お嬢様博士ですわ!   作:じゅに

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ホウエン地方のオダマキ博士による手記です。
よその博士から見た我が家の主人公への評価が知りたい、とコメントしてくださった方のおかげで今作を思いつきました。

うちの主人公は一言で言うと「ヤベぇ女」なのですがオダマキ博士は篤実な方なのでこういう風に見てくれるんじゃないかな、と。
シリーズ最短の小説です。

▫️ラナンキュラス──主人公。色違い専門の博士。趣味は高笑い。
▫️オダマキ──一人娘のいる博士。趣味はポケモンに追い回されること。


3.5話/オダマキ博士の手記

 〇月※日

 物心ついた時からじっとしているのが苦手だった。

 目についたもの全てに興味を持ってしまい、疑問に感じたことは調べないと気が済まない。そのくせ机に向かうのが嫌いで隙を見つけては外に飛び出そうとする。

 両親はさぞ僕を育てるのに苦労したことだろう。子を持って親の偉大さを知るのは人の常だが、僕もその例に漏れなかった。

 

 幸い、そうした性質が良いように作用して分布調査(フィールドワーク)の専門家となり、博士号までいただけた。己の落ち着きのなさが飯の種になるとは、世の中というのは懐が広くできているものだ。実に有り難い。

 

 ミシロタウンに居を構えて十数年。ホウエンという土地はどれだけ探索しても毎日違う顔を見せてくれる、素晴らしき宝の山だ。娘のハルカも僕に似て野山で遊ぶのが好きな子に育ってくれた。年頃の娘なら虫や土を嫌がりそうなものだのに、嬉々として草むらに突っ込んでいく。

 愛らしいし、頼もしい。ポケモンバトルの筋もいいから、将来はひょっとするとひょっとするかも。もしそうなったらきっと泣いてしまうなあ。

 

 先日引っ越してきた子ども──なんと言ったっけ、ああ、ユウキくんだ。ハルカと同い年だしポケモンが好きだそうだから、折を見つけて話してみよう。

 子どもたちが一端のトレーナーとなるための旅立ちに立ち会える。ポケモン博士としてこんなに誇らしい時はない。

 その日が楽しみだ。

 

 

 

 〇月※日

 ちょうど初心者向けのポケモンを三体都合することができた。娘らは誰を選ぶだろうか。

 

 

 

 〇月※日

 国際郵便が届いた。このご時世に紙の手紙とは珍しい。差出人は──なんとラナンキュラス博士だった。

 十代半ばにして、色違いポケモンの研究で博士号を取得した大天才だ。僕とは面識がないはずだが、どうしたんだろうか。

 手紙を読んでみると、ホウエンでの野外調査をするにあたり、差し支えなければ僕の師事を得たいという。もちろん否やがあるはずもない。二つ返事で手紙を書いた。

 

 

 

 〇月※日

 ラナン博士が来た。

 なんて派手な人だろう、というのが第一印象である。

 長い金髪、整った目鼻立ち、フリルたっぷりのロングスカート。

 上に羽織った白衣がなければ、博士というよりお嬢様といったほうが相応しい出で立ちである。

 娘も「お姫様……?」とキラキラした目で見つめていた。

 あまりにも美人すぎて気後れしてしまう。

 ホウエンは熱帯気候の土地だから他所よりも遥かに虫が多い。

大丈夫だろうか。

 

 

 

 〇月※日

 もう全然大丈夫だった。

 彼女はものすごくアグレッシブかつエネルギッシュな人で、平気で崖も木も登りまくるし見かけた野生ポケモン全員を追いかけ回すのだ。しかも「おーっほっほっほ!」と高笑いしながら走るので、さながらサイレン鳴らして現場に急ぐ緊急車両のようだった。

 臆病な野生は逃げ惑い、警戒心の強いポケモンがひっきりなしに戦いを挑んでくるので、101番道路を制覇しただけで付き合うこっちの体力が尽きた。

 ──この博士、只者ではない。

 

 

 

 〇月※日

 とりあえず走る時の高笑いはやめてもらうことにした。彼女はとても素直な人柄ですぐにやめてくれた。

 その代わりバトルに勝利する度に高笑いするようになった。

 高笑いが次の野生(ニューチャレンジャー)を呼び、それがエンドレスに続いたため、またしても102番道路を歩いただけでこっちが倒れた。

 ──この博士、尋常ではない。

 

 

 

 〇月※日

 娘のハルカと隣人の坊や──ユウキくんの旅立ちの日が翌日に決まった。

 ラナン博士と一緒に見送ることにする。

 ついでに彼女にポケモンの捕獲の仕方をレクチャーしてもらおう。

 僕はポケモントレーナーとしての腕はからっきしだから、いいお手本が居るのは有難いことだ。

 

 

 

 〇月※日

 早朝、見送りの前にフィールドワークに出たらポチエナのしっぽを踏んづけてしまい、群れに追いかけられた。

 わあわあ言いながら逃げ惑っていたらラナン博士も併走していた。

 以下、会話を抜粋する。

 

「ら、ラナン博士っ、あなたは戦える人でしょうっ、逃げる必要はないのではっ?」

 

「ふっ。あんなに可愛い子犬ちゃんたちに追いかけられる機会はそうそうありませんでしてよ! もふもふな生き物にもふもふされる千載一遇のチャンス、無駄にはしませんわ〜っ! おーっほっほっほ!」

 

 ……この高笑いが目印となってハルカとユウキくんが駆けつけてくれ、トランクの中にいたポケモンで撃退してくれた。

 ハルカはアチャモ、ユウキくんはミズゴロウをチョイスした。

 ラナン博士が捕獲のやり方を説明しているあいだ、選ばれなかったキモリがボールの中で少し落ちこんでいた。

 

 ……どうフォローすべきか、非常に悩ましい。

 

 

 

 〇月※日

 ここ最近の調査結果をレポートに纏めていると、ボールから出たキモリが興味深そうに手元を覗きこんできた。人間の文字は読めない筈だから、写真や動画が面白いのだろう。

 

 とくにラナン博士のそばから離れない。彼女はスケッチ能力に長け、流れるような筆さばきでポケモンや風景画を描きあげていく。

 生き生きとした躍動感や草木の匂いまで感じられるような瑞々しさは圧巻で、芸術家としても大成しそうな腕前だった。

 ラナン博士が筆と紙を渡すと、キモリも楽しそうにお絵描きを始めた。

 

 一時間後、絵を見せてもらったらめちゃくちゃ写実的な自画像ができていた。

 ──このポケモン、本当にポケモンなんだろうか。中に小さいおっさん(特性"神絵師")が入っているのでは。

 妻に話したらものすごく心配そうな顔で受診を勧められた。

「あなた、疲れ切ってるのよ」と言われた。

 小さいおっさんの話は今後控えよう。

 

 それにしても絵の達者なポケモンがいるとは。世の中って凄い。

 

 

 

 〇月※日

 キモリはすっかりラナン博士が気に入ったようで、どこに行くにも一緒だった。

 譲渡を申し出たら、ラナン博士は涙せんばかりに喜び、いつもより1オクターブ高い声で長いこと高笑いしていた。

 周囲のスバメが一斉に飛び立った。

 

 畑仕事をしている人に喜ばれそうな能力だなあ。

 

 

 

 〇月※日

 キモリにモリという愛称をつけていた。

 彼女が敬愛する画家の名前だそうだ。

 モリをムーンボールに入れ直している。彼女はいわゆる「オシャボマニア」らしい。

 

 

 

 〇月※日

 ラナン博士たっての希望で流星の滝に出かけた。

隕石や龍の伝説で有名な洞窟だ。

 驚いたことに、色違いのピッピとココドラを見つけた。

 色違いの個体というだけでも稀なのに、それが二匹とは!ラナン博士の豪運、恐るべし。

 

 調査中、チャンピオンのダイゴ氏がやってきた。

 ここは良質な鉱石が採れるそうだ。

 上記二体の捕獲について話すと、ダイゴ氏は首を傾げた。

 ピッピはともかく、ココドラはここに生息していない種族だという。たしかに僕の探査でもココドラが見つかったことはない。なにか分布に異変が起きているのだろうか。調べる必要がありそうだ。

 

 その時、ラナン博士は流星の民と接触し、里に行く許可を得ていた。普段よそ者との交流を絶っている民なのだが、どのように説得したのだろうか。

 

 里には3000年前の災厄に関する言い伝えがあり、その一部を教えてもらった。

 完全に極秘とすること、と念を押されたので内容は伏せるが、横で聞いていたラナン博士が「忘れがたい記憶ですわね」と呟いていた。

 以前に何かで読んだのだろうか? 

 まさか実際にその目で見た訳ではあるまいし、彼女の読書家ぶりは見習うべきところである。

 

 

 

 〇月※日

 モリとラナン博士が話しているのを見かけた。

 無論ポケモンが人語を話すわけがないので、モリ側はグァグァと鳴いているだけなのだが、あまりに博士が自然体で会話するから本当に言葉が通じているのかもしれない。

 

 ハルカもアチャモとあれぐらい心を通わせられているだろうか。

 いまどのあたりだろう。便りがないのは元気な証というが、一切連絡がないのは少し寂しいものだ。

 

 

 ──訂正。すごく寂しい。毎日電話して欲しい。

 

 

 

 〇月※日

 チャンピオンのダイゴ氏が研究所に現れ、ラナン博士に熱心にバトルを申しこんでいた。ダイゴ氏は三度の飯より鉱石だ! という石マニアだと聞いていたので、この申し出には驚いた。

 

 博士はしばらく断っていたが、ダイゴ氏が引かないのを見て2vs2のシングル勝負ならやりましょうと言った。

 

 結論から言うと博士が勝った。

 モリの宿り木の種を相手に植え付け、即座にココドラに交代。相手の攻撃を特性"頑丈"で耐えたあと、がむしゃら攻撃で体力を削り、またモリに交代して電光石火で沈める。それで一体目のメタングを撃破し、続くリリーラはココドラのアイアンヘッドで怯ませ続け、何もさせないまま倒しきった。

 チャンピオンも育成中のポケモンだから万全の状態ではなかったとはいえ、王者に完封試合である。凄まじいバトルセンスの持ち主だ。

 

 ダイゴ氏は「……やはりこうなるか……」と言いながら、博士にジュカインナイトをプレゼントしていた。先日の流星の滝で掘り当てたという。

 

 いずれまた、是非再戦を! というダイゴ氏に、ラナン博士は微笑むのみだった。

 

 

 

 〇月※日

 ラナン博士の帰る日がやってきた。

 彼女はこちらが照れくさくなるほど僕の研究を褒めてくれ、一家の息災を祈りながら帰って行った。

 

 嵐のような人だった。

 その場にいるだけで注目せずにいられない存在感と、圧倒的なバトルの腕、そしてあの高笑い。一度会えば忘れられない"濃い"人物だった。

 

 別れたばかりだが、次に会う機会が待ち遠しい。いつか討論会(シンポジウム)などで会える日を楽しみに、僕も研究を頑張ろう。

 




1時間くらいでぺぺーっと書いたお話です。
これぐらいの短さの方が読みやすいでしょうか?
あまり長すぎると読みづらいかなあと試行錯誤しております。

ダイゴファンの方には申し訳ない展開を挟んでしまいました。
害悪と名高い"がむせっか戦法"に翻弄されるチャンプ。実際はこんな鮮やかに決まらないでしょうが、二次創作なのでどうか一つ(土下寝)。
ごめんねダイゴさん。ORASで色違いダンバルくれたから大好きだよ。

読みやすい文字数は次のうちどれですか?

  • 2000〜5000字程度
  • 5000〜1万字程度
  • 1万字〜2万字程度
  • どんなに長くても構わん
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