月姫 零刻   作:マジカル赤褐色

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交流

 

暗い廃墟に、彼は居た。

大きな廃病棟。その4階3号室で、青毛の男は食事をしていた。

彼の腕の中には、20代前半の若い女性が。男はその女性の首に、その鋭い牙を剥いて、その血をごくごくと嚥下していく。

それは、吸血鬼の食事だった。

真っ赤に染まる、白い部屋。紅の血に染まる男の口元。一滴も残らず、その血を貪る。滴る血も残さず吸い尽くす。

男は空になった器をそこらに投げ捨てる。

そこで、本来は腐敗していくべきその死体が、動く。死体が動いているのではない。誰かに持ち上げられている。

青毛の吸血鬼とは別の、もう一人の男。

もう一人の男は女性の死体を柩の中の中に丁寧に入れると、台車のようなものに優しく立て掛ける。その柩の隣には、同じような柩が立て掛けてある。

もう一人の男はその台車の車輪の固定をはずすと、そのまま押し出していく。

 

「ご協力感謝しますよ、代行者」

 

青毛の男は頭を下げる。

 

「なに、関係ないさ。僕は僕がやりたいことをやっているだけだ。君にはまだ生きておいてもらわないといけないんでね。そこで【あの真祖】にやられたりしては困る」

 

「私に手を貸したところで、私にできることはほんの少ししかありませんよ。それだけの事をして、何をなし得たいのですか?」

 

「たいした事は望んでないよ。君は生きているだけでいい。あとは勝手に僕が片付ける」

 

その男は台車を押して部屋を出ていく。

暗い廊下を進む台車と、それを押す男。

若い男は、若草を思わせる髪をしており、服の上からライム色の布をマントのように掛けている。

 

「馬鹿だね。誰が君の永遠探しに協力するんだよっと。真祖の姫は僕のものだ。アレを、必ずこの手で────」

 

男は空の廊下で呟く。台車を押しながら下へと下っていき、外に出ていく。

病棟の外にある昇降機に乗り込む。昇降機に扉などついていない。裸の昇降機に乗り込んで、真下へと進んでいく。

昇降機が下へ到着する。男は昇降機から出る。その台車を突き当たりまで押し込んで、柩を台車から丁寧に降ろす。

その先にある柩の山の中に丁寧に置く。

男の携帯電話が鳴る。男は若草色の携帯を取り出して開く。

 

「はいはい、僕だよ。………うん、ロアのねぐらはまだ分からないよ。うん、ロアもまだ見ていないな。でも予想としては、街の南にあるショッピングモールの付近だとは踏んでいるあの辺りが犠牲多いからね。さぁ?僕にはロアのことなんか詳しくないさ。うん。おっけ、じゃあバイバイ、アスナロ」

 

男は携帯を閉じて電話を切る。カソックの中に仕舞ってニヤリと笑う。

 

「よーし、これで時間稼ぎは万全。純粋なお姫さまで助かったぜ。携帯電話は便利なもんだよ。話し相手は顔が見えないから【俺】の心情なんかわからないからね」

 

男は一瞬だけ、邪悪な笑みを浮かべた瞬間、もとの人畜無害なリスのような顔を取り戻す。

 

「さて、早く帰っておかないと、こんなに血の匂いがついていたら、怪しまれるだろうね、アスナロはともかく、白邪くんに」

 

男はライム色の髪とマントをひらめかせてその台車を押して昇降機に乗り、地上へと消えていった。

 

「────さて、あと何日持つかな、アルクェイド・ブリュンスタッド?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い公園。街灯が照らす夜の公園。もうとっくに日付は変わってしまっている。俺もそろそろ眠い。

 

「先輩、先輩」

 

「むぅ……………………」

 

先輩はゆっくりと瞳を開ける。辺りを一望したあと、俺の膝の上で寝ていることに気付いて、ばっ、と身体を起こした。

 

「おはよう、先輩」

 

「おはようございます………中村、くん」

 

「勝手に膝で寝かしてごめんなさい。先輩、ぐっすり寝てたんで」

 

良かれと思って膝枕したのがちょっと恥ずかしい。俺も先輩に一度膝枕されたわけだし、俺にもやる権利はあるのかなとは思ってたんだけど、やってみたらめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか。

先輩の安らかな寝顔を独り占めしていたのが最高すぎたんだが、それ以上に起きた瞬間のキョトンとした顔が一番破壊力高かった。

 

「あれ?私寝てました?どこで?」

 

「死者と対峙したタイミングで。最後らへんで鉄骨に挟まれていたでしょう?あの後です」

 

「そ、そうですか…………ごめんなさい、勝手に寝てしまって」

 

「いえ、先輩も忙しいでしょうし、まぁ、学生はそろそろ家に帰らないと、いい加減警察に見つかったりでもしたら補導されますよ」

 

俺はともかく、先輩はフランベルジュという凶器を持っている。捕まったら終わりだ。銃刀法に引っ掛かって逮捕確定。先輩は3月生まれだから今、17?普通に刑法に引っ掛かるには十分な年齢に達している。俺が面会にいかないといけなくなるし、というか、ついでに俺も捕まるから姉さんが面会に行かなきゃならなくなる。

 

「────────」

 

 

 

「白邪ぁぁ?あんな夜遅くに刃物を持ち歩く女性と二人っきりでナニをしていたんでしょうねぇ?この私が直々に面会に行ってやったんだけど当主の弟が警察に補導されたとか、どうやって始末をつけてもらおうかしら…………えぇ?ケジメとしてエンコ詰めますか?木のまな板と包丁ならいつでも用意出来ますよ?いや、エンコじゃ足りませんね。あなたのような脱落者の指なんか何の役にもたたないわよね、そうよね、じゃあブッ殺してあげるわ!葡萄?ちょっと白邪に麻酔ナシで内臓摘出してもらえるかしら?道具はノコギリで十分よ?はい、そこに固定して、林檎、蜜柑、檸檬、甜瓜の四人は白邪の両手両足をおさえておいて?まずはその前にその世間も知らない漢の証を私の自慢の脚で粉砕させて貰うわ。大丈夫よ、ハイヒールの踵の部分で精巣を二つとも踏み潰すだけよ。私ハイヒール履いたことないから下手に踏むかもしれないけど、そのときはそのときでね!」

 

 

 

ヤバい、目の前に姉さんの幻影が………ッ!

 

「中村くん?」

 

「はっ!!」

 

気がつけば、目の前には先輩がいた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何も。なんか、余計な不安のこと考えてました」

 

後半はマジで震え上がった。メイド四人に押さえられながら姉さんの脚力にハイヒールを上乗せしたアレで俺の睾丸どっちも踏み潰すとか、マジで悪寒がした。

てゆーか、俺にとってどんだけ姉さん拷問大好きヤクザのイメージあるんだよ。

ヤバい、あまりの悪寒と恐怖で鳥肌立ってきた………俺のムスコが恐怖的な痛みを覚えてきた。

ヤバい、こんなこと考えたら本格的に帰りたくなってきた。

 

「今日はご協力、ありがとうございました、中村くん」

 

「いえいえ、どういたしまして。さて、それじゃあ先輩、帰りましょう!」

 

姉さんにバレる前に、警官に補導される前に─────

 

 

 

─────ドギャーン!!

 

 

 

「え?」

 

「え?」

 

突然、太くて大きな落雷と共に、大雨が降り始めた。

嘘だろ、さっきまで晴れてたじゃん。雨なんか、いや、雲なんかなかったじゃん。

それはいいとして、この雨ヤバい。冷たい、強い、粒が多いししかも大きい。

これ、川が危ないヤツ。つまり、

 

「ダッシュで帰りましょう!!」

 

先輩と二人猛ダッシュ。先輩は戦闘中の高速移動、俺は鬼人の力を使った高速移動で大雨の中駆け抜ける。

─────それにしても、運悪くね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に、俺たちは二人で先輩のアパートに滑り込むことになった。理由は簡単。あの公園からは俺の屋敷よりも先輩の家のほうが近かったから。

 

「ふぅ、やられたなぁ」

 

「大丈夫ですか、中村くん、今すぐ、タオルを持ってきますね…………」

 

先輩はそう言って、脱衣所からタオルを持ってくるべく、向こうへ行った。

 

「───────」

 

成り行きとはいえ、まさか先輩のアパートにお邪魔することになるとは思わなかった。

 

先輩の部屋は飾り気がない普通の女の子の部屋だった。俺と同じくらい、なんなら物が少ないぶんそれ以上に平凡な部屋だ。

そりゃあ逆にフィギュアとか飾ってあったら怖いわ。

しかし、平凡にしては平凡らしく、丁寧で整った部屋だ。セッティングは素晴らしいし、部屋も清潔だ。実に先輩らしい。

部屋は二部屋しかない。廊下にキッチンがついていて、六畳ほどのリビングは寝室と兼用。ベッドも白くて綺麗だ。枕が北に置いてあるのは最悪。今すぐ直しとこ。

鬼門方向に勉強机みたいなテーブルが置いてあるし、観葉植物が裏鬼門方向に置いてある。なるほど、この人、相当風水とか陰陽道とか知らないんだ。縁起もクソもないじゃんこの部屋。

 

「ふぅ」

 

しかし、それはそうとして、落ち着く部屋だ。俺にはあんな荘厳なお屋敷よりも、こんな狭くて粗末な部屋のほうがお似合いだ。

アパートにしては新築らしさがあって、意外と家賃高そうだ。

かちゃり、と扉が開いて、先輩がタオルを持って入ってきた。

 

「ふぅ、中村くん、どうぞ、タオルです」

 

「ありがとう、先輩」

 

あー、柔らか。気持ちいい~。こりゃ乾燥仕立てのタオルだ。乾燥仕立てのタオルよりも気持ちいいものこの世にあるか?

身体は拭いとくんだが、とにかく服がなぁ、上着が濡れている。中に着ていた服は濡れていないが、コートとカーディガンがびちょびちょ。そこにハンガーが掛かっていたのでそれに掛けておく。

あ、カーディガンの下に着ていたオックスフォードシャツまで濡れてやがる。まったく、酷い雨だ。窓は閉まっているはずなのに、外では大きな雨音と雷が響いている。こりゃあ、当分止みそうにないな。

 

「─────────」

 

困ったな。シャツの下、裸なんだよな。女の子の前で裸になるの結構抵抗あるんだが、まぁ、いいか。相手はクロエ先輩だし。

シャツのボタンを外して脱いでこれもハンガーに掛けておく。時間は掛かるだろうが放っておけば乾くだろう。

コートの次に濡れているのはズボンなんだが、さすがにそれ脱ぐのは無理なので自然乾燥で。

暇をもて余して床で横になっておく。

 

「雨、止みそうにありませんね」

 

先輩は両儀一派の制服を脱ぎながら外を見て言う。

 

「ですね」

 

先輩の方は見ずに、俺も外を見ながら返答する。本当にすごい雨だ。止むことを知らない豪雨。珍しいな、こんなに強い雨なのにこんなに長いこと降るなんて。

 

「中村くん、お茶飲みますか?日本茶ですけど」

 

着替え終わった先輩が言う。

 

「あ、いいんですか、じゃあいただきます」

 

床に置いてある背の低い机に向かう。お盆の上に湯飲みを置いて先輩がやってきた。

先輩は部屋着だった。めちゃくちゃ可愛い。見て、もこもこじゃん。俺もこもこ大好きなんだよ。女性のまるまるっとした感じが引き立てられるから好きなんだよね。

 

「では、いただきます」

 

熱いお茶を飲み込む。冷えた身体にほうじ茶ががつーんと来て最高に美味しい。

今さらだが、上半身裸の俺を見ても何も反応しない。よかった。人によっては着ろと言うからね。俺の姉さんとか俺の姉さんとか俺の姉さんみたいに。いつも風呂上がりに上半身裸の俺をみたら顔を真っ赤にしてぶちギレてくるんだよ、あの姉。

 

「中村くん」

 

何事もなく、先輩は話しかけてきた。

 

「はい?」

 

こちらも、何事もないように応える。

 

「雨酷いですし、今日、泊まっていきますか?何もないですけど」

 

「─────────」

 

マジで?先輩の家に泊まっていいの?

よっしゃ、チャンスだぞ白邪。俺と先輩の距離をさらにさらに縮めるチャンスだ。

先輩と今朝の夢みたいに…………じゃなくって、先輩との交流を深める絶好の機会だ。逃してたまるか。

 

「─────────」

 

だが。

 

 

 

「白邪~?」

 

 

 

ヤバい、姉さんの遺影、じゃなくって幻影が…………ッ!

 

ああぁぁぁぁどうしよぉぉぉ、泊まるか泊らないか、いや泊まるに決まってるだろ。

 

「はい!泊らせてください!お願いします!」

 

「はい、それではごゆっくり、お風呂の準備してきますね」

 

よっしゃ、交渉成立。いや、しかし、だがどうやって姉さんに弁明するか。

昨日夜の町をうろうろして今朝姉さんに殺されかけたところだぞ。昨日の今日で外泊なんてしたら本気で姉さんのローファの爪先で睾丸を潰されかねない。

 

ダメ元で家電に電話掛けてみるか………?

幸い携帯電話は持っているんだし。

電話に出る可能性が高い人物は姉さん、林檎、葡萄、蜜柑さん、檸檬、甜瓜さんの計六名。

 

姉さんが出たら終わりなのは言うまでもないとして。

蜜柑さんは絶対「絢世さまぁ!白邪さんは童貞卒業式だからお泊まりされるそうです!」と言うに違いない。

檸檬が叫び出すのは目に見えている。

 

六名のうち三人がハズレ。二分の一の確立で終わる、か。

50%の望みに俺の生命安全を懸けるのは少々懸けに出過ぎているか?

だが、泊ろうと思えばこれしかない。

50%の幸運を祈る。

携帯電話を開く。家電の番号を打ち込む。

頼むから林檎か葡萄か甜瓜さんに出てくれ。とくに寡黙で無感情な葡萄だとなお良し。

 

コール音二回、ぷつ、と音がして電話の相手が家電に出てきてくれた。

 

「はい、中村です」

 

「───────────」

 

どうやら俺は相当の悪運持ちのようだ。

二分の一どころか、一番引いてはいけない六分の一を引いてしまった。

 

意気揚々と電話に出てきた姉さんの声を聞いて、俺は正真正銘、終わりを確信した。

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