私は夜の自室で一人思案をしていた。
(魔術の確立は概ね問題ないだろう。サレンはともかくとしてアトラシアとブリシサンは多くの弟子を作り魔術を拡めている。神よりの啓示は果たしたと言っても良いだろう。)
故に私が現在悩みの種となっているのは子供と神殿についてであった。
私は女として生まれている為に原典のソロモン王のように愛妾や側妃を多く迎えられない。だからこそ私と正妃との間に生まれた息子を王として正しく育てる必要があった。
……もう一人子供を作るのはナシだ。
私が妊娠している間は幻術を用いて妊娠を隠して執務を行なっていたが、正直私への負担が大きい。魔神柱に執務をさせるのも手だが彼らでは私と比べて効率が落ちてしまう。
そう言えば魔神柱といえば最近余り会話をしていない。幼少期から私の千里眼も成長して魔神柱達を頼らずとも過去と未来を見通せる程となった。……尤も私自身の視覚と魔神柱達の視覚が共有されているのだからあまり変わらないのだが。
私は戴冠した後から魔神柱達が人の悲劇を嘆かないようになるべく千里眼の使用を控えていた。千里眼の機能をOFFにはできないので狭い範囲ではなく広い範囲を常に見通す事で焦点を合わせない限りは過去と未来を見通せないようにした。魔神柱達も見えないモノを嘆くような事はしないであろう。
魔神と言えばシバの女王とは会っていないなとも思ったが、そもそも
……そこまで考えて私は思考を打ち切った。少し思考が脱線してしまった。私の悪い癖だ。
既に子供はいるのだから子供を上手く育て上げれば良い。
妃との関係は良好だし不安材料はないだろう。魔術回路の量も質も最高峰になるように調整した。家臣達の子供の中から側近に相応しい人材の選別作業も一通り終わっている。護衛も私が知り得る中でも特に選りすぐりの者を付けている。その上で更に魔神柱と千里眼を使って二日以内の未来を見続けている。
……これは過保護と呼ばれる行動なのだろうかと思いながらも私は新たな神の啓示について考えを巡らせた。
神曰く「エルサレムに我を崇める神殿を建てろ」
との事だ。
ソロモンは生涯においてただ一度しか啓示を受けなかったとされていたが、これもバタフライエフェクトというモノなのだろう。
啓示には従うが、エルサレムに神殿を作るのならば魔神柱も使役すべきなのだろうかとも考える。公共事業とは失業者を救済する側面も持つが、私の治めるイスラエルでは失業者など皆無に等しい。
ならばわざわざ民を徴用し重役を課して働かせるよりも魔神柱に神殿を作らせた方が費用も掛からないし民からの心象も良くなるだろう。
しかし神が民の献身によって建てられた神殿しか受け付けない可能性もある。私は今度それとなく神に尋ねようと思いながら眠りに就いた。
■
妾がイスラエルに嫁ぎ、妾とソロモンとの間に生まれた子が歩き始めてから数ヶ月が経った。正直ソロモンは妾ですら過剰に思える程の護衛を妾達の子供に付けていた。
……まさか魔神柱に無理やり人の姿を与えて護衛をさせるとは思いも寄らなかった。勿論、あの禍々しい魔神柱を無理やり人の姿に変えたのだからただの人の姿をしている筈もなし。
身体中に幾つもの眼球が覗いており肌は幾層にも刻印が刻まれている。人外であると隠せない程の威圧感を放つ魔
成長を喜び、闘争に怒り、死を哀しみ、会話を楽しむ。ソロモンからは魔神柱はソロモンが創った魔術式と聞いていただけに妾は一層驚愕したのだ。
……それはそれとして過保護な所は直して欲しい。虫にすら攻撃するのはさすがに過保護過ぎないか?
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我々魔神柱はソロモン王の影で議論していた。
『ナベリウスより否定、我ら溶鉱炉未だにソロモンの真理に到達せず。この疑問晴らさぬ限りは憎悪も憤怒も行うべきではない』
『フラウロスより反論。ソロモンは何も感じていない。
『ハルファスより賛同。ソロモンは父母に愛され何一つ不自由なく育った。にも関わらず王としてだけ行動している。あまりにも怠惰だ。最早何も期待すべきではない。』
『バルバトスより補足。ソロモンの統治は民の幸福度を上昇させている。理不尽な死が強要される事はなく、国も豊かになっている。兵装舎は事を焦りすぎているのではないか?』
『フォルネウスより追記。ソロモンは民と国を後世に残そうとしている。例え感情がなくとも責務を果たせるのなら問題はないのではないか?』
『アモンより反論。王としての責務を果たそうとも阻止できる筈の悲劇を見過ごすのは納得が行かない。救えるのならば救うべきであるのだ。何故我々に自由を与えない?我々に自由を与えてくれれば我々は王の不利益とならない範囲で全てを救済できる』
『ラウムより提案。ソロモンの息子の感情を育てれば良い。国を治めながらも遍く人々を救済できるように我々が教育すれば良い。真っ当な人間ならば悲劇を見過ごせない筈なのだから、我々がソロモンとは異なる王へと成長させるのだ』
『アンドロマリウスより調停。議論を一度終了させよ、子守りの時間だ。今日は観測所が担当であったな』
その場を静寂が包み込んだ。一拍置いてから観測所を構成する九柱が言葉を交わし合う。
『グラシャ=ラボラスより提案。我は前回観測所が担当となった時に顕現した。今回は我以外の八柱の中から出すべきである。』
『フォルネウスより却下。我は以前に二回連続で担当した事がある。幾ら人の形に押し込めるられる事が苦痛であろうとも一人逃げは許さぬ。』
『ガープより提案。やはりコインの裏表で決めるのは不毛ではないか?不確定要素が大きすぎる。観測所内で順番を決めるべきである。』
『アスモダイより賛成。我もコインの不確定要素は何とかすべきだと考えていた所だ』
『ロノウェより反対。我はコインによる決定の継続を求める』
『アスタロスより嘲笑。貴様もいつかコインによって耐え難い苦痛を味わう日が必ずや来る。せいぜい慢心している事だな』
『ブネより同調。確率的には貴様が担当となる日も近いだろう。その日を震えて待つ事だな』
『ベリトより疑問。何故我らが人の形に押し込まれねばならぬ。我らにはない発想だ。我らには必要ない措置だ』
『フォラスより不満。ソロモンは我らに苦痛を味わわせずに人の形へ変える手段を早急に模索すべきである』
『ゲーティアより通達。早く決めろ』
■
私は目の前の黄金に輝く杯を見ていた。
決戦魔術・英霊召喚の為の楔。英霊を現世に縫い付ける鎖。
謂わばアラヤの保険とも言える機構であり、アラヤが働けない事態に備えて創造されたサブプラン。
その名は英霊召喚器。或いは弟子達がエルサレムの神杯と呼ぶモノ。
その機能は二つあり、一つ目は人理定礎に錨を下ろし、有事の際にはその直接的な原因となった存在を確実に抹殺可能な
二つ目は世界を脅かす存在が現れた際に「冠位」の英霊を顕現させ、魔力供給をするシステム。
あくまでも保険でしかなく抑止力が動かなかった場合にのみ機能する事前の備え。
そんな魔道具の前に私がいたのはある一つの目的の為であった。
この装置の最終調整。即ち、英霊の座への直接接続の実現である。
あらゆる場所、あらゆる時間の英霊・反英霊を記録している英霊の座と直接接続する事でサーヴァントではなく英霊の状態で召喚できるようにする。それによってビーストクラスの敵でも確実に撃破できるようにする。
私が一人で作業をしているのにも訳がある。実は器自体はもうできていたが英霊の座が見つけられなかったのだ。というか見つけようとすると膨大な情報が流れ込んできた。だからこうやって時間を掛けて調整している訳である。
使われるような事態がない起きないようにと祈りつつも私はこの杯が世界の為に使われる事を願った。
この世界での英霊の座:ソロモンによってイデアと直接接続している英雄と英雄に付属する情報(信仰・伝承等)の保管庫となっている