お兄様にピンチからの逆転勝利を味わって欲しかった。
戦闘描写難しい。
私は有志同盟による放送を聞きながら計画通りに事が進んだ事を認識した。
部活勧誘の対応にかなりの労力を費やしたが、達也との関係を調整する意味では有効だったろう。
手札はお互いにある程度隠した上での付き合いが望ましい。深入りするメリットとデメリットが釣り合わない。
壬生沙耶香が司波達也と接触した事は既に確認済み。セーレを通しての司一への思考誘導によって四月中に第一高校を襲撃する手筈となっている。
スケジュール的に四月中に司波達也にサーヴァントと幻想種と交戦して貰う必要があった。
対策の為の術式を組み上げるのにも時間は掛かる。速やかにチュートリアルを終わらせなければならない。
一年も二年も掛かる訳にはいかない。現在我々はブリシサンに対して後手に回っているのだから、司波達也の育成が終わる前に此方の思惑を察知されれば計画は水の泡だ。
公開討論会は二日後。此方の準備も問題はない。
存分に学び、存分に糧とするが良い、司波達也。
■
俺は特別閲覧室へと急いでいた。
ブランシュの目的が特別閲覧室から機密データを盗み出す事だと判明したのならば、その対応をする為に其処に向かうのは当然の事で……
そして俺は扉を開けた直後に背後から刺突によって心臓を貫かれた。
【心臓損傷 出血多量を予測】
【戦闘力低下 許容レベルを突破】
【自己修復術式/オートスタート】
【魔法式/ロード】
【コア・エイドス・データ/バックアップよりリード】
【修復/開始――完了】
自己修復術式が自動で発動する。明確な殺意が籠った致命の一撃であったが真に命を脅かすまでには至らない。
そして俺は知覚できなかった刺客を把握する為に精霊の眼を使用しようとして、
瞬間、視界が黒く染まる
【眼球破壊 頭部損傷 出血多量を予測】
【戦闘力低下 許容レベルを突破】
【自己修復術式/オートスタート】
【魔法式/ロード】
【コア・エイドス・データ/バックアップよりリード】
【修復/開始――完了】
眼球を貫通する程の投擲を受けた。しかし今の一撃で凶器と威力の把握は完了した。
武器は短刀、投擲の威力は人体を貫通するレベル。砲撃には及ばないレベルの威力だが、人一つを殺すには過剰過ぎる威力であった。
喉を目掛けて飛翔する短刀を躱す。あらかじめ配置されていた短刀が足を吹き飛ばす。そして態勢が崩れた所に真上から短刀が突き刺さる。
また自己修復術式が発動する。刺客の技巧に一度迎撃を放棄して周囲の状況を把握しようとする。
(壬生先輩は気絶しているだけ。その他のテロリストは全員殺害済み。何が目的だ?)
状況の把握を終わらせると共に自己修復術式が発動していたのを確認する。
「面妖な…」
何処からともなく声が響く。未だに俺が捕捉できていない暗殺者の声なのだろう。
視覚でも聴覚でも居場所が把握できない暗殺者。ならば、全体を捕捉した上で見つけ出せばいい。
そうして俺は精霊の眼の視野を広げて……此方に伸びてきた腕が俺に触れたのを確認した。
「苦悶を溢せ。『
心臓が潰される。一度ではない。自己修復術式が発動しても、その直後に再度潰される。
精霊の眼によって暗殺者を認識したが、攻撃ができない。
髑髏の仮面を身に付けた暗殺者が、異形の腕で再生し続ける心臓を潰し続ける姿が見える。
このまま自己修復術式が続けばサイオンが足りなくなって死ぬ。修復可能な時間が俺に残されたタイムリミットだ。だというのに絶えず心臓を潰されているせいで攻撃が停滞し続けている。
少し話をしよう。
『
魔神バラムはこの二重存在という点に着目した。
この鏡面存在は相手の心臓とリンクしている。故に潰す事で相手の心臓を破壊する事が可能なのだが、バラムは此れに再生する相手を殺し続ける術を見出した。
相手のエイドスから心臓の情報を投影し続ける形で
その結果、司波達也は窮地に陥っているのだ。
もし他の魔神柱、例えばフラウロスが見たら『巫山戯るなァ!ちゃんと趣旨を理解しているのか!?』と怒鳴る事間違いなしの力の入れようだった。
魔神柱の目的は司波達也にサーヴァントの特性を理解させる為のチュートリアル。高い身体能力、強力な切り札、そしてあわよくば物理攻撃無効化の特性を理解させられれば良いのであった。
にも関わらず、この惨状。魔神柱は誰も司波達也の死を望んでいない。バラムも同様であり、しかし彼は良かれと思ってアサシンを強化したのだ。勿論、その行動は暴走である。
だが悲しいかな。バラム一柱にサーヴァントを任せていたせいでバラムの暴走を止める
そんな事を知る由もない達也は着々と減少する自身のサイオンに焦燥感が募る。
刻一刻と近付くタイムリミットを悟りながら打開策を考える。
(雲散霧消を叩き込もうにも、自己修復術式が発動し続けている現状では攻撃ができない。何らかの手段で現状を打破しなくては…)
扉が開かれる。乱入するのは一人の人間。スコープ・ライノール。
「大丈夫か達也!」
■
(バラムゥゥゥゥ!!!!貴様ァァァァ!!!!)
わざわざ達也にサーヴァントとの戦闘経験を積ませる為に細工と工作をしていたのにバラムのせいで台無しになったからだ。
今回の為に信用、説得、言い包めを総動員したというのに難易度調整をミスったバラムのせいで出張る事になってしまった恨みを後日時間神殿でバラムに対する簡易裁判を開廷する事で発散しようとする。
無論、そんな感情を表に出さずに演技を続行する。
スコープが魔神柱の端末だと伝達されていないアサシンによってスコープ目掛けて放たれた短刀の投擲を魔術礼装で迎撃する。
達也との関係調整の為に速度と威力を軽減するだけに留めて無効化はしない。
その上で身体をズラして致命傷を回避する。
「クッ!位置が分からない。遠隔操作しているのか、達也!」
「いや、透明化だ。位置は俺が伝えるから拘束してくれ。」
「了解した!」
達也から伝えられた座標を対物障壁で囲む。その中に達也が魔法を打ち込む。
魔法式からして分解魔法だろう。
「助かったありがとうスコープ。」
「いや、少し気になったから来ただけだよ。まさか君が苦戦するなんてね。」
「…魔法については聞かないのか?」
「ソレはルール違反というモノだろう。やめておくよ。」
会話を交わしながら警戒を解く事はしない。
そしてあのアサシンの右腕は
だとすればこの後の展開に予想は付く。
何かが軋む音がする。其れは霊基が貪られる音であり、魔神の産声でもあった。
■
迎撃は不可能。回避もまた不可能。打開策は無く、解決策も見当たらない。
此度の依頼主からは手厚い支援を受けていた。
情報の提供。標的の用いる能力についての詳細なデータを受け渡され、その上で確実に殺せるであろう手段を共に考案した。
長期の準備期間。二週間以上の偵察期間で地理も標的の人間関係も完璧に把握した。
潤沢な魔力供給。宝具の開放に一切の支障を来さず、更には透明化という支援までも頂いた。
その全てを与えられても尚、目標を達成できなかった。
圧倒的に有利な状況下でのこの過ちをなんと詫びれば良いモノか。
せめて最後の悪足掻きを…
アサシンは、呪腕のハサンは己が思考誘導されている事に気付けない。
人を誘惑し堕落させる事こそが悪魔の本分。魔神バラムが透明化を付与する際に仕込んだ因子が、ハサン・ザッバーハの思考を誘導する。
右腕を、魔神の腕を制御していた呪術を解く。
雲散霧消はハサンから離れた魔神の腕を分解出来ない。
そして魔神の腕は崩壊寸前のハサンの霊基を魔神柱の因子ごと貪り尽くした。
ハサン先生:情報アドバンテージとバフ(透明化&無尽蔵の魔力供給&霊基改造)、そして相性のおかげで大奮戦したけど八百長試合だったので敗北した。
シャイターン:魔神柱的にはコッチが本命。ハサン先生は踏み倒し要員で本格的なサーヴァントとの戦闘経験は他で積ませるつもりだった。
バラムの仕込みに魔神柱はブチギレ派、結果オーライ派、その手が有ったか派の三つに別れ、混沌を極めていた…。