夜の闇に紛れて二つの人影が高速で移動しながら戦闘を行なっていた。
一人目は魔人ウヴァル。パラサイトを漁夫の利で始末しようと夜の街に繰り出した所、哀れにも槍兵に捕捉されてしまった被害者。
二人目はクー・フーリン。護衛対象に命じられるがままに魔人を追い掛けて攻撃する狩人。
魔人としては早くスコープの姿に戻りたいが捕捉されてしまった為にそうも行かず、なんとか槍兵から逃れる為に戦場に乱入しようとしていた。
一方の槍兵も魔人を仕留める為に全力で追撃をしていた。朱槍を投げては手元に戻して更に投げるを繰り返していた。
(ヤバい!この器では対処できない。他力本願だが場所を誘導して…)
投擲される槍を必死で躱しながら亜音速で逃走と追跡を行いつつ、漸く目当ての場所に辿り着く。
夜の公園。其処に存在するパラサイトと『シリウス』と司波達也に槍兵を押し付けるべく静まった状況に乱入する。
「なっ!サーヴァント!?」
司波達也が驚愕する。それはつい先日会ったばかりの蒼衣のランサーに対してのモノだけではなく、ランサーと共に乱入してきた魔人に対してのモノでもあった。
即座に判断を下す。時計塔、Dr.ロマンは英霊召喚を悪用する存在を討滅しに来たと語っていた。
そして目の前の異形は4月に目撃した存在と同規格の存在。ならば先ずは捕まえて尋問だろう。
司波達也のCADから死なないように手加減した分解魔法が放たれる。
その魔法が魔人に着弾する前に、自身を行使可能な限界出力の魔力で強化した魔人が音速を超えて回避する。
回避の直後、器の崩壊を防ぐべく動きを止めた魔人を白覆面のパラサイトが放った電撃が襲う。
感電するが問題はない。生物の規格から逸脱した肉体を持つ魔人がその常軌を逸した反射神経で即座に電撃を魔力へと変換して自身のエネルギーとする。
物質的なエネルギーを錬金術を応用して無効化して自分のエネルギーを変える程度魔人にとっては造作もない。
問題は変換に使うエネルギーが還元されるエネルギーに比べて多いという点だが、ともかく電撃を凌いだ魔人に今度は銃弾が襲い掛かる。
スターズ総隊長アンジー・シリウスが各属性を強化した銃弾が魔人の胸部。人間で言う所の心臓を的確に貫くが魔人は意に介さない。
魔人体ですらない状態でもセーレの憑代である司一は頭部の損傷をある程度は無視して動けた。
魔人体へと変貌している現状では心臓を破壊された程度では止まらない。
尤もただでさえ硬い魔人の外殻を更に強化したというのにそれを容易く貫通した力量は末恐ろしいモノだが。
『何故だ!?どうなっているというのだ!?』
魔人が焦る。当たり前だ、本来は三勢力の争いに乱入して五つ巴となった後に離脱する予定だったというのにいつの間にか自分以外の全勢力が一斉に自分に敵対しているのだ。
パラサイトとの敵対は予想出来た。先日敵対したのだから此方に攻撃する事自体は明白だった。
だが他勢力との衝突を中断して此方にのみ攻撃しようとするのは想定外だ。
魔人体の単体戦闘力はパラサイト以外の四勢力では最下位なのに何故なのだ!?
司波達也との敵対。元々時計塔からDr.ロマン経由で情報が伝わっていたのだから敵対の可能性は予測できた。
だが時計塔と親密な関係を築けていない現状では消極的敵対に留まると予測していたのに何故積極的に攻撃して来ているのだ!?
実際は危険分子を分析するべきだというガーディアンとしての使命感と個人的な知的好奇心によって取り敢えず捕獲しようという思惑があったと魔人は知らない。
アンジー・シリウスとの敵対。此方はまあスターダストを気絶させているから敵対しているとは知っていた。
だが何故パラサイトを攻撃しないのだ!?せめてそれくらいはして欲しいのだが!?
魔人のビジュアルがアンジェリーナ的にダメだったとは知る由もない。
「正に袋の鼠だな。下水道を這い回る薄汚いドブネズミみたいなテメェに相応しい。」
口が悪いなランサー。イラつかせてくれるが事実でもある。完全に作戦が裏目に出た。
この状況をどうやって打開すれば良いのだ。時間神殿で動員可能な戦力を募るか?
『待て、司波達也にアンジー・シリウス。貴様らに敵対する意思はない』
「スターダストを気絶させた。」
『だが殺してはいない。違うか?違わないだろう』
この状況を打開すべく必死に口を回す。この中ではスターズに与えた被害が最も少ない。
パラサイトは論外である為に説得すべきは魔法科の生徒とスターズに絞られるし、スターズはあくまでも任務の為に此処に来ている。故に一番説得しやすい筈だ。
槍兵の突きとパラサイトの電撃、襲い掛かってくる古式魔法と分解魔法を躱す。
肉薄して来た千葉エリカを強化した脚で蹴り飛ばし、十数m先に吹き飛ばす。…尚も戦意喪失せず。だがまあ暫くは動けないだろう。
そしてアンジー・シリウスが手を止めたのを確認して改めて口を開く。
『我々と貴様らの目的は部分的には同じだ』
「何?」
困惑したようにシリウスが声を発した。まあ今の僕は醜悪な異形である以上多少は困惑するだろう。
『我々もパラサイトとは敵対している。ほら、今もパラサイトに攻撃されているだろう』
「それは、そうなのだが…」
『我々と共闘しないか?共に脱走兵を始末しようではないか。スターダストを二人気絶させられた程度で我々と敵対するのは愚かだぞ!』
「……
銃口を向けて来た。何がダメだったんだ?だがスターズは今ので再び戦闘状態に移行した。
よし、一度諦めて司波達也に協力を願おう。サーヴァントを襲撃させたのを誤魔化せば共闘とまでは行かなくても停戦には漕ぎ着けるかもしれない。
『司波達也ァ!』
「断る。」
『まだ何も言ってないだろうがァ!』
「俺の友人に、エリカに手を出した。」
『先に手を出したのは其方だろうがァ!』
分解魔法を撃ってきた。コイツ等揃いも揃って全く理解ができない。何故僕と敵対する?理不尽極まりない。
状況が逆戻りする。僕以外の全員と敵対状態。神速の突きを観測所からの情報に基づいて回避する。
槍兵の速度に追い付かない故に現在は時間神殿からの情報に頼り切りだ。
観測所が観測した魔法の初動を察知して回避を続ける。態々対応する程の余裕がない。
避けるだけで此方に被害が出ないのなら相殺する必要性はないだろうし問題なし。
だがかなり不味い。槍兵一人相手でも余裕がなかったというのに更に鬼畜難易度だ。
「万策尽きたみてぇだな、ドブネズミ。」
槍兵が煽ってくる。今に見ていろ、僕一人では絶対に対応できないというなら他から手を引っ張って来ればいいだけだ。
『顕現せよ。牢記せよ。これに至るは』
どうせ忌々しいエルサレムの神杯が動くだろうが、多少は猶予がある。
「チッ。その心臓、貰い受け──」
槍兵が宝具を発動させようとするが、もう遅い。
『七十二柱の魔神なり!』
槍兵の足元から魔神柱が顕現する。そのまま槍兵の肉体を貫きつつ巨大化。宝具が不発に終わり、宝具の余波が周囲を破壊する。
そして顕現が終了するのと同時に魔神柱が爆発する。爆風と轟音と閃光を撒き散らしながら存在していた痕跡が抹消される。
エルサレムの神杯によって討滅されるのならば、討滅される前に役目を果たさせてしまえば良い。
戦闘員として使役するのではなく場を撹乱する為だけに魔神柱を用いる。
ランサーは戦闘続行のスキルによって尚も現界しているが関係ない。
スターズと魔法科生の両勢力は行動を止め、パラサイトも逃走を開始している。
僕は精霊の眼に感知されないように強化せずに全力疾走した。
■
「どうしたんだ、スコープ?」
「いやあ、ちょっと筋肉痛が酷くてね」
ウヴァル貴様本当に巫山戯るなよ。
「そう言えばパラサイトについては何か分かったかい?」
パラサイトについてはもう達也達に任せよう。無理して始末しようとしたのがいけなかった。
全くDr.ロマンめ、殺意が湧いてくる。今回の件の報復はいつか必ずやってやる。
「昨日パラサイトを狙う新たな勢力と接触した。この後またDr.ロマンを詰問するつもりだ。」
やめて(切実)。本当にやめて。情報漏洩が怖すぎる。槍兵がいる現状では口封じもできないからどうしようもないんだよなぁ。
今日は早く帰って寝よう。