────彼は、天涯孤独であった。
「────」
────彼は、生涯無知であった。
「───────」
────彼は、一生独力であった。
「───────────嗚呼」
彼はいつもつまらないと思っていた。
なんにもないこの
なにもかわらないこの
かの者は常に独り。ただ鏡水に映る己を見つめているだけ。
「───嗚呼、此はとてもつまら無い」
いつまでも、独りのまま、誰も此処へは来ない。
なにをしても、自分は外には出られない。
自分の前にあるものは、常につまらないだけの記憶の螺旋。
回廊はただ、怨みでできている。
画廊はただ、妬みでできている。
遊廊はただ、恨みでできている。
つまらない、つまらない、つまらない。
実につまらない。
何故自分は外には出られないのに、彼は外に出られるのか。
どちらも同じ死人だというのに。
生ける屍は、何故、自分ではないのか。
何故、自分にのみ、生きる権利を与えられなかったのか。
何故、自分は己が死の事実を正しめる義務を託されたのか。
それがわからない。自分もいきものだというのに。なぜいきものでありながら生きる権利がないのか。
そして、なぜ、同じ自分なのに、向こうだけが生きる権利を持っているのか。
自分の人権を剥奪され、奴は生存権を容認された。
「────吸血鬼には、生きる価値が無いのか。嗚呼、余計につまら無い」
その城に居た一人の朱毛の男は、ただ一人、朱い刀を持ちながら、誰とも相対することなく、誰とも闘えず、ただ吸血鬼と闘う自分を眺めていた。
────此の世において、我々は命の選別を行う、重要な役割を担う者だ。
我々殺人鬼は、一定数以上の数を越えた人口を削減するために産み出された、【数に対抗する】抑止力である。
数を奪うことのみを教え込まれ、それ以上の数を奪ってはならない。
一定以上の数値をオーバーした時点で、その存在は我々の消去対象となる。
少子高齢化は進んでいるものの、それは日本の話。世界的に見れば、人口は明らかに増え続けている。
このまま数を増やしてはならない。
一定の数をオーバーしたのなら、何人たりとも逃してはならない。
我々は、そのために生まれたのではないのか。
────だが、ヒト社会において、我々のような存在は間違いなく邪魔である。
間違いない。できれば自然災害など無くなればと思っている人間はきっと多い。
我々殺人鬼を自然災害と喩えるのは強ち間違っては居ない。
では、どうすればいいのか。
数を減らさなければならないというのに、人は数を減らすことを拒む。
「成る程」
理由は明確だ。なぜなら、すべての人間は善玉であるからだ。
善玉を排除することは、間違いなく崩壊へと誘う死の道。
ヒトの社会を形成する上では、間違いなく善性を持つモノのみが必要となる。善というのは、正義のような倫理的な意味ではなく、ただ、世論的に必要か否かである。
当然、悪玉を必要する生き物は居ない。
害成すものはすべて排除するべきである。
────そこで。
我々は最高の案を思い付いた。
数を減らす義務がある我々。
悪を減らす責務がある人々。
両者の利害を一致させ、その両方を実現させる最適解。我々の活動の答えという思想が、この時誕生した。
───おおよそ紀元前の話だ。
人類に害成す存在全てを排斥すると同時に、誕生と終焉を両立させるための存在がこの地球に産み出された。
この世には、中立というものが必要となる。
中立の定義が崩壊すれば、ヒトの社会は破滅へと直行することになる。その速度は実にゆったりとしたものである。しかし、そのぶん、終わりは唐突に訪れる。
その一例として、我々は「誕生」と「終焉」を等倍に両立させるべく生まれた。
誕生とは生の産まれ。終焉とは即ち生命の死。
強制的に生命を絶つ、つまり殺すことで、我々は1000年を越える間、人類の誕生と終焉を両立させてきた。
そして、紀元前時代の終わり、そして人々が
──その中に「魔」という教えがあった。
「魔」とはヒトならざるモノであり、ヒトに害を与える、人類の脅威。
この魔というモノを知り、人々は魔というものに対する恐れを知った。
魔はいずれ、人類に最悪の悲劇と破滅をもたらすと。
それに目をつけたのが我々であった。
前述の通り、我々は善であれ、正当な数を保つために人を処理してきた。
世界的な宗教を知り、その正体を巡るにあたって、ある日、その教えの中に存在した、悪魔憑きなるものを発見。
悪魔憑きはその名の通り、人間に憑依した魔。
────これだ。
この悪魔憑きを滅ぼすことで、我々は数を保ち、そして人々はその魔の脅威から救われるのだ。
しかし、すでにその活動は行われていた。
いわゆる
人間に憑いた悪魔を祓うという、儀式的な段階を踏んだ、世界最初の悪魔祓いである。
しかし、それを見た我々は反吐が出た。
悪魔を逃がしてどうするのだと。
確かに、悪魔に憑かれた人間は人間として復活するであろう。
しかし、それでは逃がしただけで、魔を倒したことにはならない。
なにより、そんな方法では人間の数を保てないではないか。
こうして、生まれた思想、それが
これは、悪魔を依代から追い出すエクソシストたちとは似て非なるモノ。
このエクスキューションを実行するエクキューショナーたちは依代ごと、憑いた魔を殺すのだ。
人間の数を保ち、魔を殺す。
俗に現世でもよくエクスキューションと呼ばれるこれこそが、我々の産み出した最適解だ。
だが、これには問題があった。
創世の神が産み出したモノには、魔も含まれている。我々はもちろん、魔ですら、神の産み出したもの。つまり、人の手では殺してはならないのだ。
計画は破綻。この策では何も成し得ることはできない。
そこへ、救世主が現れた。
彼らは人の身でありながら、神に代行して魔を殺すという、教会の教えに乗っ取った上での正当な、実在したエクキューショナー。
人はこれを、「代行者」と呼んだ。
これにより、我々のエクスキューション思想は実現され、我々は1000年以上、この世界の人間の数の制御、そして魔の排除を行ってきた。
時は流れ、世界各地に代行者にも似た、教会の秘蹟を得ていない、フリーのエクキューショナーが現れた。
────これこそが、【俺】のような、退魔族の誕生。
退魔族は、とりわけひとつの宗教による大きな影響、というものが薄い日本ならではのものであり、それもあってか、日本は多くの退魔族が現れた。
何せ、日本は混血族を多く持つ国。
混血とは、ヒトとヒトならざるモノの子孫だ。要は、ヒトと魔の両方の血を引く存在ということだ。まぁ、無論、性質的には悪魔憑き以上にタチが悪い。もはや魔の血を引いているに等しい。悪魔が取り憑くよりずっと悪質なケースである。
そんなわけだ。とりわけ混血を倒すことに長けているのがこの国の退魔族なのだ。
そして、その中でも特に栄え、古来から日本の退魔族の頂点にあり続けた我々。
───代々理屈では説明つかないような、奇跡とも言われる超能力を継承する退魔の巫女一門、【巫浄】。
───子が二つの人格を持つという特徴を持ち、そして国内最大の退魔組織を率いる、【両儀】と彼ら率いる【両儀一派】。
───国内で公共事業を興し、国内有数の企業家としての側面も持ちながら、神に通じる優れた鬼子を産み出してきた、【浅神】。
───そして、俺たち。浄眼を継承し、近親の交配と鍛練のみで鍛え上げ、混血を狩る、対混血最後の切り札、【七夜】。
世間の一般の退魔族たちは、この四家を纏めて、【退魔四家】と呼んでいた。
────しかし、これももう昔の話だ。
七夜が衰えたわけではない。そもそも、退魔族の数が減っているというだけ。
今やまともに退魔業を生業としているのはせいぜい四家ぐらいだ。
───とうとう企業家として登り詰めてしまった浅神にとって、今や退魔は副業。
───巫浄に関しては名前すらも長らく聞いていない。まぁ、あれほど規律の厳しい一門なのだ。身内で反抗があっても仕方がない。
───両儀の退魔組織は健在だが、肝心の両儀の子息があの程度。あれが現時点での最高傑作だと言うのなら、まさに両儀は衰退の一途を辿っているのだろう。
故に、最後にして最強の退魔族は俺だ。
だが、他が衰えているのも無理はない。
確かに、このところ、あまり強力な混血族の噂は聞いていない。確かにこれならば古くから続いていた退魔業も疎かになっても仕方がない。
しかし、そう思っていた俺が阿呆であった。
あんな甘い考えでいた自分が情けない。ちっともそんなことはなかった。
あの女はまさに規格外だ。中村邸………あの屋敷の主と見られるヤツと刃を交えたが、その人物は未成年。あまつさえ、どう見ても脆い細身の女だった。だが、アレは聞いていない。自身の屋敷の領域に限られてはいるものの、空間そのものを変化………いや、【歪ませる】能力は聞いたことがない。
あの時は女が気まぐれを起こしたのか、偶然によって逃がして貰ったが、しかし、俺を屋敷から追い出す手段は、まさかの強制退去だった。
───俺はあの一瞬、突然視界があの屋敷の門の前に変わったのだ。
空間を歪ませるならまだしも、屋敷の領域の中に存在している物体の位置まで動かせるとは。屋敷の内部であれば、女が襲う側を殺すことはできずとも、内部にいる時点で襲う側に勝ち目はないのだ。
しかも、あの眼で見られているだけで、俺は一気に力を奪われる。俺の生命力が減っているわけではない。だが、アレは間違いなく、相手の戦闘能力を下げてくるのだ。
喩えるならプレッシャー。相当な威圧能力で相手の存在規模を低下させてくる。
おそらく、あの女が最強なのは屋敷の領域のみだ。だが、その分、屋敷においては天上天下唯一無二、空前絶後の無敵の存在。
考えてみろ。あの家を壊滅させようと思うのなら、確実にあの女を殺さなければならない。俺がたとえ全力を出しても、あの屋敷の中では手も足も出ない。
攻城戦においては最強の混血といえる。アレが、鬼人の力───
そして。あの中村一門を壊滅させるのが今の俺の狙いだが、いくらなんでもアレはおかしい。しかも、あの女だけではない。あの家には三人の子供がいるとあの家系図には示されていた。ならば、ほぼ同等の規模を誇る混血をあと二体も倒さなければならない………?
不可能だ。一生に関わる致命傷を負ってようやく一人と言ったところだ。単純な数値での参考だが、おそらく、あの女を倒したときには、俺の両腕、もしくは両脚は失われているだろう。それくらいの死闘を、三連繰り広げて、生き残れる気がしない。
困ったことに、あの女から放たれるプレッシャーは、女から逃れても、屋敷を出ても解除されない。頭に記憶があるかぎり、思い出す度に恐怖で動けなくなる。
俺の辞書に、恐怖という言葉はない。だが、アレは違う。生物本能的なマイナスは一切関係ない。強制的に【恐怖】という物質を刻み付けているのだ。木に模様を入れ込む彫刻刀のように。
───ダメだ。アレはレベルが違う。
そうなれば、まずはあの女とは別の混血を仕留める必要がある。もし、他の二人を倒せば、攻略が楽になる、もしくは、あの一家の血に対抗するルートが閃くかもしれない。
「そうなれば」
善は急げだ。今すぐにでも、あの屋敷の子息を仕留めに行かなければ。
あの一家を最後の混血と認めよう。
俺の目標は、あの一家を壊滅させることだ。
────俺こと、七夜黄理は愛用の鉄棍を持って、借小屋を出ていった。
月姫零刻屈指の悪人といえば? 中「いや、だから誰も入れないってば!」ヨ「票が50個以上入ったら主人公交代ね!」中「足りなかったらヨエルコーナー終わりだからな!」
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口悪すぎ横暴すぎてみんなボコす中村白邪
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目的のために街の人々を犠牲にしたヨエル
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とりあえず悪役のロア
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その他
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誰もお前のアンケートに票なんか入れねぇよ