫子に料理技術を教えるついでに作ったり二人でモンコロ観戦したりデッキ議論したり夏休みの宿題に抜かりは無いかを再確認したり大輝の新しい冒険者装束を取りに行ったり姫子の膝枕で安眠したりと平和な一日を過ごしていた
割とどうでも良い話だが、新聞紙を貼った洗面器は今回は使わずに済んだ様だ
夏休みの終わり……ニアピンした様だが姫子も昨日大輝と同じく夏制服上着の胸ボタンがキツくなって弾けてしまったり『理想の下着』のホックが痛んできたので新しい制服や下着を買いに行っていたらしい、何とも変な処で似るカップルである
佐藤夫妻も薬丸夫妻も昨日はちょっと無理をして
前に……大輝の夏休みの始まり、二つ星試験最初の頃のあの話は読者貴兄も覚えておられるだろうか?
大輝が
あの一件をきっかけに大輝は一夏で二つ星超えて三つ星資格を電撃取得出来たものだ、そしてその一件で起こった様々な突拍子のつかない事象や珍現象の解明とデータ採取の為に八月二十五日の朝からから二十九日の夜までギルド、自衛隊、ダンジョンマート、エメラルドタブレット社、ニシモリ製薬等々親方日の丸から『ダンジョンマートとそれなり以上に仲の良い企業』の研究者達がそのデータを真っ先に入手する為にやって来る
大輝の特異体質……『女の子カードに対する重度の不適性』とあの特異極まりない
八月二十五日にギルド職員の送迎によって目的地……大輝も長らく通っている姫子もその所座を知らない、に通され手厚い歓迎を受けた大輝は先ず人間ドッグみたいに採血や身体検査、そしてもう一度『札見』を行なって大輝の適性を試す、そして様々な実験に協力する事になるだろう。最終日以外は健康診断程度で済むが
一緒に来た姫子はまた別の実験協力中である
それと……高和が持ち込んだ例の件である『足洗屋敷』も何気に注目されている。このカードは新発見されたばかりのカード空間系カードだが殆ど欠陥住宅としか言いようの無い代物だった、まぁ『住宅』ではなく『砦』として使う分にはまだ救いはあるかも知れないが
その足洗屋敷をちゃんとした住居系拠点に出来た事は大発見だと言って良い。今までクラスチェンジやマイナーチェンジで足洗屋敷を少しでもちゃんとしたものに直そうとしてもあの大足は据え置きだった
しかし大輝のクラスチェンジであの大足が可愛らしい小狸になった件で研究者達が大輝に更に強い強い興味を示してきた理由でもある
ちなみに……研究者達の間ではこのクラスチェンジによる『核の変化現象』についての推論は既に出ている。元々あの大足は『狸が化けたもの』という説があり、それを起源を同じく狐狸が化かしにくるエピソードかつ同じ『本所七不思議』である『燈無蕎麦』とのシナジーが効いたからではないか?との説が有力視されている
尤も普通の燈無蕎麦ではこの現象は起きず、普通の足洗屋敷になるだけだったが……日本各地のギルドから『狐狸妖』持ちを探して……マスター無しと名付けして愛用するマスター持ちのを一枚ずつ発見しての実験も行われた
結果は……マスター無しの方は普通の足洗屋敷になり、マスターが居る方は大輝の足洗屋敷と同じ状態になった、そっちは小狐型だったけど
更に同じ方向のアプローチとして『本所七不思議』である『送り提灯』を使った調査実験も行われた……これもちゃんと『名付け』して大切に扱われたカードならば『核』が提灯お化け型になる事が分かった。これも狐狸系統に化かされた話だからだろうか?
それと大輝が自分から付けていた『足洗屋敷(改)のレポート』もある。後々の評価に依ればその情報もまた良い参考資料になったらしい
こうして……『Dランク最悪の欠陥住宅』と悪名高い足洗屋敷にもちゃんとした使い道がある事が判明した、これで一般的なエンジョイ勢が少しだけでも『カードを大切にする事の重要性』を理解してくれる事を祈りたいものだ
兎に角、こうして足洗屋敷に纏わるあれこれは初日で解決した。しかしまだまだ大輝の特異体質に関わる調査や特別過ぎる手の目の調査だってある
スマホや電子機器は最初から持ち込み禁止なので数冊のまだ読んでいない本を用意する……この場所で過ごす大先輩である姫子からあらかじめ教わっていた『この場所でなるべく快適に過ごす為のテクニック』通りに積んでいたラノベと最新版の迷宮士資格用参考書にノートは用意済みだ
この場所は自衛隊が保有するシークレットダンジョンの一つであり、確かDランク迷宮だと聞いている。その中の安全地帯に駐屯地代わりに召喚されたマヨヒガ(通常仕様)の一室に大輝は通される予定だったが今回は大輝自身が召喚した『足洗屋敷(改)』で大輝自身と姫子、そして十数人の研究者が日替わり宿泊する予定に変更された
やはり研究者たるもの『実践』出来るならばやりたいものだろう
「……でだ剣、すまんが最終日前夜までは暫く待っていてくれ」
『……いえ、この状況ですし菫も分かってくれてますよ』
何処か哀愁を漂わせながらそんな会話を交わす
今回の趣旨的には間違いなく研究者一同が正しいので……決してその不満や義憤をおくびにも出さずに承認しておいた。流石に最終日前夜だけは『私用に使う必要がある』とは断言したが
もしもこの機会を逃したら次は最悪七ヶ月後になってしまう……せめて一夜だけでも素敵な逢瀬を二人に楽しませてあげたい処である。大輝的には一番付き合いの長いエースへの労いと自分の体質では出来ない嫁の斡旋に、姫子的には長年仕え尽くしてくれた……この研究協力の時間ずっと支えてくれたもう一人の
ちなみにこの『足洗屋敷暮らし』を体験した研究者達の証言で『大輝の足洗屋敷は他の足洗屋敷より圧倒に飯が旨い』という事実が判明した。普通の足洗屋敷だと品数少なく煮物が塩辛かったり魚の焦げが酷かったりと正に『不精男の雑な飯』であるのが普通だからである
そして次の日だが……大輝の体質実験からだった
大輝に沢山の……全て女の子カードなDからCランクのカード沢山とBランクカード何枚かを渡して『契約』をして貰う事から始まった
大輝が自分の指に針を刺して血を目の前に有ったカードに擦り込んでみた……しかしその血はカードに全く染み込まず、まるで鉄板やガラス板に水を掛けたかの様に血が流されて地面に落ちた
研究者達は顔を見合わせてその現象……今まで八年前から見続けてきた現象と全く同じだった
薬丸姫子が起こす現象と全く同じだった
佐藤大輝もまた世界で今現在二人しか発見例の無い『極度の重召喚不適合体質』である事が確定した
この『召喚不適合体質』というものは特定のカードとその性質……例えるならば『天使』系統を召喚するだけでその召喚した天使が悶え苦しみマイナススキルを獲得したりする。というこの体質としては軽い症状から『契約は出来るが殆ど召喚出来ない』という中度の症状、そして『その契約さえ不可能』な重度の症状まで基本的に三つの症例パターンが存在する
この体質持ちは世界各国津々浦々を探しても未だ百人其処らしか発見されていない。しかもこの体質が判明するのは『リンク能力に少しでも目覚めた時』かららしい。その証拠に世界各国のこの体質持ちはだいたい二十代から若くて十代迄だ……日本に居る『五歳でリンク能力に目醒め、しかも世界で一番重い症状と深い不適合属性を抱えた女児』という例外中の例外を除けば、だが
やはり今出された女の子カード全てと契約すら出来なかった佐藤大輝も齢十五の小僧なので間違いなく貴重なサンプルになる、しかも世界各国でも貴重な深い不適合属性持ちだ……更にはその症状が最初の報告よりも更に重くなっている
『色々なスキルを平然とガン積み出来る特異な容姿の手の目』に名付けした結果こうなったらしいが……この辺りは本当に再現性が無い、その貴重な手の目はまず何をどうやれば見つかるか?という話だ
その特異な……出す処に出せば莫大な金銭になるその容姿と色々珍しく強力な技能をガン積みした、恐らくは所謂『ギフテッドカード』であり『エラーカード』だと思う存在ではないかと研究者達がコメントしている
そして次は大輝のリンク能力調査だ。先ずは渡されたFランクカードのゴブリン三枚で大輝自身のリンク能力を、そして次は
「……っ!」
最初は通常の最大出力、次は限界まで……僅かな時間ではあるが頭痛がキツい。しかし
自衛隊員が操るゴブリン相手の実戦という名の試験中、使い捨て前提のゴブリンらに的確に『テレパス』で指示を送り、未だ未熟な『シンクロ』でゴブリンからのバリアのエネルギーを返還してゴブリンの力に戻す……大輝と一体化しているゴブリンは苦しげだが今は試験中だから情は捨ててかかる
今の大輝ならば定抜きでも『テレパス』は普通に出来るが流石にまだ多重シンクロは上手く出来ない……大輝の場合は一体に集中した方が良いみたいだ、要は『多重シンクロは未だ苦手』という事だ
一方で『単体シンクロ』には適性が高いらしく、前のヴァンパイア戦で新たなコツを掴んだか通常状態でも20%は可能になり、やはり頑張れば35%はいける程度に強くなっていた
そして定を装備化しての実験だが……シンクロ率は通常状態でも複数シンクロが25%はいける様になっていた、無理をすれば40%でもいける様になっていた
単体シンクロも無理をしなくても55%はいける、しかし無理をしても80%以上にはならない……大輝が鼻血を垂らしながら踏ん張ってもだ
恐らくは手の目によるチューニング能力の限界なのだろう。一体でも99%の『パーフェクトリンク』が出来るならその地点で『真なるプロの力量』を得た証だともリンク能力を知る者達の間では言われている
そして普通の手の目では単体シンクロ補助しか出来ず、その限界は普通に30%、優秀な個体でも50%がせいぜいだと言われている
如何に手の目がリンクチューニング能力を持っているとはいえ所詮はEランクカードである。もしもこのリンクチューニング能力がプロの使用に耐え得る代物ならば今頃手の目はプロ必携カードだ
要は『手の目』というカードは『プロ志願冒険者の歩行器』みたいなものだと言って良い。手の目の介助が必要なくなれば最早単なる欠陥だらけの弱い装備化能力持ちというだけの存在だ
しかし……大輝の
つくづく佐藤大輝という男は『引き』が鬼の様に良い、こんな凄まじい手の目を一発で引き当ててその重要性に気付いて『名付け』してまで離さないようにする勘の鋭さを見ていればわかる
もしも今、大輝がこの手の目に名付けをしていなければギルドも自衛隊も大義を以って強権を使い大金なりBランクカードなりを押し付けてでも大輝から無理矢理取り上げていただろう。そして自衛隊やギルドの貴重な備品なり研究資材なりにされてしまっていただろう
……運が悪ければ横槍を入れた何処かの好事家のコレクションとして大切そうに死蔵されたり、真に最悪のパターンとして
しかしその定にとっての破滅の未来は無くなった。既に彼に『
定としてもそんな暮らしは真っ平御免被りたいだろう。
『……あっしみたいなチンケな野朗にいい女抱く機会をくれたり、可愛い女の子よりもあっしを選ぶ奇特で最高な親分でさぁ』
『名付けはダサい』、『女の子カードでハーレム』だの何だのといった風潮なぞ知った事ではない、と我が道を肩で風切りながら征く佐藤大輝……その彼に付き従うカード達は多かれ少なかれこの定の胸の内と同じ様な事を考えている
大輝も知らない定の胸の内のほんの一欠片……これからも定は大輝の生命が尽きる日まで大輝の傍らで生きている。本当の『名付け』とはそういうものだからして
さて……次は三日目からの話になるだろうか?次回に続く