魔術王と魔神と魔法科   作:モヘンジョダロ

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4話:其は全てを始めるもの

私がファラオの娘を妃に娶ってから何日か経過した。

 

あの夜、私は神より指環と共に啓示を賜った。啓示とは即ち、「国を拡げ()()を人に伝えよ。汝の智慧を以て必ずや成し遂げよ。」という内容であった。

私は次の日に三人の素質の高い人間を王宮へと招き弟子に取った。

名はそれぞれアトラシア、ブリシサン、セレンであり、私は彼ら三人に魔術を教えながら王として治世を行う事にした。

 

 

 

 

私が王となり先ず着手したのは国内制度の整備であった。前世の知識によって官僚制については既に知っている。前提が違う為に現代日本の制度をそのままイスラエルに導入する訳にはいかないが、私も伊達に十何年もこの世界で暮らしていた訳ではない。幼い頃から英才教育を受けたし民草についても学んでいる。ならば官僚制をこの国に合わせた上で施行すれば良いのだ。私が求めるのは私の執務を補佐する機構であり、私が亡くなった後も変わらずに執務を行える機構である。

内政面は官僚制の施行が第一目的であるが、同時に経済も発展させねばならないだろう。

国内の産業だけでは経済発展に限界が来る。故に私は周辺諸国との交易を広げ、貿易によってイスラエルの経済を発展させる道を選んだ。

外国との交易を活発にする為に私は交通網を整備する必要があったが、私は魔神柱を用いて一気に交通網を整備する事にした。

勿論、魔神柱をそのまま動かせば大騒ぎになるだろう。私が魔神柱を用いて軍勢を殲滅した事は周辺諸国に知られている、寧ろ私が知らせた。

故にバレないように細工をした上で作業を行わせ、後に神の奇蹟と喧伝する。

……Fate/Grand Orderの世界においてはソロモンが奇跡を見せたのはただの一度きりと言われている。

たった一度のみの奇蹟により「民は王の加護を得ている」と知らしめ、その後は民から恐怖される、民が堕落するといった事態を防ぐために奇蹟は起こさず、ソロモンは魔術を使わないまま魔術の王として近隣諸国に名を広め、賢王のままこの世を去った、とされている。

これに倣って私も神の奇蹟を民に知らしめるべきだろうが……私の場合は魔神柱を使役している関係上民から恐怖を抱かれている。

故に神の加護をより鮮烈な形で民の記憶に残さなければならないだろう。

私は妃のいる寝室に向かう為に夜の王宮を歩きながら魔神柱を顕現させた。

 

 

 

 

ソロモンが交易路の整備の為に呼び出した魔神はハルファスとサブナックの二柱である。

魔神ハルファスは伝承において

「序列38位。

26の軍団を率いる地獄の伯爵。

城塞都市を魔法の力で自在に建設し、更に建築した建造物の中を武器弾薬で満たす事が出来る」

魔神サブナックは伝承において

「序列43位。

50の軍団を率いる侯爵。

強固な城塞都市を自在に作り出し、必要とされる武器や戦術を用意できる能力の持ち主」

とされている魔神達である。

 

極めて似通ったこの二柱の能力を、ソロモンは投影魔術を永続化させる能力として魔術式に書き加えた。元より人智を超越した魔神である彼らはこの世界のほぼ全ての物体を完璧にイメージ可能であり、イメージに穴があるなどあり得ない。

 

その日の夜の内にイスラエルと周辺諸国との交易路が整備され、要塞化した補給基地が立ち並び、ついでにイスラエルの都市が大幅に強化された。

ソロモン王はこの出来事を神の奇蹟として民へ喧伝し神の加護を知らしめた。

 

 

 

 

いや、うん、妾少しソロモン舐めてたかもしれん。いや舐めたけどそれとは別に比喩的表現で。

まさかあんな手段で後継者を作ろうとするとは。いや妾もかなり気持ちよかったが、それはそれとして正直予想外だった。妾に沢山兄弟がいる理由がわかった。父上もこんな気持ちだったんだなぁ。

初夜の終えた次の日の朝に妾は産まれた時の姿のまま隣で寝ているソロモンを横目にそんな事を考えていた。身体は元に戻ったが昨日の出来事が鮮明に思い出されて少し気恥ずかしくなってしまう。

(あれでは妾だけが獣のようではないか)

ソロモンの昨日の姿を思い返して自分の荒ぶりように更に羞恥心が妾を支配する。

そうこうしている内にソロモンが目覚めて妾に向き合った。所々赤い跡がついているソロモンの身体に何故だか心臓が跳ね上がった気がする。

黄金律と称しても差し支えない完璧な肉体が晒される。

故郷で見かけた宮廷彫刻家の彫った女神像と引けを取らない程に整った姿に思わず妾は生唾を飲み込んでしまった。

そしてソロモンは起き抜けに口を開いてこう言った

『神の奇蹟によってイスラエルの交通路が一晩で出来上がった』

……妾は困惑した。初夜の翌朝開口一番に言うのがそれか!?妾に何か言うことはないのか!?

そんな事を思っているとまたソロモンが口を開いた。

『妃よ、何か望む物はないか?私に出来る限り全て叶えよう』

妾は呆れた。この女は女心を微塵も理解できないらしい。顔が赤くなってしまっているのを隠しながら妾はソロモンと今夜も褥を共にする約束をした。

 

 

 

 

私は自分で設定した目標が達成された事を確認した。

 

第一に交易路の整備。投影魔術を用いた突貫工事だが問題はない。ハルファスとナブサックの性質上一度創ってしまえば後は壊れるまで使える。少なくとも私が生きている内は壊れやしないだろう。

 

第二に神の加護の喧伝。こちらも問題はなし。私はその日、妃と共に過ごしたと家臣達がアリバイを証明してくれている。過去にアロケルの試運転の際も私が魔神柱の側に控えていた。私が魔神柱を遠隔操作できると認識されていない事は既に確認している。私が魔神柱を使ったとバレる事はない。

 

第三に後継者問題。こちらまだ解決していないが順調に進捗している。妃は積極的に後継者問題を解決しようとしている。まだ最適なタイミングではないが機嫌を取る為にも今後も褥を共にする必要がある。現状、妃との関係が良好なのは良い事だ。

 

歩きながら思考をする。現在最優先すべき問題は外交面の問題だ。

弟子達の教育と並行して行わなければならないが、問題自体はそこまで複雑ではない。

私にとって両国に利益のある関係を築くのは簡単だが、心理的な問題が存在しているというだけだ。

崇める神が違うとなれば争いは避けられない。私が千里眼で見た王達の中にも宗教が原因で命を落とした者もいた。

私は宗教に関する法の草案を纏めながらそんな事を思っていた。

 

 

 

 

未知の感覚だった。未曾有の事態だった。我ら魔神柱がこれ程の精神攻撃を受けるなど非常事態に他ならない。ソロモンの五感を共有していた事が災いした。ファラオの娘とかいう女を侮っていたと言わざるを得ないだろう。

『ナベリウスより報告。ゼパルが(魔神でありながら!)昨夜の感覚によって機能を停止中』

『フラウロスより提案。さっさと奴を叩き起こしてやれ』

『ハルファスより困惑。不可解なり。何故ソロモンでもない人間如きに機能停止まで追い込まれる』

『アモンより疑問。あの感覚は何だったのだ?我々はその正体を知らない。ならば、知らなければならないだろう』

『バルバトスより拒否。何故あの感覚を調べる必要がある。あの精神攻撃は我々魔神柱にすらも通用した。管制塔としては容認できない』

『ゲーティアより決議。我々はあの感覚を調べるべきか否かの採決を取る』

『───決議が完了した賛成二十三柱、否『フォルネウスより報告。十六時間後から再度精神攻撃が行われる事が確定した』何!?』

我らは混乱した。我々はパニックに陥った。

ソロモンは一体何をしている!みすみす精神攻撃を見逃すなどあの女らしくもない!


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