月姫 零刻   作:マジカル赤褐色

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混沌銀河・百鬼夜行

 

「くそ………!!」

 

ロアは一気に撤退準備を整え、凄まじい速度で病院の中に消えていく。

全く、これだから、蛇は嫌いなんだ。

やはり、逃げ足だけは早い。

あの速度、見たことがない。時間を重ねるほど、どんどんロアは強力になっているのか。

 

「────待ちなよ、クズ」

 

ならば、こちらはその【3倍】の速度でお前を追いかけてやろう。

兎を追うならば、兎の3倍は早くなければならない。

 

あっという間に病院の中に侵入し、ロアを全速力で追いかける。

 

「────っ!!」

 

ロアは後退している。後退しながら俺を迎撃している。

そうか。怒った俺がそんなに怖かったのか。恐怖の象徴たる吸血鬼が恐怖に引き下がるなんて情けない。

 

「何故………何故こんなことに!ワタシが後退だと?たかだか下級吸血鬼に!?」

 

「うるせぇ!下等生物なのはお前もだろ!ヒトの街を食いもんにしやがって、それでいてなんの償いもなしに、何百年も繰り広げやがって!何百年も死から逃げ続けた臆病蛇が尻尾を巻いて逃げんのは当たり前だろ!」

 

剣の一振で巻き起こった熱風が待合室の椅子を一斉に吹き飛ばす。

すかさずロアのギャラルホルン。吹っ飛んだ椅子が全て破壊され、病院の壁が次々と崩落していく。

 

「チッ───ここはもう駄目か!」

 

ロアが崩落を躱しながら二階に逃げていく。

崩落が始まるようだ。今さら知ったことではない。

むしろ、病院ごと潰してやりてぇぐらいだ。

 

「行くぞ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────臆病?臆病者だと?このワタシが?臆病者?」

 

吸血鬼は吸血鬼の言葉に疑念を抱きながら階段を昇る。

 

「────ハ、有り得ない。ワタシはミハイル・ロア・バルダムヨォン。永遠を定義する者だ。死になど怯えてはいない。死など超越している………!僅か十年しか生きていない低能吸血鬼に、ワタシの価値は解らない!」

 

ロアは誰にも届かない主張を叫ぶ。

 

あの吸血鬼にもプライドというものがある。自身の天童と呼ばれた魔術の才。

それを持ってこの世に誕生してしまったミハイル少年は、幼い頃から天才特有のプライドを持ってしまった。

自分は周囲よりも上なのだと。敗北を知らなかったために、彼は永遠の勝者なのである。彼は人間時代も、これまでの転生においても、負けが存在しなかった。

アルクェイドによる処分やその他の障害に邪魔をされたりしても、彼は諦めることはしなかった。何度でもロアは立ち向かっていった。

 

しかし、この地にて絶対勝者は敗北を知ってしまった。

ちっぽけな代行者による策に溺れるという、自身にとっての屈辱の境地を味わった。

そして、自身より優れた吸血鬼を目の当たりにしてしまった。

転生する力も、魔術の知識も皆無。今にも死にそうな、すでに死んだただの死者の成り上がりが、真祖直属の死徒である自分より上?

あり得ない。ミハイル・ロア・バルダムヨォンはつねに天賦であり、磐石。

敗北はない。失敗はない。劣勢など存在しない。

自身は勝者。全ては自分が決めるもの。

自分だけが正義。自分だけが真理。自分だけが法則。

そして、自分は不変である。

 

「───ヤツは命の価値を理解していない。無垢であるために、生きる価値を持つ者と、そのために犠牲にならなければならない者との格差を知らない。全員を救うなど、そのような偽善を掲げ、空虚な妄想を立て続けている。まるでバベルの塔の建設者だ。あんな者に、人々の生きる価値を理解できないなど、ふざけた事を!」

 

「ほう、じゃあ御前さん、其んなに御偉いのかい?」

 

「───!?………誰だ!?」

 

「今御前さんが闘っている相手だよ!」

 

二階の廊下の中央が炎を噴き上げながら破壊された。

 

「な、なんだと───!?」

 

噴き上げた炎は三階を呑み込み、さらに屋上を焼き尽くした。

一斉に舞い上がった瓦礫の山、設備の山がロアに降り注ぐ。

 

「───小癪な……!!」

 

ロアはその全てをギャラルホルンで粉砕し、その残骸を回避していく。

原型を留めていない病院が炎と煙に包まれる。

焼け跡に残る人影はもちろんロア。

 

「くっ、これしきの事でこのワタシを倒せると思うな。ワタシは、アカシャの蛇。この身体朽ちても、ワタシは止まることはない!姿を現せ、小賢しい愚者!」

 

「後ろに居るんだが、気付か無い物なのかねぇ」

 

「─────ぐ!?」

 

背後で大爆発が起こる。噴き上げた炎によって真っ二つにされた病院だが、今の爆発でロアの居た東半分が消し飛んだ。

なんの比喩でもない、ただ跡形もなくこの世から消滅した。

全てが灰となって消え去ったのだ。

 

「─────ぐ、ばっッ!」

 

爆発に巻き込まれ、西側に吹き飛ばされ、無惨に壁に打ち付けられる吸血鬼。

 

「────馬鹿な」

 

彼の正面はただ一面の夜空。病院の東半分は完全に崩落し、西半分も天井が瓦礫の山と化し、吹き抜けに夜空が見える。

燃え盛る炎に照らされながら。

 

「────ぐ………む?」

 

ロアは起き上がろうとして、突然、動きを停止させた。

 

「────何故だ?」

 

ロアは立ち上がろうとして脚を動かしたが、なぜか、立てない。

脚は正常。止まる理由などない。

この左手を床に着いて、身体を押し上げるだけだ。だが、

 

「何故?何故立ち上がれない?いや、何故支えとなる左腕が動かない?」

 

ロアの左腕に損傷はない。仮に先程の爆発による損傷があっても、もうすでに全回復しているはずだ。

それでも動かない。

 

「馬鹿な、【死んだ】、だと?ワタシの左腕だけが!?」

 

驚愕を隠せないロア。

 

「馬鹿な、何故ワタシは生存しているのに、腕のみが停止しているのだ!?これではまるで、腕の生命力のみが根こそぎ奪われたようではないか!?いや、だがそれもあり得ない!腕に対する生命力と肉体の生命力の数値は常に等しい。腕が停止した時点で、肉体の動きも止まっているはずだ!?」

 

仮にも魔術師であったロアにとって、生命の終わりを意味する死とは、肉体そのものの死である。肉体の一部が機能不全になったならまだしも、肉体の一部の生命力が完全にゼロになる状態など、魔術的にも聞いたことがない。

 

「御名答。御前さん、少しは頭が廻るじゃないか。左腕だけで済んで善かったな。【(オレ)】の狙いじゃあ、其の汚ならしい身体の芯ごと死なせて居たつもりだったんだが」

 

かつかつ、と軽快な、だがそれでいて重厚な足音が聞こえる。

 

「────貴様、誰だ!?」

 

ロアはその人物を睨み付ける。

 

「死徒、中叢白邪。誰も居ないんで此処へ致し方無く参った。此うして起きるのはざっと十年ぶりだな」

 

陰陽師のような白黒の装束を纏い、左手に鞘に収まった刀を持った朱毛の男。

その姿は、とてもあの白邪とは思えない、全くの別人である。

 

「吸血鬼………?貴様が!?同じ人物ではないのか!?さては貴様、第二の人格だな!?」

 

「勘違いも大概にするんだな。御前さんの勘は面白味が皆無である癖に、宛てにも成らん。この身は紛れもない、御前さんが殺した中叢白邪だ。婚約者の手前、吸血衝動を抑えていたが、居ないんじゃあもう我慢の必要も無い。問答無用の、天賦磐石の状態で行かせて貰う」

 

そう言うと、中叢は鞘から刀を引き抜く。

血のように朱い刀身を持つ、眩しくて禍々しい刀だ。

 

「吸血衝動を抑えるために消費していた、混血としての力を解放したのか、これが、貴様の能力か?」

 

「応。───寿命奪取。対象となる、【生きている箇所】の生命力を根こそぎ奪い取り、吾のモノとして吸収する能力だ」

 

「まさか、一定の箇所を限定して殺すとは。生体機能としては信じ難い能力だな。しかし、これは魔術でも呪礼技法でも、原理血戒でもない。これは正真正銘、生態として得た能力か。フ、こんなモノが貴様と縁のある力とはな、なんだ、貴様も殺人鬼ではないか!」

 

ロアはそう言ってクハハハハハハハハ!!と、声を荒げて笑う。

 

「耳障りな笑い聲は止せ。世界中の生命の気分が悪く成る。命の価値、と言ったな。其の様な物、貴様ごときが決められる価値、とでも思って居たのか?思い上がりも甚だしい。最早見るに堪えん。生命の価値など、最初から存在し無い。誰もに等しく降り注ぐ朝の日差し、誰もの耳に等しく届く小川のせせらぎ。誰もに等しく訪れる死。生命に価値等が在るのなら、生命は此処まで共生し生永らえる理由も在るまい」

 

「うるせぇ!貴様も同じ殺人鬼だ!何が解るものか!ワタシは大いなる主に選ばれた存在。そこいらの人間と、一緒にするな!」

 

ロアは脚だけで立ち上がり、中叢に斬りかかる。狂喜に満ちた笑いを浮かべながら、目の前の敵を殺そうと、獲物に食らいつく肉食動物のように襲いかかる。

 

「───ならば教えてやろう、貴様の言う命の価値が、どれ程下らんモノかを」

 

中叢が刀で床を切り着ける。と、同時に、床から炎が吹き上がり、床を崩しながら、ロアの肉体へと殺到する。

今度はさっきよりも範囲が広い。病院の西側も炎に呑まれ、跡形もなく崩れ落ちた。

 

「馬鹿な!?その様なこ────」

 

ロアの絶叫も、爆発音に塗りつぶされ、たったくの無音となった。

 

「──────」

 

そして、残ったものは静寂だけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────終わっちまったのか」

 

俺は血刀をゆっくりとおろす。

………付近にロアの姿はない。あるのは、そこで燃えている炎と、その炎に未だに包まれている黒焦げの何か。

 

「選ばれた天才とか、人は言うけど、結局、それもただの人間でしかないんだよ。焼けばこうして死ぬし、天才にもできないことはたくさんある。───俺たちは、そうやってできないことがあるから、それができるヒトを特別と思えるんだろう。どれも同じヒトなんだから、いちいち区別したりすることもないじゃんか。日本人だろうが外人だろうが。男だろうが女だろうが。───ほら、お前ら聖職者が大好きなやつだよ。【神様は誰にでも平等】ってな。生きている人間なんだったら、一人一人、価値では決められないような、特別なモノだろ」

 

俺はただ、寂しそうな顔を貫く。

そこには、もう忘れていながら、まだ忘れ去れない小さな瑕が。

 

「───ほら、俺の親父だって、俺たちと同じ、ただの人間だったんだから」

 

「──────何が」

 

「────ん?」

 

「何が、平等、だ、ワタシは、特別、だ。ワタシは、特別を求めて、旅を続けた。オマエは、なぜ、普通であることに固執、する?なぜ、ワタシのように、特別で、あろうとしない………?ただの無価値の個体集団から【独立】、することが、人間の、成長で、あるというのに………!オマエも思わないのか?周囲から独立し、秀でた存在となりたいと………!!」

 

「────それ、独立って言おうが、ただの【孤立】だろ」

 

「──────っ……!!」

 

「そうやって一人で出し抜こうとするから、ボッチになって、誰も振り向いてくれなくなるんだよ」

 

俺の一言は、吸血鬼の心の奥底に、鋭い刃となって響いた。

 

「─────」

 

吸血鬼は何かを思い出した。

吸血鬼のその瞳が、なんだか可哀想に見えて、俺はついその紅の瞳に見入ってしまった。

 

 

 

「─────あ」

 

────それは、忘却された、いつかの記憶。俺にはわからない、かなり古い時代。吸血鬼になる前のミハイル・ロア・バルダムヨォンが見た■■が。

なんだか、とても美しい、白く、青い、花に囲まれた。

 

「貴女は……………」

 

「─────貴方は」

 

────麗しの、月の姫が。

 

 

 

「─────貴様」

 

───まずい。これ、まずい。

 

「─────貴様、いま」

 

───時を止めた。

 

「─────貴様、いま、なにを」

 

───やらかした。完全にやらかした。

 

これ、【視すぎた】。

そうだ。そりゃ、そうだ。

こんなの視ちゃいけない………!自分の存在した意味、その最奥、その命の根源を視ることは、純粋なプライバシーの侵害だし、何より、

 

それは、その生命に対する冒涜だ。

しかも、最悪なことに、俺は視るだけでも終わりなのに、干渉までしてしまった。

俺の鬼人の能力による生命への干渉が度を越えたのか?

 

よくわからないが、ヤツだけの記憶に存在したあの人物と会話したら、どうなるかなんて────

 

「貴様────なにを、」

 

最早言うまでもなかったのに────!!

 

 

「あ、が───はっ!!」

 

かつて無い死の気配を察知し、俺はその方向を見てしまった。

そして、俺は見てしまった。

地獄から這い上がる、ただの────

 

「貴様────!!!」

 

─────ただの【悪魔】を。

 

「ふざけるな………ワタシの………!!ワタシの!!!」

 

ロアを纏っていた炎が吹き飛ぶ。

 

「───がっ………!?」

 

一気に風が巻き上がり、俺は吹き飛ばされる。

 

「しまった、そんな────!!」

 

ロアを纏っていた炎が消える。

焼け跡から現れた黒焦げの死体がムクリと起き上がる。

左腕を除いたすべての手足が動き出す。

焼かれた痕が修復される。

 

「ハ────アァァァァァァァァァ!!」

 

かつて無い絶叫を立てて、ロアは鬼の形相で俺を睨みつけてくる。

なんだこれ。さっきと気配が全然違うぞ!?見られているだけで、俺でも足がすくむ………!

 

「消えろ、消えろ、消えろ…………死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!───貴様、その表情、ワタシの何を見た!?貴様は、ワタシの何を見た!!今、誰に触れたのだァァァァ!!!!」

 

「くそ、これは─────!!!」

 

「ウウウウウウァァァァァァァァ!!!!」

 

「動けない!?」

 

俺の足元に、紫の魔方陣のようなモノが出現する。

 

「────っ!?」

 

まずい、空間が隔離された!これ、脱出できないパターン!?

しかも、このおびただしい量の電荷………

 

「貴様を殺すに値するモノで、貴様に最悪の死をくれてやる…………私の記憶で、あの姫君に触れたことを、無限の地獄で後悔するがいい………!!」

 

やっぱり雷か!これは、まずい。俺にとって、ロアの雷は見事な弱点だ。吸血鬼の生命力でも、生き残れそうにない!この怒りの量からして多分ロア自身が死ぬかもしれないぐらいの全力。

尊厳を守るための行動は、人によっては命を守るよりも激しい行動になることが多い。

やっちまった…………これは…………!

 

「少々マナーが悪かったが、下衆はお互い様だ。最後まで抵抗させて貰うぜ………!」

 

だが、こっちも死ぬわけにはいかない。ロアの人柄を知った今、なんとなく殺意が薄れたが、関係ない。それでもこいつを殺さないといけないのは変わらない!

最後まで、死なないようにしなければならない………!

 

「中叢────!!」

 

血刀を全力で握りしめ、力を籠める。

 

(仕方が無いな。御前さんに死なれては、吾も困るんでな!)

 

血刀の輝きが限界を超える。

焔を纏った刀が、唸りを上げて豪炎を吹き出す。

 

「地獄に…………堕ちろ───!!!」

 

ロアの叫びと共に俺に向けて最高に太い(いかずち)が墜ちてくる。

 

「死んで、たまるか、よ───!!!」

 

血刀を床に突き刺す。血刀に溜まっていた炎が雷に対抗して昇る。

 

「う…………ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

これは、純粋な力比べだ。どちらの力が先に尽きるか。

雷と炎は鍔ぜり合いを繰り返し、互いの力を相殺しながら、逆に押し返そうとする。

 

「ぐ…………ううぅぅぅぅ!!」

 

しかし、力は向こうのほうが強い。俺は辛うじて抑えているといったところか。少しでも気を抜けば、俺は速攻、この電荷に撃たれる。

それは嫌だ。死ぬのは勘弁だ。

ここまで来れたのに、こんなところで死ねるか────!!!

俺は、先輩と一緒に居るって決めたんだ。

姉さんたちも、帰りを待っている。

俺は、待っている人のために、俺は、

 

「う、ううウ、オォォォォォォォォ!!!!」

 

お前を倒さなければならないんだ───!!!

 

「まだまだ─────!!!」

 

「ぐ………ううぅぅ………ッ!!」

 

今度はロアが焦りを見せ始める。

全力を出して抵抗する俺の炎が、少しずつ、ロアの雷を押し返している。

 

「チッ………さっさと………くたばれ………!」

 

「ぐ………うぅぅあぁぁぁ………!!」

 

そして今度はまたもやロアの巻き返し。

一斉に放たれた雷に加え、ギャラルホルンの照射による火力が上乗せされ、さらに俺は押し込まれる。

 

「ぐ………うわぁぁ!!」

 

あまりの大きさを誇るエネルギーの衝突により、二階、いや、ほぼ病院は原型を留めていなかったか。

とにかく、病院の二階だった場所の床が崩落し、地上に叩き落とされる。

体制が崩れる。落雷が衝突する寸前、

 

「くそおぉぉぉ!!」

 

決死の覚悟で血刀を持ち上げ、落雷を止めようとまた防ぎ始める。

耐えろ、耐えるんだ。ここで俺が死んだら、誰がアイツを………!!

 

「中村くん!」

 

クロエ先輩が駆けつけてくれて、俺の血刀を支えてくれる。

勝った。先輩と二人なら百人力だ。

こんなところでこんな寒いこと言うのもだが、

 

「愛の力は引き裂けねぇ!!」

 

クロエ先輩のギャラルホルンが相殺をフォローしてくれる。

行ける。勝てる。このまま行けば………!!

 

「邪魔を、するな────!!」

 

「ロア!?」

 

しかし、ロアはとんでもない行動に出た。自身をも焼き尽くすだろう雷に向かって走り出し、俺の手助けをしてくれているクロエ先輩に斬りかかってきた。

 

「先輩…………!!」

 

いや、落ち着け。ここで動けば台無しだ。

クロエ先輩を守りたいのも山々だが、一旦冷静になれ。

何事もまずは深呼吸だ。

 

────ふぅ、こうして、軌道をずらして………!

 

「喰らえぇぇぇぇ!!!」

 

血刀を傾けて雷を剃らし、こちらに向かってくるロアに向けて横殴りに血刀を投げ、一斉に雷と炎を吹っ飛ばした。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

刀は見事、ロアの胸に突き刺さり、炎と雷が一斉にロアを覆い尽くす。

1000万Vを超える自身の雷霆と1000℃を超える地獄の業火に喰らい尽くされる。

地獄とは思えない地獄以上の地獄とも言える痛みに、ロアは野獣の咆哮のような苦悶を上げる。

 

「ご………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

自分で撒いた種にやられ、自分で掘った穴に落ちた吸血鬼は、バタン、と後ろに倒れ、動かなくなった。

 

「やった…………」

 

結構、こう、倒してみると呆気ない結末だった。

 

「やった、先輩!」

 

「中村くん!やりました!」

 

ひとときの絶頂的な歓喜に襲われ、俺たちは抱きしめ合った。

 

「──────」

 

「──────」

 

冷静になってから急に恥ずかしくなり、そして同時に離れる。

 

「───────」

 

旧伊賀見総合病棟跡は、跡形もなくなっていた。東側が完全に消滅し、西側も二階の床がなくなっている。これでは、病院もなにも、子供たちの秘密基地にもならない。

これがもう元から跡地だったのが救いか。

これが普通に動いていた病院だったら、一体何人の人が犠牲になってしまったのだろう。

そして、あの死者の数だけ、この病棟では犠牲者が生まれたのだ。

 

「……………………」

 

罪のない人が犠牲になるのは見たくない。

関係のない誰かが巻き込まれるのは聴きたくない。

このなにもない、ただ普通に暮らしていた人々がある日突然、ここで命を落としたのだ。

 

────俺は、あの日偶然生き残った。

突然、電気が落ちたと思ったら、たくさんの死者が流れ込み、たくさんの人が喰われた。

俺は見知らぬ少女の手を引いて逃げ、彼女を庇ったことで、俺もそこで死んだ。

だが、運が良いのか悪いのか。俺はこうして、他の死者とは異なる、死者の成れの果て、いわゆる死徒となって復活した。

 

ここへたどり着くまでに、一体、どれほどの命が失われ、そして俺はどれほどの幸運と悪運に晒されてきたのだろう。

 

「────伊賀見………」

 

その苗字に、なんとなく聴き覚えがある。

都心の三大財閥、遠野、中村に並ぶ一大企業グループの名前だ。

 

海外規模での企業統治を行う遠野。

国内有数の大企業を統括する中村。

建設や買収で栄華を築いた伊賀見。

 

「────伊賀見って、誰だっけ」

 

あれ、伊賀見の当主なんて存在、聴いたことない。

遠野は槇久の旦那。中村は姉さん。

そういえば、伊賀見、っていう家と俺ら関わりなかったな。

そもそも、あんな一大企業グループである伊賀見の病棟が一体なぜ、こんな風に跡地になってしまったのだろう。

潰れるなんてこと、あり得ないはずなのに。

 

「────もう、壊滅したのか」

 

おごれる人も久しからず、とは良く言う。永劫の栄華を築いた、財閥めいたグループが急に消えてしまうのは珍しくない。

だが、いくらなんでも、これは急すぎないか。

少なくとも俺がここで過ごしていた10年前まで、間違いなく動いていた筈のこの病院は、この10年程度の時間で何の価値もない跡地と化したのだ。

10年という短い年月。7歳だった俺にも、記憶というものはある。あれから一度もこの病院の名前を聴いていない。

 

「──────」

 

あの事件のせいで、この病院も終わりに持ち込まれたのか。

しかし、あんな、伊賀見の沽券に関わるような内容を果たしてまともに公開するだろうか。なにかセコい情報操作とかありそうな気もしなくはない。

今さらながら直感でわかる。

まだこの病院には、俺らも知らないような、大きな秘密があると。

そもそもなぜ、俺がここに入院していたのか。なぜ、あそこで俺はクロエ先輩と出あったのか。俺と一緒に逃げて、最後に俺を裏切ったあの小さな女の子。

 

「───────わからないな」

 

「───────ギ」

 

「────え?」

 

後ろから声がして、先輩と一緒に振り返った。

─────瞬間。

 

「ギ────ア、アァァァァァァ!!!」

 

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は俺に向かって飛びかかってくる、身体の中心に大穴を開けた吸血鬼の姿を見た。

月姫零刻屈指の悪人といえば? 中「いや、だから誰も入れないってば!」ヨ「票が50個以上入ったら主人公交代ね!」中「足りなかったらヨエルコーナー終わりだからな!」

  • 口悪すぎ横暴すぎてみんなボコす中村白邪
  • 目的のために街の人々を犠牲にしたヨエル
  • とりあえず悪役のロア
  • その他
  • 誰もお前のアンケートに票なんか入れねぇよ
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