本当に一般的なモブだって輝きたい   作:血涙鬼・彼岸

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三ヶ日のお年玉、これにてラストです


間話その2-3 大輝の初陣その3〜今の強敵は明日の戦友〜

 

そのボス部屋に居たのは……人型だった。大輝のオークと大差無い身長ではあるが幾らかシャープな体型をしている

 

しかしその身体は石で出来ている

 

そのモンスターの名前は『ストーンゴーレム』、ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言える存在)が操るとされている魔法の操り人形の一種である。本来なら泥人形の事だが、そっちはFランクモンスターに存在しているがどうやらそいつらも『眷属』として存在している様だ……二体だけみたいだが

 

モンスターとしての性能は……言わば『劣化版オーク』である

 

基本的にオークと同じく腕力と耐久力、ついでに防御力には定評はあるが……敏捷性が無く、不器用の極みかつ判断力が全く欠如していて融通が効かないのでマスターがいちいち指示を出さないと上手くは運用出来ない

 

先にも言った通りに不器用の極みなのでオークの様に武装しての強化も基本的に不可能なのである、例を挙げれば岩を投げるとか丸太を抱えて突撃とか程度しか出来ない

 

その代わり疲労も痛感も無いのでどれだけでも動けるし、幾らでも酷使が出来る……それこそ何処かで『迷宮の外で召喚出来るなら重機やフォークリフト代わりに使えるのに』、とかぼやいている色々な兼業冒険者が居たとか居ないとか

 

一応、このストーンゴーレムも育て方次第では感情を得て不器用を克服する事も可能らしい。そういうブログと育成記録が存在しているのだ……原作にも『イライザ』というケースがちゃんとある様にやり方次第では非常に『化けるカード』ではあるが余程の物好きな冒険者ぐらいしかやらない手間だろう

 

しかし……最初からこのストーンゴーレムが敵とは厄介な話である。このストーンゴーレムなる化け物は所謂『準Dランクモンスターとでも呼ばれる様な非常に強いEランクモンスター』である

 

動きは人間より少し鈍いが、力も耐久力も非常に高くおまけに疲れ知らずなので非常に厄介な怪物である

 

しかも……大輝の主力であるオークの得物は大鉈、基本的には『叩き切る』性質の武器であるが、それを石の塊にぶつければどうなるかは誰でも察せられるだろう

 

この大鉈もオークの身体の一部だと言えるのでどんなに壊れても後で勝手に直るから余り問題はない……が、下手な扱い方をすればストーンゴーレム討伐前にこの大鉈を失う羽目に陥るだろう

 

このストーンゴーレムという怪物は『奨学キラー』と新米冒険者からは恐れ嫌われている……最初の冒険でこいつに出くわして唯一のDランクカードをロストした奴は結構多い。そしてその理由は大輝のオークとの戦いで分かるだろう

 

大輝の手持ち武器は先に挙げた三つ……聖銀のナイフとスタンバトン、そしてスリングショットである

 

スタンバトンは殴打用である事以外はあまり有効とはいえないだろう、岩石の塊に電撃とか……まぁ他二つは論外も論外だが

 

さて……こうなるとブラウニーもほぼ戦力外だろう。状態異常魔法でデバフをなるべく多く掛けて貰って入手したFランクモンスター達を使い捨て前提で逐次投入する作戦で行く事にしよう

 

絶対必須のオークとブラウニーを護る為とはいえ、Fランクだからと言ってもあまり良い作戦ではないが、もうこういう作戦は使わないで済む様に次からちゃんと努力を重ねなくてはならないだろう

 

しっかりブラウニーの魔法で敵が弱体化したのを確認してから先ずはワイルドウルフで牽制を仕掛ける……流石に最弱クラスだけあって即座にストーンゴーレムに先ず向かわせれば単なる無駄死にだろう、先ずは泥人形に送り込んでみたがそれなりに健闘はしたが倒されてしまう。やはり後天技能も無いバニラでは流石に厳しかった様だ

 

ならば次はとゴブリン……Fランクモンスターとしてならそこそこ強い部類のカードを出しておく。黒ずんだ緑色の肌、皺くちゃの顔とガリガリに痩せた体に、ポッコリと出た腹部。地獄の餓鬼を思わせる容貌でまるで卵が腐った……いや硫黄臭か?の様な悪臭を漂わせる小鬼である

 

本当の餓鬼はゴブリンより余程強いEランクモンスターであるが、まぁその辺りはどうでも良いだろう

 

このゴブリンは腰蓑に石斧を装備したステロタイプなデザインではあるが、ありがたい事に斧術を持ったそこそこ優秀な個体である

 

普通のゴブリンよりも力強い斧捌きで軽度とはいえ状態異常の影響にあった泥人形に効果的なダメージを与えてゆく……ゴブリンは泥人形より多少は強いモンスター故に負傷はしたが泥人形を一体撃破してくれた、しかしやはりまた泥人形が『おかわり』と言わんばかりに召喚されて来る

 

そして今度の泥人形は状態異常魔法の影響下にはない……要は『先程よりも些か強化された個体』だと言っても良いだろう

 

二体の泥人形に囲まれたが、それでもその二体を道連れにして砕け散った、ゴブリンのカードが先のワイルドウルフ達の様にパリンと割れる

 

大輝が次に用意したのは……

 

 

『チ゛ョン゛!ヂョン!!』

 

 

何とも不気味な鳴き声を上げる人間の生首……に似た南米の妖怪チョンチョン、やはりこの迷宮でドロップしたカードだが戦闘力はゴブリンと同程度、道具はこの身体故に扱えないが飛行能力のある存在だ

 

大輝はこのチョンチョンにヒット&アウェイで泥人形に攻撃させる。チョンチョンの体当たり?頭突き?で泥人形らにちくちくダメージを与えながら泥人形らを牽制して貰う。チョンチョンは頭だけのモンスター故にFランクにしては思考能力がある方みたいでこちらの意図をちゃんとある程度は理解して動いてくれている様だ

 

そして……この迷宮の主であるストーンゴーレムと挑戦者たるオークの戦いはどうなっているかというと?

 

 

ひたすらに泥試合になっていた

 

 

オークもストーンゴーレムもどちらも『不器用だが頑丈な力自慢』であり、基本的にどちらとも決定打を打てる手札は無い。一応オークには大鉈はあるがこのストーンゴーレムには有効ではない……いや刃は既にぼろぼろでもうそろそろ鈍器にさえもうならない手前の有り様だから投げ捨てられているが

 

故に今はオークとストーンゴーレムの果てしない殴りあい……まるでロシアの壁対壁”を意味するスチェンカ・ナ・スチェンク争いみたいな様相である

 

殆ど交互に続く肉と石、拳と拳の応酬。普通に言えばオークの方が強い……のだが、流石にこのストーンゴーレムはボス仕様の強化版である。基本的なスペックならば現状はほぼ互角だがこれが『生身と岩塊の殴り合い』となると話は更に変わる

 

時に……貴方は、生身の拳で岩石を殴れるか?

 

要はそういう話だ。オークの拳は未だ大丈夫そうではあるが表情には苦痛が見られる……一応オークには今日の収穫ありったけの魔石を渡してはおいたから今は『ちょっと痛いだけ』で済んでいるがそろそろ魔石による回復も切れるだろう。そういった事情から最初期のオークが迷宮ボスのストーンゴーレムに押し負けたケースは実は以外と多いのである

 

対処法として総金属製のハンマーなり何なりの頑丈な鈍器を持ち込んで素手以外で強化ストーンゴーレムに挑むなりするか逃げるなりするのが一番簡単な対処法だろう。初等クラスでも良いから攻撃魔法が使えるカードを用意しておく方が更に良い

 

むしろそれなり以上に鍛えたオークなら迷宮ボス仕様のストーンゴーレム程度なら拳だけで容易く撃ち倒してくれるだろう、最初期でも鈍器使いか格闘術の使い手ならば何の問題もなくいける

 

そして……これから大輝が取る手段も有効な手段の一つである

 

 

『……よし、そろそろ頃合いか?』

 

 

チョンチョンに命じた通り泥人形らとストーンゴーレムの距離はそれなり以上に離せた。ならば大輝も『切り札』を切る頃合いである

 

 

「よし、いいぞオーク!頃合いだぁ!!」

 

 

大輝はオークがストーンゴーレムから急いで離脱したのを確認してポケットに忍ばせていた『とある石』を取り出してストーンゴーレムに向かってぶん投げる

 

これは『発火石』と呼ばれる魔道具の一種。この石一つで初等攻撃魔法一発分の威力を叩きつける使い捨てのありふれた代物である……オークとブラウニーを買う際についたおまけの一つである。ローポーション三つとこの発火石五つという粗品だった

 

 

ドンッ!

 

 

その発火石はオークがなるべく重点的に殴っていた部位の近くに当たって爆発する……それほど大した威力ではないがストーンゴーレムにはそこそこ有効打にはなった様である

 

そしてオークも大輝から預かった『切り札』……発火石を至近距離、左腕の掌打の姿勢でその石をストーンゴーレムに叩きつける!

 

 

ズンッ!

 

 

これでストーンゴーレムはもう罅だらけの死に体であり、今度は罅だらけの部位をぶん殴る事であまり痛みもなくストーンゴーレムの解体に成功した……もう一度拾った大鉈が役に立った。そして壊れて砕け散った

 

Eランク魔石でもあげれば一日もあれば再生する程度のものだがまぁそれは後だ。牽制役のチョンチョンは残念ながらボスを喪い消滅してゆく泥人形らと相打ちで……オークの大鉈と同タイミングでカードが砕け果ててしまっていた

 

後の大輝の感想的にゴブリンとチョンチョンは……あまり相性の良いカードでは無かったが、間違いなく優秀なカードだったと思い返した事がある。彼らが生きていれば多少は変化が……頑張れば二軍枠に収まっていたかも知れないが

 

大輝は傷だらけのオークの元に慌てて駆け寄りとっておきのポーションをオークの左手にぶっかけて手当してやる。そして後はフェアリーを交互に……この迷宮でドロップした追加三枚と合わせて後々まで役に立つ計五枚らに回復魔法をかけてなるべく完治させておく

 

オークの手当てが終われば今度は『収穫のお時間』である。ストーンゴーレムは……珍しい事に一発で出た。最初の強敵がまさか最初期から仲間になる展開とはありがたい話である

 

 

【種族】ストーンゴーレム

【戦闘力】80

【先天技能】

・自動人形(下級):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・石の身体:身体が石で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃には普通、魔法攻撃にやや弱い

【後天技能】

・頑強

・庇う

 

 

このストーンゴーレムというカードは前にも言ったが『廉価版オーク』とでも言うべき性能のEランク層ならば非常に優秀かつ実用的なカードだと言える。市価はだいたい六十万円前後、ギルド売却価格は六万円を切る事は無いだろうか?頑強に庇う技能持ちとか護衛とか前衛に最適な代物である……その頑強のおかげで最初は大苦戦状態だったが

 

出来る事出来ない事が非常にはっきりしているので新米冒険者の一時的戦力補強にも優秀な一枚だ。最初に『特徴が無いのが特徴』とも揶揄されるホブゴブリンを選んだ冒険者などがこのカードを代理肉壁に起用したりする事もある、ホブゴブリン使いにとっては割と有名な定石らしい

 

逆に……大輝の様にオークを最初に選んだ冒険者はブラウニーみたいな器用なカードにオークに出来ない事を代用して貰う事もまたある様だ

 

多少脳筋めいた編成にはなるがオークとストーンゴーレムの二枚編成でボス攻略を容易く行くのもまた定石の一つである……普通の人間より鈍足という欠点はあるがオークでも厄介な防御力や耐久力を誇るストーンゴーレムを壁役にすればオークのロストというリスクを回避するにもアリな手段である事は間違いないだろう。少なくともオークさえロストしなければ巻き返しの機会は必ず存在するし何より下手すれば莫大な借金を背負って冒険者廃業の浮き目を見る事になる

 

万が一の際の救助費用は決してまからないし破産しようが必ず支払う義務が存在する……それが原因で未成年者の冒険者就業を忌避する保護者も多いという問題もある

 

そういう問題はさておき……今は目の前に有る無駄にキラキラした宝箱、通称『ガッカリ箱』からお宝を得ることが優先である

 

このガッカリ箱なるもの……迷宮のボスを撃破した証である『白い魔石』と『何らかのお宝』がランダムで出てくる不思議な話である

 

そしてこの箱の何が『ガッカリ』かと言うと……大概がその見てくれの豪華さに反して非常にしょっぱいものばかりだからである

 

前に挙げた凡庸の武具やオーク&ブラウニーのおまけに貰ったローポーションや発火石辺りの非常にしょっぱいものしか出ないのが普通である。一応迷宮のランクが上がれば良いものが出る割合が増えはするが……高難易度迷宮攻略の報酬が『大人の玩具』だったという笑うに笑えないエピソードもあるらしい。ぶっちゃけ大輝の通う冒険者私塾の兄弟子達が実際に体験した事である

 

恐る恐るガッカリ箱を開けてみたら……出て来たのは白い魔石と一枚のカード、これは魔法の力を一回だけ使える『マジックカード』だろう。しかも結構貴重な『レベルアップ』のカードである

 

このカードは使えば暫くの時間使ったモンスターの戦闘力を最大に高めてくれる効果がある……代償としてその戦闘での経験値は入らなくなってしまうが、今さっきみたいな状況には最適な魔法だろう。使い捨てではあるがこういう新米冒険者の命綱には最適な良い魔法である

 

この魔法は高等魔法の分類故に非常にお高い代物なのが玉に瑕だが、実際このカードはこれから後の『真なる死闘』の際に大いに役立った。これを入手した幸運……他にも様々あるうちの一つだが真面目にそれに感謝した

 

大輝にとってこのストーンゴーレムはやはり非常に長い、それこそ生涯の縁になる出会いの一つであり、後に『巌』と名付けする大輝の主力の一角とのファーストコンタクトとなる。正に『昨日の敵は今日の友』である。冒険者というものは時にこういう縁で新しい仲間を得る……まぁ、そんなありふれた(?)新米冒険者の初冒険はこういう型で幕を閉じた。やはり最初期にはオークと索敵役を用意しておけば大概は何とかなるものである

 

今回のリザルトだが……入手出来たものはワイルドウルフのカード五枚(一枚ロスト)、ゴブリンのカード二枚(一枚ロスト)、チョンチョン(ロスト)、フェアリー三枚、バイパー一枚(ガラガラ蛇型)、スケルトン四枚、それとストーンゴーレム

 

後は通常魔石(全て消費済み)、換金素材になる薬草(引き取り価格三千円)と白魔石(六万円相当)にレベルアップのカード一枚

 

この迷宮のデータはまぁ少しお高いものではあったが、それでもちゃんと収支は出ている。ストーンゴーレムは今は先ず決して売る気にはならないし残りのFランクカードらもいざという時には結構役に立つ事だって分かった

 

後はオークとブラウニー、それとストーンゴーレムの育成からだろう、新たな索敵役に後天技能持ちワイルドウルフを鍛えてみるのも良いかも知れない……ワイルドウルフは召喚した感覚的に『何かの歯車が合った感覚』

がした気がするし

 

さて、そろそろだいたい半年後の大輝にバトンタッチの時間だ。それなり以上に優秀な三つ星冒険者に成れた彼の活躍に話を移すとしよう

 

 

間話その2 終わり

この作品のタイトル改名……やる?

  • 『リア充でも明日を求めて良いですか?』
  • 『モブでもリア充でも明日は欲しい』
  • 変更無し
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