本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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お年玉代わりに偶には拙い昔話でも……


間話その2-1 大輝の初陣〜ファーストコンタクト〜

 

 

草木萌ゆる四月の春と冬の境界線の時期、齢14にして大志を抱く今は無名も同然……いや、ある意味既に一部の界隈では『要注目』認定されている少年である佐藤大輝は今日から冒険者として活動を始める事に内心わくわくしていた

 

一部の界隈で注目を集めるきっかけとなった『自らに課した大きな課題』を踏破して漸く作れた出来立ての冒険者ライセンスをFランク迷宮の有るダンジョンマートの迷宮出入り口に翳して迷宮の入り口……漆黒の、謎の球体に手を翳す

 

そして迷宮内部の所謂『安全地帯』で真新しい自衛隊仕様の野戦服とタクティカルベストの衿元を正し、それとミリタリーリュックから取り出した聖銀製コンバットナイフを腰に装着してから徐に脇のカードホルダー……フェイクホルダーに仕込んである僅かな時間を縫って出来たバイトや小遣いお年玉などの貯蓄、親の協力も有って購入出来た虎の子であるカードを引っ張り出す

 

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。

【後天技能】

・斧術

・従順

・知性強化

 

 

初心者御用達の代名詞である『オーク』だ、はっきり言ってぱっとしないカードではあるがこれでも『従順』という初心者には心強い技能持ちなので無体な扱いさえしなければ良いカードになってくれるだろう……多分

 

見てくれは……大柄かつ固太り体型な豚頭の鬼であり、このタイプの魔物としてはかなりちゃんとした身嗜みをしている。このオークという魔物は大概股間を隠すだけの褌か腰蓑一丁に何らかの武器といったみっともない格好が普通なのだがこのオークは一味違う

 

粗末な造りではあるが麻布製の貫頭衣に膝丈までのやはり粗末な造りの麻布造りなズボンを履いてその腰は頑丈そうな荒縄で締められている。足には丈夫そうではあると分かるブーツ?とも見えるサンダル履き、手には大鉈と言った塩梅のオーク基準ならば非常に身嗜みの整ったお洒落なオークである

 

知性強化という技能持ちだけあってオークとしてなら彼は非常に賢い分類にある存在なのだろう。俗に『奨学カード』とも呼ばれるだけあって安い割に初心者向けの代名詞みたいな存在としてある意味大人気ではあるカードだが本来ならあまり頭の出来は宜しくない

 

大概のオークは武器を装備して相手を殴る事ぐらいしか出来ないが、こういう知性が強化された個体であればある程度はちゃんと道具が使えるし覚える機会に恵まれれば多少の魔法ぐらいなら使える様にはなるだろう

 

後ついでに言えば基本的に不器用であり脚は遅いとされているが少なくとも人間よりはよっぽど素早くはあるが基本的に肉弾戦をやらせるか単純な力仕事をさせるかしか出来ないが……それでも『新米冒険者の護衛役』としてなら間違いなくコストパフォーマンスも相まって最優のカードだと評価が高い一枚だ

 

見てくれは悪いが、予算の厳しい新人冒険者の心強い味方……それがオークである

 

尤も、大輝のオークは通常のオークよりも従順で賢い優秀なオークなので普通のオークよりも高値く付いたものだ、言うなれば新車を買う際に良いオプションを付けた様なものだろう

 

先ず護衛役のオークのカードを出した大輝は……今の手持ちの中で他に何を出すべきかを思案する。定石通りならば獣系カードを出して斥候役だろう、大輝の手持ちにも割と斥候向けだと言える『ブラウニー』という妖精が存在する

 

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】70

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

【後天技能】

・中等罠発見/解除

・鋭敏感覚

 

 

新米も新米である大輝はFランク迷宮にしか潜れない……今の大輝にはこの大枚叩いて買った貴重な中等クラスの罠発見/解除も今は要らないスキルではある。普通に敵感知に向いた獣型を買えば安く済んだだろうがこれは未来を見越して買ったものではあるが

 

大概の冒険者……俗に言う『エンジョイ勢』はそんな索敵用のカードを買う、という発想がある者はあまり居ない。大概見た目を重視するか多少気の利いた部類でも戦闘能力を重視するだけである

 

ちゃんと安全対策や今後の成長を考慮してデッキ編成が出来る者は大概が『ガチ勢』とも『求道冒険者』とも呼ばれているだろう

 

しかし、斥候役には欲しい鋭敏感覚や初等クラスとはいえ状態異常魔法が使える辺りは非常に評価が高い、少なくともこのスキル編成ならこのEランクカードは結構良いお値段になるだろう。ちなみに今の大輝の手持ちで他に魔法が使えるカードは救急箱程度にしか使えない見習い回復魔法持ちのフェアリーが二枚……男カードなので安かった、ぐらいしか手持ちが無い。いやそもそも大輝の手持ちは今はこの四枚だけである

 

腰のポーチには最低限必須の備えだと言えるローポーションが五つ、それと気休め程度の効き目しか無いだろうが熊撃退用スプレーにスタンロッドと呼ばれる対モンスター用電磁警棒。せいぜいEランクモンスターに通用すれば上出来だろう……モンスターが振るう事前提程度である程度の代物だが、を持っている。人間が普通に使うなら弱いFランクモンスターにどうにか通用するかもしれない?という程度だろう

 

Eランク迷宮になれば多分直ぐに壊れてしまうだろう……尤もFランク迷宮の攻略中にでも壊れる時はあっさり壊れる程度の強度でしかないが

 

他にも一応の備えとして『モンスターが使う事を前提にした造り』であるスリングショットもあるが、そっちはブラウニーに渡して使い心地を確かめて貰う必要があるだろう……大輝も腕っぷしには自身のある方ではあるが、流石にこのスリングショットは弾くのにえらく苦労した。これに鉛玉を番えて撃つなぞ殆ど無理だ

 

本当ならリビングウェポンか何かを調達して使うのも考えてはいたが……装備化カード故にあまり見つからない類いのカードであり、大概はガントレットや鎌、大鉈みたいなキワモノ武器型か一番安くありふれた蠢くナイフぐらいしかショップには余り並ばないものだ。真っ当な武器型リビングウェポンは即時完売がデフォ故に

 

Fランク迷宮の制約上蠢くナイフ程度ではあまり活用はし辛いだろうから有っても買わなかっただろう。せめてEランク迷宮に挑めるレベルにならないとあまり買う価値はない……と思う、少なくとも蠢くナイフがダイレクトアタックに対する盾代わりになってくれるから需要は高まるだろう

 

大輝も半年後に自力で迷宮から入手するまで他人が使う処ぐらいでしか見た事が無かったぐらいだ……籍を置く冒険者私塾での訓練で一時的に使った長剣型の経験を除けば、だが

 

これも最初心冒険者のスタイルの一つである……腕っぷしや武術に自信のある者が比較的安くスタイルに適合する装備化カードと最低限必須の奨学カードという編成で迷宮に挑むというのもままあるパターンの一つだ。比較的安価だと言っても装備化カードは希少なので入手出来るかどうかは運次第ではあるしEランク装備化カードの代名詞であるリビングウェポンは奨学用Dランクカードにも迫るお値段の人気カードだが

 

リビングウェポンみたいにほぼ全ての装備化カードら大概の迷宮でレアドロップ扱い故に仕方ない話である。もう少し出現率が高ければこの系統こそが奨学用カードにでもなっていただろう

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

大輝はその二枚のカード……あらかじめ『契約』、要は己の血を一滴そのカードにかけてカードの所有権を取得しておいた。冒険者をやるなら必ず何度でも指に針を刺して血を出す事になるだろう。冒険者垂涎のカードホルダーやそのイミテーションであるフェイクホルダーにも必ず針が収納されているものであるし

 

これはちょっとした下ネタ混じりの雑学だが、嘗て……カードが世に出た際に一部の研究者らが『血以外の体液』で代用が効かないか実験した事があるらしい

 

ちなみに結果は……血液以外は全て駄目だったらしい。恐らくは血液にはオカルト的な効果か何かがあるからだろうと推測されている、同じ理由で『精』にもそういう効果があるから可能性が見込まれていたが駄目だったらしい

 

まぁ……『精』なぞ染み込ませたカードなぞ誰も使いたがらないだろうから『カード契約には血液必須』で良かったと言えるだろう。下手したらセクハラ沙汰であるし不気味なモンスターのイラストに『ぶっかけ』なぞ普通はやりたくない

 

ショップや札商は必ず買い取ったカードを一度は除菌消毒しているとはいえ……である

 

大輝はそんなピカピカに磨かれた綺麗なカード……紙でも金属でもプラスチックでもない不思議な材質のそれを二枚手にして『来い!』と念じる

 

すると大輝の直ぐ側に二体の異形……豚頭の鬼と毛の無い眼だけがギョロリとデカいが非常に小柄な襤褸切れを繋ぎ合わせて作った服らしきものを纏った小人の二体が現れる

 

大輝が買ったオークとブラウニーである

 

大輝はまるで『クリスマスプレゼントに望んでいた玩具を貰えた子供』みたいな喜色満面の表情でその二体……大輝が八歳の頃からコツコツ積み重ねてきた苦労の成果は今この場に存在するのだ。それは喜色満面にもなろうというものだ

 

そして……これこそが中学生にして『迷宮士』という難関国家資格を獲得し、半年以内に三つ星冒険者にまで昇り詰める偉業を達成した佐藤大輝とその生涯の縁になる『剣』と『蔵』とのファーストコンタクトである

 

しかし、今現在でも所詮は『第一段階に入れた』というだけでしかない……未だ未だ前途は長く艱難辛苦である

 

そしてこの瞬間に彼らは最初の一歩を踏み出す事になる……この迷宮に潜む『最初の洗練』は彼らに一体何を齎すかは次回のお話

この作品のタイトル改名……やる?

  • 『リア充でも明日を求めて良いですか?』
  • 『モブでもリア充でも明日は欲しい』
  • 変更無し
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