初恋の相手を探してポケモントレーナーになった男のはなし 作:姉醤油
よろしくお願いします!
やあ皆、俺、コトブキシティのユウイチ!
突然だけど、読者のみんなには初恋の思い出はあるだろうか?
俺にはある。誰もが羨むようなとびっきりの初恋が!
そう、あれは俺がジョウト地方に住んでいた頃のこと……
当時5歳。
ポケモンを持てず、だがポケモンへの好奇心は旺盛なお年頃だった俺は、親に隠れて近所の公園で野生のポケモンと遊ぶ日々を送っていた。
ある日、いつものようにお気に入りの公園のベンチに行くと、そこには美しい先客がいた。
宝石のように美しい瞳、
今思えば俺とはたった5、6歳程度しか離れていなかったのだろうが、その時の俺には大人の女性にすら見えるほどの上品な佇まいだった。
間違いなく一目惚れだった。
そしてもう一つ、俺を驚かせたのは彼女の周りにいるたくさんのポケモンたち。
俺がよく遊んでいたポケモンたちも混じっていたが、その数も、なつき具合も、俺の時の比ではなかった。
人の手が入った公園に住みついた人懐っこいポケモンたちであることを差し引いても、ここまでリラックスした姿など見たことがない。
わずかな悔しさと羨望を抱きながら、俺はお姉さんにおずおずと話しかけた。
「あっ……あの!」
「ん?」
「おねえさん、ここのみんなとなかいいですね!」
「あぁ、少し散歩しに来ただけやったんやけど、妙に懐かれてしもてねぇ。おちびちゃんもこの子らのこと知っとるん?」
「うん、いっつもいっしょにあそんでるよ!」
「あらそうなん? どうりでこの子たち、えらい人懐っこいわけやわぁ」
「えへへー…………あれ」
そこまで話したところで気付いた。
「どないした?」
「ストライクが……ストライクがいない!」
「ストライク?」
「うん、いつもならぼくのことみたらすぐくるのに!」
ストライクはその公園に住み着いてからそこをえらく気に入っていた。
エサも公園にあるきのみで事足りていたし、外に出る理由などない。
胸騒ぎがした。
俺の慌てた様子から、異変を察知したお姉さん対応は早かった。
「おちびちゃん、こん中にそのストライクと仲良うしとった子ぉはおる?」
「う、うん。……このミツハニー、いつもストライクといっしょにあそんでた」
「ありがとうおちびちゃん。……ほな、やってみましょ」
そう言うと彼女はミツハニーの方へ向き直り、語りかけた。
「ハニ?」
「ミツハニー、ハニハニ、ハニハニ?」
ハニハニ。……ミツハニーの鳴き声を真似しているのか?
「ハニ、ハニハニ。ハニハニハニ! ハニハニハニ」
「そう、ほんまにありがとうミツハニー。おちびちゃん、この子、ストライクが黒い服を着た大人の人と歩いとったのを見たらしいわ」
「…………えっ!? ポケモンとしゃべったの!?」
このお姉さん、とんでもない人であった。
「……ふふふ。たまにやけど、こうやってポケモンと話せるいうか、心が通じ合う時があるんよ。でも良かったなぁ、いきなりいなくなったわけやなくて」
本当に、それだけだろうか。大人の人と一緒に歩いていた、というだけ、なのか。
胸騒ぎは収まらない。
俺の脳裏をよぎったのは、当時連日テレビで報道されていたあるニュース。
『かつて壊滅したと思われていたが復活した』
『ポケモンを人から盗んだり、悪事に使おうとする』
『
「あっ……もしかして……!」
ロケット団。当時、巷を大騒ぎさせていた凶悪な集団。カントーやジョウトに現れては悪事を働き、ときにはその悪行の犠牲になったポケモンもいるという。
もし、ストライクと一緒にいたのがそんな人間だとしたら……。
その瞬間。俺の不安を裏付けるように、聞き馴染みのある声が悲鳴となって公園中に響き渡った。
「「!」」
俺もお姉さんも、ためらうことなく駆け出した。
声の主──ストライクは公園の中でも木々が密集する地帯で、苦しそうに地面に
そして横には、黒ずくめの怪しい男と毒ポケモンのアーボック。
「ったく、変に抵抗するからそんな惨めに苦しむハメになるんだ。可愛らしくエサに釣られて捕まっちまえばよかったのによォ」
間違いない。コイツがストライクを傷つけた……!
「あんた、何しはるの!」
!
俺よりも早く、横にいたお姉さんは声を荒げて叫んだ。
「おう!? んだよガキンチョか……驚かせんなよ」
「そのストライクに何をしはったのか、聞いてるんよ!」
「あ〜アレよ、今からバトルでゲットしようとしてたのさ! 捕まえたらさっさとポケモンセンターに連れてくよ、心配すんな!」
「うそつくな! そのくろいふく、テレビでやってたロケットだんでしょ!」
「ロケット団……! ポケモンを悪いことに使ういうあの……!」
「ケーッ知ってやがったか! 組織の名が知れるのも困りもんだぜ! しゃぁねえ、ボウズ達にはお口にチャックしてもらうぜ! いけ! アーボック!」
「シャーッ!!」
そのアーボックはストライクを容易く追い詰めただけあって相当な体躯を持ち、威圧感を放っていた。
何度も言うが当時5歳。当然丸腰で、戦う意志のあるポケモンに対抗する術は無かった。
しかしお姉さんは違った。
「そっちがその気なら! おいで! シュシュプ!」
そう言ってお姉さんはモンスターボールを投げた。繰り出したのはフェアリータイプのシュシュプ、どくタイプのアーボック相手には相性が悪いはずのポケモンだ。
「シュップ!」
「チッ! トレーナーだったのか! アーボック、ヘドロばくだん!」
放たれる強烈な毒液。が。
「シュシュプ! マジカルシャイン!」
お姉さんのシュシュプはいとも簡単にアーボックの攻撃を撃ち落とした。
「面倒だなァ! 近付いてどくづき!」
今度はその体躯に見合わないスピードで直接攻撃を仕掛けるアーボックだったが、シュシュプは涼しい顔で猛攻を捌き切った。
「相手をよく見て、サイコキネシス!」
それが勝負の終わりを告げる言葉だった。
抵抗虚しくアーボックの身体は大木に叩きつけられ、一撃で戦闘不能になった。
ハッキリ言ってこんな一方的なポケモンバトルを、俺は見たことがなかった。
平均的な能力を考えればシュシュプには勝ち目のないバトル。だが、よく育ったポケモンの能力の高さと、トレーナーの判断力での勝利に、有事でありながら俺は目を奪われた。
「んだと……!? チッ、ロケット団の邪魔をするのはいつもガキンチョってワケだ!」
アーボックをボールに戻したロケット団の男は捨て台詞を残し、先ほどのアーボックにも負けないスピードで逃走した。
「まてー!!」
「ちょっと待って、おちびちゃん! ストライクの手当てをせな!」
そうだった。ストライクを傷つけられた怒りがばかりが先行して、大事なことを忘れていた俺と違って、お姉さんには何をするべきかが見えていた。
「ほらストライク、これをお食べ」
お姉さんに言われて俺が取ってきたモモンの実を食べると、ストライクの苦しそうな顔が一気に和らいだ。モモンの実にはどく状態を癒す効果がある。
ようやく公園に平穏が戻ってきた。
────その後、俺たちは近くのポケモンセンターにストライクを連れて行き、事情を説明した。
「ねぇ、ストライクはだいじょうぶだよね……?」
ポケモンセンターで受付をしているジョーイさんに、俺は不安げに問いかけた。
「えぇ、どくを浴びて体力が弱くなっていただけみたいだから、しっかり休めば問題ないわ」
「よかったー……!」
「後はジョーイさんに任せれば大丈夫やね。ほなおちびちゃん、うちはこの辺でおいとまするわ」
「あっ……お姉さんありがとう! ストライクのこと助けてくれて! ポケモンとおしゃべりできるのすごいね!」
「いえいえ、ポケモントレーナーとして当たり前のことやからね」
なんてカッコいい人なのか。トレーナーの鑑のような言葉をこんなにさらりと言ってのけるとは。
「あぁ、そや、あともう一つ」
そう言って、彼女はぐいっと、俺の顔に近付いた。
その時、俺は彼女がとんでもない美人だったことを思い出した。
「さっきはつい見せてしもたけど、うちがポケモンと話せることは内緒にしてくれはる? 二人だけの秘密にしといて……な?」
それは、5歳の少年にとっては刺激の強すぎる言葉だった。
顔をヒヒダルマのように真っ赤にしてブンブン首を縦に振る俺を見ると、お姉さんは満足そうに微笑みながらポケモンセンターを後にした。
エンジュ弁がガバガバなのはお許しください!