────それは、わずか5分前の出来事。
俺は───死んだのか。
俺は───無事なのか。
俺は─────
「う…………う…………?」
俺は胡乱な頭のまま、不意に不思議な感覚に襲われ、ゆっくりと溶けるように目覚めた。
「あ、れ………?」
俺は───生きている?
あの時、部屋に何か、意味のわからない生き物がやってきて。死者も追い討ちでやってきて。俺はあのまま、生きたまま咀嚼されて死んだはず。
「□□□□□□□???」
「うわぁ!?」
突然、俺の目の前に一匹の謎の動態が現れた。
ソレは、ヒトのカタチをしていない、ヘンテコな生き物だった。今まで生きてきて、見たことない歪なカタチだ。
見るからにヒトならざるモノ。コレは、死者の類いなのか………?
「この…………!!」
俺を殺しに来た相手を睨み付け血刀を取り出して臨戦体勢を取る。
「□□□□□…………」
だが、俺が戦闘体勢に入ってもこの生き物は動かない。武器を構えた俺を見てもびくともしない。
───かと言って、反撃してくる素振りも見られない。
「なんだよ、お前…………」
「□□□□□……………」
この生命体は俺には聞き取れないような変な声を上げて、必死になにかを伝えようとしている。そのうどんみたいな腕を伸ばして辺り一帯を指差す。
そこには、コイツと同じような生き物の死体が山ほど転がっており、そこには俺が見てきた通常の死者たちも混じっていた。
死者が、いつの間にか勝手に死んでいる。
繋がった。俺が生きていたのは他でもない、何者かがここで死者とこの生き物を蹴散らしたからだ。
では、その唯一の生き残りであるコイツは、俺に危害を加えないのは何故だろう。
「まさか、お前」
「□□□□□」
この得体の知れない生き物は、うどんのような腕をゆっくり俺に伸ばしてくる。
そして優しく、俺の頭を撫でてきた。
「─────あ」
この感覚。俺にはわかる。
────なんでだろう。
コイツは間違いなく、俺の敵なのに、なんでか俺は、今の行動に、先輩に似たような母性を感じた。
「────助けて、くれたのか」
「□□□□□□~♪」
わかった。わかった。俺は今理解した。このうどんの玉みたいな生物は、死者から俺を守るためにやってきた。そして、このうどんの死体の山は、死者と戦った痕。
コイツは、偶然生き残った、俺を守ろうとしてくれたヤツなんだ。
「────ありがとう。お前のおかげだ」
俺は自分より大きい、もう感情も命も籠っていない生き物へと歩み寄り、無意識に抱きついた。
なんだか、柔らかくてもちもちした感触だ。もちもちとか、もふもふとか、もこもことかは俺の大好物だ。このまま持ち帰ってクッションにしてやりたいぐらいに気持ちがいい。
「────そうだよな。何事も、印象からじゃなくて、まずはこうしてコミュニケーションを取らないとな」
人間とは距離を置いてきた俺には、どうもヒトならざるモノとの意志疎通が可能なようだ。会話はできずとも、ジェスチャー程度なら上手いこと情報交換ができるかもしれない。
「□□□□□□!!」
───自分を信じてくれた俺を気に入ったのか、謎の生物………通称うどんは俺を掴み上げ、頭に乗せてきた。
「ど、どうしたんだうどん?」
そうしたら、急にうどんは走り出した。
なんか、俺なんかの映画かなんかで見たことあるぞこういうの。
天空の城にいるロボット兵みたいなやつ。
うどんは俺の言うことを聞かず、俺を乗せて何処かに向かって走っていく。
「まさかお前、出口まで案内してくれるのか!?」
「□□□□」
「うおー!?よくわかんねぇけどありがとう!うどん!」
うどんに連れられ、俺は不思議な廊下を進んでいく。
しばらくして、ひときわ広い場所にやってきた。
「あ、この辺りは………」
カーラと二回目に戦った場所だ。
たしかこの先に非常口へと続く扉があったはず。
どうやら無事に脱出できるようだ。
「助かった。ありがとう。お前のおかげでここまで来れた。ここからは大丈夫だ。下ろしてくれ」
「□□□□□」
一瞬、うどんは首を振るような動作を見せた。
「お前、地上までお供してくれるのか?」
「□□」
うどんはうん、と言うように頷いた。
そして、うどんは非常扉をタックルで突き破ると、非常用の螺旋階段の中央で大ジャンプ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
一気に俺は地上まで飛び上がった。
そして、俺の視界に映ったのは、そう、明るい夜。
いや、夜にしてもとても暗いが、あの地下よりずっと明るくて、落ち着ける。
そして。
「…………!先輩!!」
置くで、瓦礫の下敷きになっている先輩を見つけた。そして、先輩の身体に爪を突き刺しているアイツは………!!
「ロア………!!あの野郎………!!」
俺がいないからって調子に乗って先輩に暴行してやがる。
ふざけんな。それでも父親か。
その器が先輩の父親であろうと、俺の女に手を出した奴は、誰であろうと許さない。
地獄に落としてからさらに地面に生き埋めにしてやる───!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ────」
俺は叫んでロアに斬りかかろうとした、次の瞬間。
「□□□□□□!!!!!」
俺よりも大きな声でうどんが雄叫びを上げ、俺を乗せたままロアに向かって一直線に疾走した。
その速度は先ほどまでのものとは比にならない。車や電車を越えるもうスピード、たたえ雷速のロアも気づかなかった。
「□□□□□!!!」
うどんが俺に優しく触れたあのモチモチの腕を突き出す。
そして、なんと、その踏んだだけで壊れそうな柔らかくてふにゃふにゃとした細麺が、鋭くロアの頭部を吹き飛ばしたのだ。
「───────え?」
これにはクロエ先輩も驚愕。俺も。
ぶっしゃぁぁぁと血を撒き散らした胴体はドサリと倒れ、付近にゴトリ、とロアの首が転がった。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
こ、こ、殺してしまった………!!
うどんが?あの柔らかい腕が?
こんなに鋭く?刃物で切ったかのようにロアの首を?
こんなところで思い出すのもどうかと思うが、俺が親父の首をナイフで吹っ飛ばしたあの時よりキレイに首吹っ飛んだぞ?
ちょっとクレイジーな比較だけど!
────しかし、そんなのはどうでもいい。今はクロエ先輩を………!!
クロエ先輩はぐったりとしていた。見るに痛々しい傷を負っていることから、おそらく戦って負けただけじゃなく、さらに拷問的な暴行を加えられたのだろう。
「────くそ、遅かったか。ごめん、先輩。かなり、遅れた。【ちょっとだけだけど】」
俺は怒りを我慢しながらなるべく先輩を安心させようと、笑って言った。
「はい、ちょっとだけ遅かったですね、中村くん」
クロエ先輩もそう笑ってくれた。
「中村くん、その生き物は…………」
「地下で俺を助けてくれた死者なんだ。ここまで案内してくれてな。うどんって呼んでる」
「いえ。違います!そうじゃなくて………うどん?さん………貴方は………」
「………?先輩?」
先輩は俺の言ったことに答えず、ただうどんに抱きついた。
うどんはただぽけーっとしている。
「内宮くん…………」
「え………?」
その苗字、どっかで…………
(実はね、中村くん。うちのバンド、ボーカルに【内宮】って子がいたんだけど、よりにもよってこの日に持病で入院しちゃってね。そこでだ、是非、君に代役をお願いしたいと思ったんだ)
「───────」
………まさか。うどんの正体は───
「□□□□□」
うどんはただ先輩を抱き締めている。かつての友人ではなく、ただ、抱きつかれたから抱きついたという、単なる生物反応としての愛情表現。
だけど。
「─────」
死者は、なんでもかんでも、ダメなやつばかりではない。こうして、ヒトとも分かり合えるやつもいたんだって。
今、初めて知った。信じていた通りだ。俺は、どんな生き物とでも、分かり合えるんだって。
「───カーラ」
アイツの助言も、きっと俺の力になっていた。
俺は、そうだ。たくさんのヒトならざるモノに助けられて、ここまで来れたんだ。
それは、俺の宝物であり、そして、すべての生き物は、相互理解ができるということの最大の根拠だった。
たとえカタチが違っても。たとえ言語を話せなくても。
互いに互いのことに真剣に向かい合えば、俺たちだって分かり合えた。
俺を殺そうとしていた先輩も、俺が殺そうとしていたカーラも、俺を殺してくると思っていた内………うどんも。
「だから、」
俺は、彼らに、彼女らに、その恩を返してやりたい。その怨を晴らしてやりたい。あの下道を、みんなのために、俺を救ってくれたすべての生き物のために。何より、俺にとって大切なクロエ先輩のために。
「──────馬鹿な」
俺は声のした方向を見た。
そう。こいつを仕留めないと。
「──────そんな馬鹿な」
まったく。どれ程生き汚いヤツなんだ。
首が取れても、再び繋がって生き返るなんて。
「──────何故だ、何故、あの代行者の産み出した融合死者、その中でも特に強力な個体の総称を奴は六型と呼称していた。その六型が、何故、人間の味方をするのだ………!ホムンクルスの鋳造に全てを費やしていたのではなかったのか、あの男は!何故持ち主を裏切るようなモノを作ったのだ!」
ロアが生き返ってすぐに発した言葉は意味不明なモノだった。いったい、誰に向かって怒りをぶつけているのか。
「─────あの代行者………!」
ロアは俺が目の前にいるにもかかわらず、携帯電話で何処かに電話なんかかけ始めた。
『ははは、引っ掛かったかい?ロア』
ロアの携帯電話から、なんとも緩い声が聴こえてくる。
まぁ、そんな予感はしていた。あの若草野郎、どうも最初から胡散臭かった。本来部外者だからロアのプロフィールなんて知らなかった筈なのに、なぜかめちゃめちゃ知っていたし、ロアのことを問題と思っていなかった素振りもあったし。
何より、常に目線も警戒心もアスナを意識していた。
もう俺は早くも謎は解いていた。ハナからヨエルはアスナを狙っていて、ロアなんておそらく何かしらのついでだったんだと。
「巫山戯るな。なぜ、あんなモノを作ったんだ!?貴様の話じゃ、アレは最強の複合型死者だと言ってただろ!なぜ、ワタシを裏切るようなあんな不良品を生産しやがった?」
『あっハッハッハ。ロア、粗大ゴミの君の口から不良品って言葉が出るとは夢想だにしてなかった。けど、いくらなんでも不良品とは失敬だよ?ありゃあ、正真正銘の最高傑作。賢すぎて人間に味方しているだけだろ。そも、君を助けるなんて誰も言ってないよね?そりゃあ、僕も代行者だ。吸血鬼の味方なんてするわけないだろ。』
「なんだと!?」
『…………言い忘れていたけど、僕の狙いははじめからアルクェイドだけだったのさ。君はついで。アルクェイドをおびき寄せるために君を利用しただけだよ。まさか本当に信じていたなんてねぇ。ミハイル君は本当にピュアだねぇ~』
「貴様………姫君を………!」
『うん。君がここで血を吸って出た死者は僕が処理するっていう約束だよね?じゃあ僕がどうしようが勝手さ。半年近く前からずっと、この機会を待って、万が一のための防衛機構を用意していたんだよ。まぁ、このとおり、僕もアルクェイドは捕まえられなかったよ。もう襤褸屑のように消えていくだけさ。じゃあ、最後にこれだけは言わせてくれ。───残念だったな、ロア!!まんまと利用されてくれてホントにチョロくて助かったよ!んじゃ、ばいばーい!そこでおとなしく、白邪くんにでも殺されているんだね!ハッハッハ!!!』
ロアの電話は唐突に切れた。
「最初から、ワタシは、全員に嵌められていたというのか?姫君を罠に嵌めたことはあったが、誰でもない部外者が、ワタシを拐かしたというのか?このロアを?」
ロアは携帯電話を地面に叩き付ける。
そして、ようやく俺に向かい合った。
「死ね。ただ全員、跡形もなく消え去れ──!」
こちらに向かって突然、ギャラルホルンを放ってきた。
「先輩!!」
瓦礫の下敷きになって動けない先輩の上に覆い被さり、守ろうとした。
その時、先輩に被さる俺の上に、さらに───
「□□□□!!!」
瞬間、大爆発が起きた。瓦礫も地面も舞い上がり、辺りは火の海となって、ロアの言った通り、跡形もなく壊れた。
「────っ」
なぜ、俺は。生きている………?
「先輩。大丈夫?」
「はい。中村くんは………?」
先輩はどうやら無事のようだ。いや、初期状態から無事じゃないけど。
「俺は平気。大丈夫。うどんは?」
先輩から離れて、うどんに向かい合う。
「────!うどん!!」
俺はそう叫んだが、もう事はとうの昔に済んでいた。
そこにはただ、肉体の大半を失った、死にかけ、いや、死ぬ数秒前のうどんがいた。
「────うどん!!」
「内宮くん!!」
うどんは先輩を守ろうとした俺をさらにその上から庇って、ギャラルホルンの砲撃が直撃してしまったようだ。
「そんな!何やってんだよ!なんで、俺を守ろうとしたんだよ!」
今にも崩れてしまいそうなうどんを支えるが、ダメだ。中身からどんどん溢れていっている。このままでは、いや、いつ何をしようが、もう、手遅れだ。
「助けて、くれたのに………!なんで、何も悪くないお前が、真っ先に死ななきゃなんねぇんだよ………!」
「───□□□カラ………」
「───!?」
うどんが喋った!?
「────キミ□マモリ□カッタカラ………」
「内宮くん…………」
「────□ロエサンヲ、マモ□ウトシ□クレタ、キミ□マ□リタクテ」
うどんは最期を察しながらも、最期まで、俺たちを守ろうとしていた。死者でありながら、生者を守ろうとした、その行為は。
「ヨカッタ。マモレテ」
「うどん!しっかりしろ!内宮、先輩………!!」
「───ナカムラ、クン?ッテナマエナンダネ。ナカムラクン、クロエサンノコト、マカセタヨ…………」
うどんは、最期に、とんでもない事を言い遺して逝った。
「──────」
「──────」
俺と先輩は二人で内宮先輩に抱きつく。
内宮はもとより死者とは思えないカタチ。元から顔がないから表情もわからなかったけど、なんとなく、彼は最期に笑っていた気がする。
内宮は死体になってゴミのように転がることもなく、眩しい、金色の粒子となって、ぼろぼろと崩れ、空へと舞い上がっていく。
子供の頃にやっていた線香花火みたいだ。
線香花火が最期に火の玉が落ちる瞬間、あの刹那に生まれるなんとも言えない切なさ。アレによく似ていた。
別に、悲しくはない。彼がどんなヤツなのか。そんなことも知らない赤の他人の死は弔うことはできても、涙はできない。
古くからの部活の同僚、その旅立ちに、クロエ先輩はただ涙している。
「クロエ先輩は俺が守りますよ、内宮先輩」
もうこの世にはいない人に、俺はただ届きもしない言葉を吹き掛けてみる。返事など返ってこない。当然だ。届きもしない。当然だ。だけど。
────届くといいな、なんて。
まぁ、後は単純だ。シンプルなのは嫌いじゃない。
別に悲しくも悔しくもない。たった数分の関わり。死んだところであまり響かない。
───だけど。
「───それでも、俺に怨みはある」
大切な仲間を、大切な上級生を奪われて、ただで済むと思うなよ、吸血鬼。
「フ、出迎えが遅れた。また死にに来たのかい?中村白邪」
「いいや。お前を殺しに来た。感謝しろよな。俺は誰も殺さないと決めていたけど、お前だけは生かしちゃおけない。お前、俺に特別扱いされたんだぜ」
「ハ、誇りにもならん。どのみちオマエは行き着くところはワタシと同じ、ただの殺人鬼なんだからな!!」
ロアは再び剣を構える。
俺もそれに合わせて血刀を手に取る。
「───俺はお前が吸血鬼だから殺すんじゃない。お前が奪ってきた、お前が壊してきた人々。彼らのために、俺はお前を殺すんだ。覚悟しとけよ。お前が、誰に喧嘩売ったのか、これから心行くまで思い知らせてやる。俺は中叢白邪。人々の願いに応えて、お前を地獄に突き落とす鬼人だ」
「─────ふざけるな………!」
「黒依。君は離れていろ。だってこれは、俺がやるべき復讐の闘いだ。あいつに殺されてきた人々、そのなかで唯一生き残った人間として、彼らを代表してあいつをぶっ殺す」
「─────はい」
黒依は頷いて、さっきのギャラルホルンの攻撃で破壊された瓦礫をどけて立ち上がり、遠くへと離れる。
俺たちの距離はわずか10メートル。立ったまま互いの武器を伸ばしても武器どうしが触れ合うくらいの距離だ。
「────────」
「────────」
俺はヤツを許さない。同じように、ヤツも俺を逃がさない。これ以上ないほど俺たちは対等の位置に立っている。
ヒトに害成す吸血鬼は、互いにここで路連れになったほうが、互いに幸福だ。
今さらながら、俺の生き残った意味がわかってきた。俺が生き残ったのは、運が良かったからではない。先輩を愛するためでもない。きっと俺は、ここでヤツに怨返しをするために生き返ったんだ。
「行くぞ、ミハイル・ロア・バルダムヨォン─────!!」
「来たまえ、中叢白邪─────!!」
これ以上ないほどの踏み込み一歩。
俺が爆ぜると同時に、ロアの雷速もこちらに迫り始める。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
赤い刀とバイオリンの弓の激突が、たった今、最終決戦の合図を告げた。
────最終戦 旧伊賀見総合病棟心臓手術医 凱逢玄武
────目標 ミハイル・ロア・バルダムヨォンの殺害
月姫零刻屈指の悪人といえば? 中「いや、だから誰も入れないってば!」ヨ「票が50個以上入ったら主人公交代ね!」中「足りなかったらヨエルコーナー終わりだからな!」
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口悪すぎ横暴すぎてみんなボコす中村白邪
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目的のために街の人々を犠牲にしたヨエル
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とりあえず悪役のロア
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その他
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誰もお前のアンケートに票なんか入れねぇよ