『ベレトより報告。司波達也に怨みを持つ人物を探し出した』
『サレオスより感想。弱くない?』
『フォロカルより不安。アヴェンジャーの霊基に耐えられるか?』
『ガミジンより要請。もっとこう、素質のある人間を使いたい』
『ベレトより反論。司波達也への感情を反転させれば怨みを持たせられる人物が何人かいる』
『グシオンより拒否。露骨過ぎる、そこまで手札を晒す訳にはいかない』
『ウヴァルより拒絶。流石に愛情を反転させるのは尊厳に対する冒涜だろう』
『アロケルより提案。肉体を改造するのはどうだ?』
『マレファルより反対。正直リソースを割きたくない』
『バラムより定義。我々の現時点での目標はサーヴァント級の戦力との連戦を経験させる事にある』
『ビフロンスより確認。あくまで起点となる司波達也への怨みを利用するだけならば戦闘力は考慮しなくても良いだろう』
『ダンタリオンより報告。現在対象は他の生徒に捕捉されていない状態にある』
『ベレトより要請。アヴェンジャーの試運転と証拠隠滅の為に同伴している人間と共に対象を運んで貰いたい』
『セーレより了承。実行する』
■
ワゴンの中にて狂笑する少女の前に突如見慣れない紋章が浮かび上がる。
同時に予兆も前兆もなく男が一人現れた。姿形はブランシュ日本支部のリーダーである司一と全く同じだ。違う点と言えば眼が赤く染まっている事くらいか。
だが雰囲気が決定的に異なる。その禍々しい雰囲気に即座にワゴンの運転手が戦闘態勢へと移る。
油断も隙もなく、熟練の手腕を感じさせる速さであったが指の一振りで最初から存在しなかったかのように運転手は消え去った。
理解不能な状況へと遭遇して震える少女に男は手を差し伸べながら問い掛ける。
『汝、復讐の為の力を欲するか?』
魔人は少女が手を取る事が決定事項であると理解している。例えその怨みが逆恨みであっても、誘導された結果だとしても問題はない。
司波達也に対する怨みさえあれば良いのだ。彼女に期待されている役割は方向性を定める事だ。
アヴェンジャー・平景清の怨みを都合の良い方向へと誘導する事だけである。
そうして少女は時間神殿へと招かれた。
■
ビルの一室にて男はその顔を困惑に歪ませていた。
彼らが利用している少女がいたワゴン車を映していたモニターが突然黒塗りになったかと思えば運転手諸共に少女が忽然と消え去っていたからであった。
男にとって少女の安否など心底どうでも良い。問題は情報漏洩の恐れが存在するというただ一点のみである。
運転手は自分達の手配した人間ではなく、あくまでも協力者が手配した人間であった。しかしそれは男を安心させるに足る材料ではなかった。
そもそも情報が漏洩しなくとも自分達の思惑を見抜いている人物が存在して、実力を行使してきたという点だけで男を苛立たせるには十分であったのだ。
直前まで少女を使った報復を考えていただけにその苛立ちは深かった。が同時に感情に任せて暴走する程愚かでもなかった。自分達の存在が割れている可能性がある以上迂闊な行動は出来ない。各人に警戒の強化を厳命しながら男は思考を巡らせた。
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あたし、平河千秋は目の前の光景に震えていた。
復讐する力が欲しいかという問い掛けに頷いたはいいものの、連れられてきた先は想像だにしていなかった異界であった。
──悍ましい。その一言に尽きる醜悪で異形の柱達があたしを前にして議論を交わしている。
『セーレより帰還。平河千秋と同伴していた人間を連れてきた』
『ベレトより歓迎。早速アヴェンジャーと融合させよう』
『アムドゥシアスより制止。一旦肉体を改造すべきであろう』
『アスモダイより同調。融合させて直ぐに死なれる事態は避けなければならない』
『パイモンより提案。我々の因子による強化はどうだろうか?』
『プルソンより反論。融合させた後に不足を補う方が効率的ではないか?』
『ロノウェより賛成。霊基を弄りすぎても支障が出る。先ずは融合させるべきだ』
『ベリトより了承。実行する』
眼球が蠢く。怪物達の眼があたしを射抜く。これからの事を想像したせいか正気に戻ってしまう。今更ながらに恐怖の感情が湧き上がる。嫌だ、怖い。
しかしそんなあたしを気にも留めずに黒い何かを身体に入れられる。
絶叫。喉が枯れ果てるのも気にしない程の絶叫を上げる。みっともなく泣き喚く。全身の細胞が沸騰するように熱い。身体が根本から作り直されるような激痛に襲われる。
何よりも頭に流れ込んでくる経験があたしの精神を狂わせる。
儂は、首を切られて死んだ
僕は、矢で射られて死んだ
私は、火に掛けられて死んだ
俺は、胴を断たれて死んだ
妾は、海に沈められて死んだ
己も、某も、拙も、吾も死んだ
儂は、僕は、私は、俺は、妾は、己は、某は、拙は、吾は、儂は、僕は、私は、俺は、妾は、己は、某は、拙は、吾は、死んだ──
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ、我らは死、死、死死死死死死死死死死死死──
───────────怨!怨!怨!!
よくも儂の首を切ってくれたな
よくも僕に矢を放ったな
よくも私に火を掛けたな
よくも俺の胴を断ったな
よくも妾を海に沈めたくれたな
よくも我らを鏖にしてくれたな
勇壮なる者、聡明なる者、強き者、弱き者、老いた者、若き者、幼き者、祖父も、祖母も、父も、母も、兄も、弟も、姉も、妹も、甥も、姪も、伯父も、伯母も、叔父も、叔母も、従兄弟も、従姉妹も、一切合切全てを殺してくれたな。一欠片の容赦もなく殺してくれたな
憎悪、憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪──────怨、である!
我らは平家一門の怨念、
違う違う違う!!あたしはそんなのじゃない!叫びたくなるが、膨大な声に押し潰される。
怨念の海に意識が溶けようとする。だが魔神柱達がそれを見逃す筈もない。呑まれてしまってはいけないのだ。怨念に指向性を与えるべく魔神柱が調整を始める。
意識を固定する。怨念に完全に呑み込まれないように慎重、尚且つ怨念全体と混ぜる事によって怨念が向く先を司波達也に定める。
観測所が意識を常時観測しながら伝達する。
それに従って生命院が怨念を抑制し、廃棄孔が意識を補強する。
情報室が意識の動向を予測し、覗覚星が推論によって手順を導き出す。
そして管制塔が全体の統制を補佐し、兵装舎が必要な資源を供給する。
一方の溶鉱炉は少女と同じ様に連れ去られた運転手の肉体を改造し始めていた。
魔神柱全体が目的の為に稼働する。人間では不可能なレベルの連携によって一時間と掛からずに調整は終了した。
「
無論、これだけで終わる訳ではない。今回の目的であるサーヴァントとの連戦という目的を達成する為に改造を加えられた運転手の男もまた譫言のように呟く。
「
方向性が決定された怨念と霊基を複写された男もまた平景清と化した。
怨念と霊基を複写するのは幾ら魔神柱でも簡単にはできないが、景清の性質上三十七度は使い回す事が可能である。
源氏鏖殺を掲げる復讐者よ、汝の心に従え
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『其処ッ!マナーがなっていないぞ!』
時計塔法政科が実質的に経営しているレストラン。其処で紳士服を着こなした狼の妖精が部下を叱責していた。
『でもあんまりにも美味しそうで…』
部下の一人が顔を青くしながら言い訳をする。短い付き合いではあるがこの妖精の出鱈目さは誰もが知るところであった。
機嫌を損ねれば刹那の内に人間を微塵切りにできる超越者からの叱責は死刑宣告のようにも感じられた。
『むぅ、では次からは気を付けるが良い。』
しかし妖精もまた紳士を志す身。部下を叱りこそすれど殺しはしない。些細なミスで殺すのは短絡すぎであるし、何よりも自分がオーナーを務めている店を汚すのは厭であった。
『まあ良い。今日は私の奢りだ、マナーに気を付けて存分に喰らってよいぞ。』
その言葉に顔を明るくさせた軍人達が我先にと、しかしスマートに注文をする。
因みに此処でしか食べられないと噂の古代イスラエル風料理はブリシサン以外に注文する者はいなかった。