月姫 零刻   作:マジカル赤褐色

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退魔の血族

 

「クロエ先輩!?」

 

俺の驚愕の声は距離があるため、誰にも届かない。それでも俺はあまりの衝撃的な事実に叫んでしまった。

あの恐るべき戦闘能力。まさか、クロエ先輩も俺と同じ混血族なのか?

 

「貰った───!!!」

 

クロエ先輩の呼び出した管楽器から放たれる炎に巻き込まれてカーラは吹きとばされる。

 

「フッ─────」

 

しかし、カーラは一笑。いかに邪魔者とはいえ、強者に出くわしたことが相当嬉しいようだ。

 

「まさかな。いずれ退魔族がオレを狙うことは知れていたが、その参入は予想外だった。遂に来たか、凱逢(ガイア)」

 

ガイ………ア………?退魔族………?

その凱逢ってのが、退魔族っていうやつ……なのか……?

 

「えぇ。貴方の行動は看過できませんからね。わたしが直々に排除に参りました」

 

クロエ先輩は右手に橙色のフランベルジュを握りながらカーラという恐るべき怪物の前に恐れもせず向かい合う。

直感でわかる。彼女は明らかに、こういうことに手慣れてると。

動きが速すぎる。速すぎて、見えない。どこに居るかはわかるのに、その姿を捉えられない。観測者(おれ)がどこに居るのかを把握し、視線をそちらに移した時点で、彼女は既にそこから消えているのだ。これを鬼と言わずしてなんと言う。

 

「───退魔の血族。オレのような、人ならざる魔である混血族を排除する一族。しかし、凱逢と来たか。───凱逢。全国に存在する退魔の血族たちで構成された最大の退魔組織のうちの一つ、「両儀一派」の次期補佐役………このような大物が乱入するとは、オレはそれほどにまで危険な存在だということか。我ながら嘆かわしい。オレは力に呑まれた訳でもあるまいし、人の脅威となるには程遠い、自然災害程度のようなものに過ぎないと思っていたのだが。一般の退魔族では些か戦力不足だったか、黒依(クロエ)」

 

「いいえ。わたしたちの目的は貴方【だけでは】ありません。ですが、貴方もこの街の平和を脅かす猛烈な脅威。どのみち相手にするのです。ここで排斥しておくほうが早いでしょう?」

 

カーラがわざとらしく横目に俺を見つめてくる。ひょっとして、俺のことを警戒しているのか………?いや、あの眼差しにそんな意思は見られない。何に対する意思表示なんだ……?

 

「そうか。貴様の狙う混血は、オレだけではないというのか。合点が言った。複数の魔が蔓延れば、貴様らの詰まった鼻も、霞む瞳も利くものだろうよ。であるからして。こうして接触したならば、地獄まで追いかけるか」

 

「地獄までは結構です。わたしは貴方たち混血族、その全てを地獄に葬り去るだけで十分。堕ちてからのことなど、閻魔様にでも決めてもらってください。いいですか、混血族は全員、人に悪影響を及ぼす、人に害なす存在なのです。それをほったらかしにして、犠牲者が出れば、それらは全てわたしたちの責任。両儀一派次期首領補佐・凱逢黒依(がいあ くろえ)の名のもとに、その魂を打ち砕きます」

 

ガイア………クロエ………?それが………クロエ先輩の、フルネーム………?退魔の血族………俺やカーラのような、混血を狩る………だなんて………

 

「そうか。────だそうだぞ、そこの者。異論は在るか?」

 

カーラは俺の方に身体を向けて言ってくる。クロエ先輩は今さら、この場に残っていた傍観者の存在に気づいた。

 

「な、な、中村くん!?どうしてこんなところに!?」

 

「なにって、クロエ先輩が助けてくれたんじゃないですか。今ちょうどそこで狼に喰われてたところをクロエ先輩が助けたの、忘れたんですか」

 

「そんな、狼の群れを一掃しようとして管楽砲(ギャラルホルン)を一斉掃射したら、中村くんがいたんですか!?だ、大丈夫ですか!?爆発に巻き込まれませんでしたか?───じゃなくって!どうしてここにいるんですか!夜は危ないって言ったのに!!」

 

クロエ先輩はあれやこれやとあわてふためいている。

まずい、質問が多すぎて何から答えてやればいいのかわからない。

 

「連れか。ならば行くといい。なに、折角再開した連れに逢わせないほどにまでオレは鬼ではない」

 

カーラはそう言うと、太刀を仕舞って近くの柱にもたれかかった。

 

「な、中村くん───!!」

 

先輩が俺のところへ走ってくる。

 

「先輩───!!」

 

こうして、俺たちは合流した。俺はさっきの怪我のお陰で、走ることすらままならず、その場で倒れ込んだ。

地面に倒れ込む直前に、ひょい、と何かに支えられる。

 

「中村くんしっかり!!大丈夫です、傷は浅いですよ………!!」

 

「いや………先輩、どう見ても致命傷でしょこれ……」

 

どんな目してるんだ。気を遣ってくれたのはわかるけど、この重傷に気休めにはさすがに無理がある。

 

「ど、どうやってここまで生き延びたんですか………!?」

 

「いや………ちょっと偶然会った人に助けられて………それで………なんとか……………。いや、まぁ、その人に連れられて来たんですがね………」

 

「傷を治療……………あ、えぇぇ!?」

 

「────え?何ですか」

 

「傷が、再生…………」

 

ふと目をやる。あれ、血が止まってる。早いな。昨日よりも再生が圧倒的に早くなっている。出血多量もあって、脱力感はあるが、それでも痛みなどは消えていて、戦うには問題ない。

 

「先輩………離してくれ」

 

先輩から離れる。体勢を整えて、カーラを見据える。万全なのを察したからか、カーラももたれかかっていた柱から離れる。

 

「カーラ────!!!!」

 

手から血刀を高速で造りだし、一直線、最短ルートでカーラに切りかかる。カーラも同時にその長い太刀を抜刀し、空中に氷の槍を作り出す。

 

「────っ!!」

 

床から氷の棘が突き出てくる。まずい、カーラに夢中で、ぜんっぜん気づか………

 

「うわぁぁ!!!」

 

突然、身体がふわっと宙に持ち上がる。クロエ先輩が俺を抱えあげ、そのまま跳躍して棘を回避したのだ。なんて冴えた動作だ。こんなの、俺にもできやしない。

先輩はブレのない着地をして、ゆっくり俺を降ろす。

 

「もう!なにやっているんですか!中村くんは危ないから来ないでください!本気で死にますよ!?」

 

「だ、だって、先輩、俺─────」

 

「もう、あっちで安静にしててください!こっちもう一回きたら気絶させてでも大人しく安静にしてもらいますからね!」

 

いや論理が完全に破綻してるじゃん…………

俺は、先輩に任せていいのだろうか。なんだか、足りない気がする。

先輩に気絶させられるのは勘弁なので、渋々と広間の隅にちょこんと座り込む。向こうでは先輩とカーラが激しく争っている。

 

「はぁ……………」

 

なんだろう、俺、自分がクソ野郎に思えてくる。指示には従っているから、問題ないんだけど、なんだか、先輩に闘わせておいて、自分はここにいるとか………なんだか、

 

「あー、美味しい………てか、この工事作業員用自販機、エナジードリンク110円じゃん、ラッキー」

 

買ったばかりのエナジードリンク飲みながら俺は人外同士の戦闘を観戦していた。

前々から思ってたけど俺って相当なクズだよな!?

 

「いや、これきつくないか……?先輩、押されてるな………」

 

確かに先輩は俺よりも強い。カーラの攻撃をものともせず弾き返している。さっき管楽砲(ギャラルホルン)って言ってたな。それを片っ端から撃ち込んでカーラを追い詰めながら、フランベルジュで斬りかかる。だが、クロエ先輩の剣はなかなかに単純だ。威力も経験も、俺を越えているが、大振り………とまではいかないが、若干技量が乗っていない。フランベルジュは扱いにくい。火力優先であるだけあって、波打つ刀身を自由自在に扱うには、剣術とはまた別で経験や努力、修行を積み重ねなければならない。

対して、カーラの長太刀は止まることを知らない。容赦なく華奢な少女の振るう剣を弾き返し、その隙を付いて強烈な一振を浴びせる。大剣とか、世界一扱いにくい武器をよく軽々と操れるな、ヤツは。

 

「血刀に俺の血塗ったらどうなるんだろ」

 

一方で俺はその様子を見ながら自分の身体を弄って遊んでいた。自分の鬼人の身体が、どこまで自由度の高い身体なのか確かめていた。狼にやられた左腕の傷口がまだ塞がっていない。そこに血刀の側面を擦り付けて、血刀に重ねて血を塗る。

 

「まぁ、補強とか、研磨とか、その程度の効果かなぁ」

 

血で強化した刀をぶんぶんと素振りしてみる。さっきとなんの変化もない。

 

「なんだ、なにも起きないのか、どうせなら飛び道具とか出せたら嬉しいんだけどなぁ」

 

俺もカーラみたいに遠距離攻撃ができたらいいんだが、そんなに現実は甘くないと。

そうだそうだ、あっちどうなった?

 

「はぁぁぁぁぁぁ─────!!!」

 

「ッ─────」

 

向こうではやはり先輩とカーラの戦いが続いていた。

先輩は所々負傷しているが、それはカーラも同じ。一進一退の攻防。カーラも先輩もほぼ同じダメージ。俺があれほど全力を出しても、先輩以上の怪我を負おうと、カーラに一撃も与えられないというのに、先輩は俺より少ないダメージでカーラに何撃も与えている。

 

「しまっ──────」

 

突然、高速で動く先輩が停止する。

 

「はぁ、はぁ、やるな、活きの良い女だ。あれほどの俊足で動きながら、停止も減速も息切れもせぬとは。子供を産むからか、女性は精力が多いのだろうな」

 

そこには、脚が氷漬けになったクロエ先輩がいて、その真上に氷の槍が存在していた。しかもクロエ先輩の目の前に、太刀を構えるカーラがいる。

 

「やっべぇぇそりゃまずい!!!おい、ちょ待て!」

 

すぐに立ち上がって先輩の方に駆け出す。ヤバイヤバイヤバイヤバイ、このままじゃ、先輩は串刺しだ………!!!!!

 

「待ちやがれぇぇぇぇ!!!この!!!」

 

血刀を握りしめる手に力を籠めて、全力で振り上げる。

 

 

 

 

────瞬間、更なる奇跡が起きた。

 

 

俺の振り上げる刀に、禍々しい光が集束する。感電するかのような、テスラコイルに電気が貯まるかのような音が鳴り響く。

 

「ん───えぇぇぇ!?なんだこれ!?」

 

刀の刀身が赤く染まっていく。もともと赤いが、赤黒かった刀身から、覚醒したときの俺の髪のように、仄かに明るい光をもつようになっていく。紅い稲光を伴って、俺の武器が赤く輝く。

 

「血ぃ塗ったからか!?」

 

「なんだ─────!?」

 

カーラが意味不明の攻撃に警戒心を顕(あらわ)にする。その表情には、未だかつてないほどの焦りが見える。「この男は、まだ切り札を隠し持っている」と。

よくわかんねぇけど、これ、すっげぇ致命的な一撃になるんじゃないのか!!!

 

「カーラ───────!!!!!!」

 

両手で押さえた刀を振り下ろす。

ぎっくり腰を起こすほどの、腰のツイストから繰り出される、上半身全部を使った渾身の振り下ろし。腕を振り下ろす勢いを遠心力に乗せて更に力を加える。血を全て腕に注ぎ込む。

 

「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

残った体力を全て費やすのと引き換えに、俺は過去一番の強烈な一撃を繰り出した。

カーラの太刀すら届かない遠距離から振り下ろされた俺の一撃は、当然命中しなかった。

だが、俺の第六感が言っている。「この攻撃は、カーラのリーチの外側から繰り出しても命中する」と。なにも統計も検証も資料もデータもないのなら、己の直感を信じるしかない。信憑性こそ欠けるが、自身の安定性については、これ以上のものあるまい。

そして、俺の直感は、的中することになった。

俺の振り下ろした刃の軌跡に乗せるように、斬撃の残像から、けたたましい爆発音と共に、真っ赤で力強く、そして禍々しい、灼熱の豪炎が吹き出た。爆発を伴った巨大な焔の波が、10メートル先のカーラを襲う。

 

「なんだと─────!!!!」

 

俺の爆発的な豪炎は床を粉々に砕き、柱や岩盤を吹き飛ばしながら、遂にはカーラの氷塊すら焼き尽くして、氷の壁を貫き、カーラに直撃した。

 

「ぐぉぉぉ…………ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

予想外の一撃。回避する術はないし、まさかまさかのガード不能攻撃。いわゆる初見殺しを防ぐことは、この最強の戦士にすら不可能だった。

カーラは壁際まで吹き飛ばされ、背中から柱に激突した。柱にヒビが入って、カーラはそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「中村くん!」

 

今の爆発で氷が破壊されたことでクロエ先輩が解放された。先輩は俺に向かって走ってくる

 

「はぁ………ぜぇ、はぁ、はぁ………ヴ……ぁぁ………」

 

体力を使い果たしたことで、立つ気力と体力も尽きた。剣を杖代わりに身体を支えて、途切れそうな意識を固める。

 

「げ………ごばぁづづ!!!」

 

限界を越えた身体の酷使、これ何回目だ。これ、俺当然のように身体を壊すほどに体力使っているけど、これハッキリ言ってかなりキツイ。死にそうになる。

限界を越えすぎて、遂に俺への代償ダメージは中身に影響を及ぼすようになり、俺は大量の血を吐いて倒れ込んだ。吐瀉物とは比べ物にならないほどの血反吐。バケツをひっくり返したように、血が溢れ出た。

 

「中村くん!!しっかり!!大丈夫ですか!?」

 

だからさ、大丈夫なワケないじゃん。1500ミリペットボトル1本分の血を吐いて、大丈夫な人間いたら連れてこい。

クロエ先輩が俺を心配する声が聞こえるが、何を言っているのかわからない。ここが何処かも忘れている。意識が朦朧としていて、今自分がなにをしようとしたのかも忘れた。脳に血が足りていないの一旦仰向けになって倒れて、身体を休める。

 

「先輩、大、丈夫……だか……ら、今は………休ませて………く…………」

 

「………わかりました。あまり、無理はしないでくださいね。────それと、助けてくれてありがとうございます、中村くん」

 

「なんだよ………助けて貰ったのは、俺の方……ですよ………」

 

脳の機能が低下したのだから、当然眠たくなってくる。一旦、少し休もう。

けど、その前に……………折角安かったエナジードリンクを……………

 

「あぁ………おいしい………」

 

今、缶を手にとってそのまま口に運んで飲みきったのが限界だった。俺は眠るように、意識を閉ざして、ひとまず無理をした自分の身体をいたわることにした。

しかし、これは天国か。クロエ先輩の腕の中で眠るとか………

 

「はぁ──────」

 

ひとつ大きな息を付いて俺は眠った。

さて。先輩の腕の中なら、俺何があっても絶対起きないからな。




両儀一派を支える蒼色の退魔の少女

凱逢黒依(クロエ)

身長 167cm
体術 48㎏
誕生日 3月20日
血液型 O型
好きなもの 音楽、猫
嫌いなもの 不潔な物や場所
大好きなもの ハンバーグ
武装 フランベルジュ、管楽砲(ギャラルホルン)


退魔の血族、凱逢の末裔。凱逢は退魔四家である両儀家を中心とした対魔組織、「両儀一派」の次期首領補佐となる家系であり、その一人娘であるクロエは事実上の両儀家次期補佐役である。
凱逢は近親での交配を行わず、ただ身体を鍛えて、そして凱逢家が開発した対混血最終兵器の管楽砲(ギャラルホルン)を使用して混血を圧倒している。
クロエも同じくその伝統に乗っ取った、ギャラルホルンとフランベルジュによる攻撃を主軸に混血と戦う。

現役高校三年生であり、学校ではクロエ先輩の愛称で親しまれており、その整った容姿と物腰軽さから下級生からの絶対的な人気を誇っており、教師側からも頼りにされている。抜けているところもありながらお人好しであり、困っている人を見たら助けずにはいられない性格である。
偶然出会った中村白邪のことを気にしており、昼行灯かつ野暮天で危なっかしい白邪を心の底から心配している。
退魔の血族というだけあって、冷酷な一面も見せるが、本当はただの優しい少女なのである。

作中では白邪の運命を大きく左右する超重要人物として取り扱われ、今作のメインヒロイン。カーラ・アウシェヴィッチから白邪を救ったが、彼女の目的はカーラを仕留めることだけではないらしい。混血族を殺すことを生業とする退魔の血族。その中でも特に強力な家系、凱逢の末裔である彼女の狙う真のターゲットとは一体…………?
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