さて……新しい仲間であるジャック・オー・ランタンを入手してからというもの大輝の冒険者生活は『すこぶる順調』の一言だった
今まででもFランク迷宮のみしか潜れない一つ星冒険者としてなら……だが、非常に高ペースかつ順調な大輝である。それなり以上の『当たり』ではあるがオーク一枚とEランク数枚が主力としては破竹の快進撃そのものだ
大輝は少なくとも……最初に潜る迷宮では必ず情報をギルドから買い込んでから行う
大概のエンジョイ勢らはまず情報を買うという発想が無い。基本的に月に多くて四回……少なければ二回程度しか潜らないし、そもそも彼らは2から良くて4階層しかない弱い迷宮をちょろっと攻略するだけだ(そして主な狩場からあまり出ない……大半のエンジョイ勢は二つ星を目指さずに現状維持を求めるタイプが多いからか?)
それでも『お小遣い』や『アルバイト』としてならば破格なのもある…が、基本的に彼らは『学園でのマウント取り』の為に冒険者という立場を求めただけだ
『この物語の原作』でそれは非常に重要なファクターの一つではあるが……大輝のような求道派冒険者にはあまり意味がない(むしろソロ充タイプだからか?)
大輝の場合は……なるべくエンジョイ勢が近寄らないFランク迷宮の中でも深い迷宮や厄介な迷宮を巡るのが普通だ
今では大輝のデッキに入っているストーンゴーレムやヘルハウンドといったFランク迷宮ボスの中でも『強敵』にカテゴリーされるEランクモンスターが良く出没する迷宮や、Fランクでも性質の悪いモンスター……物理攻撃に耐性を持つタイプなどが出る迷宮などといった競争相手の比較的少ない迷宮を巡る日々を送っていた
Fランク迷宮ならば(ちゃんとしたルートと大輝レベルの戦力さえ在れば)一日で…いや、数時間もあれば攻略は可能だ(それこそ放課後帰りの学生でも)
ちなみに一流冒険者ならデータ無しでも十数分あれば余裕だ
勿論、無駄な戦闘はせずになるべく急いで最下層のボス部屋を目指す必要が有るが
……今の大輝は、新たなる仲間(魔)たるジャック・オー・ランタンとブラウニーの育成に勤しんでいた
ブラウニーはまだ使い道が(Fランク迷宮では)大して無いが……鳴り物入りで加入したジャック・オー・ランタンは大活躍だ
広範囲の敵を火炎魔法で薙ぎ払ったり、ストーンゴーレムみたいな物理に強く堅い敵を火炎魔法で焼却したりと獅子奮迅の活躍ぶりである
……その分、魔力の消耗も激しいし接近されると弱いが其処は歴戦のオークがカバーしてくれるから安定だ
傍はヘルハウンドとストーンゴーレムがカバーしてくれる点も大きい
ヘルハウンドと一緒ならば索敵、牽制を。ストーンゴーレムと一緒ならオークと同じくジャック・オー・ランタンをちゃんと守ってくれる(基本的に非常に鈍足なのでボス戦オンリーではあるが)
魔力が尽きれば安全地帯でジャック・オー・ランタンにお菓子を食べさせてあげれば良い……基本的に少食だからあまり食べないけど(そして食べ終わればカードに戻して暫く休ませれば良い)
もう一枚の長い付き合いのオークにも好物である焼き鳥とジュースを振る舞いながら……何となく子供っぽく感じたジャック・オー・ランタンに見せてみたアンパン○ンを何気に、しかし熱心に見ていたので話を聞いたらどうやら人間の物語に興味があるらしい事がこの前にわかった
とりあえず家にあった適当な漫画と小説を持って来てから休憩時間にオークに渡してみたら小説……それも時代小説が好みである事がわかった
一度運良く入手した『文庫本図書館』という魔道具に色々な本を詰め込んでカード達に貸している……この魔道具は一つしか無いから順番待ちだけど
ちなみに……ヘルハウンドはカリカリ系ドッグフードと骨のおもちゃを。ストーンゴーレムは何も求めず、何もたべなかった(ちなみにフェアリー達の嗜好は完全にジャック・オー・ランタンと一致していた)。ブラウニーは食べたりするよりもむしろ料理を作ったりレシピ集や家事に関わる本を見たりするのが好きらしい(屋敷妖精あるあるである)
その気になれば彼らを『奴隷』として働かせる事も……そもそも何かを与えず食べさせなくても(カードだから)平気だが、それでも大輝はカード達をそういう扱いはしたくなかった
少なくともデッキメインの彼らは非常に良く働いてくれているのだ。
何時か何らかの不手際や不運でロストしたり、また売る必要が出来たりする可能性だってある……将来のデッキ編成次第でリストラだってあるだろう
……しかし、それはまだまだ先の話だし容易くカードをロストする様な真似をする積もりは無い
それに何より……カード達にその程度の労いが出来ないほど儲けが無い訳でも無い
ジャック・オー・ランタンの加入で迷宮攻略の時間が大幅に短縮出来たし、何なら休日には数カ所のハシゴだって余裕で出来る(あまり冒険者の居ない地域だと尚良い)
『明日、学校が終われば明後日は休みか……そろそろキャンプ講座も受講しようかな?』
Fランク迷宮は基本的に日帰りで攻略出来る程度の浅い迷宮である……しかし、その一つ上のEランク迷宮では(よほど特殊な何かが無い限りは)最低限一泊は必要になる程に深い(高位の冒険者なら簡単に日帰り出来るが)
学生や兼業冒険者には結構、その条件は堪えるものなのだ
そして……Eランク迷宮からは『罠』という概念も考えなくてはならない
Eランクの罠ならばまだ直接的には殺傷力は控えめ(少なくとも更なる上位迷宮に比べれば)ではあるが……Eランク迷宮からは『進行ギミック』なども発生する
Fランク迷宮ならば基本的にちゃんとしたルートさえ探してしまえば割と容易く一発攻略が出来る(勿論、適切な戦力は大前提であるが)
……現に大輝もちゃんと情報を購入してなるべく早く沢山の迷宮攻略をこなしてあの大金を獲得している(いまならそろそろ……ちょっと奮発すればいけるかも知れない)
しかし、Eランク迷宮からは『別の場所にあるスイッチを押す』、『隠された本当のルートを探す』などなどの厄介なギミックが発生してくる
更にEランク迷宮では……嘗てFランク迷宮でボスを務めていたEランクモンスターが『普通の雑魚』として出てくるのだ
Eランク迷宮は少なくとも11階はあり、その11階からEランクモンスターが発生する
そして……Eランク迷宮からは全てのモンスター達の知能も若干向上してくる
Fランクでは奇襲など以外の作戦的な行為はせずに只脳筋的に襲いかかるだけだったモンスター達がそれなりに知恵を使って襲撃を仕掛けてくる様になる(Fランクでも群れで襲いかかる程度には)
Eランクモンスターに至ってはパーティーめいた編成を組んで冒険者を襲う様になる。中には『一芸特化型モンスター』などというスタイルのモンスター同士による天然のコンボで格上のDランクカード破壊も結構聞く話である
D一枚だけでEランク迷宮の攻略は……こういう厄介な『格上殺し』の存在で『無謀すら通り越した自殺行為』扱いとなっている(それ以前に……Fランク区域の突破さえかなり難しいだろうが)
そんな条件が重なる中で大量の荷物……数日分の食料品やキャンプ用品などをえっちらおっちら抱えて最低限でも一泊は必須の行程である
控えめに言っても普通に過酷な話だが……
『専業冒険者(の卵)』ならば割とこの関門は簡単に攻略出来る……何なら大学生などの比較的自由な時間のある者達ならばエンジョイ勢でも以外と多数攻略者(二つ星冒険者)が居る
……基本的に、このEランク迷宮に入る為には『二つ星冒険者になる』という条件が必要だが。実は幾つが(合法的な)裏技で一つ星冒険者でも入る事は出来る
一つは……入場可能資格を持った冒険者とチームを(一時的にでも)組んで貰ってその迷宮に入る。といった方法
一応は大学生冒険者(エンジョイ勢含む)や専業冒険者のレベリングなどに活用されているテクニックの一種だ
そしてもう一つ……これが大輝が今回考えているEランク迷宮入りの方法だ
『二つ星昇格試験』
ギルドが秘匿する試験専用Eランク迷宮を一ヶ月以内に攻略する。という(言うだけならば)簡単な試験を受ける事だ
必要な資格は『十ヶ所のFランク迷宮攻略実績とDランクカード一枚』だけあれば何時でも可能だ
……基本的に秘匿されている迷宮なのでギルドも内部の情報を売ってはくれない(一応の救済策はあるが)
大概の(普通の)冒険者は二度三度は落ちる前提でこの試験を受ける……普通は最低限二枚のDランクカードを用意してからが始まりだ
そして大概は三枚から出来れば四枚のDランクカードを揃えてこの関門を踏破するだろう(基本的に奨学カードばかりの編成ではあるが……稀に回復系を購入出来たら入れるパターンもある)
閑話休題(それはさておき)
さくっとその迷宮のボスを狩って魔石とガッカリ箱(中身は十万円相当で売れるいらない魔道具)を回収して……開いた脱出ゲートを出る前に一番会話能力と思考能力があるオークと話をする事にした
『そろそろ二つ星昇格試験を受けるべきかどうか?』
喉の作りで人間の言葉で話すのは不得手だが、それを補ってあまりあるその種としては破格の賢さと冷静沈着さを持ったこのオークは大輝が迷宮内で最も信頼する存在だ
……それこそ『名付け』を真面目に考える程に
普通のDランクカード、それも奨学カードであるオークの値段は『売る』ならたったの十万円だ
ちょっとした技能程度ではその価格は変動しない……ギルドに売るならば(ギルドでは三十万円出せば良い方だろうが)
しかし、此処まで育ったオークならば持っていく処次第では軽く三百万円で売れるだろうか?(いわゆる『育て屋』的な意味で)
そして更に良いカードを買ってを繰り返すのが一般的な冒険者だ(意中の女の子カード購入資金に充てる男性冒険者もまた多い)
だが大輝はこのオークを手放す気など全く無いが(このオークを手放すくらいらならまずその前にカードホルダーを先に手放すだろう)
そして……『名付け』とは、そのカードを永遠に自分のものとして扱い、己のデッキの主力として常に組み込む覚悟を込めた『そのカードとの絶対的な契約』である
『名付け』したカードは二度と初期化出来なくなり、他者に譲渡も決して出来なくなる(要は資産価値の喪失だ)
しかし、『名付け』にはそれを補ってあまりあるメリットも存在する
『蘇生可能』
普通、カードは死ねば(カードごと砕けて)それまでだが……『名付けカード』は『ソウルカード』と呼ばれる灰色のカードとして残る
どんな状態でも良いが必ず初期化された同種族同性のカード一枚を対価にその名付けカードを復活させる事が出来る(前にも挙げた『再起不能なカードの使い道』がこれだ)
『決して喪いたくない。最期まで自身で使いたいカード』の為に行う契約……それが『名付け』である
尤も……その『名付け』をカードが受けるかどうかはそのカード次第である(カードにとってもそれは非常に長い付き合いになるのだから)
そんな事を一緒に……頭の片隅で考えながらだが、大輝は最早『相棒』と呼んでも差し支えないオークと今後の事を話し合う
【Tips】『収納』
カードモンスターはカード化したアイテム以外はカードに戻す時に一緒には戻せない(無理矢理カードに戻すとその物品は消滅するらしい)
しかしこの『収納』というスキルがあればそのランクに限り荷物を保有できる
色々なランク差はあるが最低限技能となるなら押し入れ程度には収納量が存在する……プロを目指すなら何気に欲しい技能として密かに人気の技能である
ちなみに……なろう小説などによくある『収納鞄』みたいな魔道具は存在するが基本的に『所持禁止魔道具』としてギルドの強制買い取り対象となっている(幾らでも犯罪に使える代物につき)
その亜種である『カードホルダー』や『魔石袋』などの用途が限定的な物は使用や所持に制限が無い(カードや魔石は何気に嵩張るし)
基本的には一部の最初からこの技能を保有するカードか……賭けになるが『オーブ(何時か後述)』に頼る以外での獲得は難しい