月姫 零刻   作:マジカル赤褐色

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学園混沌

 

「ふぅ───着いた」

 

今朝も比較的ギリギリに学校に着いた。家がまぁ、遠いんだわ。本来は電車使わないといけないところを勿体ぶって徒歩で来ていたらこの始末だ。

 

「…………あれ?」

 

向こう、窓際の俺の席。その近くで二人の人間が話している。一人は言うまでもなく俺の兄弟分、紀庵だ。それともう一人。あの女子生徒…………!!

 

「紀庵てめぇぇぇぇえ!!!!」

 

全力疾走で教室に駆け込む。許さねぇぇ、人の女盗るとか、いくら親友でも許すもんか!!何、俺がいない間に先輩と二人きりで

 

「お!よう、中村。昨日はよくぞお休みになったな、心配してはいたが、相変わらず元気そうで何よりだ」

 

親友はうんうんと腕組みしながら頷いている。

まったく、よくそう元気でいられるよな。こいつは。

 

「おはようございます、中村くん」

 

「はい、おはようございます、先輩」

 

まずいな、先輩の顔を見ると今朝の夢を思い出してしまう。ついつい、赤面すると言うか、その、変な方向を向いて誤魔化したりしている。

 

「どうした?今朝も調子が悪そうだな」

 

「大丈夫ですか………?中村くん」

 

先輩が心配して顔を除かせてくる。ちょま、それまずい、鎖骨、めちゃくちゃ亀齢で整ったまっすぐな鎖骨が見えてるって。

 

「あぁ、大丈夫ですよ。中村は病み上がりがいちばん弱いんです。こいつ、病気になることはあんま無いし、風邪引いてもぴんぴんしているんですが、病み上がりになった途端に弱るんです。寝たきりになっているから、慣れないんでしょうけど」

 

さすが親友。俺の特徴をよくわかっている。だが、今回は別!今回はただ先輩とうぇーいってしちゃう夢を見たから気分がまだ舞い上がっているだけなんだぁ!!

 

「まぁ、こいつエロ餓鬼ですから、またヘンなことでも考えているんでしょうけど」

 

「────────」

 

ちっ、コイツ。話を盛ろうとするな。俺は、決してそういうことだけを考えているワケではないのに。

 

「中村くん、彼女とかいないんですか?」

 

「おっと、先輩、これ以上中村を傷つけないでください。コイツ、女性ウケがいいのに、彼女は未だゼロなんです。どうやら、青春や婚活に興味がないらしいんですよ。青年期にしてはずいぶんと非健全な男だ。やはりある程度そういう出逢いとかには意識を向けなければならないというのに」

 

意識はあるよ!絶賛一目惚れ中だよ!しかもお前の横にいる人にね!

 

「まぁ、いいさいいさ。中村はどっかの誰かさんにご飯に誘われたりとか、忙しいそうですけどね。コイツ、とある先輩にご飯に誘われたっていう伝言を聞いたとき、大喜びでしたからね」

 

「言うなよソレ。てか、それ繋がりで知り合ったんだろ?」

 

「おうとも。おとといの一件もあって仲良くなれたんだ。安心しろ。決して盗んだりはしないからな」

 

遠回しに紀庵は人の恋心を周囲に暴露してやがる。奇跡的に周囲には俺たちしかいなかったようだ。俺たちは陽気な連中ではないし、クラスの中では静かで目立たない部類だから、今の発言を小耳に挟んだ者はいなかったようだ。

 

「ふふ……………」

 

先輩がニヤニヤしている顔を見ると今朝の夢の幻影が……………

 

「中村くん、女のひとに興味があるんですか?」

 

「……………………いや、そういうわけでは」

 

「先輩、それ死語ですよ」

 

直後に紀庵が先輩の発言を嗜める。

 

「え?それは、どういうことですか?」

 

先輩は何事もなかったようにきょとんとしている。まぁ、先輩は遊び半分で言っただけなんだから、問題はない。

 

「中村、実は重度の女性恐怖症なんですよ。こいつ、下心だけは全開なのに、知らない女性を見ると毎回おかしくなるんです。中村の家には五人のメイドさんと姉さんがいるんですが、その人たち以外の女性を見ると、怖くなるらしいです。詳しい事情は俺も知りませんけど」

 

そう。紀庵の言うとおり、俺は女性恐怖症なんだ。言い回しこそあんまりだが、俺は女性の魅力はわかる。現にクロエ先輩に虜になってしまってもいる。けれど、俺はなぜか、女性が好きかと言われたら好きではないに入れてしまう。

 

 

────俺は、なぜ女性を苦手としているのだろう。特別苦手意識を持っているわけでもないし、先輩とも仲良くできて、姉さんとも林檎たちとも暮らしているのに。

なぜだか、どうしても女性を避けてしまう。

 

 

…………確か、記憶は曖昧だが、何か、ヘンな記憶が、あったような。俺はいつだったか、何かが原因で女性が苦手になった覚えがある。

 

 

それは、確か。

 

 

「──────思い出す気か?」

 

 

俺の中から、中叢の問いかける声がする。

その記憶を思い出したら、俺は、俺という個を喪ってしまうような気がして。

けれど、俺はその記憶が気になってしょうがない。

昔は俺の隣に、誰かいたような覚えがある。誰かは名前も顔も、もう忘れてしまったけど、誰かがここにいて、誰かが向こうにいたような気がした。

こんな、光景を、俺は知っている気がする。

クロエ先輩と紀庵と俺の三人で話しているのを、何処と無く、懐かしく思ってしまった。日向で夢を語り合い、日陰で時を分かち合った日々を、何となくで思い出している気がする。

 

「それ以上は、」

 

だが、ここから先の記憶がない。どれ程に直感を研ぎ澄ましても、先は見えない、前も視えない。その場も映し出されない。

俺は、そもそも、こんなところで何をして───

 

 

「中村くん?」

 

「───────あ」

 

急に、部屋が広くなった。机が並んでいる部屋に戻っている。

あぁ、そうだ、俺は確か、先輩と紀庵と三人で話していたんだった。

 

「─────?」

 

「────────」

 

二人は変な顔をしている。

先輩は不思議そうにじーっと俺を見つめており、紀庵は黙って俺の心配をしている。

 

「ご、ごめん、余所見、してたみたいだ」

 

壊れた頭を軽く小突きながら二人に謝罪する。

 

「──────いや、別にいいさ」

 

「大丈夫なんですか?中村くん」

 

「大丈夫です。少し、ぼーっとしてたみたいで」

 

言って、窓の外を見つめる。外は相変わらずの晴天と白い雲。

 

「───────」

 

俺は、何がそんなに不安なのだろうか。朝光に萌えるものは何もなく、つまらないだけだと言うのに、俺たちはいつまでも、その青空を見上げながら時を忘れるまで語り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。俺は教室で荷物を整理しながら帰る用意をしていた。すると、すぐそこの扉から、ひょこっと先輩が現れた。

 

「あ、中村くーん、ちょっといいですか」

 

「あ、先輩。何しに来たんですか」

 

「ちょっと、この後予定空いてますか?」

 

先輩にはどうやらこの後予定があるみたいで、俺が付き合う必要があると。

 

「べつに、この後は何もないですけど」

 

「わ、わかりました、それじゃあ、少しついてきてくれませんか?文化祭の一件で」

 

「文化祭………?」

 

そういえば、一週間後は文化祭だったな。紀庵もその準備で忙しそうにしていたし、なるほど、そうなると文化祭準備の手伝いか。

 

 

 

 

 

「いやいやいや」

 

それはおかしいじゃん。

 

「初めましてだね、中村くん、軽音楽部部長の本条。どうぞよろしく」

 

「僕は天城。キーボードやってるよ」

 

「やーん!本物の中村クンだ!よろしくね!私、押見!よろしくね!」

 

いやなんで、なんで軽音楽部に連れられたんだ俺!?

このホールのような部屋に招かれたら、本条という超高身長の先輩と、天城というあからさまな眼鏡インテリ系の先輩と、押見という流行ノリノリ系の先輩がいきなり迎えに来た。

 

「ちょ、先輩、どういうことですか」

 

「彼らはうちのバンドの仲間なんです」

 

違う違う違う。だから俺はなんでここに呼ばれたのかを訊いているんだ。

 

「実はね、中村くん。うちのバンド、ボーカルに内宮って子がいたんだけど、よりにもよってこの日に持病で入院しちゃってね。そこでだ、是非、君に代役をお願いしたいと思ったんだ」

 

ストップストップ。その空いたボーカルに俺を入れるっていうのか!?俺を!?俺を軽音やってないぞ?部活入ってないぞ?

 

「ちょ、ストップ!なんでですか!俺、歌ったことなんかないですよ!」

 

「中村くんはですね、どうやらカラオケ最高得点が99.6なんですって!歌の上手さで言えばきっとこの学校イチバンだと思うんです!なんと、超高音も超低音も裏声も出せるんですよ!しかも、その99.6点は、超激ムズとされたあの曲ですよ!ほら、家でやろうって言って内宮くんが歌いきれなかったやつです」

 

いや、何情報だソレ!?紀庵のヤツ、先輩に何を教えているんだ!?

 

「あー!あれか、すごいな中村くん!是非入って貰えないかな!」

 

本条先輩は手を押さえて頼み込む。

 

「このバンドと文化祭を救うためなんだ、頼むよ!」

 

天城先輩は土下座しながら頼み込む。

 

「中村クン、クロエちゃんのためだよ!お願いします!」

 

押見先輩も頭を下げて頼み込む。

 

「───────」

 

いや、さ。先輩方にそこまで頼み込まれたら断るものも断れない。俺も楽器演奏するなら辞退していたかもしれないが、歌うだけなら別にいいかとも思っている。

まぁ、ここで引き受ければ、クロエ先輩からの株も上がるワケだ。

 

「わかりました、それじゃあ、引き受けさせていただきます」

 

「マジで!?」

 

「流石はクロエさんが選んだ後輩くんだ……!!」

 

「きゃーっ!中村クン最高!!」

 

軽音楽部の先輩方は全員大喜び。全員が手を取り合ってぐるぐる狂喜乱舞している。

突如、とんとん、と後ろから俺の肩を小突く感触がした。

反射的に後ろを向いたらそこにはクロエ先輩がいた。

 

「ありがとうございます、中村くん。助かっちゃいました」

 

そう言って、彼女は俺の頭を撫でてくれた。

 

「─────────」

 

あー、やばい。熱が出てきた。我ながら安い野郎だ。年上のお姉さんに頭を撫でられただけでこんなにドキドキ大喜びするなんて。少々、子供らしさが伺える。

 

「よっしゃあ!それじゃあメンバーは揃ったし、早速練習がてらスピーカー上げるとするか!」

 

「え」

 

嘘でしょ、今からやるの!?

 

「おっけー!」

 

「はーい!」

 

「さ、中村くんも早く早く!」

 

そう言って四人は元気良く楽器を構えていく。ベース掛けてる先輩がなんかいつもとギャップ凄くて無駄に萌えていて可愛い。先輩が軽音だったのが意外だが、それはそうとてあの人ベースだったんだ。

 

「───────」

 

そこあるマイク持ちながらメンバーの顔を見渡す。みんな凄く楽しそうにしている。退屈な人生、か。なに、そんなこと無いんだろうな。待ってても楽しみは来ないもんだな。退屈なら、いつまでも待っていないで自分から楽しみを探しにいかないといけないということか。

 

「─────フ」

 

それも悪くないな。全く、反吐が出るほどに呆れた話だ。

俺の学園生活は、二年の冬始めになってやっと始まった、っていうことなんだろうな。

さて、今回ばかりは気合いを入れておかないと、いち選ばれし後輩としての顔が立たないものなんだろうな。




ヨエル「ちなみに内宮さんが歌えなかった中村白邪の十八番はL'Arc~en~CielさんのBluely eyesのイメージにしました」
白邪「いや、だとしたら俺化物じゃねぇか」
ヨエル「作者がファンだっただけです」
白邪「なんじゃそりゃ」
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