「う…………ん…………?」
私は、唐突に、どこかで何かが割れたような音を聞いた。
「………何かしら」
ベッドから起き上がって、カーテンを開いて窓を開ける。
身を乗り出して外を見る。
「────気のせいかしら」
空にはただひとりきりの月があるだけ。
このきれいな空を見て、私は何を嫌気づいているのだろう。
滑稽だ。こんなものを見上げても、弟は何一つ変わらないというのに。
────もう、とっくに死んでしまった弟のことなんて。
ふと、後ろから気配がして、部屋の隅に立っている机の上にある家族写真に目を通してみる。
確か、私たちがまだ五歳六歳ほどのころのものだったか。今では映像を写した紙も廃れて、小さなスタンド式の額縁も埃を被っている。
そこには、まだ存命だったお父様とお母様、それから林檎たち五人姉妹を含めた、私たち中村【10人】家族が仲良く肩を並べている。
みんな、みんな笑っていた。
思い返してみれば、生きていた弟が写った写真は、残っているうちではこれが最後かもしれない。
けれど、なんで急にこんなことを思い出したのだろう。
「─────白邪」
彼は今日は、友人の家に泊まる予定のはずだった。心配は要らないと、わかっているのに。いつも彼に厳しくしている私がいないから、いつもより気を楽にしてくれていると信じているのに。
なんだか、本当に彼が帰ってくるのかと、ふと思ってしまった。
なぜか、最近は帰りが遅いし。
「────私は、貴方に何て言葉を掛けてあげれば善かったの」
こうなったのなら、話は簡潔だ。
彼はもう、気付いてしまったんだ。
膝からベッドに崩れ落ちる。
涙を流すこともできず、嗚咽を吐き出すこともできず、私はただ、俯いて、彼の姉という人物をいつまでも敬遠し続けていた。
「………まったく、どうなっている。この空気の流れは」
眼鏡の少年が、一人夜道を歩いていた。
日付が変わって間もない、こんな深夜だ。
どうやら普通の少年ではないようだ。どうやら、相当特別な事情があるようだ。
「待て、少年」
「なんだ?」
─────瞬間。
「ぐ───ふっ───!?」
少年は、正面から自身の腹を突き刺す、太い金属の棍棒を見た。太鼓のバチのような、とても人体には刺さりそうにない形状のその武器は。
鉄棍が引き抜かれる。
「ぐぅア…………アァ………づッ………!!」
血を撒き散らしながら、彼はくずおれる。
「お前…………まさか…………俺の妹が言っていた…………!!」
自分の血だまりに倒れ伏す彼は、その男を睨み。問いかける。
「────妹…………そういうことか。やはり、あの一家の子は三人いた訳か」
「な───んの、話……………だ」
「俺は混血を皆殺しにするために、この星に生まれてきた。まぁ、少し前には、大変な目に遭ってきたがな。だが今回はしっかりと愛棍を持ってきた。お前たち一家は、今日で終わりだと思え」
男は眼鏡の青年に追い討ちをかけることもなく、目にも留まらぬ速度で撤退していく。
地上から電柱に飛び乗り、どこかへ飛んでいく。
少年は再び地面に倒れる。怪我は重傷だ。
怪我の程度を確認して、いちおう生存はできると判断した。
しかし、いくらなんでもこれで耐えられるのはすごいと言えるだろう。並みの人間だったら即死であった。やはり彼はどうやらただの一般人ではないようだ。
「逃げろ…………兄弟…………そいつは…………」
もちろん、周囲には誰も居ない。彼は見えない誰かに語りかける中、その独り言すら言い残すこともできず、その場で力尽きてしまった。
たった今の、神速の通り魔の姿は、誰も捉えていなかった。
「────────」
山道の辺り一面は焼け野原だった。
数度の爆発的エネルギー衝突による崩落を含め、更に先ほどの一発で、辺りの存在は大半が灰となって散った。
その中央で、ある者が倒れていた。
身体の中央に巨大な風穴が開いてしまい、これでは、間違いなく中身は粉々に砕け散っただろう。
「う………………く……………」
倒れていたのはエセキエルだった。
当然。あの生き物とやり始めてしまった以上、どうしようもない。勝ち目はなかった。
あの時ついに本体として現れた姫君、アルクェイド・ブリュンスタッドは、頭脳体の段階であったコンパクトバージョン、つまるところのルージュ・アスナロとは比べ物にならない強さを誇る。ただでさえ無敵のアスナロだが、それを越える存在を前にしては、元埋葬機関のエセキエルですら勝てない。
だが、エセキエルの行動もまた、決して無意味なものではなかった。
「そ………そんな………どうして………」
エセキエルのすぐ近くで、金髪の少女が倒れ伏していた。彼女は頭から多量の血を流しており、更に腹には貫かれたような大怪我があった。
そう、あの衝突は、結局のところは相討ちだったのだ。
「どうして─────」
少女は横で倒れる男を見ながらゆっくりと立ち上がり、歩み寄る。目に怒りにも似た感情を宿して。
「どうして、最後に私に手加減したのかしら。アナタにとって、本気を出すに足りない存在だとでも言いたいの?」
その表情は、一歩機嫌を損ねれば即座にそのギロチンのような爪が放たれるとも思わせるような鬼の形相だった。
「まだ…………君には、やることがある。そうだろう?」
「──────」
「ロアは旧伊賀見総合病棟をねぐらにしている。今いるとしたらそこぐらいだ。それ以上の情報は俺も知らない。ただ、俺と会うとき、あいつはいつもあそこで会っていた。なら、今もそこにいるのが妥当………と言ったところさ」
「そう。ここまでやっといて、最後にロアだけはしっかり押し付けるのね」
アルクェイドは不満そうな顔でエセキエルを睨む。
「ハ。ヨエルに仕事を押し付けまくったアスナロへのケジメってやつだよ。敵だろうと借りだけはしっかりと返してもらうからね」
「そう。まぁ、いいけど。どうせロアを殺すつもりなのは変わらないから。手間が省けて助かったわ。それじゃ、アナタも私もアイツも、もう今夜で終わり。温情も遺言も要らないわ。もう二度と会わないから」
「そう、だね。こっからはお互い不干渉で頼むよ。俺も、最期ぐらいは一人で終わりたい」
「────そう。それなら結構。さようなら、エセキエル。アナタの負けだけど、アナタの勝ちよ。もしこれが【殺し合いだったら】、きっと私の負けだった」
「…………そうか」
じゃ、と言ってアルクェイドは腕を抑えながらフラフラと瀕死の身体で歩きだす。
その様子を、彼はただ見つめていた。
アルクェイドの姿が見えなくなったときに、彼は独りでに携帯電話を取り出す。もう、掛けるべき電話の相手など、彼にはれいなかったはずなのに。
「…………やぁ。久しぶり。ざっと十数年ぶりぐらいかな?」
「………………その声………あなた、まさか………フィエルォレイン?」
受話器越しに、泣いているような声が聞こえる。
「ちょっとちょっと、泣くの早くない?僕まだ電話掛けただけだよ?」
「う、うぅん。ずっと、ずっと、心配していたんだから………!!どこで、どこで、何していたのよ………こんなに長い間………!」
「ごめんよ、ちょっと、仕事立て込んでてさ」
相手は、エセキエルとはもう関係ないはずの誰か。もう、彼の記憶からは抹消された、エセキエルには必要のない、記憶。
最期の時になって、彼は最期の有意義に使うべき時間を、なぜか、無意識にそこへ使った。
「いつ、いつになったら帰ってくるの?私、なんでもする!あなたが帰ってくるなら、私、何をやってでもお祝いするわ!だから、早く、帰ってきて………!みんな、待っている………!!」
「──────」
彼は、黙り込んでしまった。
フィエルォレインを待つものはたくさんいる。近所の友人、愛する妻。そして地元で暮らす親友の営むパン屋一家。
だが、彼らが待つのは、エセキエルという、真祖を捕らえるための兵器などではなく、フィエルォレインという人間だ。
「ごめん、その質問には、答えられない」
エセキエルは耳から電話機を離す。もう、全てにおいて、エセキエルは終わりに近かったのだ。
「え?ちょっと?フィエルォレ───」
エセキエルはぷつりと電話を切ってしまった。
「さすがに、死に際だとは言えないよね」
携帯電話をしまって空を見上げる。
空には中途半端ないびつなカタチのひび割れた月が。
「そういや、あのときも、こんな感じだったね」
ただ独り、人形は忘れ去った感傷に浸り続ける。それが、どんなに記憶から遠くても、いかに他人のものであったとしても。
その全ては、彼にとって、変えられないたいせつな記憶だったのだ。
「フィエルォレイン、か。もう、そんな名前は忘れた」
彼がフィエルォレインという名前を、正確には人間を棄てたのはもうずっと前の話だ。それこそ、この街にロアが現れる前の話だ。自分がやりたかったことのために吸血鬼になったとき、その時点でフィエルォレインという人間は終わっていた。
「だけど」
この、胸に残り続けるわずかな未練は何なのだろうか。人形は必死に考え続けていた。計算式を立てて検証する。その結果、彼はひとつの簡単な答えにたどり着いた。
当然のことであり、当たり前のことだ。
「あぁ。そうだ。僕は、家に帰りたかったんだ。みんなに、もう一度会いたかったんだ。それが、今フィエルォレインが一番したいことだった」
しかし、それでも、故郷の街を飲み込み、この街を飲み込んだ元凶を作ったのは自身だ。ならば、自分にはその願いを叶える資格はないと彼は決めつける。
最後に見たのが一年前だったある友人の顔を思い浮かべる。近所でパン屋を営んでいた円満な一家だ。幸せそうな家系だった。自分も、あぁなりたいと人形は思っていた。
「そうだね、叶えられる願いはなかった。だから、欲しいものもなかった。…………強いていえば。もう一度だけ、パン屋のエレイシアちゃん、抱っこしてあげたかったなぁ───」
また、抱っこする度に、家族ですらない他人に笑いかけるあの赤ん坊の顔が見たいと、彼は最後に願った。欲しいものは家族でも、富でも、永遠でもなかった。
ほんとうに、どうでもいい平凡なことだった。
────無論、そんな絵空しい願いばかりを抱くところもまた、フィエルォレインらしいといえばそうだったのだろう。
最後にとんでもなくたわいもないことを頭に浮かべて、エセキエルはその場で、エルキドゥのように、ただ何でもない土に還っていった。
結局、エセキエルってどれだけ強いの?
結論から言わせてもらおう。アルクェイドより強い。
もちろん、ガチの朱い月のブリュンスタッドには勝ち目などないが、それは地球の存在ほぼ共通のルールなので、当たり前なのだ。つまり、実質エセキエルは作中においてアルクェイドに対してもっとも力を発揮できる存在ということになっている。
参考までにだが、少なくとも、FGOのアーキタイプ・アース程度の能力であれば、姫アルクにすら圧勝できる。
もちろん、月姫本編のコンパクトアルクェイドよりも強い。光体を出された場合は、当然ながらロアのようにアルクの権能を奪っているわけではないので触れられないが、触れられる場合であれば、アルクェイドを撃破するのは容易い。
実際、バジリスクさえ連れていればバジリスクの魔眼で何でも殺せるし。作中でも、殺す気であれば、アルクェイドを殺すことはできたという設定にしている。生け捕りにするのが難しくやられてしまったというだけで。
では、シエルと比べると、ということだ。シエルはいちおうバジリスクの魔眼で殺せる。シエルの不死性は直死で殺せるレベルのものなので。
シエルと殺し合わせた場合はシエルが勝つ設定。ただし、シエルはもちろん聖典完全解放状態かつ原理血戒使用可能状態であるという条件が必要。
エセキエルはアルクェイドに対しては最強だが、他の最強キャラとやりあわせると案外普通である。
何せ、エセキエルの最大の弱点は耐久性だ。不死性もなく、再生能力もない。大袈裟な例だが、普通に刀で袈裟斬りにされただけで死ぬぐらい耐久力は普通。当然ながら段違いに強力な魔術耐性や星属性、神性攻撃への耐性を持つが、結局は大魔術やスーパー礼装とかを使えばイチコロできる程度の防御力である。
だが、バジリスクもバジリスクで、エセキエル以上に打たれ弱く、あらゆる攻撃において、耐性がないため、がっつり攻撃を受ける。ちまちまと魔術を打っていればそのうち倒せる程度。
エセキエル本体の戦闘力は目安として、「魔法使いに防戦を仕掛けられる」、「サーヴァントに勝てる」ぐらい。
アルクェイドはギルガメッシュやクー・フーリン、カルナといった、武器が強いサーヴァントに弱いが、エセキエルはその逆で、ギルガメッシュなどには滅法強いが、ケイローンやヘラクレスといったそもそもの戦闘力が強い相手にはやや後手を踏むことになる。
ついでに、ヨエルの場合も見てみよう。
ヨエルの戦闘力は大したことない。せいぜい天草四郎時貞レベル。サーヴァントとして戦えるか戦えないかを彷徨う程度のものだ。
本編では未公開だったが、実は術式を展開して一本の黒鍵を装填し、魔力と共に一直線に放つ飛び道具技があった。これの威力はだいたいカリバーンと同等ぐらい。
結構強いが、役には立ちにくい。
まぁ、ヨエルはヴローヴといい勝負をするくらいのものと思ってもらえればよい。
そんなわけで、エセキエルは実質上、作中最強キャラである。リアルのアーキタイプには負けるが、コンパクトアルクェイドには勝てる。しかし、アルクェイドに勝てるからといって他のキャラより強いとも限らず、魔法使いには遅れを取るし、バジリスク無しではサーヴァントにすら負けたり。
要は相性によって一気に強さが変わる、ある意味で「原初の一」のような戦闘スケールを誇るというわけだ。
月姫零刻屈指の悪人といえば? 中「いや、だから誰も入れないってば!」ヨ「票が50個以上入ったら主人公交代ね!」中「足りなかったらヨエルコーナー終わりだからな!」
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口悪すぎ横暴すぎてみんなボコす中村白邪
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目的のために街の人々を犠牲にしたヨエル
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とりあえず悪役のロア
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その他
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誰もお前のアンケートに票なんか入れねぇよ