敬具
計四回でヘルハウンドのカードを獲得し。それからも迷宮攻略に勤しみながら早一月
少年は自宅の中にある自室の机の上で今まで貯めてきた黒い普通の魔石と幾つかの(昇格試験には関係しない余りや連続で行った迷宮産の)白い魔石、そして売り払っても構わないカードや魔道具、そして冒険者ライセンスに搭載されている電子マネーの残高を見比べながらギルドから頒布されているカードカタログやホームページに記載されている情報に眼を通す
その情報とは……ギルドが販売しているDランクカードの比較的安い、俗に言う『不人気カード』についての情報だ
何度も口を酸っぱくして言うが『不人気カード』何ぞと呼ばれていても最低価格が百万円というとんでもない世界のとんでもない代物の話だ
不人気カードの中でも特に『奨学カード』とか言われているオークやホブゴブリン、ライラプスやジャック・オー・ランタンみたいな供給数も多く瑕疵もない比較的扱い易いカード……ばかりでなく、大概はグール(グーラー)や黄泉軍みたいな下級アンデッドや河童みたいな弱くて扱い辛いカードや局地戦向け、若しくは何らかの瑕疵付きカードばかりである(一応、河童も奨学カードの一種である……水場系の迷宮が多い地域に限るが)
これが『女の子カード』や『可愛い動物カード』みたいな人気カードなら価格はぐんと跳ね上がり最低価格(大したスキルは無いが瑕疵もない状態)で五百万から開始の世界である
基本的に強いカードや凄い特技を持ったカード……掲示板で挙げたリビングアーマーやウィンチェスターハウスみたいな優秀な特技持ちやバーサーカーやボアオーク、水虎みたいな単純に強いカード、ユニコーン&バイコーンみたいな堅実かつバランスの優れたカードもまたやはり人気カードでありこちらも最低六百万からの世界である
そして……『女の子かつ強い(凄い)カード』として有名なシルキーという(Dランクの華として名高い)カードがある
基本的な戦闘力はそこまで高くはないが。このカードは(男にとって)非常に優秀なスキルを持つ確率が高い上に『眷属召喚』と呼ばれる非常に強力なスキルを先天的に保有している
このシルキーは稀にギルドに納品される事もあるが大抵は即完売である(長くて三十分以内には絶対に売れる)
ちなみにこのシルキーの市場価格は一千万である(瑕疵無しの通常版で)
このシルキーを得る為に冒険者となる男は常に後を絶たず。休日冒険者も専業冒険者もありとあらゆる労力を惜しまずにその目的に邁進する
彼らにとってシルキーは『嫁』なのだ
その逆に……凄く強くて強力なスキルもあるけど見た目などが問題で非常に扱いにくいカードも世の中には存在する
幸か不幸かそのカードはホームページには記載されていなかったが、流石に『それら』に手を出す勇気は無い
少年の軍資金は現在
・金銭〆て百万円
・魔石凡そ六十万円分
・不用なカード(全て売却すれば十万円)
・不用な魔道具(全て売却すれば五十万円)
全て合算すればニ百ニ十万円といった処だろうか?
今なら奨学カード二枚を揃えたり少しランクの高いカードを一枚揃えたり出来るかも知れない……わざわざ個別に分けて溜め込んだ魔石を換金すれば、の話だが
前に一度言ったとは思う……『冒険者にとって魔石には色々使い道がある』と
冒険者にも勿論『税金』というものがある……が、かなり控除条件が広いので節税はやりやすい
しかし……冒険者にとって特に大きな出費である『カードや魔道具の取り引き』はちゃんと『ギルドや専門の商人を通す必要』がある。厳密にはそれ以外との取り引きも構わない
しかし、それ以外との取り引きによる如何なる問題にもギルドは決して関与も協力もしない。そして税金の控除もされない
だからこそ冒険者達は冒険者同士では『魔石を使った取り引き』がデフォなのだ
尤も、それをやるならなるべく信頼できる知人との間に留めておくべきだが(やはりトラブルが起きる確率は高いのだ)
閑話休題(それはさておき)
今すぐに奨学カード二枚か?、それとも一枚と次の軍資金に充てるか?……若しくは『掘り出し物』を狙って今暫くは貯蓄を重ねるか?
もう少し頑張れば(今の少年には)貴重な回復役の入手も可能かも知れない。
今も一応は回復役をデッキに入れてはいるが……予備含めて五枚のFランクカードの『フェアリー』ばかりである
仮にも『回復魔法持ち』だから一枚一万円の(Fランクとしては)高額なカードだ
一応は『妖精系』だから同じ妖精系(でもある)ジャック・オー・ランタンを進化先にすれば万が一の割合で『回復魔法持ちのジャック・オー・ランタン』を作成する事は……無理だ
ジャック・オー・ランタンは何気にアンデッドとしての属性もあるため残念ながら回復魔法とは非常に相性が悪いのである(高位アンデッドなら話は別だが)
少年は……今の自分にとって一番の財産(比喩抜きで一財産、ギルドに適正価格で売っても確実にちょっとしたCランクカードが買える。何ならシルキーだって二枚買ってお釣りが来るぐらいだ……先に行った『魔石払い』なら五千万円は軽いだろう。ちゃんとした相手を探せればだが)であるカードホルダーから自身のデッキを取り出す
何気に頼れるストーンゴーレム
最近漸くクラスチェンジに成功した元ワイルドウルフ現ヘルハウンド
縁の下の力持ち、と言うには頼りないフェアリー×5
もしもの備え、として罠探知スキル持ちのブラウニー(ハリー・○ッターに出てくる屋敷しもべ妖精みたいなもの)
そして……この二ヶ月で己の心血を注いで鍛え続けてきた唯一の切り札であるオーク
ありきたりな安いカードではあるが……それでも成長限界まで鍛えあげて粗末なものだが適性に合う武具も調達出来た
そして何より、そこいらのオークよりも沢山のスキルを獲得出来ているのだ(後天技能としてだが)
武術、忠誠、火事場の馬鹿力……そして何より冷静沈着といった比較的ありふれた技能ばかりだがそれでも『戦士としての仕上がり』はかなりのものだろう
今のデッキ内容をもう一度精査して何が必要かを考えてみよう……
主力のオークは重戦士。ストーンゴーレムはタンク。ヘルハウンドは遊撃手兼探索手。フェアリーは回復役……だが正直力不足過ぎる。ブラウニーは罠専門の盗賊
ストーンゴーレムとヘルハウンド、ブラウニーはなるべく早くDランクでその枠を埋めておきたい処である(少なくとも二つ星を目指すならば最低限)
欲しい戦力をなるべく最優先……色々足りないものばかりだが今の少年的にはまず三つを挙げた
一つ:出来るだけ魔法系統の遠距離攻撃手段
Eランク迷宮は今までのFランク迷宮とは完全に別の代物であり、今の様にオーク一枚では絶対に立ち行かないのは基本的な前提だ
今のデッキ編成にもあるストーンゴーレムみたいな物理耐性持ちが連続で出る可能性のある環境だから『物理以外の攻撃手段』も欲しい
二つ:遊撃手若しくは戦闘力のある盗賊
オークは基本的に鈍重である。今限界まで鍛えてはいるがそれでもオークに素早さを期待するのは間違っている
ならばなるべく素早く手数系の戦士……むしろ『戦える盗賊』みたいな手札が欲しい
Eランク迷宮からは罠が実装される事を考えると真面目にその辺は対策を練らなくてはならないし
三つ:ちゃんとした回復役
今のフェアリー×5では間違いなく回復の手が足りなくなる。Fランク迷宮ならまだしもEランク迷宮ではなるべく即座……要は戦闘中にもちゃんと回復させられる手札が欲しいのである(落ち着いた時に行う回復役としてならフェアリー達もまだ暫くは現役が勤まるだろうが)
『装備型(若しくは装着型)』はある意味回復役よりも優先して欲しいがこれは流石にそうそう手が出ない(予算もそうだが……これもシルキーと同じ理由で供給が非常に少ないのもある。Eランクの装備型だって常に品薄である、それこそ『使えない』と散々な評価の『手の目』ですら)
基本的に装備型はまだまだ高嶺の華なのだ
この中で真っ先に優先するならやはり回復役。今なら少しはマシなカードも買えるだろう
さて……今日も迷宮に行って資金稼ぎに勤しもうかと思っていたら……
「大輝ー、ご飯の時間だから降りて来なさーいっ!」
……どうやら既に昼食の時間らしい。母が呼んでいる
少年……改め『佐藤(さとう)大輝(たいき)』は頭を掻きながらカードや財産達を片付けて部屋を出ていった
【Tips】佐藤大輝
この物語の主人公。第五話にて漸く本名が公開される
名前の由来は『日本で一番多い苗字』と『2003年に一番名付けられた男児の名前』から
原作主人公の『北川歌麿』と同い年の現在中学三年生。そこそこ長身中背普通の顔立ちの一般的な学生(但し学業はそれなり以上、冒険者となる為の両親との約束の為に)
両親もそれなりに『冒険者』というものを理解している人物であり……『現在の本当の世相』も理解している事から大輝が冒険者となる事を許可していくばくかの援助を施した(そして後に……)
基本的に目立つのが苦手ないわゆる『隠キャ』である為彼が『冒険者である事』を知る者はあまり居ない
性格は他者と関わる事が少し苦手な(先に言った通りの)隠キャであり一般的な学生冒険者(特にエンジョイ勢)が苦手
カード達には(根本的に自分が目上である為)それなりに強く出られるが『カードだからと言って無闇矢鱈と偉そうにするのはみっともない』と考え……いや自制している
それなり以上に育成への適性はあるが基本的に入手したカード達が(少なくとも今のところ)当たりなカードばかりなのでこの結果なだけである
結構運が良い(特に厄を回避する系統の幸運に恵まれている)……が、冒険者である限り何時かは絶対に『破滅的な災い』に遭遇する事は定められている(今はまだまだ準備期間に過ぎない)
巨乳派であり何時かは好みのタイプなシルキー(むしろ女の子カードならだいたいは)が欲しいと思ってはいるがそう思っているだけで実際にはむしろ『強いカード』や『便利なカード』を絶対的に優先する傾向にある
幼少期に世界中で起きた『とある大事件』の影響で『力』を求める性格になった(求道派冒険者あるある)
『冒険者になる』という目標の為に身体をそれなり以上に鍛えている(ちなみに普通に生きていたら『もやし、鶏ガラ体型』になっていた)
知人や彼を知る人間の一部は『白大根』に彼を例える者もいる
ある種の『漆黒の意思』みたいなもの(の萌芽)を魂に宿している
外見的には『アスキーアートのできない夫』で見ればだいたい合ってる
『やる夫』をモチーフにした先達が居た為。その発想が気に入って個人的に一番イメージがしやすく『小市民』を想起しやすい『できない夫』をモチーフにしてみた(『やる夫』の対になる『やらない夫』だと筋肉モリモリマッチョマンの変態になりそうだから却下し、『できる夫』と悩んだ結果で『できない夫』に決めた)
やっと主人公の名前決定です
主人公のデータを少し加筆修正しました
そろそろ新しいDランクカードを買いたい……どんなカードにしようか?
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後衛:魔法系アタッカー
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中衛:遊撃手兼盗賊
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後衛:回復役兼バッファー(少しお高い)