初恋の相手を探してポケモントレーナーになった男のはなし 作:姉醤油
船のお話、今回で決着です。よろしくお願いします。
アタシたちが乗っている船において、乗客がいるデッキの下のフロアには、操舵室をはじめとした船の運転に関わる数多くの設備が集中している。
その為、普通なら船のスタッフが見回りや連絡、警備などで通路にちらほら見えるはず。
その気配がない理由。正直なところ嫌な予感がビンビンだ。
というか、経験則から言って間違いなく
仕方ない。万が一普通に船員がいればただの迷惑な客で終わる。
それならそれでいいし、もしそうでなければ–––––。
そう思考するより先に、手近なドアを勢いよく開けていた。
「ちーっす! 迷子の子探してるんですけど知りませんかー!」
「やっぱ客が来やがったよ……だからこんなとこで盗みなんざ–––––あぁっ!? テメェ!」
開けた先には黒いハンチングに「R」と書かれた黒い服。怪しすぎる不審者が何やらコソコソやっていた。
「あー、もしかしてアタシの顔覚えてんの? アンタらどいつもこいつも同じような顔してっからこっちは覚えてないわ。悪いね、ロケット団のしたっぱサン」
「……あっ、いた! すみませーん!」
ヒノアラシを見失った俺は、とりあえず助けを求める為、周囲に船員がいないか探した。
少し奥まで行くと、ようやく一人の後ろ姿を見つけることができた。服装を見る限り船員だろう。
しかし、安心しながらかけた声は綺麗に無視されてしまった。
聞こえなかったのかと思って、もっと声を張り上げてみた。
「すみませーん!! この近くでポケモンが迷子になっちゃってー!!」
二度目の無視か。いや違う。足が前へと伸びた。
一歩一歩、その人影は歩き始めた。
追いつこうと俺が駆け寄ると、今度はその人影も走り始めた。
逃げられている……? どうして?
そう考えながら必死で追いかけていると、とうとう人影は一つの部屋に入りこんだ。
当然俺が追いついてドアを開けると、そこには大量の船員たち。みんな手足を縄で縛られている……。
その横には、黒いポケモンが一匹。
「ヒノアラシじゃ……ないよな……?」
「ゲンガー、さいみんじゅつ」
そこで俺の意識は途切れた。
「ったく、そんで何する計画だったって?」
ポケモンバトルを挑んできたロケット団のしたっぱを倒したアタシは、現在そいつを縛り上げて事情聴取をしていた。
「うっ、そのっ……船を乗っ取って、客が混乱してる隙に乗客のポケモンを奪おう、と……」
「ほーん? で、奪った後はどうやって逃げるわけ? 港に着いちゃったら結局現地で捕まるよね?」
「それは……移動用のラプラスを使う予定でして……」
「どこ、そのラプラス?」
「えっと、奥の倉庫にラプラスが入ったボールがあるはずです……」
「オッケー、それともう一つ。ここら辺で十歳ぐらいの男の子とヒノアラシを見かけなかった?」
「はぁ、よくわからないです……。あっでも……」
「でも何?」
「侵入者が来たらゾロアークが船員のフリして奥の倉庫に誘い込んで捕まえることになってます」
マジか。じゃあユウイチ君捕まったかも……?
「そういうの早く言ってよもう! 倉庫どこよ!」
「あっと、はい、地図です……」
したっぱの手から乱暴に地図を奪い取り、アタシは部屋を後にした。
目が覚めると、ほっぺたにひんやりとした感触が伝わってきた。
「んっ……」
「目が覚めたかい」
誰かが呼んでる? というか、俺は何を…………そうだ、ヒノアラシを探して……
「ヒノアラシ!」
「それは君のポケモンか?」
「えっ……」
この人、あちこち怪我して弱ってるみたいだけど船員だ……。それっぽい服装も着てるし。
「残念ながらここにはヒノアラシはいない。船員は全員捕まってしまった」
よく見ればその人の後ろには他にも何人も拘束されている人たちがいた。
ようやく俺は、船員らしき人を追いかける中でこの部屋にたどり着いたことを思い出した。
「君もゾロアークに騙されたんだ」
「ゾロアーク?」
「人に幻覚を見せることができるポケモンだ。俺もこいつらも、それに騙されてまんまと捕まったんだ。……もしかしたら、そのヒノアラシも捕まってしまうかも」
「そんな、誰がこんなことを……?」
「ロケット団だ」
「えぇ?」
その名前を今の時代に聞くとは思わなかった。だって–––––
「奴らは壊滅したはずだ。そう思ってるんだろう?」
そう、壊滅したはずだ。
一度目は俺がお姉さんと出会う前。
そして二度目は俺とお姉さんがロケット団に遭遇してからわずか数日後だった。
その時はお姉さんと一緒にニュースを知って安心したことを覚えている。
「俺も今朝までは君と同じことを思っていたが、間違いない。奴らはまだ完全に潰れたわけじゃない。今でも残党が悪事を働いてるんだろう」
「じゃあこの状況って……」
「あぁ、テロだよ。テロリストによる大規模な襲撃さ」
なんてことだ。それじゃあこの船にいる人やポケモン全員が命の危機に晒されているのか。
何より、こんな危険な所にヒノアラシは迷い込んでいる。
どうにかして助ける方法を–––––そう言おうとした時、部屋のドアが開いた。
「えっ…………!?」
入ってきたのは……俺だった。
自分のことを間違えるはずがない。顔も体格も服装も、丸っきり今の俺と同じだった。しかし表情は能面のようにピクリとも動かない。
これが船員さんが言ってたゾロアークの能力なんだろう。改めて見ても完璧に俺に似せている。
そしてその後ろには一匹のポケモン。小さい歩幅でもう一人の俺の足元に擦り寄っている。
間違いない。
「ヒノアラシ!」
恐れていたことが起きてしまった。このままではこいつも捕まってしまう。
「こっちに来るな、逃げろ!」
だがアイツは逃げるどころかこっちに近寄ってきた。
俺が二人いることに驚いて来てしまったみたいだ。
ヒノアラシは俺の足元にわずかに鼻を近づけた後、壁際まで詰め寄った。
「お前、何する気だ……?」
疑問を抱いた瞬間、アイツの身体は炎を纏って回転し始めた。
この技……「かえんぐるま」だ!
そうして勢いづいたヒノアラシは、そのままゾロアークの胸に向かって強烈なタックルを喰らわせた。
途端に奴はバランスを崩し、俺の模倣から黒いポケモンへと姿を変えた。
次の瞬間、扉から別の人物。今度は誰だ!?
「どうなってる……ポケモンを一体誘き寄せたと連絡があったはずだが……ゾロアーク!」
まずい、ロケット団の一人だ。このままでは結局他の奴らを呼ばれて捕まる…………!
「ヒノアラシ、そいつにもかえんぐるまだ!」
咄嗟に出した指示だ。聞いてくれるかは分からないが–––––。
どうやら小さな祈りは確かに通じたらしい。一瞬の後、アイツは俺の指示通りロケット団員にも強烈な一撃をお見舞いした。
「……よし、他のロケット団にこのことがバレない内にさっさと逃げよう」
「はい! ……あっ、でも手錠が……」
そう言いかけた所で、俺の耳にまた足音が届いた。
だが、一瞬抱いた不安はすぐに消えた。
「いた、ユウイチくん! おーいライチュウ、いたよ!」
「イチカさん! 今この船にはロケット団が……」
「わかってる! とにかく早く上の階へ行こう!」
事情を知るというイチカさんとライチュウの助けを得て、眠らされた人たちを起こして全員でデッキへ向かう途中のことだった。
大きな衝撃音が俺たちの鼓膜を揺らした。
音源を辿ってデッキへと到着すると、そこにはロケット団が一人、ポケモンを抱えて立っていた。その隣にはゲンガー。
「頼むッ! そのヤミカラスはまだ子どもなんだ、返してくれ!」
「ならそこをどけ! 海の方に近寄るな!」
どうやら客のポケモンを人質にして逃げる気らしい。
「ハッハー! お前、抵抗しない赤ん坊だったとはな。ツイてるぜ!」
たぶん奴はポケモンを返す気はないだろうし、何とかして止めるしかない。
必死に周囲に何かないか探していると、イチカさんのライチュウが目に留まった。
このライチュウ、普通のライチュウとちょっと違う……!
尻尾に乗って浮いてるし、なんか身体が全体的に丸っこい。
この姿、図書館の本で読んだ覚えがあるぞ!
確かリージョンフォームってやつだ。特定の地方でだけ、姿やタイプが変わるポケモンがいるって……確かアローラのライチュウはエスパータイプが増えるんだった。
ロケット団が人質にしてるのはヤミカラス、あくタイプのポケモンだ。
「イチカさん、このライチュウってエスパータイプの技は使えますか?」
「うん? 使えるけど……あぁ、そういうコト!」
よし、伝わったみたいだ。
「ライチュウ、あいつらに向かってサイコショック!」
「ラーイ!!」
待ってましたと言わんばかりにロケット団とゲンガーの周囲に無数の念波が出現する。
「おわっ!? 何してんだ、こいつが見えねえのか!」
「関係ないね! いっけぇー!!」
「のわぁあああああああああ!!」
「ガーーー!!」
サイコショックは
……流石ジムバッジ八個、とんでもない威力だ。
「よりにもよって
大人しくお縄につくロケット団の男に向かって、イチカさんがニッコリと笑顔で嫌味を言う。
「凄かったよユウイチくん、キミの咄嗟の機転」
「あぁ、いえ。技を出したのはイチカさんのライチュウですから。すごい威力でした」
「うん、あのライチュウはね、イチカちゃんが駆け出しでまだ旅を始めた頃の、ピチューだった時からのパートナーなんだ。まさかアローラのライチュウになってるとは思わなかったけどね!」
じゃあ昔からの相棒って訳か……。
ん。なんだ、足元がくすぐったい。……お、ヒノアラシ。ま〜た足元でもぞもぞやってら。
……ん? そう言えばこいつ、部屋に俺のフリしたゾロアークが入ってきた時、どうして俺じゃない方をすぐに見抜いたんだろう?
……そうか、こいつ初めて俺と会った時に匂いを嗅いでたんだ。だからゾロアークと俺の匂いを比べてどっちが偽物か分かったんだ。
「結構賢いな、お前」
ヒノアラシを抱き上げる。
「……お前、俺と一緒に来ないか?」
「……キュー」
おっ、鼻を当ててきた。嫌がってないっぽいな、手応え十分だ。
「この短時間で、もう相棒が決まったみたいだね」
「はい、俺、ヒノアラシに決めました」
「うん、その子はとても利口な子だ。これからの君の旅をきっと楽しいものにしてくれると思う」
「はい! よろしくヒノアラシ!」
「キュー!」
……へへへ。
前話の終わり方がアレだったので気づかれた方もいると思いますが、パートナーがヒノアラシに決まりました。
三匹の内誰にしようか考えた時、一番の決め手は「かわいい」という作者の主観でした。
これから色々山とか谷とか作っていきます。
ここまで読んでくださってありがとうございました。