初恋の相手を探してポケモントレーナーになった男のはなし 作:姉醤油
ジムリーダーのポケモンは一体……審判はそう言った。
ジム側はジムリーダーとチャレンジャーの使用可能なポケモンの数を自由に決める権利を持つ。
しかし、それには「挑戦者の持つジムバッジの数で挑戦者をレベル分けし、そのレベルに応じた戦力差に揃えること」が求められる。
大抵のジムなら3vs3、そうでなくてもポケモンの数はだいたい同じとされることが多い。
「それでは、両者同時にポケモンを出してください!」
「いくぞヒノアラシ!」
「おねがい、エアームド!」
ミカンちゃんの唯一のポケモンはエアームド。進化こそしないが基礎能力はかなり高いポケモンだ。
「まずはひのこだ!」
最初にヒノアラシの持つ唯一の遠距離攻撃技を繰り出す。ほのおタイプの技なので、はがねタイプを持つエアームドへの牽制としては十分だろう。
当然エアームドはひのこが飛ばない方向へ避けた。
「みだれづき!」
かわした勢いもそのままに、エアームドがクチバシを向けてヒノアラシに襲いかかる。
「よしっ、えんまく!」
恐らくユウイチくんの読みはここにある。回避の動きを利用して突っ込んでくるのも分かっていたのだろう。
「……! 後方にたつまき!」
エアームドは避けなかった。「後方にたつまき」という指示は、えんまくをくらう前提で出したものだ。
「よし、これでエアームドの目は封じた……!?」
ユウイチくんも気付いたようだ。
「たつまき」とは……その名の通りフィールドに激しい風の渦を作り出す技だ。使用するポケモンごとに特徴があり、今回エアームドが使ったものはフィールドのあちこちに発生している。
全部でフィールドの三分の一ほどを埋め尽くしてしまった。
「なんだこれ……たつまきを避けながら近付かなきゃいけない……!」
たつまきは低威力な技だが、それでも中型以下のサイズのポケモンなら易々と空中に打ち上げるぐらいの勢いはある。
その上たつまきの配置は規則正しいものではなく、フィールドの手前や奥に散らばっているため、ユウイチくん一人の視点では全てのたつまきを把握するのは困難なはず。
実際に戦うヒノアラシの視点に立てないのは痛い。
「……くそ、たつまきを避けながらかえんぐるまだ!」
……ヒノアラシ自身の判断でたつまきを避けさせるわけね、悪くない判断。
でも……。
「出てきて、チルタリス」
自分のポケモンを一体、隣に呼び出した。
「チルルッ?」
「ちょっとさ、あのエアームドの戦い方を見ててくれる?」
「チル!」
チルタリスはもこもこした翼で敬礼のポーズを見せた。
「よし、ちゃんと覚えててね」
器用に風の渦を避けながらヒノアラシはエアームドを探し続ける。
「エアームド、エアカッター!」
上空にいるエアームドの翼から鋭い空気の刃が放たれた。
「かわすんだ!」
エアカッターがヒノアラシのいる場所ばかりではなく、あちこちに飛ばされていることに、ユウイチくんは気付いたようだ。
当たりそうなものだけかわせば反撃のチャンスは来る、そう踏んだのだろう。
……だが、あのエアカッターは当たる。「当たりそう」ではなく「当たるようになっている」。
「!?」
エアカッターが全部命中した。明らかにヒノアラシとは関係ない所へ飛んでいったものも、
たつまきにぶつかった瞬間、方向を変えて全てヒノアラシに飛んできた。
おかげでヒノアラシは大きなダメージを負ってしまった。
どうして、なんて考える間もなく、吹き飛ばされたヒノアラシの身体はたつまきに巻き込まれた。
上空に打ち上がった身軽な相棒を相手が見逃してくれるはずもない。
「はがねのつばさ!」
硬度を増したエアームドの翼はヒノアラシの胴に深く突き刺さる。
「あぁ……ッ!」
相棒は、ボロボロになって落ちてきた。
「ヒノアラシ、戦闘不能! エアームドの勝ち!」
「おいっ、大丈夫か!? ヒノアラシ!」
「キュゥゥ……」
「ありがとうな、お前の戦いは次に繋げるよ」
満身創痍の相棒をボールに戻し、もう一つのボールに手をかける。
まだ諦めない。誤算だったがもう一体、
「出てこい、コイル!」
俺の二体目であり
「昨日の子ですね、お手並みを拝見します! みだれづき!」
さっきと同じ、みだれづきでの様子見。
あっちから来るなら好都合!
「引き付けてでんじはだ!」
俺のコイルの特性は“じりょく”。はがねタイプを引き寄せる性質を持つこの特性でエアームドを引き付けてでんじはでまひさせる!
「エアァァ!?」
空中でまひしたエアームドは体勢を崩し、地面に落下した。
俺の誤算は相手のポケモンがひこうタイプを持っていた事。
さっきは空中戦で翻弄されたが、でんきタイプを持っていて浮遊できるコイルで相手をすれば、逆にこっちが有利なはず。
「追撃だ、でんきショック!」
「起き上がってっ、たつまき!」
でんきショックはしっかりとエアームドの身体を直撃したが、余力が残っていたのかたつまきで押し返され、近付きにくくなった。
「イチカさんが言ってた通りだ……。効果バツグンの技を食らったはずなのにピンピンしてる」
「簡単に崩れないのがはがねタイプの持ち味。まだエアームドは倒れません!」
「押し切るぞコイル、でんきショックだ!」
「エアームド、たつまきで防御して!」
ヒノアラシの時と同じように、エアームドの羽ばたきが周囲にたつまきの壁を形成する。
しかし–––––。
「さっきより数が減ってる……!」
でんじはでまひした影響だろう、エアームド自身の飛行もゆったりしたものになった。
「エアカッター!」
これもさっきと同じ。エアカッターは様々な方向へ飛んでいるが、これが全て向きを変えてヒノアラシを襲った。
あのエアカッターがどうやって当たるのか、今度こそ見極める為に神経をエアカッターの行方にだけ集中させる。
最初は散り散りに飛んでいったが、やがて全てたつまきにぶつかった。
ここだ。ここでたつまきの風の流れがエアカッターの軌道を変えている。
「来るぞ、耐え切れ!」
コイルの持つでんきタイプとはがねタイプはどちらもひこうタイプのエアカッターの威力を減らせる。量があっても間違いなく耐えられるはずだ。
「追い討ちです、はがねのつばさ!」
エアームドはまっすぐに伸ばした翼を携え、高速で突撃してきた。
エアカッターが当たった直後に畳み掛ける気か……!
「ソニックブームで全部撃ち落とせ!」
これでとりあえずエアカッターはなんとか相殺した。
問題は次。エアームドのはがねのつばさを避けなきゃいけないが、ソニックブームを撃ってすぐに避ける暇はない。
……コイルが持つ四つの技の内、最後の一つはまだ出していない。
ここが
「エアームドの顔面にマグネットボムだ!」
マグネットボムは磁力を利用して相手にくっついて爆発する爆弾。爆風を利用して距離を取るべきだろう。
コイルが放ったマグネットボムは見事にエアームドの顔面に吸着、そして爆発した。
「大丈夫、そのまま突っ込んで!」
「!?」
……ミカンさんの言葉通り、エアームドは顔に傷を負いながらも勢いを殺さず、コイルにはがねのつばさが命中した。
「コイル!」
「……コイル、戦闘不能! エアームドの勝ち!」
審判の無慈悲なコールが響き渡った。
「……俺の手持ちはこの二匹です」
「……それでは。勝者、ジムリーダー・ミカン!」
俺の初めてのジム戦は、敗北で幕を閉じた。
前回の投稿から今回までの間にSVは発売され、サトシのアニポケは終わり、年を越し、ブレワイの続編が発売されました。
遅れて大変申し訳ないです!
でも何回でも言います!
いつか最後まで書き切ります!