初恋の相手を探してポケモントレーナーになった男のはなし   作:姉醤油

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2話です。モンハンの誘惑と戦いながら書きました。
よろしくお願いします。


2.ゆびきりげんまん

 あの出会いの日、お姉さんと別れた後、ストライクの件でポケモンセンターから俺の母に連絡が行き、毎日こっそり遊びに行っていたのがバレてしまった。

 ジョーイさんから

「治療が終わればちゃんと元いた公園に帰す」

 と教えてもらっていたので、俺は母にコッテリ絞られた次の日、ストライクの様子を見るために公園へ向かった(今度は母の許可を取った)。

 

 そこで俺はまた出会った、昨日出会ったばかりのお姉さんと。

 

「……あら、昨日のおちびちゃん」

 

「あっ、おねえさん……」

 

 前日のことを思い出したせいで、お姉さんの顔を直視することができなかった。

 

「今日はどないしたん?」

 

「えっと……ストライクは元気かなって」

 

「あぁ、ジョーイさんが野生に帰す言うてたもんね。でも心配いらへんよ。ほら」

 

 お姉さんが見つめた先には、元気に走り回る緑色の元気な背中。ストライクだった。

 あんなことがあった後だというのに、楽しそうにミツハニーと追いかけっこなんてしている。

 

「すっごいげんきだ……」

 

「ふふ、昨日のことがウソみたいやろ? うちのこと見ても人を怖がってる感じはせぇへんかったし、あっけらかんとしとるなぁ」

 

 ストライクの様子を確認できたところで、俺の興味の対象はもう一つあった。

 

「あっ、そうだ」

 

「うん?」

 

「あの……おねえさんってポケモントレーナーなんだよね? たびとかしてるの?」

 

「……ちょっと前まではな、あっちこっちトレーナーとして旅して回っとったんやけど、まぁ最近は里帰りってとこやね」

 

 そう言ったお姉さんの綺麗な目元が一瞬暗くなったことを、その時の俺は気に留めなかった。

 

「そうなんだ! だからきのうバトルしたときあんなつよかったんだね!」

 

「……いやいや、うちなんかまだまだやで。世の中にはもっと強いトレーナーがぎょうさんおる」

 

「だとしてもさ、あんなこわいロケットだんをすぐやっつけたじゃない! あのときのおねえさんとシュシュプ、すっごくカッコよかった! ぼくもおっきくなったらあれくらいつよくなりたい!」

 

「……ふふ、そう。せやったら、おちびちゃんが大きなったときうちともバトルしてもらいたいわ」

 

「うん! トレーナーのこといろいろおしえて!」

 

 その日から俺は公園に通ってはお姉さんにポケモンを見せてもらったり、トレーナーとしての知識を教えてもらうようになった。

 お姉さんと会えない日もあったけど、その分会えた日はとても充実していた。

 

 

 

 それから一ヶ月、お姉さんに会いに行くことが日常に溶け込んできた頃のことだった。

 

「引っ越し……?」

 

「うん……ママのおしごとがいそがしいんだって……ぐすっ」

 

 俺はシンオウ地方への引っ越しが決まってしまい、泣きながらおねえさんにそのことを打ち明けた。

 

「そう……そら寂しなるなぁ」

 

「おねえさんはイヤじゃないの……? ぼくはイヤだよ! もっとおねえさんにポケモンのことおそわりたいもん!」

 

「ふふふ、そないに心配せんでもええんよ」

 

「……えっ?」

 

「おちびちゃんは将来ポケモントレーナーになって、旅に出るんやろ?」

 

「……うん」

 

「ほななぁにも心配することあらへん。うちもおちびちゃんもいつかまた会えるときが来る」

 

「……ほんと?」

 

「ほんまやで。ほな約束しよか、ほら」

 

 そう言ってお姉さんは小指を俺の眼前に差し出した。

 俺も照れつつ小指を差し出すと、お姉さんはしっかりと指を結んだ。

 

「ほら、これでゆびきりげんまん。これでもう会うしかなくなったやろ?」

 

 そうやって笑うお姉さんの綺麗な顔は、あの日ポケモンセンターでの別れ際に見せた顔にそっくりだった。

 

「う、うん! ぜったいだよ!」

 

 顔を赤らめつつ、その言葉を絞り出すので精一杯だった。

 

 一週間後に迫る引っ越しの日まで、俺はお姉さんに毎日会いに行った。当日も必ず別れの挨拶に来ると約束してくれた。

 

 

 

 そして引っ越しの日。

 

 もうすぐ港へ向かうトラックが出発するという時間になっても、お姉さんは現れなかった。

 

 一分、また一分と過ぎ、運転手さんに待ってくれるよう懇願する俺の声は弱くなっていた。

 

 来てくれると言っていたのに。

 

 笑顔でさよならしようと、約束したのに。

 

 

 

 俺が諦めて、トラックに乗ろうとしたその時。

 

「おーい、おちびちゃーん!!」

 

 汗だくになったお姉さんが、必死に走ってやってきた。

 

「おねえさん!」

 

「待たして堪忍な。これをどうしてもおちびちゃんに渡しとうてな」

 

 そう言ってお姉さんは俺に、ピンク色のカプセルを差し出した。

 

「これ……モンスターボール!?」

 

 モンスターボールはトレーナーであることを認められる十歳以上になって初めて購入することができる。

 当時の俺には、家族の物ぐらいしか見覚えのない、レアな代物だった。

 

「レプリカやけどな。ヒワダタウンにボールを作るのが得意な人がおってん、おちびちゃんにあげよ思て」

 

「ヒワダタウン!? コガネシティより遠いんだよ!?」」

 

「うん、それでこんなに遅れてしもて……堪忍え」

 

「ううん、すっごくうれしい!」

 

「そう、そら良かった。お守り代わりに持っといてな」

 

「うん! ありがとう!」

 

「ユウイチ、そろそろ行かないと」

 

 トラックから母が呼びかける。別れの時間が迫っていた。

 

 もうすぐ会えなくなる。

 そこに不安はない。

 

「おねえさん、ゆびきりおぼえてる?」

 

「もちろん。せやから安心して行ってき」

 

「……うん、またあいにくるからね、ゆびきりだよ!」

 

 そう言って俺もお姉さんも、笑顔で別れた。

 

 

 

 あの日の約束を忘れたことは、一度もない。

 今俺は十歳。誕生日は昨日迎えたばかりの、ピッチピチの新米トレーナーだ。

 

 5年間俺を育ててくれたミオシティを後にし、ジョウト地方のアサギシティを目指す船に乗っている。

 

 ジョウトに行く理由はただ一つ。

 

 俺とお姉さんが出会った公園「自然公園」から最も近い街「エンジュシティ」。

 

 かつて俺が住んでいたその街を目指して、俺の旅は始まる–––––




読んでくださってありがとうございます。
今回で回想は終わり、次回からユウイチの冒険スタートです。
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