「――ハンターの血が騒ぎますねェ」
騒がないでくれよ……。
衝撃的な光景を目撃してしまった。明らかに挙動のおかしなNPCが……おそらくは同じ成り代わりのお仲間が、"修正"されてしまったらしい。
何だかんだ1ヶ月もここで暮らしているからな。あんな異様にハイテンションな目立つNPCがいたら覚えているはずだ。
そしてリスト……リストだよな、あれ。ゲームマスターの。イニシャライズとか言ってたか。聞き覚えのないカードだが、逆にそれ自体がゲームマスター専用のカードだという証左だろう。どんな効果なのかも何となくだが想像できた。
念獣もしくは念による創造物の初期化。そういった効果を持つカードなのだろう。
あのNPCはさっきまでのハイテンションが嘘のように大人しい。もはや大人しいを通り越して意思が宿っていないんじゃなかろうか。NPCに宿る
……オレは、強制イベントが多くてなかなか思うように行動できていなかった。そうでなければこの街を出て、リアルグリードアイランドを堪能すべく旅に出ていたことだろう。
モンスターを警戒してあれから街の外に出てはいないが、それは修行の時間を十分に取れていないからこその判断だ。自宅への
例えば監禁でもされたとしたら、どうやって移動させるんだって話になる。何よりあのNPCがお仲間であるならば、NPCに課せられた行動制限は破る方法があるってことだろう。
ある意味では強制イベントの多さに救われた。
縛りがなければ、不審な行動の対価を支払うことになっていたのは自分だったのかもしれない。抜け殻となったNPCを、あり得たかもしれない未来の姿と重ねてゾッとした。
(あまりジロジロ見るな)
‼ 誰だ。
(振り向くな。声を出すな。どこに"監視者"がいるかわからん)
監視者……⁈
(ウィスパーボイスと、1人になったら心の中でそう念じるんだ)
(パスワードは……
話は終わったとばかりに背後から遠ざかる靴音は、雑踏に混じってもなおハッキリ聞き取れた。
……あれから、掛けられる声も適当に受け流し、脇目も振らず足早に自宅へと向かう。
知りたい。
――まさか、自分からやって来てくれるとは――
既に、グリードアイランドに流れ着いた
――振り向くな。声を出すな。どこに"監視者"がいるかわからん――
オレが思っているよりも、事態はもっと切迫しているのかもしれない。
気が緩んでいた。
1週間ごと気付けば食料が補充され、人間らしい生活のためなのか仕送りらしきものもあり、まさに至れり尽くせりだったのだ。
正直なところ、多忙ではあった……あったのだが、言い訳だな。もっと早く動き出せていたはずだ。念の修行は原作再現したかっただけの娯楽感覚だったし、情報収集なんてとんとしていなかったのだ。
その間に、一体どれほどのお仲間が"修正"されていたのだろうか。
もはや
『ウィスパーボイス』
目を閉じたプロセスに意味はあったのだろうか? そんなくだらない思考に機械音声が割り込んだ。
『パスワードヲネンジテクダサイ』
想定していただけに、そこまで驚きはしなかった。……まさかパスワードは『本のタイトル』なんてことはないよな?
『HUNTER×HUNTER』
その瞬間、視界に捉えた光景が……世界が、一変した。
白く、白く、どこまでも白く広がる無機質な世界。念能力で作られた空間か? もしくはそう見せかけているだけなのか。
メモリ節約のためであろう見渡す限り白の世界には1人の異色が浮いている。
その異色は、恋愛シミュレーションを取り扱う関係上、身綺麗なNPCが多いこの街ではお目にかかれないボロボロな身なりをした旅人風のNPCであった。おそらくは先程の人物だろう。窓1つないこの世界でその男は空中に、まるでそこに椅子でもあるかのように腰掛けていた。
よくよく見ると自分も空気椅子状態か。ここにログインした時の体勢が反映されているようだ。
「こうして面と向かって会うのは久しぶりだな」
久しぶり……か。ある程度は予想できていた。
「……漫研の誰かか?」
「正解だ」
やっぱりか。ただ、姿形も声も違うとわからないもんだな。
相手もそんなオレの困惑を感じ取ったのかもしれない。
「そうだ、グリードアイランドを作ろう‼」
「って、部長⁉」
「その通り! ……ついでに言うと、ゲーム制作に関わった
そんな気はしていた。"修正"されてしまったお仲間も部員だよな……。
「全員か。どうやって調べたんだ?」
多分念能力なんだろうが。部長は最初からオレの正体を見破っていたわけだし。
「フッフッフッ……聞いて驚け、実は素晴らしい
リアルでフッフッフッとか言うの、部長くらいだよ。
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