月姫 零刻   作:マジカル赤褐色

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2日目 赤主新生
あらずの日・零刻


 

それでは参りましょう、3、2、1、

 

「おーーーきーーろーーー!!!!!」

 

「ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

今日は11月17日。朝、7時30分。俺はこの金髪馬鹿野郎に起こされた。耳元で大声を上げられました。音のボリューム、普通に野外コンサートに匹敵、もしくはそれ以上。耳元で大きな音を出すのって危ないんだよ。音が内耳にある有毛細胞を傷つけることになるからね。(有毛細胞とは音を受けとるはたらきを持つ大切な細胞のこと)鼓膜外傷とか音響障害になったら難聴とか内耳出血とか起こすから、普通に危ない。それがわからないのかこの馬鹿は。

 

「な、ぁぁぁぁ…………ううぐ………った………あたたた………」

 

だめだ、眩暈と頭痛と耳鳴りがする。今の叫び声がなかったらこんなことには………

 

「お前、荒手の暗殺しようとすんじゃねぇこのバカヤロー!!鼓膜破裂したらどうするんだ!!」

 

「はにゃ?」

 

キレるよ俺?その「はにゃ?」はなんなんですか。

 

「おはようございます、白邪さま」

 

「おはよう、じゃねぇよ、林檎はどうしたんだ、なんでお前が起こしにきた、そしてなんのつもりで耳元で叫びやがった」

 

「えぇと、林檎お姉ちゃんは、その、朝はいろいろ忙しくて、朝はほかの人が起こさないといけなかったんですけど、それで、私が引き受けたんです、お目覚めはいかがですか、白邪さま」

 

そんなことを、檸檬(ばか)は真顔言っている。正気か。

 

「最悪だよ、死にかけたじゃねぇか。お前は二度と俺を起こさないでくれ」

 

「えーひどいですー、折角起こしにきたのに……」

 

俺も感謝したい気持ちは山々なんだよ。実際こいつも忙しいだろうし。けど、どう考えてもこんなことされて真っ先に、起こしに来てくれてありがとう、は無理だろ。

 

「はぁ……あんまり叫ばないでくれよ。お前は叫ばなきゃ良いヤツなんだから」

 

「おおおおおおおお!?それってセクハラですか!?」

 

「お前一度ぶん殴ったほうがいいか?」

 

「勘弁してください」

 

ほら出た、また土下座。こいつにとって土下座とはどれほどの軽みなのだろう。多分こいつ、やろうと思えばいつでも靴舐めるぞ。

檸檬は逃げるように退室していった。よくこいつ姉さんに解雇されなかったな。すげぇよ、あの姉さんが許すって。

 

「さて、着替えて出ようかな」

 

あれ。学校の制服がない。あいつ、衣類担当じゃないのか?いや、その、お世話されて当たり前って訳じゃないんだけどさ、持ってきてこないのはなんでだ。俺、自分の制服どこにあるのか知らないんだよ。多分そういう部屋に掛けてあるのかも知れないけど。俺の部屋に置いてある服は私服だけなんだよな。どういうルールか、いつも林檎が持ってくるようになってるからさ。

 

「仕方ねぇな、部屋着で出て誰かに持ってきて貰うか」

 

自分の椅子に掛けておいた赤色の半纏を羽織って部屋を出る。この半纏、なんか半纏というより、炬燵に掛ける毛布の小さいバージョンみたいなやつなんだが、自分の髪と瞳と同じ色なので俺はえらく気に入っている。この辺は11月中旬でも寒い寒い。まぁ、この屋敷は暖房ガンガンにかかっているのであったかいんだが、それも吹き飛ばすくらいの寒波が続いている。

 

 

 

ちなみに、これは後で知ることになるんだが、今日の時点でも気温は5℃を観測しているらしい。

 

 

 

「おはよう」

 

部屋着で居間に出る。そこにはもう起きていた姉さんたちがいた。

 

「白邪、制服はどうしたのよ」

 

「何故だか無かったんだよ、それで、自分でとりにいこうと思ってな。何処にあるのさ、俺の制服」

 

「どいてくださーーーい!!!」

 

「んだぁぁぁ!?」

 

背後から何かに吹っ飛ばされた。無論、誰のことか言うまでもない。

 

「あら、気が利くわね、蜜柑。ちょうど白邪が制服探してたのよ」

 

「え」

 

うそ、蜜柑さんなの今の!?檸檬かと思ってた。

 

「白邪さーん、申し訳ございません、うちの檸檬ちゃん(いもうと)が制服をお渡しするのを忘れていました……どうぞ、こちらを………」

 

よよよ……と蜜柑さんは謎に悲しそうな仕草で大笑いしている。彼女はどういう感情をもっていて、俺はどう接したらいいのかわからん。

 

「あぁ、ありがとう、蜜柑さん、助かったよ」

 

「おお!?白邪さんの寝巻姿初めて見ました!?」

 

「そんなにレアかな……そうか、蜜柑さんは洗濯担当じゃないし、寝ている俺の姿も見ないからか」

 

俺の部屋着姿を知っているのはこの家で洗濯をする檸檬と朝起こしに来る林檎だけだ。なるほど、レアに見えるのも仕方ないだろう。

 

「すーんませんでした白邪さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

うん、さっきみたぞお前、叫ばないでくれって言ったよね、檸檬。

 

「白邪さまぁぁぁぁ♡部屋着でうろちょろしてたら危ないじゃないですかぁぁぁ♡」

 

「おぉ……うわぁっ!?」

 

背後から甜瓜さんに抱きつかれて頬っぺすりすりされる。やばい、黄緑色の髪の毛からのメロンの匂いが睡眠薬みたいに俺の意識を、蝕んでくる。

 

「白邪」

 

「わぁ!!」

 

気配を消していたのか、知らぬ間に目の前に葡萄がいた。こいつには常に鈴を着けて貰いたい。

 

「白邪、相当楽しそうな朝ね…………」

 

「いやぁ……ははは」

 

いえいえ、ホントに天国ですよ。メイド四人(林檎がなぜかおらぬ畜生)に一斉に抱きつかれるなんて、イイことだらけじゃないですか。

ニヤニヤしては止まらない。はっはっはーこれがいわゆる桃源郷ってヤツかおい。

 

「さて、後でお話があるわ。ここ数日で使用人たちに何をしたのか話して貰うわね」

 

「待って、俺何もしてないんだけど!?」

 

誰も洗脳なんてしてませんからね!?

 

 

 

 

《乙黒高校》

 

 

 

「あっはっはっは、あー、それでこんな遅刻ギリギリに来たって訳か。やー、苦労人ですなぁ、中村は」

 

人の不幸が彼の食べ物です。紀庵は人の不幸が大好き。俺の見た地獄をコイツは大笑いで吹き飛ばした。まぁ、それで良かったんだが俺的には。

 

「はいはい、今朝もお腹いっぱいになりましたかね、紀庵」

 

「相変わらず冷たいなぁ、お前は。まぁ、俺もこんなに笑ったのは久しぶりなものだがな。───さて、そんな落ち込んでいる中村くんにラッキーニュースだぞ」

 

「俺に朗報?」

 

思わず耳を疑った。だが、まるで期待はしなかった。この前も、「お前に朗報だ」と言ってきたから期待したら、使い古されて僅かに凹んだ俺の鉄ロッカーの扉が直ったってことだけ言って終わり。どうでも良かったんだがアレは。

 

「そのパターン要らねぇよ。また俺にとっちゃ気にしてないことだろ」

 

「いや、違う。今回のは本当に朗報だ。さっき、見知らぬ先輩がここを訪れてな。中村を探しに来たらしいんだが、お前が今やってきた5分程前だったか。どうやら、ご飯に誘ってくれるそうだ。ちょうどそのことで伝言を授かって、今この通り、お前に伝達させてもらった」

 

「マジかよ!?」

 

よくコイツはそんなことを知ってるな。

そんなことより、見知らぬ先輩って、まさか俺が昨日助けたクロエ先輩のことじゃないのか。あんな美女からご飯のお誘いだぞ、どんなハニートラップであろうと、俺は乗る。絶対先輩とメシ食う。

 

「お、おう、えらく乗り気だな」

 

「ったりめぇだ、その人、青毛だったろ?なら、俺は絶対メシ食いに行く」

 

「はっ、流石中村、今度は上級生から狙われてるのか。隅に置けない奴め。いつ我が友人の貞操が奪われるかわからないこの盟友の気持ち、お前には分かるか?」

 

「いや、俺に分かるかよ、んなもん。貞操とか、お前は何考えてるんだ、彼女はそういう人じゃ───」

 

「おっと?知り合いか?つまり、これは一方的な一目惚れではなく、お前との合意の上でのお付き合い………と。なるほどなるほど、全く、お前には敵わねぇなぁ、いつの間にか先駆けしおって。ついに男として覚醒したか中村。いいぞ、その先輩と共に歩むがいいさ、俺は兄弟が幸せな道を歩んでくれればそれでいい」

 

紀庵は当然のように肩組みなんてしてくる。紀庵の全体重が俺にのし掛かって前のめりになる。

もちろん、紀庵と俺は兄弟ではない。ここでいう兄弟というのは、盟友としての距離感の問題だ。中学の頃から俺たちはこんな会話だが、ずっと仲が良い。傍(はた)からみればギスギスした陰湿な関わりに見えるかもしれないが、俺たちにとっては明るいいつもの日常である。

 

「────はぁ……………」

 

紀庵に聞こえるように大袈裟な溜め息を付く。

「まったく、変わんねぇなお前は」

 

「はは、お前もな」

 

知らずに俺たちは互いの他愛もない話に呆れてニヤニヤしていた。

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