もしもG・IのNPCになったなら   作:Σ18

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第2話

 さて、この夢はどうやら原作開始の5年前という設定らしい。

 聞いてもいないのに、グリードアイランド(この島)に来る前に受けた282期ハンター試験ではあと一歩というところだった、今はアマだが長年ハンターとして培ってきた経験を加味すればプロと比べても遜色ないのだと熱っぽく語ってきた。オタク特有の自分語りに近いものがある。

 さらには半年間で既に指定ポケットカードを手に入れたと鼻息荒く。およそ3年もあればクリアできる公算らしい。どういう計算式なのか、非常に興味深い。

 

 

 

 

 

 

 モタリケ君との邂逅後、完全に自分の意思で身体を動かせるようになった。会話の最中は自分の意思を表に出せたり出せなかったりしたのだが。(オレにとっての)強制イベントが終わり、晴れて自由の身になれたということだろう。

 ただし強制イベントではないものの、街では頻繁にナンパされてしまう。そのおかげで日が暮れ始めている。原作通りなら瓶底メガネでも隠し切れない程の美少女なわけだしね……。

 もちろんヤローにモテても嬉しくないのだが。

 

「ここってもしかしてヒソカが水浴びしてたとこか?」

 

 そんなわけでオレは今、街の近くにある森まで避難しに来ていた。少し開けたここには湖がある。変態的なヒソカと芸術的な吹き出しでお馴染みの例の湖かもしれない。

 本当によくできた夢だ。ゲーム制作にあたり、原作をよく読み込んだだけのことはある。

 ここまで作り込んであるのなら、システムも再現されているのだろうか。腰を下ろして小石を拾ってみた。

 

 ……………………。

 

 はんのうがない。ただの こいし のようだ。

 

「……よく考えたら、再現されているとしたら、プレイヤーじゃないからカード化されるわけないよな」

 

 気を取り直して、念能力ならどうだろうか。たとえ再現されていたとしても厳しいだろうが。確か1000万人に1人の天才であるゴンキルアですら1週間はかかるとかなんとかだったはずだし。

 念に目覚める前に別の意味で目覚めるだろう。

 

 「凝!」

 

 試すんですけどね。

 

 「…………え」

 

 目を"凝"らした先にはゴーストのようなものが見える。さっきまで見えなかったのに……これって本当に凝が成功している? 夢だからそこはご都合設定なのか? ただ、今は呑気に考察している余裕はない。

 白い布を被ったような、わりとファンシーな見た目のゴーストだが、感情が一切なさそうな虚ろな眼差しに恐怖を感じる。微動だにしないことが逆に不気味だ。そして夢だからと楽観視できるほどオレの神経は図太くない。

 ……いや、違うな。本当は半分気付いていたんだ。

 

 この非現実が現実(・・・・・・)だってこと。

 

 自動的に転んだ時、微かに痛みを感じた。ナンパヤローに握られた手は温かくて、それが余計に不快だった。夢だと自分に言い聞かせて現実逃避していたんだろう。よくよく思い返すとプレイヤーらしき人物はオーラのような薄い膜を"纏"っていた。思っていた以上に気が動転していたようだ。昼間は意識すらしていなかった。

 

 さて、どうする? もしも、もしも……、だ。これが現実だとしたら、おそらく死も現実のものとなる。いくら念能力が使えるらしいことがわかっても、いきなり戦おうという気が湧くほど戦闘狂じゃない。というか目を"凝"らすのも疲れ――

 

「消えた!?」

 

 ゴーストを見失ってしまった。瞬間移動能力……? わからない。逃げてくれたのならいいが、まだ近くに潜んでいるのかもしれない。最初に視認する前だってこいつは見えなかったんだ。慌てて周囲を見渡した。

 

「ッ……!」

 

 目を"凝"らした先には吐息が届きそうなほどに迫ったゴーストが。心臓がバクバクと音を立てているのが自分でもハッキリと感じ取れる。

 

 ……どれくらい見つめ合っていたのだろうか。お見合いならそろそろ若い人同士でと微笑ましげに退場していく段階か。少しだけ冷静になれたのは、こいつが動かなかったからだろう。

 

 そういえば、グリードアイランドは順序よく攻略していけば確実に強くなれるようプログラムされていると、ビスケが言ってたな。とするとこれは凝の修行ってとこか。

 おそらくこのゴーストは隠を使って透明になっているんじゃないか? だからこちらの凝が甘いと消えたように感じるのだろう。

 さらにわかったことがある。このゴーストはこちらが"凝"視している間は近付いては来ない。某ゲームのテレサみたいな奴だな。

 

 逃げるか。

 

 目を逸らさず、少しずつ後退する。もちろん"凝"視は欠かさない。大分距離が開けた。恋愛都市アイアイまであと少し。

 

 なりふり構わず全力で逃げ込む。

 

「ゼェ…………、ハァ、ハァ……、もう一歩も動けなブッ‼」

 

 一歩も動けない宣言しただろ‼

 

 意思に反して颯爽と歩き出す。あまりにも急で舌、噛んだよ……。これはあれか、強制イベントってやつか。体力は0に等しいというのに。

 

 疲れ切った身体とは裏腹に、軽快な足取りで閑静な住宅街に吸い込まれるように石造りの坂を下りていく。実際本当に吸い込まれていくのだが。

 あれよあれよという間に辿り着いたドアの前。慣れた手付きでポケットから鍵を取り出すと、当たり前のように見知らぬ家に足を踏み入れる。鍵を閉めるとようやくオートモードが切れたらしい。

 ……多分ここが自宅ってことなんだろうな。NPCは時間になると強制的に帰宅するようになっている、と。

 

 推定自宅を見渡すと、本、本、本。このメガネっ娘は見た目通り読書が大好きな物静かなタイプってところか。内装までしっかり作り込んであるとは。こだわりが半端ない。

 

 ソファに倒れ込むと、今日起きた出来事を思い浮かべる。どうしてこんなことに……なんて、考えたって仕方ないな。重要なのは今後どうするか、だ。

 

「でもその前に」

 

 寝るか。さすがに今日は、疲れた……。




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