13話:怨
我は源氏を殺す者。我は源氏に仇なす者。
源氏は盛者であり、盛者は源氏である。
生者は盛者であり、盛者は生者である。
生者は源氏であり、源氏は生者である。
平和を謳歌する者達よ、死に候え。
犠牲を忘れる者達よ、死に候え。
遍く生者達よ、悉く死に候え。
我こそは怨の一文字を掲げる者。
我こそは平家の怨念。
即ち、アヴェンジャー・平景清である。
──其れは純粋な怨念。魔神柱達によって再定義された怨霊。
「怨」を持つ人間に憑依し融合し続ける不死身の復讐者。
景清は死なず。
怨を持つ者が存在する限り、幾度も幾度も顕れて挑み続ける。
問題は改造し過ぎて生者殺戮装置となってしまった事だけ。
『故にフラウロス、グシオン、ウヴァル。司波達也に怨みを持つ者にこのサーヴァントを憑依融合させてくれ』
『ゲーティアより勧告。ベレトよ、自分で探せ』
■
9月の下旬。
私は大亜細亜連合にて強化した己の性能を試していた。
九校戦を終えてから一ヶ月。全くもって詰まらない戦いであった。
無頭竜の干渉こそあれど結果は予測されていた通りに第一高校の勝利であった。
……まあ私は自ら服毒して参加を辞退したのだが。上手く無頭竜の仕業にできてよかった。
戦い自体は詰まらなかったが個々の能力には利用価値を見出せるモノが幾つかあった。
だからこそ戦闘力の不足が目に付く。彼らの、ではなく私の戦闘力だ。
セーレの魔人体は相手が魔法が使えない状況下だからこそ善戦できたのだ。
相手が魔法を使える状態で私の魔人体と戦闘が発生すればまず勝てないだろう。
故に夏休みの間に更に改造を施したのだ。
フラウロスをベースにウヴァルとグシオンも混ぜてスコープ・ライノールを三柱の魔人体へと改造した。
フラウロスからは「他の悪魔達による誘惑から護る守護者」という精神干渉無効化の能力を。
ウヴァルからは「女性に愛情を芽生えさせ、敵味方の間に友情を覚えさせる」という感情付与の能力を。
そしてグシオンからは「召喚者に敵対する者の敵意を反転させ、友好的な気持ちに書き換えることができる」という感情反転の能力を。
それぞれ付与した魔人体へと改造した。
セーレの魔人体と比べてスコープ・ライノールの方が質が良かった理由は三つある。
一つ、西暦以前より続く魔術師の家系であるが故に魔神を受け入れる器が整っていた。
二つ、元々魔神柱の因子を遺伝子で刻んでいたが故に魔神との親和性が高かった。
三つ、納期が長かった。
夏休みを丸々改造に使ったおかげで兵装舎も喜んでいた。
同時にセーレにも文句を言っていたが。まあ、さすがに一ヶ月以下で理論を完成させて改造を終わらせろというのはかなり酷かったが。
私も神殿にいなくて心底良かったと思える。
そんな経緯で機能を一新した私は此処、大亜細亜連合で新機能を試している。
路地裏に居た五人の兵士の内の一人を腕の一振りで肉塊に変える。
突如現れた
元の感情が相当深かったのだろう。彼らは笑いながら私へと声を掛けてきた。
ウヴァルの能力を用いて彼らの内の一人に可能な限りの敵意と恐怖を植え付けて反転させる。
そして反転させた後に再度敵意と恐怖を植え付けられるか実験する。
反転後に再度感情を付与する実験は成功した。次は何処まで耐えられるかの実験を行う。
計三回目で脳の処理容量を超えて脳死を確認。
そして更に一人の頭を握り潰す。赤い液体が辺りに散乱する。
恐怖が極限まで高まったのだろう。青い顔をしながら顔を引き攣らせた男が裏切られたかの様に「何で?」と聞いてくる。
反転させる。恐怖が消え、全ての警戒心を消滅させた男が転んで頭を打って死んだ。
残る兵士は一人だけ。撃たれた銃弾を素通りさせる。更に恐怖した男が叫ぼうとして、反転させる。
男の脳は感情の反転に耐え切れずにその機能を停止した。
そして震えている女性を見る。放置で良いだろう。もう少し大人数との戦いも試したおきたい。
別に助けた訳ではない。機能を試したかっただけであり、かつバレにくい場所に丁度良く居たから戦っただけだ。
今夜中に性能実験は終わらせたい。こんな女一人と戦う暇などないのだ。
私も、ボクも、オレも、決して彼女を助けた訳ではない。
霊基の崩壊を防ぐ為に未だに司一の姿をしているセーレと共に私はまた違う路地裏へと転移した。
■
「久し振りだね、ブリシサン」
暗い部屋の中でかつての弟子と会話をする。九校戦では魔神柱は仕掛けてこなかったが、次に仕掛けるタイミングが不明瞭だ。
今後に控えているイベントは然程多くない故に予測が難しい。だがブランシュの襲撃を「時計塔」の仕業にしたのならば目的は絞れた。
だからこそ、僕は次の手を打つ為にこうやって話している。
「ウッドワスの件は順調かい?」
「えぇ、封印指定執行者にした上で海軍に出向させましたよ。」
「ならば良かった。次に魔神柱が動いた時点でウッドワスには日本に来て貰いたいからね。」
「彼も久し振りにあなたに会えるかもしれないと伝えると喜んでいましたよ。」
「時計塔に居た頃は随分と一緒に遊んだからな、今でも懐かしいよ。ウッドワスは今レストランを経営してるんだっけ?」
「経営している、というには法政科に任せすぎな気もしますけどね。最近はどうやらサラダにハマっているようで。」
ウッドワス。亜鈴百種・排熱大公である妖精だ。と言っても厳密には亜鈴帰りであるのだが。
特大の戦力であるが、単身呼び寄せればそれだけで騒動になる。
故に封印指定執行者として任命した上で海軍へと出向させた。本来ならば直ぐにでも呼び寄せたいが、何も起こっていない状態で呼び寄せようとすれば現場から文句が出る。
だからこそ次に魔神柱が起こす騒動に合わせて呼び寄せるのだ。前回のサーヴァントはアサシンであったが、竜種も合わせて大きな騒動になっていた。
時計塔からの使者として正当な理由があれば行けるだろう。そう考えるとアサシンの件で送っとくべきだったか?
いやでも間桐がなぁ、頑張って失脚させたから効果があればいいんだけども。
ウッドワスが来た時に振る舞う料理を考えながら僕はカップラーメンを啜った。うまい。
■
古式魔法の資料を纏める。俺は九校戦が終わってからもブランシュ事件で襲撃してきた霊について調べていたが、一回中断する事になったのだ。
精霊の眼であの霊が物質的な存在ではない事は既に知覚していた。だからこそ俺は奴の情報体そのものを破壊したのだ。
しかしあの霊を討滅した後でも懸念は残り続けている。
「時計塔」という非公式古式魔法師組織がかつて強力な霊を使役したという資料があり、更にブランシュを支配していた悪魔は「時計塔」について言及していた為に恐らく霊を嗾けて来たのは「時計塔」の可能性が高い。
だが疑問が拭い切れずにいる。霊はどうやって召喚された?何故壬生先輩を見逃しておきながら俺を襲撃した?あの霊の目的は何だ?
そんな経緯で古式魔法について暇がある時に少しずつ読み進めていたが、論文コンペの代表に選ばれた為に中断せざるを得なくなってしまった。
だから論文コンペの後でも忘れないように資料を纏めているのだ。
…九校戦の際にスコープは体調を崩して寝込んでいた。俺は九頭竜の仕業だと思っていたが、そもそもアイツが毒を察知せずに飲むのか?
そもそもアイツは何故俺に敵の情報を聞いたのだ?
少しだけ友人への疑念が湧き上がってくる。
そんな考えを俺は頭から消し去った。
今は論文コンペに集中しなくてはならないだろう。