前回より一週間が経過した……が、回復役がこなせるカードは一向に姿を見せずにいた
迷宮攻略はそれなりに順調だが流石にそろそろ新しいカードを入手しておかねばならないと考え込んでいた
カードを手に入れたければ買うか狩るかのどちらかだが、カードは(基本的に)自力で育てなくてはならない
カードは契約を切れば初期化されてカードの戦闘力も記憶も消えてしまう……が、『獲得した後天技能』は別だ(勿論マイナススキルも)
不快な話ではあるが……マスターに酷い扱いをされ続けたカードは初期化されても様々なマイナススキル(だいたい恐怖症や反逆系など)を持って最早まともに取り扱う事も出来ない有り様になっている……らしい
そういう話はネットやら噂話やらにはごろごろ転がっているし。また別の噂話ではギルドが売っているカードパックの『当たり』は大概そういう重大な瑕疵カードばかりだとも聞いた。それもあるからカードパックには手を出したくはないのだ
そんな状態のカードでもちゃんと『使い道』はあるが……それはまたその『使い道』が必要な状況にでも話そう。今の大輝には無縁な使い道であるし
マスターの中にはカードを育成して優れた後天技能を仕込んだカードを売ったり依頼を受けて特定のカードを指定した技能を獲得したり弱点を克服したりさせる『育て屋』というスタイルも存在するが、基本的にちゃんとした育て屋は年単位の予約待ちだし、変な所に持ち込めばマイナススキルが付いたり持ち逃げされたりするのであまり参考にはしない方が良いだろう
少なくとも大輝にそんな余裕はない
そんなこんなでそろそろ腹を括って新しいカードを得るために最寄りのギルドに向かった
何処の街にも大概のギルドは駅ビルみたいな交通の要所などにある(電車の無い沖縄などでも交通の要所に沿ってギルドは建てられるが)。離島みたいな余程辺鄙な場所でも必ず役所や派出所にギルドの支部は存在しているし少なくとも必ず一人は居る二つ星冒険者資格を持った職員や巡査(許可を得る事が出来れば自衛隊以外の公務員でも冒険者は許される副業なのである……但しこういう僻地送りになる確率も爆増するが)がギルド員を兼任している。そして必要最低限の奨学カードや魔道具の販売もしてくれるし『いざという時の避難所』としても機能する。どんな辺鄙な場所でも必ず)
この街のギルドも大概の駅ビルギルドと同じく多目的な冒険者用施設になっている…… 地下に食料品店、一階に飲食店と冒険者用品店、二階は全て冒険者用品店、三階にスポーツジム、四階に冒険者ギルド、五階にカードショップ、六階に市役所と冒険者がすべての用事を一か所で済ませられるようになっていた
冒険者は体力も大事ではあるから今日も沢山の冒険者達がこのジムで汗を流している
普通のジムでは偶にアンチ冒険者……その中でも特に悪質な『ダンジョンヘイト』らの嫌がらせなどがある為、こういう『ほとんど冒険者専用施設』というものは冒険者にとって有難い代物なのだ
エレベーターで目的地である五階を目指す……が、四階で止まり職員に付き添われて同じ五階に向かうらしい同年代と遭遇した
大輝と同じ様な、何処にでも居そうな平凡な少年が様々な書類などを抱えて興奮している
まるでニヶ月前の自分である
その少年とギルド職員に先を譲り、大輝はカードショップの中を物色してみる
『Bランクの○○入荷、価格三億』
『女の子カード買い取り強化期間』
『Dランクカード特別セール中』
まるで……我々の現実にも存在するトレーディングカードゲームショップの様な店舗には色々なノボリやポスターといった様々な情報が氾濫している。今の大輝にとっては大事な情報も一つ見えた
『Dランクカード特別セール中』
丁度良い情報じゃないかとそのポスターを見て……少しガッカリした
「セールはセールでも瑕疵持ちカードのセールは流石に要らないよ……」
『安い』という事にはそれなりの理由があった様だ
そんなぬか喜びから立ち返った大輝に声をかけて来た者が居た
「あらぁん大輝ちゃん?今日こそ新戦力?」
口調は女性……だが、とても漢らしく野太い濁声が聞こえる(まるで悪役を得意としている声優の様な)
その人物は……四十歳は越えているだろうと見れる髪を短く清潔に刈り上げ、雄くさくゴツい風貌に青々とした髭の剃り跡が目立つ身長190㎝辺りの雄大で、それでいて美しい筋肉の塊みたいな男、いや漢だった
但し、そのゴツい益荒男はまるで女性の様にしなを作りながらこっちに向かってくる……良く見ると薄く化粧をしている
一応、ちゃんと男性用のスーツ姿だがその筋肉のせいか偶にスーツがみちみちと音を立てている……様に見える
このカードショップの責任者であり、このギルドに所属する創成期からのサマナーの一人にして半ば引退しているものの三ツ星冒険者でもある名物職員『メアリーさん(本名:鬼瓦権三郎)』である
……一応はちゃんとノンケらしい。何気に女房子供もちゃんと居るそうな(ちなみ奥さんも元サマナーかつ半引退した三つ星冒険者兼ギルド職員らしい)
「それで大輝ちゃんは今日こそ新戦力を買いに来たの?迷宮攻略には沢山のカードが必要だしね?アタシも現役時代にはね……」
少し話は長いがかなり親切なのでこの辺りの冒険者達からは慕われている……その趣味と普段の行動はさておいて
「はい、今日こそ新しいカードを買いに来たんですが……何か回復持ちの出物は有りますか?予算は最大二百五十万円で」
「……残念だけど、今Dからのちゃんとした回復持ちは三百万円のからね。回復持ちはそれだけで人気高いから仕方ないわね。私も現役時代にはそれで苦労したわ」
仕方がないので目星を付けた奨学カードを見せて貰う事にした
第一希望の回復持ちはやはり在庫が無い、いや有りはするが完全に限界予算オーバーだった……それなら新しいカードを一枚買って残りをまた回復持ち購入資金に充てよう
ちなみに瑕疵持ちカードは見てすらいない……流石に商売道具に妥協はしたくない、いや。まだそんな癖だらけのカードをマトモに育成できると思うほど自惚れてはいないつもりだからだ
そう決めて……メアリーさんに頼んで『この店舗が保有する奨学カード一覧』を見せて貰う。店舗のデータが入った専用のタブレットである
大輝の隣で先の少年が同じ一覧を真剣な表情で眺めている
大輝も……すぐそこの自動販売機で買ったお茶のボトルとメモ帳を置いてその一覧を眺める
だいたいのカードは百万のものばかり……中には軽度の瑕疵持ちも居るがその辺りは九十や八十万円に値引きされていたが(ついでに今買えば一枚だけ安いけど使い勝手の良いFランクカード付きらしい)
その瑕疵カードの頁には目もくれずに『少しお高いカード』の頁を見る
少しだけ良いスキルが付いたカード達を見ている
今欲しいカードは……既に方向性は決めている
『魔法によるアタッカーの追加』
今現在のデッキ編成はどう見ても脳筋編成以外の何物でもない。テレビでやっている様な特殊能力や魔法などを組み合わせて行使する。俗に言う『コンボ』みたいな高等テクニックなぞまず不可能だし、それ以前にそもそもまともな魔法使いそのものが居ない(最低限の回復役と罠対処枠を入れてはいるが)
だからこそ、回復手段が得られないなら『殺られる前に殺れ』という(元からの)スローガンに則って(予算の範囲内で)強力な魔法使いを調達する事にした
そう言えば……最初に買ったオークも少しだけ高い値段だったっけな……
(従順持ちだからでもあるし、両親の援助も多少なりとも有った事から)少しでも良いオークを買ったからこそ今の自分が居る……やはりあの時奮発して良かった
そんな事を考えながら一覧を眺めていたら……沢山のジャック・オー・ランタンだらけのイラストの中からとある一体を見つけ出した
そいつの値段は百三十万円……奨学カードの中ではかなり上質な部類である
そいつは黒マントを羽織った案山子の様な身体をした……人間の顔を模して彫り込まれた白蕪で出来た提灯だった
元来のジャック・オー・ランタンの頭は南瓜ではなく『萎びた白いカブ』である
南瓜が頭になったのは……嘗て大航海時代にアメリカでの移民が始まった時に、当時のアメリカではカブはあまり育つ環境では無かったので替わりに当時は良く採れた南瓜を代用品にしてハロウィンを祝った事が始まりである
このカードは分類するなら『実体の有る鬼火』の一種であり、その性質故に炎の魔法を使いこなす魔法使い系カードでもある
反面、身体はひょろひょろの脆い(Dランクカードの基準であるが)案山子なので身体能力は低い
こいつは基本的な個体よりも幾らか火炎魔法威力が高くなるスキルを保有している事、そして従順持ちである為に奨学カードの中でも高価な範囲なのである
大輝はそのジャック・オー・ランタンを何度か見て気に入った
だから即決でその提灯お化けをライセンスの電子マネー一括で……冒険者に(特にカード関連には)ローンは組めない……支払う
基本的に『冒険者』となった存在はローンが殆ど組めないし使えない……普通に考えて『何時死ぬかわからない人間』を相手に金を貸す奴はいないのと同じ理由だ(海外だとまた事情は異なるらしいが)
ついでにカードは保険の対象にはならない……『何時失うかわからない』という漁師の船や農家のトラクターなどと同じ理由である(代わりにカードそのものや魔道具は税金の対象にもならないが)
それと冒険者そのものは普通……よりも条件は厳しいが保険に加入はちゃんと出来る(『なるべく冒険者を増やしたい』という政府の思惑が有るとか無いとか……)
……まぁ、そんなこんなで新しい切り札の獲得に成功したのである
大輝が帰ろうとした時には、先ほどの少年も最初の相棒を決めたらしい
「このオーク下さい」
そんな声が聞こえて来たのだ
大輝はその少年に(心の中だけ)で『オークは良いカードだ、頑張れよ』と呟いていた
【Tips】ジャック・オー・ランタン
ヨーロッパにおける鬼火(妖精とも亡霊とも)の一種。日本でいうなら『お盆』の様なイベント『ハロウィン』のマスコットとして有名
元々は性質の悪い悪戯を重ねていた為に天国に行けず、悪魔にさえ悪戯した為に(賭け事という説もある)地獄にも逝けなくなった男の魂だと言われている
彷徨う男は夜道をあても無く歩く為にハロウィンの時期にはよく捨ててある萎びた蕪をくり抜いて提灯にした。それと男の名前から『提灯ジャック』となる
本編にも記載したが、大航海時代にアメリカに移民した白人達がハロウィンを祝おうとした……が、蕪はアメリカの(少なくとも当時の)土地には適応しなかった為に南瓜を代用品にしたのが現在のハロウィンの始まりである
カードとしては魔法特化そのもの。火炎系攻撃魔法メインだが幻惑、弱体化にも適性がある
物理的にはかなり弱く、相手がFランクでも白兵戦を得意とした『強いFランク』なら殴りあいは避ける方が無難なレベル(殴りあいに強いEランクならまずやめておくべき)
実は案山子としての身体はほとんど単なる飾りであり、本体は宙に浮く南瓜か白蕪の頭部(一応は案山子パーツも身体の一部なのでダメージ判定はあるが決して致命傷にはならない、案山子パーツは全損しても数日で完全復活する……が、この案山子パーツはジャック・オー・ランタンにとっては『服』みたいなものらしい)
ハロウィンに纏わる存在である為かほぼ全ての個体が『お菓子が大好き』という共通した性質を持つ……お菓子を沢山与えれば回復速度が幾らか早くなる程度には(先天技能に内包された特性らしい)
属性は『火炎/妖精/精霊/アンデッド』、進化先はかなり色々あるが個体ごとにバラつきがあるらしい(但し、必ず火の性質がつよくないと基本的にダメらしい)
大概の冒険者が二体目のDランクカードとして選ぶ事が多いカードとして有名な奨学カードの一種
【種族】ジャック・オー・ランタン
【戦闘力】110
【先天技能】
・除霊祭の提灯
ハロウィンの提灯として炎を以て悪霊を祓うジャック・オー・ランタンの灯火を示す。火炎特化攻撃魔法、初等状態異常魔法、空中浮遊、嗜好品回復(お菓子/軽)を内包する。
・案山子の身体
ジャック・オー・ランタンにとって案山子の身体は『服』と同じ扱いであり、万が一の時にはトカゲの尻尾の様に簡単に切り捨てられる。
一回だけ案山子の身体を身代わりにする事で致命傷を防ぐ事ができる……が、案山子の身体が再生するまで召喚を忌避する傾向がある(マスターの扱い次第ではその状態で召喚するとマイナススキル発生の恐れがある)。
耐久性低下を内包する
後天技能には火炎魔法強化や魔法系が多いが回復魔法と白兵戦技術はまるで駄目だった(回避能力向上は獲得したケースが結構あるらしい)
オネェやヲカマは強キャラだと思う