La vie en rose   作:T・Y・ムンチャクッパス

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定期的に書けるような体力や気力はもう無いですね……。
若さっていいなぁ。





第7話

「えっ……?二乃、今何て?」

 

三玖は姉が突如言ってきた言葉にただ驚く他なかった。

 

「だから私も東京に行って来るから」

 

それに対し二乃の方はあっけらかんという感じで答える。

 

「な、なんで? 何しに行くの?」

「なんで? アンタは四葉の事が気にならないの?」

「それは勿論気になるよ。でもそんないきなり……」

「っていうか五月が既に勝手に行ってるじゃない。なら私も行って何か問題ある?」

「それは……そうだけど」

 

そう。驚いたことに五月は自分たちに特に相談することもなく東京に行ったのだ。四葉の事が心配だったと、そう後で事後報告な形で電話がかかってきたのだが、正直なところ三玖には五月の突然の行動にモヤモヤするところがあったばかりだというのに、次は二乃だ。

 

「でも五月は明日には帰ってくるんでしょ? だったら五月から話を聞けばそれでよくない?」

「あの子から話聞けば四葉のことはそれでいいってこと? アンタって思ったより薄情ね」

「そんなこと……!」

「私はやっぱり姉としてあの子のことが心配なの。だから直接会って話を聞いてくる。電話じゃ駄目。こういうのはやっぱりお互い顔を合わせて話さないと想いは伝わらないのよ」

 

三玖は何も言い返せなかった。二乃が言っていることも間違ってはいない。

それでもどこか違和感が拭えない。何か違う。

 

「ねぇ二乃。聞いてもいい」

「なによ」

「本当に四葉に会いに行くだけなの?」

「そう言ってるじゃない」

「……フータローに会うわけじゃないんだよね?」

 

風太郎の名を出した途端、三玖の胸に僅かに棘が刺さったような痛みが走った。あの日の電話、相変わらずの情けない自分が思い出されてしまったからだ。

 

二乃はそんな三玖をじっと見つめてくる。三玖にはその視線が何故か少し嫌な感じがした。

 

「ふふっ」

そんな三玖の思いなど何処吹く風と言った感じで二乃が笑う。

 

「何か問題あるの?」

「えっ?」

「そりゃ四葉のことが第一よ。でもいくら大切な妹の事とはいえ一方の話しか聞かずに断罪するなんて、そんなのはフェアじゃないでしょ?」

「えっ? 二乃?」

「だから勿論」

 

そこで言葉を区切ると、二乃は妹に向け満面の笑顔を見せた。

 

「フーくんにも会ってくるわ」

 

 

 

 

 

「三玖ちゃん。これお願い」

「……」

「三玖ちゃん。聞いてる?」

「……っ! は、はい。なんでしょうか」

「今日はどうしたの? 上の空って感じで」

「すみません……」

「体調悪いなら今日はもう上がる?」

「……いえ大丈夫です。ありがとうございます」

 

三玖は店長に頭を下げると、気合を入れる為に自分の頬を二回ほど叩いた。二乃との会話から数時間後、いつも通りバイトに来ていた三玖だったが全然集中出来ていない。

理由は勿論二乃との会話のせいだ。二乃の言葉、何より態度。それが気になって仕方ない。

 

『フーくん』

あの時二乃はそう言った。四葉との別れ話が発覚してからは一度もそうは呼んでいなかったのに。

 

何があったのあろうか?

二乃が何を思っているのか良く分からない。姉妹とはいえ、五つ子とはいえ他の姉妹が何を考えているのか、何がしたいのか。もう最近では分からない。昔は何も言わずとも理解出来た気がしていたのに。

 

『明日会いに行くわ』

二乃が言った言葉がリフレインする。まるで恋人に会ってくるかのような言葉。そしてそれ以上に三玖が気になったのは嬉しさを隠そうともしない二乃の表情だった。

 

ずるい。

ずるいずるいずるい。

そんな思いが頭の中をグルグル回る。

二乃が風太郎に会う。二人だけの時間。そのことがとてつもなく……

 

「嫌だ……」

想いが声に出る。

 

なんで?

三玖は自分自身に問いかける。

 

二乃の姉妹を思う気持ちはよく分かっている。誰よりも姉妹のことを大切に思っている二乃だからこそ、四葉の為に会いに行こうとするのはちっともおかしいことじゃない。

 

でも……

さっきの二乃の様子は。さっきの二乃の目は。まるで二年前の、姉妹で風太郎を巡って戦ったあの時のようで。

 

二乃も五月も。もしかしたら一花も。自分だけが何も知らぬまま。また……。

 

「はぁ。三玖ちゃん。ちょっと休憩入っていいわよ」

「えっ……?あっ、はい……」

 

未だ集中しきれないのを見かねたのか店長が早めの休憩をくれた。素直にそれに甘えてバックヤードに行く。持ってきていた飲み物を取り出し椅子に座る。相変わらずの抹茶ソーダ。彼がいたあの頃と何も変わっていない。

 

「何も変わっていない。何も変えられない……私は……何も」

 

変わらない自分が嫌だ。行動できない自分が嫌だ。そして勇気がない自分が嫌だ。変わりたい、強くなりたい。

でもそんなに簡単に変われることが出来るのなら苦労しない。

 

「私は……ずっと……このまま」

 

何も出来ず、何もすることもなく、ただ膝を抱えて待つしか出来ないのだろうか。そうして終わった後に仕方なかったんだ、と諦める。どうしようもなかったんだ、と自分を慰めて。

その繰り返し。

 

「フータロー……」

 

彼ならこんな自分をどう言うだろう。

いや分かってる。きっと彼なら「相変わらず馬鹿だな」って笑いながらそれでも不器用な優しさで……。

 

「うっ……ううっ……フータロー」

 

「馬鹿だな」って憎まれ口を叩きながら頭を撫でて欲しい。

いっぱいお話したい。新しく覚えた武将の知識だって沢山ある。それを聞いて欲しい。

会いたい。やっぱり会いたい。側にいたい。

 

四葉が悲しんでいる。大切な妹が泣いている。それでも……!

それでも私は……私は……!

 

「店長!」

自分でもびっくりするような大声を上げると、三玖は立ち上がった。

 

「ど、どうしたの? 三玖ちゃん」

 

入口から驚いた顔を覗かせる店長に三玖は深く頭を下げる。

 

「すみません。やっぱり今日は上がらせて下さい」

「えっ? うん。分かったわ。仕方ないわね」

「ありがとうございます。ご迷惑をかけて申し訳ありません」

「気にしないで。三玖ちゃんにはもう長いこと助けられているから。大丈夫? 他に何かない?」

「はい。あります」

「あ、珍しいわね。何でも言って。ドーンと叶えてあげるから」

「暫くお休みを下さい」

「……へっ?」

 

そうして店を出た三玖はスマホを取り出す。

もう匙は投げられてしまった。自分を鼓舞するように握り拳をつくると電話をかける。

 

『もしもし』

「あ、らいはちゃん久しぶり。私、三玖」

『お久しぶりです三玖さん。えっと、急にどうされたんですか?』

「ごめんねらいはちゃん。急で悪いんだけどどうしても教えて欲しいことがあるの」

『は、はい。何をですか?』

「……フータローの場所」

『えっ?』

「フータローの住所を教えて欲しいの。お願い」

 

 

 

 

「まもなく東京行き……が……三番ホームに……危ないですから……」

 

電車のアナウンスが聞こえる。

三玖は大きく息を吐くと胸に手をやった。ドキドキしている。

その原因、それは不安だ。自分のしようとしていることが不安で仕方がない。

 

三玖は目を閉じて自身に問う。

こんなことをしてどうなるのか。自分が何をしているのか分かっているのか。あたかも二乃に抜け駆けするように一人で先に行ってどうなるのか。おそらく二乃は烈火のごとく怒るだろう。何より風太郎に連絡もなく会いに行ってどうなるのか。いきなり自宅に抜け抜けと現れた昔の女を見て、風太郎が喜んでくれるとでも思っているのか。

今ならまだ戻れる。何食わぬ顔で家に戻り、そして明日二乃を笑顔で送り出せばいい。そうして後はただ待てばいい。ただ流されればいい。それでいつも通り。何も変わらない。

 

「でも……」

三玖は顔を上げる。

 

「やっぱり、それじゃ嫌」

そうしてぐっと拳に力を込めると目の前の新幹線に飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

風太郎は夜道を身体を縮めるようにして歩いていた。最近夜は一気に肌寒くなって来た。バイトや勉強で夜遅くなることが日常の身としては帰りがキツい季節だ。そして寒さの厳しさは弱った心にさえも響く。

 

ここ最近のことを思い、風太郎は大きなため息を吐いた。

 

四葉との別れ。

二乃の怒り。

三玖との電話。

五月との再会。

そして一花との会話。

 

またあいつらかよ。風太郎は自嘲する。

四葉と別れたことでまた五つ子全員とも関わるようになるとは皮肉なことだ。

 

「五つ子……か。四葉……」

 

分かっている。これは自分の罪だ。当然四葉は何も悪くない。もっと上手くやるべきだったのに。お得意の勉強はこんな時何の役にも立ってくれない。

 

風太郎は足を進める。大都会という華やかな場所から取り残されたような薄暗い路地。その一角にある自身の古びたアパートへ。

今日は疲れた。今はただ横になりたい。

 

「……ん?」

だが通りから自分の部屋の前で立つ人影を見つけて足が止まる。

 

「四葉?」

『元』恋人の存在を疑い顔が曇る。今は彼女に会いたくなかった。

 

「いや……違う。……五月か?」

再会したばかりの五つ子の末っ子。なら彼女かとも思ったがそれも何故か違う気がした。

 

埒が明かず仕方なく足を進める。部屋の前まで来ると、足音に気付いたのか俯いていた彼女が顔を上げた。

 

「えっ……なんでだ?」

「あ、あの……」

「三玖……だろ。お前。なんでここに……」

 

名を告げると三玖は一瞬驚いた表情を見せるとそのまま俯いた。

 

「やっぱり一目で気付いてくれたね。私だって」

「いや流石にそれは、まぁ。何だかんだで付き合い長いしな」

「ふふ。それでも嬉しい……嬉しいよ。すごく」

「いや待て待て。そうじゃなくて、どういうことだ? まさかお前ら全員で来てたのか?」

「全員で……ううん、違うよ」

「じゃなんでお前はここに? っていうかなんで俺の住所を知っているんだ? 四葉に聞いたのか?」

「さぁ? どうしてだと思う? フータロー」

「三玖。ふざけてないで答えろ。四葉から聞いたって言うならやっぱりそのことで来たのか? それとも五月や、もしかしてもう一花から何か聞いて、俺を責めにでも来たのか? お前は……」

 

「違うよ。全然違う」

矢継ぎ早に繰り出した風太郎の質問を三玖は切って捨てる

 

「会いに来たの」

「は?」

「フータローに……逢いに来たの!」

 

そのまま胸に飛び込んでくる三玖に風太郎は思わず固まってしまう。だがすぐに引き離そうと三玖の両肩に手をやった。

 

「おい馬鹿。離れろ」

「嫌」

「三玖!」

「お願いフータロー。追い返さないで。お願い。フータロー……」

「お前……」

 

風太郎の手が緩む。伝わる小刻みに震えている身体。三玖が泣いているのに気が付いたからだ。

 

「なんでお前が泣いて……」

「フータロー。フータロー」

「三玖……」

 

訳が分からず、それでも彼女が泣いている姿を見るのがたまらなくて、落ち着かせるように頭を軽く撫でてやる。そうすると三玖は甘えるように胸に顔を押し付けてきた。

 

どうなってんだよ。

思わず天を仰ぎ見る。だが答えなんて分かるわけもなく、風太郎は木偶のように立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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