霊基が貪られる音が聞こえる。
シャイターンは己の腕を盗んだハナムを喰らい尽くして、魔神柱の因子をその身に取り込んだ。
その因子によってシャイターンが歪められる。思考誘導と肉体変異の二つの呪いがシャイターンを蝕んで、その腕は対物障壁を貫通して倒れ伏している男達の死体へと伸びた。
シャイターンの意志が霊基が足りぬと叫ぶ。崩壊寸前のサーヴァントの霊基程度では満足できない。更に強く、更に重く、更に巨大な霊基を求めて死体を取り込もうとする。
魔神バラムの仕込んだ因子が思考を誘導する。司波達也と闘うには霊基が足りない。霊基を強化する為に恐怖と怨念が染み付いた真新しい屍体を喰らおうとする。
そうして出来上がったのが目の前の悪魔だ。
死体と融合し、屍体を混ぜられ、魔神は更に悍ましい異形へと変じた。
ベースはアサシンだ。その上に纏った外套が死体であり、崩れそうな霊基を無理矢理補強している。
屍体と融合した魔神はその霊基を再臨させ、死霊の悪魔として転臨した。
黒色の身体、山羊の頭、大きく裂けた幾つもの口、身体の至る所に蒼白の顔が覗いており、瞳孔が開き切った眼球が忙しなく動いている。
そんな吐き気を催す怪物を目にしたスコープ・ライノールの感想はただ一つであった。
(よくやったバラム!神秘による魔法の軽減、そして物理攻撃の効果を把握しやすい柔らかい肉体。アサシンの件はやり過ぎだったが簡易裁判はなしにしてやる!)
そんな彼の内心の歓喜を気に留めず、悪魔は行動を開始しようとする。
無論、行動を待つだけではない。
スコープとして達也に作戦を伝える。
「達也、私がもう一度閉じ込めるからさっきの魔法を!」
「了解した。タイミングは任せたぞ。」
「分かった。カウントが0になったら発動する。3、2、1、0!」
対物障壁で悪魔を閉じ込める。其処にすかさず撃ち込まれる雲散霧消であるが、直後に対物障壁を破壊して悪魔が突撃してくる。
その突進を紙一重で避けながらスコープは内心で高笑いしていた。
(これだよこれ!我々が求めていた物は!今頃達也も精霊の眼で魔法軽減能力を分析し終えた頃だろう。これで……)
何かが軋む音がする。
悪魔が膨張と破裂、再生のサイクルを始める。アンデットの属性を纏うが故にその肉体が再生を果たすが、変化に耐え切れなくなった肉体が破裂を繰り返し続ける。
腐臭がする血を溢しながら悪魔が変成する変性する変生する。
スコープの思考が止まる。頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
(は?待て待て待て待て待てェ!!)
待たない。鱗が悪魔に生え始める。その下半身に尾が生えてきて薙ぎ払われる。
「達也!」
「わかってる。コイツ、急速に進化している!」
その薙ぎ払いは先程の突撃とは比にならない速度と威力が込められていた。
何かが軋むようなギチギチという異音が悪魔の体内から発せられる。
悪魔の背中から翼が生えた。同時にその全身が膨張を始める。
さっきまでの膨張とは異なり、明確な質量を伴った膨張とでも表現すべきてあろうか?その筋肉が肥大化を始めていた。
「竜種だと!?」
或いはその叫びはフラウロス自身の叫びであったのかもしれない。
竜種、それは『幻想種の頂点』であり罷り間違っても
そんな怪物が咆哮を上げる。
西洋において悪魔はドラゴンとも同一視される。
ドラゴンとは「悪」の象徴であり、それ故に悪魔と同一視されるのだ。
其処にバラムは目をつけた。
魔神であるシャイターンを悪魔に近付けて、その上で更にドラゴンへと変化させる。
そんな呪いをシャイターンが喰らうと予測された呪腕のハサンの霊基に仕込む事で発動させたのだ。
咄嗟に上げてしまったスコープの反応に達也が質問する。
「何か知っているのか、スコープ?!」
思わず上げてしまった声にスコープは思考する。そして一瞬にも満たない刹那で結論を導き出した。
(チャート変更!!!)
その結論に従って達也の質問に返答する。渡すべき情報を脳内で選定し、声に出す。
「幻想種の最優良種だ!心臓から魔力を生成している、狙うなら胸部だ!」
そんな会話を前にした
未だ竜に成りかけの出来損ないが放つブレスなど高が知れている。
スコープが瞬時に張った対物障壁によってそのブレスが防がれるが、次の瞬間には部屋全体が火の海となっていた。
悪魔が竜へと変ずる過程で大量に放出したメタンガスにブレスによって火が付けられる。
そんな灼熱地獄て尚、司波達也は健在であった。
魔竜に魔法が撃ち込まれる。その魔法によって魔竜は肉体の約四割を極限まで分解されるが、魔力に任せて強引に再生させる。
その光景を見た司波達也が敵の能力について推察を開始する。
(魔法は威力が軽減されているが有効。しかし再生が厄介だ。先程のように殺し続けてこない分まだマシか?)
そんな推察を行いながらも手は止めない。次々に魔法が撃ち込まれ、その度に魔竜が肉体を再生させる。
(あの怪物の体内にはメタンガスが大量に存在している。魔法そのモノを軽減するのならば現代魔法では通じにくい。ならば…)
「スコープ。火を出せる魔法はないか?!」
魔竜を体内から爆発させる。無論、被害も大きいだろう。だがこの怪物を放置する方が危険に違いない。
「了解した。真空の防壁を作るから其処に倒れてる女子生徒も連れて来てくれ!」
その言葉で思い出した。そうだ、想定外の苦戦と連戦の影響で忘れかけていたが壬生先輩を回収する必要がある。
見れば先程の爆発で言葉に出来ないレベルの火傷をしている。まだ微かに息はあるがこのままでは危険過ぎる。
一刻も早く終わらせなければならないだろう。
スコープの近くに壬生先輩を抱えて転がり込む。
それを確認したスコープは真空の壁を張った後に、達也の指示に従い魔竜の体内に火焔を出現させて…
■
僕は目の前の二人の重傷者を見ていた。
一人は壬生沙耶香。全身に火傷を負っている。
もう一人はスコープ・ライノール。腕と頭に火傷を負っている。
司波達也によって医務室に運ばれた患者であり僕が治癒すべき生徒達だ。
いや、まぁ治療自体は簡単に出来る。霊体を繕えば三時間もあれば完治させられるけど、別に普通にやっても三日位で済むから問題ない。
問題は結局魔神柱達の目的が分からなかった事だ。
アサシンも、悪魔モドキも、司波達也への殺意に満ち溢れていた。にも関わらず魔神柱の端末であるスコープ・ライノールがソレを救出し、自身の身を犠牲にしてでも守った。
マッチポンプにしては不審な点が多すぎる。魔神柱、というか完璧主義の気があったゲーティアならばこんな事はしない。
混乱してきた。一旦思考を止めて、目の前にいる彼らに視線を向ける。
「やぁ!入学式の日以来だね達也君。そして新入生諸君はどうも僕の事を全く知らない様子。ちょっと気まずいなぁ!」
「ロマニさんがサボったからでしょう。兎にも角にも二人の容態はどうなんですか?」
「三日で治療できるね。僕の力を以てすれば朝飯前さ!」
七草真由美が安堵の息を吐く。まあ、生徒が二人も大火傷を負ったならば相当緊張していたのだろう。
そして一同の緊張が緩んだからか疑問が何処からともなく漏れる。
「それにしても何故壬生はあんな事を……」
「あぁ、マインドコントロールの兆候が確認されてたからそれじゃない?」
視線が刺さる。何故そんな事を知っているのかという疑問の視線と何故知っていながら放置したのかという非難の視線だ。
「何故貴女は」
「ちょっと前に廊下で話したんだ。それで喋ってたら分かってね。」
「それを知っていながらお前は放置したのか!」
「校長に報告したら泳がせておけって言われたからね。僕は職務に忠実なんだ。」
「…生徒を治療するのも職務なのではないですか?」
「そうだね。でも、ほら。僕って非力じゃん?それにチキンだからメンタルケアも敢行する勇気も出なかったんだよ。」
「……我が身惜しさに生徒を見捨てたという事ですか?」
「改めて言われると僕ってクズだね!」
視線が刺々しくなってくる。言い方を間違えたかなと思いながら言い訳を考えるが何も思い付かない。
結局僕は丸投げする事にした。
「マインドコントロールについて聞きたいなら小野先生に聞いたら?丁度其処にいる事だし。」
彼らが部屋から出て行く。
さて、メンタルケアは何分掛かりそうかな?
魔竜:竜の心臓&自己再生&神秘の鎧で何回か雲散霧消を耐えたけど結局一回を達也を殺せずに終わってしまった。
ロマニ:自由があればやる。