本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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これで一章はおしまい(予定)

『土ノ子』様からカードのデータを(許可の下で)拝借させて頂きました

加筆修正入ります


一章幕間その16 夏休みの終わり

 

夜は明けて……この迷宮は常に夕暮れ時ではあるが。それでも朝は来る

 

今日はある程度ちゃんとした身体検査で開放予定で次回は姫子と簡易的なクロステスト漬けらしい……やはり大輝の体質も非常に稀少なものである事は確かな様である

 

大輝自身は『百ヶ所のDランク迷宮攻略』という過酷な課題があるのであまり頻繁には実験に参加は出来ないのだが……

 

そしてこの『百ヶ所のDランク迷宮攻略』というのは『プロ資格試験』の課題の一つである

 

『プロ資格試験』……または『四つ星資格試験』には様々な難題を埋めて初めて達成出来る『現代に於ける戦士英傑の資格』とでも言うべき代物だろう。それこそこの資格は現在日本でも三百人前後ぐらいしか保有していないのだから

 

前にも幾らか『四つ星昇格試験』について記載はした。そして今現在大輝が達成したり取り組めている課題をタスク化して考えると……

 

 

達成

・筆記試験(迷宮士資格)

・三つ星資格獲得

 

取り組み中

・Cランクカード八枚以上保有(現状ちゃんと『戦力』と言えるのは三枚、今日から追加三枚獲得)

・Dランク迷宮百ヶ所攻略(現在一ヶ所攻略済み、この迷宮は『攻略』とは認められない)

 

先送り

・実技試験三種:Cランク迷宮単騎攻略、特殊迷宮攻略、プロ級冒険者との対戦

 

先送りのうち『プロ級冒険者との対戦』は一昨日お試しは出来た……が、まだまだ実力不足で不合格だった

 

極論すれば……三つ星攻略とCランクカード八枚なら金次第でどうにかなる。筆記試験やDランク迷宮巡りも努力すればどうにかなる

 

しかし……残りの三実技だけは金や努力だけではまずどうしようもない代物ばかりである

 

一昨日実体験したプロ級冒険者との対戦……うん、せめてちゃんと三体同時シンクロ出来なくては話にもならないだろう

 

Cランク迷宮単騎攻略は……その余りの危険性故に比較的容易い『試験用迷宮』を用立ててくれるが、それでもCランク迷宮はDランク迷宮の比ではないほど過酷なものだ

 

『特殊迷宮』は……今の大輝では絶対に攻略不可能な試験である事だけは確かな難関難題だとは言っておく。現に大輝自身も『今はまだ無理だ』と自覚している程だ

 

実技の方は今の大輝では無理だ、技量も実力も装備もぜんぜん足りないしお話にもならない。今は『取り組み中の課題』をこなして地力をつける必要があるだろう

 

大輝の見立てでは実技試験に挑む為にはあと二年三年は修行が必要だろう……しかしそれでも迷宮士資格試験の為の試験勉強と筋トレ漬けの雌伏期よりも『必要な、求めるものが積み上がる感覚』があるのはありがたい話だ

 

現に今この瞬間にアンゴルモアが来ても今なら多少はマシに生き残れるだろう……()()()()()()()()()()()()()()()()()、だが

 

今の大輝ならばアンゴルモアに罹災しても単独……少数の保護対象が居ても先ず何とかなるだろうし、大概の避難所に入れば間違いなく『その場を護る優秀な戦士』として極めて尊重尊敬されるだろう

 

まぁ……それでも今に満足なぞしないし出来ない、まだまだ時間はある筈だしやるべき事ややれる事は沢山ある、Dランク迷宮巡りに託けて日本の美味いものや温泉巡りだってやりたいものだ。もう暫く待てば姫子も正式な冒険者になれるので彼女を連れての旅だって出来る

 

まぁ……今は東京のDランク迷宮巡りからやるべきだろう。東京の迷宮は本当に沢山あるのだから

 

それに手札も資金も装備も資材資源様々なものが全く足りてなぞいない。今は兎に角稼ぐだけである

 

さて、先ずはその『稼ぎ』の為に必要不可欠な相棒(戦力)であり昨日めでたく結婚出来た剣だが、今カードホルダーから剣のカードを出して確認してみる

 

新しい技能を得ている、名は『比翼連理』……男女のカード同士で恋愛関係になった時に稀に現れる技能で、鋼と玉の『カイロネイアの獅子』の男女版だと思えば良いだろう

 

……ん?

 

 

「なにこれ?」

 

 

カードのスキル欄を見れば後天技能の最後辺り、非常に薄く掠れた文字で

 

 

【固有技能】

 

 

なる謎の文言が浮かび上がっている。眼を凝らして見てもやはりその謎の文言は存在する

 

はてこれは一体何なのか?先ずは研究者達に相談してみよう

 

 

「……え、にーさまの剣さんにも?私の菫にもそれが浮かんでましたよ?」

 

 

……どうやら姫子にも同じ反応が、それも話題の渦中にある剣の妻となった菫にもだ

 

さて、その件を聞いた研究者達は……うん、まぁ絶食中の獣に餌を見せればどうなるか?を考えればだいたいは想像がつくだろう

 

超一流冒険者が丹精込めて鍛えたカードにも殆ど見られない稀少中の稀少事項の一つとして先の『固有技能』なる謎の概念があるそうな……研究者達の間でも噂にはなっているらしいが殆ど眉唾物扱いらしいが

 

その『固有技能』を開花させたカードにもはっきり言って『それ』が何なのかはまともに説明出来ないしそのマスターも決してその概要を教えてはくれない……そのマスターの強さの秘訣故に仕方ない話ではあるが

 

『固有技能』なる正体不明の何かについて分かる事は非常に少ない。本当に辛うじて判明した事を挙げれば

 

 

1:全て『名付けしたカード』だった

2:そのカードは間違いなく全て非常に高い練度を誇っている

3:そのカードは恐らく全て『ギフテッドカード』の類いだと思われる

4:そのカード達は皆マスターから本当に大切にされていた

 

 

はっきり言って分かるのは推論や予想を交えてもこの程度である。他にも様々な情報はある筈だが所有者達が頑なに秘匿しているので分かるのはここまでだった……所持者にとっては死活問題故に仕方ない話だ

 

今の大輝と姫子には掠れに掠れた『固有技能』という文言が辛うじて見えるだけであり、はっきり言ってそれが何の意味や能力を持つかなど全く皆目見当もつかない有り様ではある

 

しかし……しかしである。研究者達にとっても未知の中の未知である『固有技能』に小さくか細くとも確かな糸口が見えた事は巨大な朗報である

 

剣と菫のカードを写真に写したりしてその貴重なデータを余すところなく採取する研究者連中……まさかとは思うが新婚さんの居る愛の巣(宴の異空間)に突撃取材しようとする馬鹿は居ないとは思う、多分

 

大輝と姫子はそれぞれのカード達にテレパスで連絡を送ってはおく……万が一を考えての配慮だ

 

二人にちゃんと身支度をさせて研究者連中の処に向かわせる……やはりと言うか何と言うか、二人の新婚初夜の余韻なぞ一切気にせずにインタビュー地獄が勃発している

 

気丈ながらも流石に少し内股気味になっている菫を労りながら理性を置き忘れた研究者(ケダモノ)どもの暴走から護る剣……大輝と姫子、そして自衛官有志で押さえ込まなければ暴動沙汰だっただろう

 

それから大輝&姫子も健康診断……いやちょっとした人間ドック並みの検査が始まった。本当ならば健康診断程度だったがそれほど迄に『固有技能』のデータが欲しいのだろう

 

 

「……菫から『体験談』、聞きたかったな……」

 

 

姫子のそんなお年頃でおしゃま……と言うにはちと生々しい呟きが聴こえた。早く、もっと『足場』を固めないといけないだろう……既に『覚悟』は出来てはいるつもりが未だ『準備』は整ってはいない

 

少なくとも『一線』を超えるなら資金も資材も足りず拠点も欲しい。最悪『出来ちゃった』案件で姫子と少なくとも出産迄は持つ駆け落ちランデブーの資金機材隠し拠点等々はちゃんと出来る様にしないと……ヤるなら責任は重大である。それでもちゃんと学生生活だってやれる内はやりたいものだ、何時アンゴルモアが発生するかわからないこのご時世故に

 

そんな新たかつ何処か迷走気味の覚悟を胸にしつつ、昼間にはややこしい検査やインタビューも終わってマヨヒガでの懐石を頂きながら今回の報酬を頂く事となる……周囲で狂奔し喧々諤々する研究者らの姿が見える。『もっと居てくれ』とこちらを凝視しながら

 

数多くのカードやカード化した魔道具、莫大な数の魔石や金貨袋にカーバンクルガーネットといった歩合給以外にもちゃんと報酬は存在する

 

先ずは口止め料こと依頼金五百万円……むしろこれでは功績と発見に足りないかも知れないと、研究者達の総意で倍額の一千万円になった、むしろこれ以上積んででも大輝達に来て欲しいらしい

 

続いてはDランクシークレットダンジョン無料入場券五枚。本来ならば四つ星クラスにしか入れないシークレットダンジョンだが、この入場券……いや優待券で内部で得たものの半分は持ち出しが出来る

 

普通のシークレットダンジョンならば入手したカードや魔道具は全て没収であるのだが、こういう『ギルドや自衛隊、ひいては国家への貢献者への飴』としてこういう完全非売品の優待券が存在する

 

そして大輝の追加報酬として確約されていた『十枚綴りのカード化回数券』が五束に更に本来の報酬分で二束の計七十回分のカード化無料券に大輝の保有する戦力認定されたカード全てに支給する『道具箱』と三つ星なので所有資格のある大輝用の『コンテナのカード』二枚もおまけで貰えた……コンテナも道具箱も全て自衛隊の払い下げや備品からだが

 

そして迷宮関係の権威や大企業などに使える『国、ギルド、自衛隊多数共同執筆の紹介状』すらも渡されている。日本国内の迷宮関係者や大企業はこれさえ出せば絶対にちゃんと『客』として出迎えてくれるだろう……少なくともこの国がちゃんと存在し技能している間は

 

最後に……大輝が得る一番大きな報酬の話をしよう

 

昨日のうちにカードショップと同じ様な専用のタブレットに入った品書きからそれらを選んだ

 

今見えるカードからは祝と蔵に適合する……彼らに『そのデータ』を見せたら割と好感触だったので先ずはその二枚を選ぶ

 

祝に関しては……本来ならライカンスロープなる強い狼系Cランクカードが必ずボスとして出没する迷宮に行ってお百度参りでもやる予定だった。運が向けばドロップしてくれるだろう、仮に出なくても周回すれば資金は貯まるから良し

 

蔵に関して……二つある候補は少なくとも東京にあるDランク迷宮ではランダム系ボスでしか存在しないので予算が出来たら高和に注文する予定だった

 

最後の一枚は新規、新しいく強く興味を引いたカードを『試し』てから貰う事にする。非常にトリッキーな一枚であり、恐らくは今の大輝のデッキにも適合する代物だろう

 

さて、タブレットを回収がてら記載した希望のカードを持って来た自衛官……大輝の実技試験を担当したあの隊長さんが来てそのカードを大輝に託す

 

その三枚は……『一つ目一本脚の鍛治師みたいな妖怪』と『鉄鍋を頭に被った白毛の狼』、そして『妖気を纏った襤褸の刀』の三枚

 

『一つ目一本脚の鍛治師みたいな妖怪』は一本だたら、和歌山などで知られる山神とも鍛治に纏わる妖怪とも謂れる存在であり鍛治やサポート系統に長けた妖怪だ

 

『鉄鍋を頭に被った白毛の狼』は鍛治が(ばば)、『千疋狼』という説話に纏わる妖怪の集合体でDランク相当の狼を無限召喚出来る

 

最後の『妖気を纏った襤褸の刀』は付喪神、定のクラスチェンジ先である贋作妖刀に似た性質を持つ中々にトリッキーな装備化能力持ちだ

 

どれもこれも妖怪系統ばかりだが、大輝の場合妖怪系統との相性はバッチリ高いのでそれが良いのだろう

 

最後に蔵と祝に件のカードを見せて相性を確かめて貰う……どうやらちゃんと適合する様なので一安心だ

 

一本だたら以外は比較的マイナーなカードであるがガチ勢からは中々に評判の良いカードばかりだ。特に付喪神は装備化使いという『濃い』界隈にとってある意味デュラハンに匹敵するほど重要なカードとして知られている……まぁ『装備化使い』みたいに気合いの入った冒険者の絶対数は非常に少ないから付喪神もマイナーカード扱いである事は間違いないのだが

 

そんなカードを入手して先ずはそのまま使う付喪神のカードに針で刺した指から出る血を掛けて登録完了、そして直ちに喚んでみる

 

 

【種族】付喪神

【戦闘力】450

【先天技能】

 ・物々交換:中等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターが装備することで、自身の戦闘力の半分を加算させることができ、また自身の後天スキルを共有するがマスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる。アイテムを取り込むことで、その効果を内包できる。新しいアイテムを取り込む際は、前のアイテムの効果は廃棄される

、勿論取り込んだアイテムは戻ってこない。また使用回数のあるアイテムを取り込んだ際はその回数を使い切るとロストする。通常同じタイプの装備化スキルは同時使用できないが物品憑依型は複数同時に装備化可能

・食を願わば器物:取り込んだアイテムが時間経過で修復される。破壊寸前でも時間を置けば復活する。一日に一度だけ同一アイテムを二重に取り込むことで一時的にステータスが二倍に上昇する。二重に取り込んだアイテムは戻ってこないため注意。自己再生を内包

・良工は先ず其の刀を利くす:取り込んだアイテムを強化するスキルのようだが詳細不明。強化倍率の法則性について検証中

【後天技能】

・武術

・影の形に随うが如し:使用者の意図を汲み取り、的確にサポートする。秘書スキルに類似性があるが、より瞬間的な判断が求められる戦闘に特化していると考えられる。その精度はまさに影が本体に付き従うかの如し

 

 

カードイラストになっている、触ってもわかる錆や刃毀れだらけのこの襤褸刀は恐らくは凡庸の刀……いやそれ未満のお仕着せのなまくらだろう。このなまくらは早々に消して新しいものを取り込むべきであり様々な選択肢があるが先ずは定石通りに定の様に、定と同じ様に刀を取り込ませて使うのが一番良いだろう

 

防具を取り込ませたりアクセサリーを取り込ませたりと色々戦闘力増強手段にもなるだろう。他にも本当に様々な使い道があるが今は『逆手に持つ刀』として使うつもりだ……そもそも利き手には定一択である、Eランク最弱から慣らし続けて来た大輝のメインウェポンは伊達では無い。同じ装備化能力持ちでも戦闘力だけなら一反木綿の方が強いぐらいだったし

 

そして『逆手刀』として扱うにもまた二つの選択肢が出てくる……『即戦力』か『切り札』か?である

 

即戦力としてなら大通連を取り込ませれば良い。その分強くなるし神通力の補正が多少は増すだろう

 

切り札ならば無銘の名刀を、比較的入手し易いから『食を願わば器物』で一日一回だけのブーストが出来る。このルートなら大通連は剣に与えるのも良いだろう

 

……まぁ、それは後で考えれば良いだろう。少なくとも大輝自身とこの付喪神の相性はそう悪くはない様だ。付喪神(こいつ)は自我は薄めと言うか無口と言うか器物という性質故かは未だ性格は掴み辛い、テレパスは相性が良いからかスムーズに出来る気はするが今はまだある程度の感情しか伝わってこない様だ

 

そして次は祝と蔵のクラスチェンジ……さてどう出るか?

 

 

【種族名】鍛治が嬶(祝)

【戦闘力】530(110UP!)

【先天技能】

・千疋狼:その説話の屋台骨である『千匹の狼を呼び出して使役する能力』。千匹とは言えどその実態は無限召喚であり、その狼達を的確に指揮する能力を内包する

この狼達は『提灯の無い送り狼』として扱う

統率を内包する

・縄張りの主:自身を中心としたテリトリーを形成可能。テリトリー内では味方全員の能力が向上し、持続回復の効果がある他、テリトリー内に侵入した敵の気配を察知することが可能となる

一方で、自身の存在を周囲に知らしめる形となるため自身よりも弱い敵を遠ざけ強い敵を惹きつけてしまう。また、テリトリーの範囲は周囲の敵の弱さに比例する

・三種の変身:本来の姿である『鉄鍋を被った老いた白狼』と巨大な化け猫、鬼婆の三つの姿を持つ。鬼婆の姿になると戦闘力が少し低下するが会話能力が付き道具の使用が可能になる

・本能の覚醒

【後天技能】

・迅雷

・忠誠

・中等火炎魔法

・鋭敏嗅覚

・気配察知

・気配遮断

・戦士:戦士に必要な技能を収めている。武術、剣術、槍術、弓術、騎乗スキルを内包する

・乗騎

 

 

【種族名】一本だたら(蔵)

【戦闘力】520(140UP!)

【先天技能】

・たたら鬼:鍛治に特化した妖怪……いいや零落したとはいえ鍛治神である事を示す技能。零落しているとはいえ鍛治、採掘、精錬などの技能を内包している

充分な金属が有れば一週間掛かるが『無銘シリーズ』を作成可能。但し作刀作法や儀式もあるので必ずぶっ通しでやらなくてはならない

金属製魔道具の修繕や整備なども可能

熱、火炎攻撃への完全な耐性を持つ

・零落の鍛治神:金属製品や基本戦闘力+30程度の武具を即座かつ無限に具現化する事が出来る

己の保有する空間以外のちゃんとした金属を対価にすればその金属の分まで基本戦闘力+100の武具を具現化出来る

この効果は壊れるか一本だたらが場に存在する限り永続する

・山野の鍛治師:鍛冶場型の……いや、鍛冶場特化型の異空間を形成する能力を保有する。殆どは鍛冶場や炉心、能力行使の為にだけ使える石炭や鉱石・金属や作成品置き場であり、あまり生活空間は無い

一応四畳半の休憩室と水、塩の備蓄だけはある

倉庫(中級収納)もあるので荷物の積載は出来る。上級収納に変化済み

・山の妖怪:山岳に居る限り強い補正がかかる。寒さ、氷結への完全な耐性を持つ

【後天技能】

・中級家妖精(農)

・中等状態異常魔法

・中等支援魔法

・盗賊の心得:一人前の盗賊的な技術を持つ者の証。高等罠発見/解除、器用性強化、鋭敏感覚、気配察知、かくれんぼ、武術を内包する

・妖精のお節介

・忠誠

 

 

中々に壮観なものだ、二枚とも滅茶苦茶強くなってくれた……これは嬉しい話だ。例え後天技能や戦闘力を継承出来なかったとしても彼らを大事にする事に一切変わりは無いがそれでも嬉しい事は嬉しいものだ

 

 

『……ふふふ、ようやく普通に話が出来るねご主人。あたしみたいなババァを此処まで大事にしてくれるとか本当にありがたくて少しだけでも話をしてみたかったんだよ』

 

 

これは祝の第一声。嗄れてはいるが何とも張りのある良い声だが、今までは狼や犬でしか無かったから吠える事しか出来なかったが……それでも今なら『鬼婆形態』ならばちゃんと話が出来る

 

この鬼婆としての姿だが……嘗て西洋の魔犬を経由したからか黒く頭以外のほぼ全身を隠す飾り気の全く無いドレス姿で長身痩躯のしゃんとした背筋の通った銀髪の老婆の姿になっていた。いわゆる『カッコいい婆さん』だろうか?

 

普通の鍛治が嬶ならばステロタイプの鬼婆だが、クラスチェンジを重ねて磨き上げたカードには時にこういう些細な変化が起きるものだ……宴みたいなレアケースだってあり得るのだし

 

 

『ゴ……主人。オレダ、く、蔵ダ』

 

 

ある程度発音会話は出来るらしいがその鉄仮面みたいな頭の影響か喉の構造か、どうやら蔵は喋るのが苦手らしい。それでも少しでもまともに喋れるならば大輝と話がしたかったのは祝と同じだ……他にも会話能力の無いメンバーは結構居るからその代表として話がしたかったからというのもある様だ

 

そんなクラスチェンジした二枚と和やかな対話……やはり大輝のデータに飢えた研究者連中がそのクラスチェンジデータを採取はしていたが『非常に理想的なクラスチェンジ』というだけだったので其処でお開きと相なる

 

まぁ、それでも多少のお喋りをする時間ぐらいはあるので大輝は今回はある意味一番気になる展開を迎えた一番の家来(相棒)である剣と静かに今後を語り合う

 

 

「やっぱりお前と菫を織姫彦星状態にはさせたくないわ……自分達に置き換えたら尚更な」

 

『しかし……その負担は大丈夫なのですか?』

 

「なぁに、この数日みたいな日々なら俺にも良い骨休めになるさ」

 

 

やはり大輝がこの依頼を定期的に受諾して姫子()と迷宮で逢うチャンスを掴む方針で行く事に決めた。多分研究者連中のアプローチは非常に執拗かつ苛烈なものになるだろうし

 

それでも一月半に一度。そして夜は剣と菫を二人きりにしてやる環境を作る事は確約しなくてはならないだろう

 

二人は辺りに用意されていたラムネ瓶を呷りながら今後の事を考える……

 

 

一方姫子と菫……希望していたらしいので小袖の手の桜とハイピクシーの撫子も参戦して来た

 

その、何だ。女の色恋話や猥談にはあまり関わらない方が良いだろう……大輝や剣にもあまり聴こえない辺りでこそこそやっている様だし

 

 

なんやかんやで時間はあっという間に過ぎてそろそろ帰るべき時間である。大輝と姫子が自衛官から預けていたスマホ……冒険者仕様のクソ重くて頑丈な事が特徴なお揃いの品を受け取って履歴を見ればびっくりだ

 

何せ昨日から何件かのLINEから電話からの着信履歴がある

 

そしてその履歴はただ一人からのものだった

 

 

『南雲 ハジメ』

 

 

大輝の友人いや親友の一人であり、大輝が冒険者をやる前のバイト先である非常に有名なゲーム会社の御曹司兼主力デザイナー兼『オタク文化を守る会』と『八重樫道場』に所属する三つ星冒険者にしてクラスメイトである

 

要は大輝が夏休み終了後に頼る可能性を考慮した伝手の一つだ

 

その内容は……やはりと言うか何と言うか、何時もの『救援要請』だった。ハジメの両親が共に修羅場やら極道入稿状態に陥ったらしく臨時ヘルパーとしての救援要請だという

 

今直ぐに通話から南雲家に直行する必要が出来た。大輝には南雲家に恩を返す好機である……南雲家は本当に良いバイト先だった。修羅場地獄や極道入稿地獄とか考えなければ

 

 

「大丈夫ですわにーさま、私も一緒にお手伝いしますわ」

 

 

そんな言葉で死地(南雲家)へ向かう二人……なんやかんやで少なくとも夏休み最終日の夜中にはちゃんと家に帰れはしたらしい

 

やはりしまらない結果ではあるが佐藤大輝の夏休みはこうして終わりを告げた。さて、次章は何時のどの時期から始まるかは今はまだわからない……しかしそれでも大輝は姫子と歩む道を自作するだろう

 

 

 

今日は幸運、明日は謎……だから誰もが賽を投げて一天六地の結末に右往左往

 

賽の目が何であれそれでも明日を征くから未来に往ける。泣いても笑っても時は待ってはくれぬ

 

佐藤大輝は薬丸姫子と未来を……自分の手のひらの大切なものの為に未来を切り拓く。この黄昏刻の繁栄の中を、今は未だ優しい準備期間の中で

 

 

 

第一章:完




 ちなみに祝の人間(鬼婆)形態は『からくりサーカスのルシール婆さん』、蔵の姿は女神転生でイメージしてみて下さい


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