本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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今回から少し新しい試みをやってみます


一章幕間その12 他人の眼から見たあいつ

 

三日目の実験は定をメインに貸し出されたDランク奨学カード……オーク×2、ライラプスの仮編成でこのDランク迷宮攻略だ。何人かの自衛隊も一緒なのでまず間違いなくこの攻略は安全なものになるだろう。更なる大輝自身の安全確保の為に大輝自身のエースである剣と罠対策に蔵も召喚済みだ

 

ちなみにこのDランク迷宮は三つ星試験と同じ古城型であり。E、Dそれぞれの適当に選ばれた階層において『とある方法』で大量発生した……いや、させたモンスターを駆除する事になる

 

『何か禍々しい印象の笛』を同行する自衛隊員の一人が吹く……恐らくは大輝の持つ『皮剥庖丁』の同類だろう悍ましい気配を放つ呪物の力で一瞬にして大輝達は目的地の広場に辿り着いていた

 

その呪物は『ハーメルンの笛』、幾つかの制約制限は有れど迷宮内なら好きな場所に何度でも転移出来るもの凄い代物だ

 

大輝の『皮剥庖丁』と同じく『イレギュラーの贈り物』であり、『贈られた者以外には使えない』という共通の制約があるが、冒険者界隈では『英雄の証』みたいに見られるトロフィーみたいなものだ

 

大輝自身も幾らか『実物』を見た事はあるが……大概の冒険者らはこれらの存在を良くて『噂に聞く』、普通に『半ば都市伝説』扱いが普通だが

 

……尤も、その笛を持つ自衛隊員も何時かは必ず『その呪物を送ったイレギュラーと再戦する運命』である証でもあるが。大輝が何れ必ず『瓜子姫』と再戦する様に

 

 

……確かあの笛は『ハーメルンの笛吹き男』が落とすんだったか?

 

 

その気配すら非常に気持ち悪い……その笛を見ているだけで『ハーメルンの笛吹き男』の不快で悍ましい気配を感じるからなるべく見ない様にはしながらだが、あの笛の知る限り詳細な情報を思い出していたが『準備』は既に出来ていた。最初から他の自衛隊員は先回りして行なっていた様だ

 

 

その階層は異様な気配に包まれていた。安全地帯の向こう側は既に沢山の怪物がひしめき合う地獄絵図が見える、普通ならば安全地帯の辺りは滅多にモンスターは出ないものなのだが

 

……大輝はその現象に心当たりがある。基本的にあまり人気の無い不人気迷宮を攻略し続けてきた大輝にはあまり縁の無い現象だがこれは

 

 

モンスターハウス

 

 

冒険者が一つの迷宮に沢山入ったり、一人の冒険者でも沢山のカードをロストしたりすると起きる非常に厄介でもありちゃんと対応出来るなら強い恩恵を齎す迷宮事象の一つだ

 

内容はひたすら単純。普段は一定数きっちり現れるモンスター達が異常増殖して迷宮内に溢れ返る……そしてその異常な事態に呼応するかの様に迷宮内に居て場に出している冒険者のカード達に僅かながら経験値を齎してくれる

 

そして……この状況である一定の数のモンスターを撃破すると、まるで『迷宮からのご褒美』か何かの様にガッカリ箱が出てくる。このガッカリ箱は『白魔石の入っていない攻略報酬入り』とでもいった具合のものが出てくる

 

今回は『人為的なモンスターハウス発生』だ、良く考えてみて欲しい……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ

 

一応、ちゃんと『掃除』はバッチリやっているし大輝達は決して安全地帯から出てはいないからまぁ少なくとも大輝や姫子、研究者達は大丈夫だろう。長時間放置してもモンスターどもは『共食い』で勝手に数を減らすし

 

今日は大輝にも実験がてらこの階層とあとDランク階層一つの間引き作業が今日の課題だ。大輝と定の性能を見る為に『万が一の保険』であり、普段は魔法援護と罠対策以外禁止された剣と蔵以外は貸与された奨学カードで武具も『虎徹禁止』という制限を抱えて戦う事になる

 

同行する自衛隊員達は『本当に万が一の護衛かつ撮影係』であり、大輝が『掃除』に成功すれば次のDランク階層に行く事になるだろう。ちなみにDランク階層では剣と蔵の制限は解除される事になっている。流石にこの制限でDランク階層は酷い話である

 

勿論、少しでも『危ない』と剣が判断すれば即座に介入する許可はある

 

大輝はまず……敵に向かう前に召喚した貸与カード達に話しかける

 

 

「お前たち……最初から不躾な話だが『これ』は大丈夫か?」

 

 

そう聞きながら『テレパス』で貸与カード達に語りかける

 

 

『この方法だが大丈夫か?』

 

 

貸与カード達の反応は……

 

 

『……ぐるぅ!』

 

 

大丈夫なのはライラプスだけだった、これは相性の問題故に仕方ないので残りのオーク達は適当にやらせておくしか出来ない。リンク能力が無い者は基本的に『そのカードの好きにやらせる』のが一番だし

 

このニ体を『使い潰す』という前提ならば無理矢理テレパスで繋いでしまっても良いがそれは大輝的には大嫌いな行いだから決してやらない。リンク能力は馴染んでいないカードには凄まじい不快感を齎すものだ、自分の為に戦わせる配下……しかも借り物だから無体はしたくない

 

オーク二体は大輝の周囲で適当にモンスターに対処して貰う、……そしてライラプスはお供にEランク階層はこの四体編成で挑む

 

さぁ征こうか?

 

 

視点変更〜とある自衛官〜

 

 

俺は、今回『非常に珍しい体質持ちの少年のデータ採取』という任務の為にこの秘匿されているシークレットダンジョンに来ていたが……この少年こと『佐藤大輝』の異様さと凄まじさに度肝を抜かれていた

 

最初に彼を見たときは……まだ齢十五の少年だと聞いていたが、あの体躯ならむしろ我々自衛官の一員では無いか?と思う様な己を鍛えに鍛え上げた結末の逞しさを感じたものだ。思えば初対面の時から彼には『戦士としての気骨』を感じていたのだろう

 

自衛官として鍛えてきた俺とほぼ同じ身長に、俺達自衛官と同じぐらいの筋量の逞しい体躯、しかし顔はまだ彼が『十五歳の子供』だとわかる様なそこそこ整ってはいるがまだ幼い顔つき……しかし眼の輝きには非常に強い意思の力を感じる

 

そして彼の経歴を見て更に驚かされたものだ、何せ『冒険者になって半年未満で三つ星資格持ち』だの『Eランクイレギュラー単騎討伐&贈り物保有』……この辺り迄は『才能豊かな若者』なら稀に聞く話である。この地点で『なるべくならスカウトしたい候補』に入るだろう。既に彼のマークは始まっている筈だ

 

しかし……『冒険者資格獲得前に迷宮士資格獲得』というのは余りにも珍し過ぎる経歴だ。何でも『両親を説得する材料として頑張った』らしい

 

普通の中学生……いや、確か彼は小学生の地点から迷宮士資格を得る為の勉強や迷宮に挑む身体作りをしていたらしいが、何というか凄まじい理性と忍耐力、そして根気だな。普通の子供なら間違いなく遊びを優先してそんな目的なぞ忘れてしまうものだが……うちの息子の様に

 

この実績だけで個人的には彼を『是が非でもスカウトしたい候補』入りだ、仮に彼が『親から貰った強いカードの力』だけで三つ星資格なりイレギュラー単騎討伐なりをしていたとしてもその『自力で迷宮士資格獲得』は絶対に『自分自身の力』だけで成し遂げた功績だ。そしてその鍛え上げた見事な肉体は嘘を付かない

 

まず間違いなく彼は己の力と意思であの試練や災いを踏破したのだろう。歴戦の我々(自衛官)なら彼を見れば直ぐに分かる

 

確か『我々にとってのお姫様』の為に長く苦しい鍛錬を重ね続けて来たんだったか?なるほど、だから彼は『彼女の王子様』なのか。出来れば私とて彼女を娘に欲しいと思う……中には妹にだのあまつさえ彼女にだのとほざく阿呆も居るがまぁそれはさておくか

 

俺の部下の中にも一人『彼女に欲しい派』が居るが……スカウト成功した佐藤氏と同じく『Fランクイレギュラー単騎討伐者兼贈り物保有者』だがまぁ負けん気の強い跳ねっ返りの新兵小僧だ……しっかり『教育』はしておいたが

 

佐藤氏にライバル意識を持ってはいるみたいだが少なくともこの場で佐藤氏に噛み付く様な真似はしない程度に教育済みだから大丈夫だろう……やったら一月は泣いたり笑ったり出来なくなるまでガチ教育だしな

 

まぁ、あいつも自分がやっているのは『単なる横恋慕』だとわかっているだろうし……何よりあいつの年齢だとロリコン以外の何物でもないだろうあれは。仮にももう成人だしなあいつ

 

……あの美貌と齢不相応のたわわにでも頭ヤられたかあいつ?

 

まぁ、あの容姿以外にも彼女の魅力は様々に挙げられるがそれは別の話だ、彼の事についてだが……

 

先ずは彼が書いた『足洗屋敷(仮)レポート』を読んでみたが……何気にちゃんとしたレポートだった。彼は他の『普通の足洗屋敷』についてはギルドが一般に流した情報以外はあまり知らないらしいが、それでも良く書けてはいた

 

あの最近発見された『最初から瑕疵カード』扱いのアレをちゃんとした型で活用する方法の発見は素晴らしいものだと思う……自衛官にはやり辛く難易度は高い手段だが

 

この情報はギルド発行月刊誌である『冒険月報』の特集に載る事が確定している……発見者である彼の名前と共に

 

この特集は『名付け派』のちょっとした福音になるだろうか?いや彼はまだ元燈無蕎麦だった足洗屋敷(仮)に名付けはしていなかった筈だ。ちゃんと大切にはしていたらしいが

 

そして夜の話だが、彼は自身の足洗屋敷(仮)を自身のエースであるエルフ……男とはいえまさか中学生の子供が持つ様な代物ではない、と我々にとってのお姫様たる『薬丸姫子』嬢の乳母みたいなシルキーの『菫』のハネムーンの場所として解放する準備をしていたな

 

……乱入してきた研究者連中に押されてそのプランは台無しにされてしまったけど、確か『三つ星資格持ちでリンク能力者』

 

我々としても佐藤氏のやる事には賛成してあげたいが……まぁある意味此処は研究者連中の言い分も正しい。そして『今は仕事中』だと佐藤氏やエルフの『剣』も即座に認めてくれたおかげで場は平和に収まった

 

俺的には『カードをちゃんと扱う冒険者』という存在には好感が持てる。どんなに『物扱い』だとしても、それでも『命懸けの場所に挑む』というのならばちゃんと最低限絶対に『その物を大切に整備する』のは自衛官として必要最低限の事だ。例え物……普段使いの備品でも自衛官ならちゃんと大切に手入れはやるし粗末に扱えば激しい修正が待っている

 

『物だから』と粗末に扱ったり、あまつさえ虐待する様な奴は自衛官的には論外にも程がある。確か『横浜モグラ』とかいう迷惑系ダンジョンチューバーみたいなカードに酷い無茶振りをして嘲笑う輩が居るらしいが……アレは無いとしか言えない。やはりダンジョンチューバーはREIKAか中華大帝に限るわ……そう言えば資料に『佐藤大輝は中華大帝の同門で弟弟子』ってあったな

 

中華大帝の弟弟子という事はあの名高い『メアリー塾』の門下生だったか、その中でも若手最高峰クラスの強者みたいだけど……うん、真面目にスカウトしたいものだ

 

……おっと話が逸れた。その次の日には彼の『特異体質』の調査と手札である手の目で名前は『定』の性能試験だった

 

先ずは彼の抱える厄介な特異体質である『女の子カードに対する重篤の属性不適合』についての調査だ、これは世界で最初かつ最年少記録で発見された『人型の男カードに対する重篤の属性不適合』持ちの薬丸姫子に次ぐ世界でも漸く二人目に該当する重篤かつ非常に広範囲の属性不適合症例である

 

研究者連中は『これで彼女との比較材料が出来た』だの『新しい研究対象が来た』だのとはしゃいでいるが……二人とも何とも難儀な特異体質を背負ったものだと真面目に思う

 

薬丸姫子の体質は……序盤が一番厄介だろう。何せ安く取り回しの良いオークは封印状態で女の子カードという奴はDランク程度では大概は高い癖に弱いから難儀である

 

一方の佐藤大輝だと……最序盤は良いだろう、基本的にDランクなら安くても使い勝手の良い奨学カードでだいたいどうにかなる。しかしCランク以降からはやたらと使い勝手の良い女の子カードが爆増する上にBランクだと最強格は女神が多い

 

二人とも最初から『覚悟完了』しているみたいだから大丈夫だろうけど

 

しかし……この研究とやらで研究者連中はいったい何をしようとしているのか?俺にわかるのは『この特異体質の治療法探し』ぐらいしか思いつかないが、まぁぐだぐだ考えてもわからないものはわからないだけだ。何時かは学者先生らが何かの発表でもしてくれるだろうさ

 

そしてやはり……佐藤氏は『例の特異体質』である事がわかった。報告前はまだ『辛うじて女の子カードの召喚は出来る状態』だったらしいが?

 

研究者連中が彼を囲んで問いただしている……いやお前ら少しは落ち着け

 

そしてその答えに研究者連中が盛大に興奮している。何でも……

 

1:彼の手の目に『名付け』をやると何故か『特異体質の深度?症状?が増して深刻化する』と告げられる

2:『だからどうした』と即名付け

3:そして本当に深刻化した

 

という三条書きになったらしい……いや思い切りが良すぎるだろ?それともやはりこれも『覚悟完了』しているからか?

 

『素質が殆ど無いから』と言って若い男がごく僅かでも残っている女の子カードとの縁を即座即決で切り捨てて強く優秀だがおっさんカードを手にするとかどういう精神していたらそんな選択肢を取れるんだ?

 

いや、彼には『最高の恋人』が側に居るからだろうな。ならば『他の女なぞ要らん』とその僅かな糸をかなぐり捨てる訳だわ

 

『佐藤大輝』という少年……いやあれは(おとこ)だな。しかもその判断でイレギュラーに対する強烈な戦力まで土壇場で獲得するとか彼は本当に『持っている』と思う。それに彼のデッキ編成は件のイレギュラーである『瓜子姫』に対するかなり強いメタになっている辺り本当に彼は強運みたいだ

 

……偶然だとは思うが、彼は『勘でイレギュラーを予想した』とかいう話もあるが、まぁ多分偶然だろう。もし本当なら彼が『ダンジョンマート重役子息』だろうが『メアリー塾の寵児』だろうが『ギルドのお気に入り』だろうが形振り構わず即座に勧誘する、絶対に、絶対に!、絶対に!!絶対にだ!!!

 

 

いや落ち着け荒ぶるな俺。民間人を無理矢理勧誘とか何処の独裁国家の話だオイ、自衛官として駄目過ぎるだろうそれは……

 

 

幾ら俺達があのイレギュラー(クソッタレ)どものせいで幾度も幾度も煮え湯を飲まされているにしても民間人の……しかも未成年の子供をあの地獄に無理矢理引き摺り込むとか無いわ。いくらこの間『浦島太郎』が出現して優秀な連中が老化し過ぎて引退してしまったとはいえ

 

 

Bランク迷宮攻略だってこなせる自衛隊のエースチームだったってのに……後輩だった重野とかまだ若かったのに

 

 

いやいや今から佐藤氏のリンク能力テストだ、未だ未熟らしいが彼相手に気は抜けないな。さて彼はどれだけ出来るだろうか?

 

 

……ふむ、普通の状態で『これ』なら『リンク能力有り』ではあるが流石に四つ星試験は無理だ、あの試験は三体リンクで50から60%は出せないと合格は出来ない。しかし冒険者歴半年未満でこれならあと一年以内には間違いなくプロ認定レベルのリンク能力に至るだろう。鍛錬をきちんとやればの話だが

 

未だ『初心者』の領域でしかないのには少しほっとした、流石に我々のお姫様(薬丸姫子)みたいな天才通り越して異常なレベルの鬼才ではなかったか。彼女の上達ぶりで才能だけはある跳ねっ返りの若造どもの何人かが心へし折られたりもしたが……後々全員彼女を口説こうとするアホ、いやロリコン?に変異したのは誤算過ぎたな

 

いや何度話が逸れるかな?とりあえず彼の基本的なリンク能力は分かった。『まだまだ未熟だが才能と伸び代は上々、五つ星を目指すに充分な素質がある』かな?願わくば自衛官に志願して欲しい逸材とも言いたい

 

そして今回のメインイベントである『定を装備してのリンク能力試験』だが……これは凄まじいな

 

一体だけなら55%程度には強化可能で本気でやれば短時間とはいえ80%はいけるか、それだけでも手の目としては規格外にも程があるのにまさか『多重シンクロ補助』さえ可能とは……見てくれ通りと言うか何と言うか?『名付け』さえされてなければ冗談抜きで何らかのCランクカードセットなりBランクカードなり何なら数億は出してでも強制買い取り対象待ったなしの逸品だなこの手の目は

 

自衛隊の手の目でも良くて単体を50%補助がせいぜいだと言うのに……いや、気概のある冒険者が扱うならばまぁ良好な結果だから良いだろう。其処らのエンジョイ勢や好事家連中のコレクションだとかよりは絶対にこの方が良い、最悪変なカルト宗教や違法研究所の手に渡る結末だってあり得るしな

 

何より……その手の目()を観ればだいたいわかる、彼は非常に幸せそうだ。自衛隊や研究施設の備品として過ごすより絶対に幸せなのは間違いないだろう

 

そして今夜は俺も泊まりなので佐藤氏の足洗屋敷(改)のお相伴に与る事になった……一度普通の足洗屋敷の飯を食った事はあるが米は焦げていたし魚も焼き加減がきつく漬物は塩気が強く感じて正直あまり期待はしていなかった

 

しかし……今日出された飯はざる蕎麦に夏野菜と海老の天麩羅、まぁいわゆる天ザルという奴だった。どうやら元である『燈無蕎麦』から能力を継承出来ていたらしい

 

『燈無蕎麦』と言えば……世界でも唯一の『Eランク空間系カード』であり、また『蕎麦に限れば究極の絶品』と有名なカードだ、何でもBランクの美食に纏わるカードですらこと蕎麦切りにかけてだけは燈無蕎麦に完敗したらしい

 

鼻腔をくすぐる蕎麦、そして鰹出汁と醤油の香り……啜れば程よい喉越しの蕎麦と蕎麦汁の程よく冷えた感触と味、味変の薬味は刻み葱と擦りおろした山葵……新鮮な夏野菜と海老の天麩羅を箸休めにすれば本当に天にも昇る様な心地に至る絶品のざる蕎麦だ

 

ふと気が付けば何度かのお代わりをしていた。この異空間の核である小狸が『腹八分にした方が良いポコよ』と止めてくれなければ限界まであの絶品ざる蕎麦を貪り食っていただろう……わんこ蕎麦でも無いのに反省反省

 

朝食は玄米飯に焼きめざし、豆腐と葱の味噌汁と白菜の漬け物といったまるで民宿の朝食の様なメニューだった……味はDランク空間系カードの中でも上位に入るチセコロカムイやヘドンホールハウスに迫る勢いで美味だった。下手な定食屋よりは間違いなく美味い

 

あの住居としては最低最悪な足洗屋敷も発見次第ではこうも変わるものなのか……やはり迷宮の世界は未だ未知だらけである

 

そして……今日は佐藤氏の戦闘能力テストだが、研究者連中は彼に適当に選んだ瑕疵無し通常品質の奨学カードを三枚ばかり渡して幾つかの制限を与えていた

 

1:テスト中はこのカードらと定、そして探索役と護衛役のカードだけで戦う

2:探索役、護衛役はEランク階層ではなるべく手出し禁止、Dランク階層なら合流許可

3:装備魔道具は無銘シリーズまでかつ定のみ

 

そして我々自衛官チームは万が一に備えた護衛兼記録係かつアイテム回収役だ……拾った魔道具や魔石、カードから佐藤氏への『今回の報酬』を出す事になっている。だいたい三割其処らだろうか?

 

もしも報酬に不満があるなら『シークレットダンジョン入場無料回数券』だの『カード化無料チケット』だのに代わるはずだ……多分、今の地点でも多少のサービスや下心込みで何枚かは追加報酬で与えられる筈だが

 

一応、この場所はシークレットダンジョンだ。普通なら民間人が入るにはプロ資格が必要であり、出たアイテムは全て没収されるルールになっている。今回は佐藤氏を『是が非でも』と招いての依頼だからこういう塩梅となった

 

本当なら『戦利品はそれを得た冒険者の物』というのが道理だが自衛隊にはその正論を果たす余裕なぞ無い。普通なら何枚かの『入場無料回数券』や『カード化チケット』でお茶を濁すだろうが……まぁ今回は『撒き餌』だとお偉いさん方を宥めすかしておいた。多少は好印象を持ってくれるとありがたいが

 

自衛官の様に酷い薄給……冒険者に比べれば酷過ぎる薄給なのは間違いないだろう、に突き合わせるのは酷い話だが自衛隊も人員人材で常にピィピィ言っているのは確かなんだ。最低限でも彼にはプロになって貰ってBとは言わないからせめてCランク迷宮の掃除をやって欲しい処だ

 

勿論、Bランク迷宮の攻略は一番ありがたい事だし……もしかしたらAランク迷宮の攻略すら彼なら可能性があるかも知れない

 

まぁ、そんな遠い未来だろう夢物語はともかく。彼が手の目を装備する……何時見ても気味の悪い装備化だ、眼球が皮に消えてまるで眼の辺りだけがのっぺら坊みたいに見える

 

しかもあの状態になると視界は殆ど無いと来た、なのにあの状態で普通に戦う……どころかイレギュラーとガチの殺し合いまでやらかしたというのだから凄まじい話だ

 

あの手の目の能力を聞いていても正気を疑う話だが……実は『それ』こそがあの状況下で一番マシな判断だったのだからまた恐ろしい話である

 

彼は……視界を喪っているとは思えない威風堂々とした動きで悠然とニ振りの打刀たる無銘の名刀を持ち、その鞘を自身のエースであるエルフの偉丈夫に託す

 

そして既に召喚していた貸与カード達に軽い『テレパス会話』を行いその結果を試す……どうやらライラプスだけは適応出来た様だ

 

ちゃんとカード達を使い捨てにせずに彼なりの方法ではあるが大切にしている……やはり彼は自衛隊(うち)に欲しいものだ

 

さて……彼は今から動く様だが、先ずはどう行動するかお手並み拝見と行こうか?

 

 

 

次回に続く

 

 

【Tips】世界の軍隊

 

1999年から始まった『大迷宮時代』以降の世界で『軍隊』という存在の意義は大きく変化し、そしてその重要性は非常に高まった

 

『迷宮という異界から現れる神代の怪物に挑む現代の戦士』、『色々な意味で真の聖職者』とも呼ばれる程の彼らの献身挺身とその犠牲によって人類は『カード』という迷宮に挑む為の手段を得るまで……そしてそれを得てからも彼らは己の国、いやこの世界を守護する誉れ高き戦士となった

 

しかし……やはり『正義や誉れだけでは飯は食えない』という現実もあってそのシェアは年々冒険者に取られて各国の軍部は人材人員不足に喘いでいるのが世界各国の実情になっている

 

一応は『軍隊だから出来る特権』や『特殊な技能講習』などで人員を集めて、除隊後に使用していたカードの払い下げなどの工夫で人員確保に奔走してはいる……その方法で入隊した奴は必ず後で冒険者に転向するがまぁ優秀な冒険者が増えれば国防に良いのでその辺りはなぁなぁで済まされている様だ。国家的には『優秀な冒険者』も喉から手が出るほど欲しい、という実情もある

 

しかし……カードの存在を知る前から大して効かない銃器弾薬を担いで国民を護る為に大いなる災い相手でも命をかけて戦ったのは彼らである。故にこの世界では『最前線の軍人=真の聖職者』である

次のクラスチェンジは誰が良い?勿論予算次第だけど

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