「はぁぁぁ!!!」
正面から狼を一刀両断。一頭目は即座に真っ二つになって倒れる。
「────■■………」
俺の攻撃を躱した狼たちは、二手に別れて、俺に襲いかかってくる。
だが、狼など今となっては俺の障害物ではない。
二頭目の背中を串刺しにして、残った死体を踏みつけて高く跳躍し、細道の壁を伝って天井に張り付く。そのまま天井と言う床を蹴り、地面目掛けて一文字。三頭目の脳天を貫き、四頭目も首から叩き斬る。
「ふぅ。手間掛かるな」
そのまま先を急ぐ。遅れて後ろの二人もゆっくり俺についてくる。
細道に狼は現れない。出てくるのはいつまでたっても原型を留めていない死体だけ。下水道のような、長い細道を潜り抜けた先に、開けた場所があった。平たい祭壇のような、暗いけれども少し広い場所。端には柱が立っており、天井はかなり高い。
その奥に、扉のようなものがあって、非常口のマークがついていた。
「あそこが出口だな………」
奥に見える扉に近寄ろうと歩きだしたところ。
「──────ん」
背後から、肉が削げる音がした。俺の肉が削げる音ではない。それは、
「───何処へ行く、貴様」
「───カーラ・アウシェヴィッチ………!!」
カーラに喰われた、二人の男の最期の音だった。二人の男は両方とも苦悶の表情を上げることも、悲鳴を上げることもなく、カーラの手によって即死させられた。
カーラは相変わらず、それ振り回せんのかってぐらいに長い太刀を持っている。狩人を彷彿とさせる、マントのように羽織った毛皮のコートが、風にたなびいている。
唐突な遭遇とはいえ、俺は驚きはしなかった。ここら辺はあり得ないくらいに寒い。いずれのタイミングでコイツに接触するのは解っていた。
手に持った血刀を握りしめる。
「お前、こんなところにいたのか」
「オレは基本的にここを中心に活動している。昨日はたまたま気紛れを起こした遠征だ」
「また人食らいか?今日何人くっ……いや、その前に、お前、何人の人間を使ったんだ」
「使う………?」
カーラはしらばっくれている。
「そいつらから聞いたんだ、お前に脅されて、人々をここに連れてきたってな」
「──────ほう、それは事実か?オレには残念ながらその記憶がない。反転していたという線もあるが、その時ならば、使役するだなんて知性などあるまい。オレは極悪非道は赦さない性格でな。少なくとも、その依頼主はカーラ・アウシェヴィッチではないのだろうな」
そう言いながら、カーラは刀を持たない左手を突き出してきた。
「──うわっ!?」
反射的に刀を振りかざして、今気づいた。俺の真横をすり抜けていく無数の氷塊に。
「───ちっ、どうやら、和解の余地はねぇみたいだな………!!」
俺も刀を持ってカーラに走り寄る。
距離を図る。今回は70メートル。鬼人の脚力を以てすれば、4秒あれば詰められる。
地面を勢いよく蹴りつけて、高速で迫る赤い影。
カーラの太刀は約3メートルもある。俺の刀の倍以上。昨日はナイフだったが、今回はリーチが延びている。けれど、それでもリーチの面ではカーラのほうが優れているという条件は変わっていない。
加えてカーラには氷塊(とびどうぐ)がある。遠距離中距離からでは、カーラは無類の強さを誇っているだろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
だが。
「───行け」
カーラの脅威はその程度ではない。地面の中から狼が八頭も現れる。
「ちっ───!?」
まずい。それは違う。八頭………だって?八頭の狼を殺すとはまだいい。それに加えてカーラ………とてもじゃないが、防ぎきれない。
「────余ったのはそこの八頭のみだ。死力を尽くして貴様の首をはねよう。だが、」
カーラの体勢が沈む。遠距離専門の筈のカーラが、氷塊を放つ左手を降ろし、右手に持つ長刀に添えられる。カーラの周囲に走る冷気が厚く、そしてより冷たくなる。
「オレも死力を尽くして貴様の心臓を打ち砕く………!!」
ここで初めて、カーラが疾走を開始した。今まで俺の攻撃を迎え撃つ、砲台のような鈍い男が、氷の上を滑るように素早い突進で、俺に向かってやってくる。
「まず………!!」
これじゃあ狼を相手にする前にカーラに殺られる……!!
「くそぉぉ!!」
狼を思考の内から消去して、カーラに意識を固める。狼を振り撒き、カーラに向かって走り出す。
カーラの長太刀が振り下ろされる。と、同時に、俺も刀を振り下ろす。
細身の金属板がぶつかり合うギィン、という炸裂音。
「ぐ………あぁっ!!」
強い、衝撃が強すぎる。こちらも全力で剣を振ったのに、それはまるで通用せず、向こうの勢いに全く喰われてしまう。
勢いを防ぎきれずに、そのまま後ろに弾かれる。
「くっ……そぉぉぉ!!」
脚で地面を踏みしめて後退を停止させる。
そのまま俺はカーラに斬りかかろうとして、
「────っ!!」
その勢いはかなわない。地面から突き出てきた巨大な氷柱。昨日のとは比べ物にならないほどに大きく太い。
「ぐ………………」
「────────」
「っ────!!!」
おかしい、昨日より圧倒的に強くなってないかコイツ!?氷を使った攻撃の回数が頻繁になってきている。
「─────ふん」
カーラの正面に分厚い氷の壁が現れる。俺の周囲は氷の壁といえど、氷柱といえど、とにかく氷塊だらけだ。巨大な遮蔽物によって、視界が遮られる。けれど、それはそれでチャンスだ。障害物に身を隠しながらカーラに近寄れる………
「■■■■■!!!!」
だが、それは敵も同じだった。氷塊の遮蔽物に身を潜めて、狼が襲ってくる。
「な………ん!?」
突然の奇襲を刀で斬り伏せる。だが、狼一頭仕留めたところで状況はたいして変わらない。
次なる刺客。氷塊の上から俺に向かって飛び降りてくる。
「うわぁあ!!!」
転がって攻撃を回避したその矢先、
「■■■■■!!!」
「まだいる………のか!!」
さらに一頭。転がった後隙を狙った攻撃をさらに避ける。躱したその先を縫うように、二頭の狼に挟まれるように追い詰められる。
「邪魔だ………この!!!」
一頭目の攻撃を刀で防ぐが、勢いが押さえきれない。そのまま押し返される。さらに、背後から来た二頭目とはまた別の三頭目の頭突きが俺の腹を直撃した。
「ぐ───はっ!!!」
強烈な攻撃を受けて後ろに倒れる。その上から狼が顔を突き下ろしてきた。
「づ…………ぅ!!!」
血刀でそれを押さえる。俺の血刀に噛みついている一頭の狼。しかし、狼はまだ七匹もいる。次から次へと俺に噛みついてくる。
「まずい…………っ!!」
このままでは対処する術がない。喰われる!!
二頭目の狼がやってきて、俺の左脚に噛みついてくる。獣の牙が俺の左脚の皮膚を貫いて肉を裂き、骨を砕いた。
「ぐ───あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
激痛にのたうち回る。喉の奥から自身の血が逆流してくる。血を引いた口を喰いしばって真上の狼を押さえるが、左脚がやられる。さらに、三頭目が俺の右肩を噛み砕く。
「づぁぁぁぁ………ぐぁぁぁぁ!!」
致命傷だ。このままだと何もできずに死に直行することになる。
「はぁ………はぁ………はぁ………」
まだ、まだなんとかできる………!!!なんとかして心を落ち着かせて、
四頭目。今度は俺の左脇腹に噛みついてくる。牙が突き刺さる。臓物を貫く大量出血と危機的状況を察知した脳から繰り出される強烈な痛覚反応。
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!!!」
これは、とても耐えられない。これは、かなり痛い。麻酔無しで手術をするのがどれだか辛いことか良くわかる。猛烈な痛みで意識が飛びそうになる。さらにもう一頭が左腕に噛みついてきた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
押さえきれなかった苦悶が上がる。もういっそ殺してくれと思うほどの激痛に耐えられず、心ごと身体を打ち砕かれる。
終わる。何もかも台無しになる。ここで死んで、俺は─────
活路が見い出せない、機転が思い付かない。手詰まりから還れない。起死回生に届かない。
「あ─────」
何もかもが終わったと思ったその瞬間、
狼全員の動きが止まる。狼たちは目の前の俺(えもの)から、上空に視線を移す。
「な、あれ…………」
空中に一気に大量の細長い、筒のような形状をした巨大な楽器のようなものが出現する。筒の穴に、炎のようなエネルギーが充填される。
「は?は、は、ちょっと待て────」
それは一気に掃射され、突如現れた六つの楽器状独立式ブラスターは一斉に火を吹いた。
俺の視界一面が真っ白になる。気づいた途端、世界は青白い炎に包まれて俺は狼もろとも吹っ飛ばされた。
「ぅ………げほ、げほ、なんだ、今の」
ふらふらと立ち上がる。爆発は俺には直撃していない。俺を襲った狼だけがその炎に巻き込まれて一掃された。
カーラは、何処だ。どこで何をして、今の攻撃は……………
「───────!!」
向こうで人が戦っている。一人は言うまでもない、カーラだ。問題はその相手。カーラを相手に互角に戦う超人、アレは何者だ!?カーラよりももう少し濃い蒼色の髪。水色の服の上に紺色の上着を羽織った綺麗な女性。彼女はカーラに向けて俺を救った楽器状のブラスターを照射しながら、手に持った橙色のフランベルジュでカーラの太刀と拮抗している。
「チッ────!!」
「はぁぁぁぁ!!!」
その姿、シルエットを、俺は良く知っている。彼女は…………
「う、嘘だ……………そんなバカな………?」
なんで、こんなところに、彼女がいるんだ………?
「クロエ………先輩………!?」
俺でも敵わなかったカーラと互角に戦う女性、その正体は、俺のよく知る、学校の人物、クロエ先輩だった。
鬼人の血を引く朱毛の青年
中村白邪
性別 男性
身長 175cm
体重 58㎏
誕生日 4月26日
血液型 AB型
好きなもの もこもこしたもの、いい匂い、猫
嫌いなもの 騒音、自分勝手な人間
大嫌いなもの 冤罪、魔女狩りのように、悪くない人が罪を被せられること
武装 血刀、豪炎、第六感
人と鬼人の混血である中叢家の末裔。当主、絢世の弟。もはや人間とは思えないほどに鬼人の血が濃い。肉体は鬼人のそれにほとんど近く、生粋の鬼人の証である紅の髪と瞳を持つほぼ生粋の鬼人に限りなく近い存在であるため、鬼人として肉体が覚醒している。しかし、それだけ濃度の濃い血を多く含むにも関わらず、反転を無効化するほどの強靭な器のスペックと強力な自我を持っているため、暴走したことは未だ一度もない。
戦闘の際は自身の血から作られる130センチ大の血刀を愛用し、鬼人の腕力から繰り出される力強い一撃を叩き込む。ほぼ生粋ともいえる優れた鬼人の身体を最大限活用し、脅威的な速度と精度を持つ自己再生を行ったり、肉体を強化、補強して戦い、鬼人として非常に高い戦闘能力を誇る。
自分が人間とは相容れない存在であることを自覚しているために、人間とは異なる倫理観や道徳的価値観を持っており、自身や周囲の人間を想う人間とは異なり、自身や周囲の損得を顧みず一人の決まった人間の利害だけのために行動する傾向にある。目の前のことに執着する性格のため、一度決めたことを曲げずに貫き通したり、信念を力ずくでねじ込んだり、残忍冷酷な手段に出ることを厭わない、真っ直ぐで頑固な漢である。身内想いな心優しい青年だが、角のある口調や横暴で直情的な態度が災いして、普段は近寄り難い雰囲気であり、苦手に思う者もよくいるが、彼の根の良さを理解できる人間からすれば、かなり好印象の、ニヒルなお人良しならしい。
学校では整った顔つきと案外お人良しな性格の高校二年生。その男気から、学校じゅうの女子生徒、とりわけ上級生に人気があり、弟くん扱いやセミハーレム状態を受けているが、当の本人はあまり気乗りしていない。友人は古くからの腐れ縁である菊山紀庵のみだが、その代わり、その友情は彼のものとは思えないほどに成熟しており、ときには「兄弟」と呼びあうこともある。
わりと周囲からの評判は良いが、知らぬ間に女子生徒を惹き付けてしまうところもあってか、男子には好かれておらず、とくに若干粗暴な態度に教師が手を焼いているが、横暴なものの言っていることはいつも理に適っているので、意外と人間性としてはプラスに働いている。
ひとつのことに固執する性格は他にも影響を及ぼしており、幼い頃に大切な人たちを守るために実の父を殺害したことをいつまでも引きずっており、トラウマとして一生涯付き合うことになる。さまざまな物事からそれを連想し、自己嫌悪に苛まれたり、時には恐怖のあまり発狂して無意識のうちに暴走するなど、混血らしい歪んだ一面も持つ。