入学式も終わり高校生活は二日目に突入した。
私は一応友人という扱いになるであろう千葉エリカ、柴田美月についての情報を脳内で纏めていた。
千葉エリカ:千葉家次女、正面戦闘力は高い。スコープ・ライノールの状態で殺害可能である為に非警戒対象と認定。
柴田美月:一般家庭出身、霊子放射光過敏症。スコープ・ライノールの状態で殺害可能である為に非警戒対象と認定。
そもそもスコープ・ライノールの肉体は特別に調整された肉体である。現代魔法への幅広い適正を保持すると同時に魔術師としても一流と称するに相応しいスペックを保持している。
それでも司波達也の殺害は不可能であるが。人間を瞬時に絶命させる術自体は有しているが、精霊の眼による事前感知が厄介だ。だからこそ我々は彼を利用しようとしたのだが。
一度思考を打ち切る。
履修登録を終えた私はガイダンスを聞きながらクラス全体を観察して生徒達の情報を把握していた。
司波深雪以外に問題視すべき戦力は存在しないが、同時に特筆して駒としての利用価値を持つ生徒も存在しなかった。
強いて言えばエレメンツの末裔か?だがちょっと利用するのは遠慮したい。私は感情を利用するのが少々苦手なのだ。
そして思考をしている間にガイダンスが終了した事を確認した私は即座にE組へと向かった。
正直言ってA組にいてもあんまり利益がない。司波深雪との交流は達也との友好関係を築く上で重要だがあまり接し過ぎると疑いを持たれてしまう為に、程々が望ましい。
他の一科生からは反感を買うかもしれないが、反感を買った所で支障はない。所詮はサーヴァント一騎にも満たない戦力だ。
E組で達也と合流し、彼のクラスメイトにも軽く自己紹介をしながら共に工作室へと向かう。
あまり興味はないが、まあ達也の手前社交的にしておいた方が良いだろう。
「初めまして。私は名前はスコープ・ライノールと言う。スコープと気軽に呼んで欲しい。君の名前は?」
「俺の名前は西城レオンハルトだ。レオって呼んでくれ!」
「ありがとう。そうさせて貰うよ。レオンハルトって事はドイツにルーツがあるのかい?」
「祖父がドイツの出身でな。日本に亡命したんだ。」
「私も母がドイツの出身で日本に亡命して来ていてね。少し不謹慎かもしれないが、親近感が湧いてくるよ。」
そんな風にクラスメイトと雑談をしていれば直ぐに工作室に到着した。
同時に背後に潜んでいた気配が掻き消えた。霊基からしてバラムが召喚したアサシンだ。
バラムの選定に文句を言うつもりはない。主人に忠実なあのアサシンならば我々を裏切る事もないだろう。
しかしバラムはこれがあくまで経験を積ませる為の戦いだと理解しているのだろうか?
透明化の付与に加えて無尽蔵の魔力供給。アサシンとの戦いで消耗させすぎれば、アトラス院の廃棄品を用いた魔法無効化環境下での戦闘を経験させられない可能性が僅かに存在する。
戦闘の順序を入れ替える事も視野に入れるべきか。
目の前の不愉快な光景をウンザリしながらも観察する。無意味で無価値な言葉が聞こえてくる。人間というのはいつの時代も変わらないものだと内心で溜息を吐く。
というかこれ、私が彼らと一緒に居る事も要因の一つか。私の印象が悪くなるから切実にやめて欲しい。
ウンザリしながらもこのような光景も我々の理想が叶えば消滅するのだ。決意を新たにしながら私は場を調停する為に動いた。
■
俺は目の前で一科生を一瞬で鎮圧したスコープへの警戒度を上昇させた。
事の発端は施設見学で絡まれた時に遡る。更に昼食時でも言い争いが起きてしまい、何とかその場を収めたものの争いの火種が残り続けてしまっていた。
その結果、校門前でCADが抜かれてしまった。が、次の瞬間には何かが割れるような音と共にCADが弾き飛ばされており、CADを抜いた男子生徒にスコープの指が向けられておりその動きを停滞させていた。
(あれは…指輪か。一瞬だけ魔法式が見えた、条件を満たす事で自動的に発動する仕組みという訳か。)
スコープの用いた道具について推察していると女性の声が周囲に響く。
「やめなさい! 自衛目的以外での魔法を利用した対人攻撃は禁止されています!」
風紀委員長と生徒会長の登場によって場が鎮まる。この騒動に関わった生徒達がその登場で冷静になり、自分達の起こした事の重大さに顔を蒼白にする。
そんな彼らを気にも留めずに言葉が放たれる。
「この騒動の事情を聞きたい。お前達、1年生だな。ついてきなさい」
俺は思案する。此処で場を荒立たせるよりは何とかして収めた方が良いだろう。言い訳をする為に俺は前に進み出て言葉を紡いだ。
「すみません、悪ふざけが過ぎたようです」
「悪ふざけ?」
すぐに聞き返される。正直苦しい言い訳だが、それでもこのまま何もしないよりはマシだと思い言葉を返す。
「有名な森崎一門のクイックドロウを見せてもらおうと思ったのですが、」
「うっかり護身用の礼装が反応してしまってね。私としても申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。」
スコープが咄嗟に話に合わせてくる。納得しない様子を見せる風紀委員長を俺はスコープと二人掛かりで言い包めて場を収めた。
その帰り道で他愛もない雑談に混ぜて「礼装」という物についてスコープに質問する。
自動で相手に反応して迎撃する未知の技術に対しての好奇心と、精霊の眼でも前兆を感知できなかった事への危機感によって投げかけた質問にスコープは微笑みを浮かべながら回答した。
「魔術礼装って言ってね。事前に魔法式を封入しているんだ。」
「それは…すごいな。どうやって作っているんだ?」
「古式魔法版の劣化CADみたいな物だよ。品質もピンキリさ。今日使ったアレだって宝石を丸々一つ使うのにも関わらず消耗品だからね。」
「そんな物を使ってちゃって大丈夫なの?」
会話にエリカが入ってくる。恐らく宝石丸々一つという言葉に反応したのだろう。宝石一つであの程度の威力ならハイコストローリターンにも程がある。スコープが卑下するのも頷ける話だ。
形式としては遅延術式なのだろう。だが条件の設定はCADを抜いた時、CADに手を伸ばそうとした時、その両方に反応しているから攻撃の意思に反応するのかもしれないな。
ちなみにスコープが奢ってくれたのは激辛麻婆豆腐だった。
二度と一緒に飯を食べない事を決意した。
■
僕は医務室にて魔神柱の目的を推理していた。
今回
にも関わらず、魔術礼装を見せる意味とは何だ?
魔神柱が無為な行動を行う訳もない、故にその行動には意味がある筈なのだ。
神よりの天恵なき今の僕で考えられる理由は二つ。
一つ、魔術礼装を軽視させる為の誘導。
現代魔法が確立された現在、魔術師の殆どは現代魔法師との関わりを避けている。日本特有の魔術師達もいるが、彼らもヨーロッパの魔術礼装に詳しいという訳ではない。
魔術礼装に対して油断を植え付けるならば、わざわざ宝石まで使ってお粗末な魔術礼装を開示したのにも納得はいく。
二つ、対魔術師用の対策の教授。
前述した通りに司波達也の周囲には魔術礼装を専門にする者がいる訳ではない。それを踏まえて魔術礼装のデモンストレーションとしてあの礼装を用いたという可能性だ。
お粗末な礼装だが、CADとは大きく異なるという点を伝えるだけならば十分に役目を果たせる。
この二つを踏まえた上で僕がすべき事は……放置。
手元の紙束を見る。「壬生沙耶香を始めとした剣道部員にマインドコントロールの兆候あり」と記した上への報告書。
勿論既に校長には届けてある。その上で泳がせておけとの命令も下っている。今治療した所で根本的解決にはならないだろうから合理的だとは思うが、一方で心が痛む。
しかし理性が「魔神柱が仕掛けるならば此処からだろう。急いで魔神柱の思惑を見極める必要もない。」と判断をする。
現在先手を取っているのは我々だ。いやまぁブリシサンは常に警戒しないといけないから気の毒だけど。だからこそ焦らずに堅実に詰めてゆくべきなのだ。
僕は苺大福を頬張りながらそんな事を思った。
明日はティラミスにしようかな。
■
『マルコシアスより報告。セーレ魔人体の調整が完了した』
『セーレより感謝。幾ら装備が上等でも使い手次第だ。運用できなければ訓練にすらならない』
『ストラスより苦情。素体が粗悪だ。魔人体となるだけで霊基が崩壊し始め、約三分で消滅する程度だ』
『ウェパルより補足。本来ならば一分も持たなかった所を此処まで改善したのだ。頼むから労力に見合うだけの仕事はしてくれ』
『セーレより反論。ブランシュ日本支部のリーダーだから素体にしたのだ。でなければ使う筈がないだろう』
『フルフルより催促。そう言うのならばさっさと動かせ、決行日は変わらずだ。それまでにサイオン暴走領域に慣れておけ』
『アガレスより勧告。暴走状態のサイオン挙動の計算は貴様自身で行え。』
『セーレより困惑。少々我への態度が酷くないか?』
『マルバスより怒号。いきなり仕事を押し付けてきたからだ!!』
次席が自分達には欠片の興味もないという顔をして教室から飛び出たと思ったら劣等生と仲良くしていた件。
魔人体:セーレの無茶振りから無理矢理ソロモンによって人間の形に押し込められたのを参考に魔神柱達が短期で組み上げた術式。
人間の霊基を魔神柱の反応が出ない範囲で変質させている。
イメージは新宿のバアル