「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!! こんのクソ台、どんな設定してんだ!?!!」
¦えぇ……
¦誰ぇ、怖いぃ……
¦相も変わらずのクソラックwwww
¦ゲーム内のミニゲームにここまでキレるの、もう才能だよ
いつも通りの配信、夜21時から24時迄の間に行われる配信には様々な人間が来る。
本業ではない趣味の範囲の配信が故に、万里は気にせず雄叫びを挙げ続ける。
「なんでだよぉ! なんで、今ので来ないんだ! 今の確実に連チャンだったじゃん……!?」
¦確率二分の一を引き当てる豪運
¦逆に強運
¦い つ も の
¦もう諦めて、世界救って
「あ゛あ゛あ゛! ……いっちょ世界救ってやりますか」
¦この切り替えの早さよ
¦切り替え早すぎて草
¦王様「はよ救え」
¦王様つ10ゼニー、ひのきの棒
「っ……! 王様っていつもそうですよね?! 私達勇者の事なんだと思ってるんですか!」
¦使い捨ての駒
¦体の良い暗殺者
「あ゛あ゛! リアル視点……!」
この世に生きて、様々なものを見てきたが、この配信というものは実に便利だと、万里はしみじみと思う。
自分のワンオフアビリティは、発動条件に自分を知る事が絶対的な条件となる。
試合時に相対しただけでも条件は達成するが、事前に化野万里という情報を知っていれば、発動までのラグが減る。
つまり、楽に勝てる。いや、時たま同期組の様なイレギュラーが発生するから、楽に勝てるとは言い切れないが、それでも九割は楽になる。
有名になればなるほど楽に事を進められ、化野万里という存在を世に定着させる事が出来る。
「はいはい、レベル上げレベル上げ。っと、明日早いんだった。ちょっと早いけど、今日はここまで。おつばん~」
¦おつばん~
¦おつ~
¦おつばん!
¦次回はレベル上げかー
コメントを一通り流し見て、万里は配信とパソコンを閉じる。
万事順調、オペレーションスカイフォールの時はどうなるかと思ったが、一夏達の活躍でどうにかなった。
しかし
「まさか、〝私〟を突破するとは、よもやよもやと言いたくなりますね。……ねえ、篠ノ之束博士」
「……やっぱり気付いてたか。流石はばんちゃん」
「そりゃ、私しか居ない部屋にもう一人分の気配があったら気付きますって。それで、ご用件は?」
「話に来ただけだよ」
何も無かった筈のベッドの上で、不思議の国のアリスがのんびりと嗤っていた。
万里は束の事が嫌いではないが、大いに苦手だ。
理由は単純。この世界で唯一、篠ノ之束だけが化野万里の正体に気付いたから。
「話、ですか。私には無いのですが?」
「私にはあるよ。オペレーションスカイフォール、あれは君の為にある計画とも言えたのに、どうして阻止したのかな?」
「もう十年近く前の事件を蒸し返しますか? あの事件は私にとっては不利益そのもの。故に阻止したのです」
「ふぅん? 不利益ねぇ……。君に、いや〝君達〟にとって、あの計画は有益だと判断して邪魔しなかったんだけどな」
「不利益そのものですよ。私達にとってはね」
万里の目的は、化野万里という存在を世に定着させる事。
かつて発生したオペレーションスカイフォールは、その世界を破壊するものであり、世界の破壊は万里の目的ではない。
「そうなんだ」
「なにか?」
「世界の破壊なんてすれば、君という存在は瞬く間に世界に定着するよ。それこそ、君本来の恐怖の権化として、ね」
「私はそれを望んでいないのですよ」
「嘘だね」
束が万里の言葉を両断する。
ベッドに腰掛ける束は、変わらぬ笑みのまま万里に向けて言葉を続ける。
「ばんちゃんは、本当はそれを望んでいた。でなければあの日、ばんちゃんのワンオフアビリティが完全顕現する筈が無いんだよ」
「あれはあの事件を止める為に必要な事で、私の望みとは違います」
「嘘だね。でなければ、いっくんが八奇怪譚を巡る事も無かった」
「……まさか、恨んでますか?」
「まさかまさか、あれはいっくんも覚悟の上でやった事だけど、君も望んでいたんだ」
「だから何を言っているのですか?」
「化野万里、君はあの日倒される事を望んでいた」
万里の表情が変わる。
面倒だという渋面から、核心を突きにきた刺客に対する顔だ。
「篠ノ之束」
「君にとって私はただの人間、そう殺そうと思えば君は何時だって私を殺せる。そして、私を殺せるという事は、いっくん達は言わずもがな容易く消せた」
「篠ノ之束」
「だけど、君はそうしなかった。世界の破壊を嘯き、いっくんと一時的に敵対した。全てはいっくんに自分を倒させる為に」
「面白い話ですね。しかし、私が一夏に倒される為に行動したというなら、何故私は今ここに居るのですか?」
「その答えは、君が持ってるだろう?」
オペレーションスカイフォール、あの計画はISによる宇宙進出が現実味を帯びてきた世界を、もう一度過去の地を這いずっていた頃に戻そうとした亡国機業がある衛星をジャックし、それを足掛かりに空に至る道を支配しようとした。
何度聞いても頭の悪い話だと、万里は思う。空を支配しようなどと、たかが人間程度が思い上がったものだ。
今の時代、海路だけでは流通は賄いきれない。空路という阻むものの無い道が必要なのだ。
それを一組織が支配すれば、世界は緩やかな滅亡へと向かう。
そしてそれは、万里が望む事ではない。
「あの日いっくんは、君を倒すのではなく、君と共存する道を選んだ。君を否定せず、しかし肯定しきる訳でもなく、ただの人間として生きる道へ君を引き摺りこんだ。まったく、いっくんには何時も驚かされるよ」
「それで、その話をする為にここに来たのですか」
「まあね。最後の土産に君と話したかったんだ」
「最後?」
「私は宇宙に出るよ」
「行くのですか」
「うん、凡人も凡百も置いて、私は先に宇宙に出るよ」
「なら、私に構わず行けばよいかと」
「最後に話したかったんだよー」
頬を膨らませた束がそう言うと、万里は疲れた顔で嫌いではないが苦手な相手の顔を見る。
恐らく、彼女が生きている間に再会する事は無いだろう。彼女は自らの夢、宇宙に旅立つ。
「では、さっさと行けば宜しいかと」
「ばんちゃん冷たーい。でも、ばんちゃんがばんちゃんで良かったよ」
「私は私ですが」
「違う違う。君が世界の終末装置でなくてよかったって話さ。化野万里、いや〝空亡〟」
「篠ノ之束、私は私の名前で呼ばれる事を認めていません。私は化野万里です」
「ごめんね。でも、言っておきたかったんだ」
一瞬、漏れ出た殺気に束は身構えもせず、ただ笑っていた。
化野万里は人間ではない。いや、厳密に言えばこの世界に存在する〝化野万里〟という人間ではある。
だが、本質がまったく違う。
「この世界には何故か怪異やオカルトの類いが、異様に少ない。それこそ、存在してないと断定していい程に。でも、君は現れた。怪異は存在しなくても、君という怪異は消えない。だって、君の本質は万物に対する終末なんだもん」
化野万里は確かにこの世界に生きる人間だが、その本質は世界に終末を告げる怪異〝空亡〟。
他の怪異達が定着出来ずに消えていく中、彼女だけはその本質故に消えず、しかしはっきりとした存在も無く、ただ世界を眺めていた。
そんなある日、空亡いや化野万里は確かな存在を得た。
これは消えていった怪異達の最後の悪足掻き、いまだ消えぬ怪異の女王を担ぎ上げ、自分達を定着させようとした。
「君が巡らせる八つの譚も、そうなのかな?」
「さて、それはどうでしょうね」
「んん、いけず。でも、最後に話が出来たし、私は満足」
「では、さっさと行けば宜しい。貴女には、この世界は狭いでしょう?」
「うん、そうだね。それじゃあね、ばんちゃん」
「ええ、さようなら。篠ノ之束」
それだけを交わすと、束の姿も気配も消えてしまった。
まったく、どちらが怪異なのか分かったものではない。
万里は溜め息を吐くと、窓から夜空を見上げる。
「終末を望まぬ終末装置、それが居てもいいでしたか。一夏」
千冬にも別れを告げたのか。廊下から微かに足音が聞こえる。
終末を望まぬ終末装置、それが化野万里という
命尽きるまで人間として生き、命尽きたなら怪異として生きる。
そんなものが居てもいい世界がこの世界なのだから。